ヨーロッパ企画のカウントダウンのテ
ーマ「ギーク」とは? 今年のキーパ
ーソン・酒井善史に直撃!「僕みたい
な奴と思ってもらえば、話が早いです

ほぼ毎年、大晦日の京都で地道にカウントダウンイベントを行ってきた「ヨーロッパ企画」。劇団員たちがゲーム対決をしたり、地元の若手劇団を交えて芝居を打ったりと、年ごとに様々な趣向を凝らしてきたが、今年のテーマは「ギークの逆襲」。「卓越した知識があること、あるいはそうした者を指すアメリカの俗語(Wikipediaより)」という「ギーク」をキーワードに、いろんな企画が飛び出すイベントになるそうだ。
その象徴と言えるのが、自他共に許すヨーロッパ企画きってのギーク・酒井善史。劇団の小道具やロボットを作成する一方、TV『所さんの目がテン!』(日本テレビ系)でも発明を披露するなど、すっかり「発明家」キャラとして浸透している。今回は彼にスポットを当て、今年のカウントダウンの内容に加えて、その発明家の実像にも迫ってみた。
■「ギーク」は、京都で仕事をしている時のヨーロッパ企画の精神。
──カウントダウンの始まりは、確か『空前のクイズアワー』(2003年)の京都公演のタイミングだったと記憶しています。
そうですね。その公演で使っていた劇場からも話があって、『空前のクイズイヤー』という、あまり上手くかかってないタイトルで始めたのが、最初でした。
「ヨーロッパ企画カウントダウン2007→2008」より。劇団員たちが紅白に分かれてゲーム対決をした。 [撮影]吉永美和子
──15年以上も続いているのは、演劇系のカウントダウンとしては異例のことですが、何か秘訣でもあったのでしょうか?
上田(誠)先生が好きなんでね、やっぱり。カウントダウン的なイベントが。僕も割と、やりたがる方です。上田さんも僕も京都(出身)なんで、帰省を考えなくていいというのもありますけど、あまり普段できないことが、ここではやれるので。お客さんも……こう言ったらアレですけど、割とコアな方に来ていただけているから、年一回の交流会みたいな所もあるのが楽しいです。
──それで今年「ギーク」をテーマにしたのは。
これは意外と、角田(貴志)さん辺りから提案がありまして。今年のヨーロッパ企画は、東京の仕事が増えて、みんなが京都と東京の両方を行き来する状態だったんですけど、東京は誰かが単独で俳優として呼ばれるとか、脚本家として行くってパターンが多い。でも京都でやる時は「ヨーロッパ企画」に仕事が来て、打ち合わせから脚本・美術・撮影・監督まで、劇団員やスタッフで全部やることがほとんどなんです。
「ヨーロッパ企画カウントダウン2014→2015」より。この年酒井は、中川晴樹の声を太くするための発明品を披露。 [撮影]吉永美和子
──『暗い旅』(KBS)とか『京も一日ひだまり屋』(Eテレ)は、まさにそれですよね。
そういう京都での仕事のやり方に根ざしているのは、お互いのいろいろな専門知識を生かしていく「ギーク」の精神じゃないかと。それで今回はこういうタイトルで、ギークを突き詰めた研究発表みたいなことをやってみよう、という方針です。
──その中で、酒井さんの立ち位置というのは?
ギークってアメリカの言葉だから、あまりなじみがないじゃないですか? そこで「酒井みたいな奴」と言えば、話が早いみたいな(笑)。確かに僕は発明とかをやらせていただいてますので、今年はちょっと中心に。あとは劇団員の中でもギーク寄りな角田さん、永野(宗典)さん、上田さんに、20代の劇団スタッフたちもいろいろ動いてる所です。
「ヨーロッパ企画カウントダウン2016→2017」より。京都の若手劇団たちを集めて学園バトル芝居を上演。 [撮影]吉永美和子
──ということは、自由研究の発表会みたいなイメージになるんでしょうか。
そうですね。それぞれ好みが違ってて……僕は物作りが好きだから発明をするけど、映像作品を作る人もいれば、テクノロジーに走る人もいるし。外の開発チームと組んでやる人たちもいれば、単独で何かを作る人もいるという。だから「ギーク」と一言で言っても、いろんな多様性が見えるんじゃないですかね? その発表と、ギークじゃないメンバーたちとの掛け算ができればと思っています。発明品を装着してもらうとか、ツッコミを入れるとか。
──で、その中でトップギークを決めるというような?
