ミュージカル『ボディガード』日本キ
ャスト版 演出・振付のジョシュア・
ベルガッセを直撃 作品作りで大切に
していることとは?

ケビン・コスナー、ホイットニー・ヒューストンの大ヒット主演映画を、大ヒット楽曲でつづるミュージカル『ボディガード』。2019年秋に来日公演も行なわれたこのイギリス発の作品が、2020年春、日本人キャストによって上演される。主人公レイチェルに扮するのは柚希礼音新妻聖子。個性好対照の二人が体現するスーパースターぶりにも注目が集まる本作だが、その演出もまた英国来日版とは異なるという。日本キャスト版にて演出、そして振付を担当するのは、かつては自身もダンサーとして活躍していたジョシュア・ベルガッセ。本作の演出について、そして、2018年に演出した宝塚歌劇団での経験をはじめ日本という自国とは文化の異なる場所でクリエイター、キャストたちとともに作品をつくることについて、話を聞いた。
――この作品の演出をすることに決まったとき、どんなお気持ちでしたか。
とても光栄で幸せに思いました。映画をミュージカル化するのって、一見たやすそうに見えて、実は難しいと思うんです。映画ならカットカットで次々シーンを変えていけるけれども、舞台だとそうは行かないでしょう? 舞台装置を転換して、舞台袖に行って着替えてまた登場してとか、いろいろあるし(笑)。『ボディガード』は映画版自体非常に成功した作品ですが、ミュージカル版もまた非常によくできているなと感じますね。

ジョシュア・ベルガッセ

――2018年、宝塚歌劇団宙組の『WEST SIDE STORY』の演出・振付を手がけられたのが、日本人キャストとの初めての作品作りになりました。
すばらしい経験でした。宝塚についてはよく知らなかったのですが、稽古場に行って、作品作りに対する皆さんの情熱や才能に心打たれました。いつも準備万端で、稽古が終わって私がホテルに戻ってもまだ自主練をしていて。ニューヨークに戻って仲間にその話をしたら、「我々にそれを期待しないでくれ」って言われちゃいました(笑)。作品を作り上げていくプロセス、題材、そして、演出する私に対する非常に高い敬意を感じました。だからこそ、「もっと対等な立場でオープンに議論しようよ」と呼びかけて進めていったこともあります。単に演出、振付を手がけるだけではなく、『WEST SIDE STORY』の時代のニューヨークの文化について教え、議論を交わすという経験にもなり、それが何より印象深かったですね。作品には、人種差別といった、決して美しくない問題も含まれていますが、そういった問題について語り、「じゃあ、今の時代、あなたたちだったらこの問題をどう理解する?」といった形で議論を重ねていった。そうやって問題意識を共有できていったこと、文化的に交流していけたことが美しい経験ですし、そうして過ごした時間はとても幸せなものでした。身体的にも感情的にも、取り組む上で難しい作品の一つですが、キャストがすばらしい演技を披露してくれたし、観客の反応も非常によかったことをうれしく思っています。
――そういった文化的交流は、今回の作品作りでもありそうですね。
『WEST SIDE STORY』に含まれている問題は非常に普遍的ですが、それは『ボディガード』についても言えることですよね。ちょうど今日、(柚希)礼音さんと作品について、セレブというものについて話していて。僕が見たことのあるセレブは、一般大衆との間に見えない壁を作っているという話をしていたんです。それは一見失礼な態度に見えたりすることもあるけれども、彼らはそうやって自分を守ろうとしている。人々が自分から何かを搾取していかないようにしている。『ボディガード』という作品の美しさは、そういった見えない感情の壁がゆっくりと取り払われていくところにあると思うんです。それが作中の、主人公レイチェルの心の旅路なんですよね。そして僕は礼音さんに言ったんです。「宝塚の元トップスターであるあなたは、そんなレイチェルの立場や心をよく理解することができるだろう」とね。(新妻)聖子さんも、二人ともすてきな女優さんで、個性が非常に異なる。それは非常にエキサイティングなことだなと思っていて、それぞれに対し、ほとんど別のプロダクションを二つ作り上げるつもりでいるんです。踊り方も違いますから振付も違うものになるでしょうし、声も違いますし、それぞれに合うニュアンスで作っていきたいと思っています。

ジョシュア・ベルガッセ

物語、登場人物、それぞれの人間関係をまずは理解するところから始めるというのが、演出にあたっての私のいつものアプローチ方法です。そこから振付を発展させていくことによって、音楽を深く理解できるようになるんです。今回の作品についてはそのあたり非常にやりやすいというのは、ホイットニー・ヒューストンの音楽のニュアンスを自分としても非常によく理解していると思うからなんですね。振付にあたっては、アシスタント及び数人のダンサーとスタジオに入り、ステップ、フレーズ、舞踊言語を少しずつ作って積み上げていくんです。よいアイディアを集めて、パズルのようにまとまったものにしていく。そうやってナンバー一つ一つを作り上げていきます。
――ホイットニー・ヒューストンの音楽に振り付けるのはどんな経験ですか。
とにかく楽しい! そして振付しやすいんです。アップテンポの曲なんて、すぐに立ち上がって踊りたくなるものばかりですからね。「I Wanna Dance With Somebody」なんて、テレビでプロモーション・ビデオがかかるたび、家中を踊りまくったものです(笑)。何しろ、彼女の歌を聞いて育った世代ですから。「I Will Always Love You」も大好きな曲だし…。その楽曲が、今回、歌で物語を語っていくミュージカルの文脈において美しく配置され、パワーを発揮しているところがすばらしいなと思うんです。
――舞台装置や照明、衣裳などについて、日本人クリエイターとのコラボレーションはいかがですか。
西洋とは美意識や文化が異なるところがあるから、新鮮なアイディアにふれることができて、それも非常に興味深い経験となっていますね。色彩や空間についての感覚も違うところがあって、本当にわくわくします。
ジョシュア・ベルガッセ
――オーディションを経て、ワークショップも進行中だとうかがいました。
ダンサーそれぞれの才能、技術をよく知ることで、彼らにぴったりと合うような振付を仕上げることで、それぞれが自分にしかできない踊りを踊り、そのことに誇りをもってくれたらと願っています。レイチェルの姉ニッキーを演じるAKANE LIVさんと話す機会もありましたが、宝塚の同期生である礼音さんと姉妹役を演じることに、二人とも、特別な思いを抱いているようでした。
――ベルガッセさんご自身のキャリアについておうかがいできますか。
母がダンススクールをやっていて、そこで3歳からタップダンスやジャズダンス、バレエを始めて。それ以来ずっと踊っています。プロのダンサーとして初めて参加した作品が『WEST SIDE STORY』。ベイビー・ジョン役を演じたんですが、1996年に今はなき新宿の東京厚生年金会館でも公演しました。東京厚生年金会館では2006年の『ムーヴィン・アウト』(ビリー・ジョエルの楽曲にトワイラ・サープが振り付けた、全編セリフのないダンス・ミュージカル)来日公演にもオリアリー軍曹役等で出演しましたが、その作品でダンサーを引退して。ダンサーをしながら、20年ほど前からかな、振付の仕事も始めていて、ミュージカル・ドラマ『SMASH』の振付をしたり、ブロードウェイ作品にも携わるようになっていったんです。
――ダンサー生活の最初と最後の作品で日本を訪れていて、今や、演出家・振付家として日本での公演に関わるようになったというわけですね。
私にとって日本は、この地上でもっとも好きな国の一つですね。日本食も大好きだし、歌舞伎にも非常に興味があるんです。
ジョシュア・ベルガッセ
取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=荒川潤

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