宮田和弥 初のビルボード公演 凄腕
たちによるバンド編成のライブが伝え
たもの

宮田和弥 PREMIUM NIGHT ~白いクリスマス~ 2nd Stage 2019.12.8
JUN SKY WALKER(S)のデビューから数えるとキャリア30余年、宮田和弥がBillboard Live TOKYOのステージに上がるのは意外にもこれが初めて。というか、来たことすら無かったらしく、このオシャレでちょっぴり格式高い会場を「僕の生活には無い空間」と冗談交じりに評すと、客席がドッと沸いた。初のビルボードではあるが、冒頭数曲と最初のMCの時点で、すっかり宮田のホーム感に包まれている。
宮田和弥 撮影=三浦麻旅子
2019年12月8日に行われた『宮田和弥 PREMIUM NIGHT ~白いクリスマス~』と題された昼夜2公演のスペシャルライブ、その2本目。ソロでの弾き語りや他アーティストとコラボしてのライブなども積極的に行っている近年の宮田だが、この日はスペシャルバンドの演奏を背にしてのライブだ。この面子がまたすごかった。バンマスを伊東ミキオ(Key)が務め、ギターは今回のライブがきっかけで交流が生まれたという高田漣、ベースにTOKIE、ドラムスに阿部耕作という、凄腕たちが集結。ソロ曲やジュンスカ曲、カバー曲の数々を、ロックンロールやパンク、パワーポップといった旧来の宮田の音楽性を、その源流であるブルースやカントリー、さらにはAORやジャズ、サザンロックなど大人なテイストも織り交ぜた多彩なアレンジで再構築、盤石の演奏で見せてくれた。
宮田和弥 撮影=三浦麻旅子
高田漣 撮影=三浦麻旅子
ライブは「全部このままで」から始まった。跳ねるピアノからスタートしたリズミカルな演奏の中を現れた宮田は、ジャケット姿にネクタイを緩く巻き、サングラスという出で立ち。ハーモニカを一節演奏した後、膝とつま先でリズムを取りながら軽やかに歌う。力感をあまり感じさせない、スッとした発声に聴こえるが、歌声の芯は力強い。優しさや切なさなど様々な感情、哀愁までがギュッと込められている。曲が終わると大きく両手を広げて高らかに「サンキューー!」。1stステージから若干のインターバルを置き、絶好調のようだ。
TOKIE 撮影=三浦麻旅子
伊東ミキオ 撮影=三浦麻旅子
最新アルバムからの「新呼吸」を経て、「さらば愛しき危険たちよ」をハーモニカとピアノが哀愁を醸し出すスローバラード風に届けたあとは、メンバー紹介を挟んでサザンオールスターズの「シャ・ラ・ラ」をカバー。桑田佳祐も相当に個性的なボーカリストだが、それとはまた別のベクトルでオリジナリティ溢れる宮田のボーカルは、不思議とこの曲によく似合う。ちなみに女性パートはTOKIEが歌ったのだが、その真っ直ぐ伸びていく清涼感も最高。バンドの生み出す音色、拍の取り方、そこから生まれるグルーヴ、どこを切り取っても心地良さしかない。
阿部耕作 撮影=三浦麻旅子
宮田和弥 撮影=三浦麻旅子
中盤の「アドバルーン」「ニュートラル」も最新アルバムからのソロ曲だが、いずれの曲からも、過去に拘泥するでも必要以上にトレンドに目を向けるでもない、自然体の姿勢が見えてくる。特に、この日ギターを担当した高田がアレンジを務め、宮田が元々イメージしていたストーンズ風ロックンロールにほどよく現代性を融合させてくれた――という紹介のあった「ニュートラル」は、『ベガーズ・バンケット』『レット・イット・ブリード』あたりのストーンズ・ナンバーを彷彿とさせつつも、不思議と古臭さは感じないグッド・バランス。しかも、それを名手たちが奏でていくのだから堪らない。手数こそ多くないがツボを押さえたプレイの阿部が淡々とリズムを刻む上を、高田によるアコギのスライド、TOKIEのスラップ、演奏姿でも魅せる伊東の鍵盤ソロなど、次々と見どころ・聴きどころが押し寄せる。
TOKIE / 宮田和弥 撮影=三浦麻旅子
KAN 撮影=三浦麻旅子
ロックンロールのクラシックで、ジョン・レノンもカバーした「Slippin’ and slidin’ 」を披露したあと、スペシャルゲストを呼び込むと、ヒッピースタイルのカラフルな衣装に身を包んだKANが登場! が、なぜか傍には女性通訳が付いており、英語しかしゃべらないKAN。どうやら、ちょうどこの日が命日であったジョン・レノンが憑依(?)した“KAN・レノン”になっているらしい。そんな状態のKANと宮田がツインボーカルで歌ったのは、ビートルズ「I Am The Walrus」だった。ジョンばりにちょっと鼻にかけてハスキーの発声するKANのボーカル、かなり似ているしとても良い。歌い終わったところで、宮田が大幣(神主さんが振るアレ)で「エイッ」とすると、KANが正気に戻り、先程までの記憶がない……というお約束な小芝居もご愛嬌。もう一曲2人で、と平成のポップス史に輝く「愛は勝つ」を歌い、大盛り上がりとなったのだった。
KAN / 宮田和弥 撮影=三浦麻旅子
KAN / 宮田和弥 撮影=三浦麻旅子
気づけばライブはもう終盤。ピンボーカルでスタンドマイクに向かい歌った「休みの日」。ああ、楽しかったライブも、日曜日ももうすぐ終わるなぁ。そんな感傷とは裏腹に、宮田のボーカルはここへきてますますパワフルだ。最後は「メリークリスマス!!」の掛け声とともに、ハッピーでチアフルな「すてきな夜空」を投下。会場じゅうから巻き起こったクラップと呼応しながら、TOKIEがアップライトベース、高田がマンドリンをプレイしての軽やかなサウンドが弾む、弾む。華やかな幕切れとなった。
伊東ミキオ / 宮田和弥 撮影=三浦麻旅子
そういえばタイトルになっているあの曲をやってない。アンコールに応えて再登場すると、ラストナンバー「白いクリスマス」が披露された。ひときわエモーショナルな歌声、アップライトベースのボウイング奏法が生むチェロのような温かくて厚みのある低音、背景に投射される雪の結晶のような光――。そして最後の一節を歌い上げたところで一瞬のブレイクを入れ、ジョン・レノン「Happy Xmas(War Is Over)」の最後のリフレインへと繋ぐ演出は鳥肌モノだった。
宮田和弥 撮影=三浦麻旅子
この日のライブは、ビルボードを舞台にしたライブという特別感や上質な雰囲気を味わえたのはもちろん、過去の名曲たちから今の宮田の音楽性やモードまでを一繋ぎに、これまでのキャリアの様々な時期に出会ってきたミュージシャンたちとの共演で提示した、そういう意味合いも強かったように思う。宮田和弥は、ベテランの域に達してなお軽やかに柔軟に、飄々と歩んでいる。きっとこの先も、ときにはこうして新たな挑戦もしながら楽しませてくれるのだろう。そんな予感を抱きながら、イルミネーションの彩る街を帰路に着いた。

取材・文=風間大洋 撮影=三浦麻旅子
宮田和弥 撮影=三浦麻旅子

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