今の所は、あまり争わないで行こうという方針です。去年の「ショートショートムービーフェスティバル」(注:劇団員たちが短編映画を撮り、ランキングを競い合う映像イベント)は、本当にピリピリしたんで(笑)。それはそれで面白いけど、この狭いギークの中で争ってもしょうがないというのもあって。現在7~8個ぐらいネタが上がってるので、それらの(時間の)尺を見て、他の企画をどれぐらい入れられるのか、考えている所です。
「ヨーロッパ企画カウントダウン2018→2019」より。フレディ・マーキュリー(石田剛太)が新年のカウントダウンに登場。 [撮影]吉永美和子
■100均のようなチープな材料で、いかに作るか? を考えるのが好き。
──良い機会なので、酒井さんのこれまでの活動を紹介したいと思うのですが、まず「発明家キャラ」になった具体的なきっかけはあったんですか?
もともと、物を作るのは好きでしたね。それこそヨーロッパ企画も、一回俳優で入るのを断られたので、美術スタッフでどうですか? と提案して、入れていただいた経緯があります。舞台美術は2007年ぐらいまでやってましたし、今も酒井が使う小道具は酒井が作る、みたいなルールが浸透してしまってます。タイムマシンも、僕が作ってるんです。
──『サマータイムマシン・ブルース』の、あのタイムマシンですか?
はい。再演のたびに作ってるので、今までで通算で7台、同じタイプの物を。自分が作った美術の中で一番完成度が高いのは、やっぱりあれですね。「発明」と最初に言ってくださったのは、文筆家のせきしろさんです。ご一緒するイベントの小道具を、よく作らせていただいてたんですけど、そのうち「酒井、今日は何を発明したの?」という風に言ってくださるようになって、「企画ナイト2」(2010年)の時に「発明ナイト」というコーナーをやらせていただいたんです。
せきしろさんから「将棋の駒の置物を、薄型テレビの上に置く発明」というお題をもらって、それを披露するというのが、発明の第一号でした。その頃から雑誌やWEBで、せきしろさんからいろんなお題をもらった発明の連載をするようになりました。たとえば「持ち運びしやすいドッキリ看板」とか。
「持ち運びしやすいドッキリ看板」Ver.1。
──それが今日お持ちいただいた、これですね。
ドッキリ看板って、デカいじゃないですか? でもドッキリが成功するまで(ターゲットに)見られてはいけないので、折りたたんでポケットに入るサイズの物を発明しました。で、その連載ではお題のラリーがあって、この時だと「ドッキリを仕掛けた相手が怒って襲ってくるかもしれない。その時はどうしますか?」と言われたので、分解したら剣と盾になるようにして。さらに改良した物は、ファイルがそのまま看板になって、武器にする時はもう少し大きな盾と三節棍(さんせつこん)になります。
「持ち運びしやすいドッキリ看板」Ver.2。
──……(苦笑)。ちなみにその向こうには、『来てけつかるべき新世界』(2017年)に登場した、ロボットのパトローがいますが、彼も酒井さんの発明ですか?
そうです。ロボットはまた、別の流れがありまして。最初は『衛星都市へのサウダージ』の再演(2007年)の時に、上田さんから「ロボットの劇団員を出したい」という話があって、それで「ROFT」というロボットを作りました。実際に公演にも出て、操縦もしたんですけど、途中で倒れたりとかあまり上手く行かず、そこからしばらくロボット作りはしてなかったんです。『ビルのゲーツ』(2014年)の時にも、一回作ってますけど。
──みんなを襲うというか、襲ってるようにみんなが動かしてるロボットがいましたね。
俳優が襲われながら動かすみたいな、側(がわ)だけのロボットが(笑)。その後『所さんの目がテン!』の企画で、ちゃんとした企業に手伝ってもらったロボット作りなどもあり。そしてNMB48さんのドラマ『茶店のガール』(2016年)の時に作った「CC9」で、ラジコンの戦車を改造して、ロボットにするという技術が、自分の中で確立されました。
──その集大成がパトロー。
ヨーロッパ企画『来てけつかるべき新世界』(2017年)。パトロー(右端)はコインランドリーに住み着く野良ロボット役だった。 [撮影]清水俊洋
そうです。ある程度自由に動かせるだけでなく、頭のライトが回るとか、冷却スプレーを噴射するとか、いろんな機能が搭載できて。「ロボットを劇に出す」というのを、しっかりやれたパターンでした。ただ公演期間が長かったので、途中で動かなくなり、しばしば(客演の)福田転球さんに運んでいただくことになってしまい。正直、劇団内での評判はあまり良くなかったです(笑)。
──でもパトローを近くで見たら、材料がすごく既視感ありますね。100均とかホームセンターでよく見るような。
完全にそうです。良くて東急ハンズ(笑)。本体はゴミ箱ですし、腕は電気ケーブルを収納するパイプですし、アームは布団用の洗濯バサミです。その中身(電子機器)は、さすがに電気パーツ屋に行きますけど、そういうチープな材料で、いかに作るか? というのが好きなんです。
パトローと酒井善史。
■お互いに体力が保たないので、今年は早めに帰れるように。
──この大きなアップルウォッチみたいな奴はなんですか?
アップルウォッチです(一同笑)。これはまさに「アップルウォッチが欲しいけど高いから、100均で売ってる物だけで作ろう」というお題があって作りました。まずロックを(ダイヤル式の鍵の)パスコードで解除して、これを開けるといろんな機能が……温度計、計算機、湿度計、コンパス、メモ帳。あと万歩計のカウンターとタイマーを組み合わせて、心拍数を計ることができます。この制作費は多分、2,000円しなかったぐらい。
──まあまあ行ってますね。
100均の材料だけで作ったアップルウォッチ。
でもアップルウォッチって5万円ぐらいするから、それに比べたら全然安いです。あとこれは「遅いミニ四駆」。ミニ四駆って普通速さを競うんですけど、世界一遅いミニ四駆という癒やしのおもちゃを、せきしろさんからお題をもらって作りました。でも「もっと遅く見せたい」と言うので、その横で犬のぬいぐるみがすごいスピードで動けば、遅く見えるんじゃないかと思い「ハイスピードドッグ」というのを発明しました(動画参照)。
遅いミニ四駆 VS ハイスピードドッグ
──……(苦笑再び)。
3ボルトの電圧を9ボルトに上げて、3倍早く動くようになったんですけど、速すぎてまっすぐ進まないという、悲しいモンスターを作ってしまいました。しかもイベント中に改造されていって、目も片目はLEDで光るようになってたり。
──モンスター感だけが倍増したわけですね。ちなみに今後、発明したい物はありますか?
今気になってるのは、レジンという素材です。武具を作るコスプレイヤーさんが、作り方を紹介されてたりするんですけど、その中でレジンを使った物が面白そうだなあと。今もSCRAPさんの「リアル脱出ゲーム」の小道具をよく依頼されるんですけど、武器が結構多いんですよ。たまに武器屋みたいになる時がある(笑)。武器は好きだし、ヨーロッパ企画の舞台でもときどき出てくるので、武器作りの技術は増やしていきたいです。あと気になってるのは、プログラミングですかね。いい加減このロボットたちも、勝手に動いてほしいので。
──昔AIと漫才をしてたことがありましたけど、あの延長ですか?
「AI方」を披露する酒井善史(2008年)。ボケの言葉をランダムに発するAI方に向かって、酒井がツッコミを入れるというスタイル。 [撮影]吉永美和子
ああ、「AI方(ええあいかた)」ですね。実際のAIは無理なんですけど、ロボットに人感センサーを付けて、人の後ろを付いていけるようにするとか。それができれば、やれることがいろいろ増えるかなあと思ってます。
今年の公演(『ギョエー! 旧校舎の77不思議』)で「ソウルトランサー」という機械を作ったんですけど、あれもプログラミングができれば、あの2本のライトが後ろからせり出してくる、ということができたんですよ。実は公演中に、手動でせり出すよう改造したんですけど、いい所で止められずグルグル回ってしまって。北海道公演の合間に(関係者の)みんなに見せて、舞台に出すことなくすぐ片付ける……という結果になりました(笑)。
ヨーロッパ企画『ギョエー! 旧校舎の77不思議』(2019年)より。中央の酒井が背負っているのが「ソウルトランサー」。 [撮影]清水俊洋
──ギークの求道は続くという感じですね。それを踏まえた上で、カウントダウンのお誘いのメッセージをお願いいたします。
そうですねえ、ちょっと僕では思いつきもしないようなテクノロジーを、みんな考えてくれてるので、いろいろ面白いものが見られるんじゃないかと。正直失敗もすると思うのですが、研究発表会ということで、温かい目で観に来ていただきたいなあと思います。
──あと今年は、22時スタートで翌朝0時半終演と、従来より1時間半繰り上げたタイムスケジュールになったのも、大事なポイントです。
大昔は朝の5時ぐらいまでやってたけど、観に来てくださるお客さんも我々と同世代が多いので、やっぱり2時3時になると、お互いに疲れが見受けられるようになって。かつては「始発までやらないと、お客さんが帰れない」と思い込んでたんですけど、そもそも大晦日は(終日)電車動いてるから、みんな帰れるんですよね。なので今年は、1時間半ぐらいは早く帰れると思います(笑)。
酒井善史(ヨーロッパ企画)。
取材・文=吉永美和子

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