木下嘉人、寺田亜沙子に聞く~新国立
劇場「ニューイヤー・バレエ」、ウィ
ールドン「DGV」(日本初演)の新鮮
なペアリングに注目

2020年1月11日~13日、新国立劇場バレエ団「ニューイヤー・バレエ」が上演される。今年はジョージ・バランシン振付作品『セレナーデ』、『海賊』と『ライモンダ』のパ・ド・ドゥ、そして2019年に話題を呼んだ『不思議の国のアリス』の振付家、クリストファー・ウィールドンの小品『DGV Danse à Grande Vitesse ©』(以下「DGV」)が日本初演される。今回は「DGV」にキャスティングされ、去る10月の公演『ロメオとジュリエット』でマキューシオを踊った木下嘉人、3人の娼婦の中心として連日3人組を率いて踊った寺田亜沙子に、その見どころについて話を聞いた。(文章中敬称略)
■「舞台で自然に生きれば、お客様に伝わる」
――まずは10月公演の『ロメオとジュリエット』を振り返って、印象に残っていることをお話しいただけますか。
木下 僕としてはやはり、マキューシオが死ぬシーンは、すごく大事にしたいと思っていました。僕自身、死んだことがないので(笑)、どんな痛みなんだろう、刺されたことでどういう感覚になるんだろうということを想像しながら、少しでもそれに近くなるように演技することを心掛けました。彼の死がきっかけで物語が劇的に展開して行くので、死ぬ瞬間の重みというものも大事にしたいと思いました。
――指導の先生のお話で一番印象に残っていることは何でしたか。
木下 一番印象に残っているのは「お客様に対してアピールをしない」ということですね。「舞台の中にストーリーがあるのだから、まず舞台上のストーリーを大事にして、それを全てきちんとやれば、それはそのままお客様に伝わる」と。
寺田 「その人と今、会話をしているのに、なぜ客席を見るのか」と言われました。「物語として目の前の人と会話している以上、客席はその時は関係ないんですよ」って。
木下 とにかく自然に、とういうことを強く言われました。
――マクミラン作品らしいですね。寺田さんは3人のロメオとの絡みがありました。
寺田 三者三様なので、それぞれの演技に応えるという感じで、「この人ならこう」という計算はなかったです。自然に顔を見て、相手の表情を読み取るといった感じです。普段の人と人との関係ってそうじゃないですか。そんな感じで相手の顔を見ながら対応していました。ただ日本人はあまりオーバーアクションはやらないですよね。難しいといえばそこでした。
あと今回は全日程での出演だったので、毎回の舞台をその都度新鮮に踊らなければなりませんでした。ロメオや娼婦の仲間がその時々で違っても、マンネリ化したらいけないので毎日気持ちを新鮮に保たなければならない。リセットの秘訣というものはとくにないのですが、家に帰ったら寝て忘れる!ようにしていました(笑)。
「ロメオとジュリエット」 中央は木下嘉人と寺田亜沙子。生き生きとしたヴェローナの町が舞台に現れた。 撮影:鹿摩隆司
――もうだいぶ前なのか、それとも次の話になるのか(笑)、木下さんは『不思議の国のアリス』の白ウサギも演じられました。その時の印象に残っていることを、少しお話しいただけますか。
木下 白ウサギはすごく楽しかったです。キャラクターがはっきりしている分、細かい仕草などがすごく難しかった。僕は表情を表に出すのがすごく苦手だったんです。細かいカウントを数えて踊ることは好きなのですが。でも白ウサギを踊って、キャラクターを演じることがすごく好きになりました。そういう部分で、表現者として成長できたかなと思います。
――それが今回のマキューシオに繋がったんですね。
■「外の目」だからこそのキャスティング。パワーをいかに出すかがポイント
DGV(Amber Scott and Ty King-Wall, The Australian Ballet) Photography Jeff Busby
――「DGV」はキャストがとても新鮮で驚きました。振付家のウィールドンによる「外の目」ならではの組み合わせという印象を受けました。木下さんは第2区で小野絢子さんと、寺田さんは第4区で福岡雄大さんと組まれるんですね。
木下 すごく新鮮ですよね。意外性の塊。(初めてキャストを聞いたときは)普通に驚きました(笑)
寺田 私もキャストを聞いて「えっ…!?」って思いました(笑)。 雄大君とは外部では何回か組みましたが、新国では彼が入団した時に『白鳥の湖』のパ・ド・トロワを踊って以来ですから、10年振りくらいかもしれません(笑)。
――木下さんと小野さんという組み合わせも新鮮です。
木下 緊張します(笑)。この作品は、各ペアによって求められている要素が違うんです。僕らの第2区はとにかく速い動きとスピードが求められている。スピードが速く振付が煩雑で、カウントがすごく難しい。速い動きの中で絢子さんをリフトして踊り、またリフトして踊り……の繰り返しです。
寺田 そういう意味では絢子ちゃんも絢子ちゃんっぽくない感じの踊りです。
木下 僕らしい要素っていうのも、今やっている振付には感じられないので新鮮です。
――寺田さんの第4区はどういった踊りを求められているんですか。
寺田 ダイナミックさ、というのでしょうか。ただ今は振りを入れる作業に必死なので、その要求に応えられるようにがんばっているところです。雄大君は経験も豊富で引っ張っていってくれるし、頼りになりますし、パワーもすごいので、それに追いつこうと必死です。
DGV(Artists of The Australian Ballet) Photography Jeff Busby
――出演する皆さんがそれぞれ新しいことにチャレンジする作品、という感じでもありますね。『不思議の国のアリス』で指導に来てくださったジェイソン・ファウラーさんがまたいらしているということですが、リハーサル中にジェイソンさんに一番言われることはなんでしょう。
木下 「とにかくスタミナをつけなさい」かな(笑)
寺田 パワー!パワー!パワー!と言われています。
木下 運動量がとにかくすごく多いんです。
寺田 止まっていることがほとんどないですね。
木下 普段使っていない筋肉を使うような感じがしています。そこに12組のコール・ド・バレエが絡んでくるのですが、まだ僕らにも全貌は見えていないです。
寺田 今まで踊ったことのない、初めてのような踊りですね。
木下 もしかしたら見る側は目が足りないかもしれません。あちこちでいろんなことが起こっている感じなので。
■想像の世界に身を委ね、ゆったりと楽しみたい『セレナーデ』
「セレナーデ」 (c)The George Balanchine Trust
――寺田さんは「ニューイヤー・バレエ」の『セレナーデ』にも出演されます。バランシン作品の魅力を含めて、お話しいただけますか。とくにキャスト表にはありませんが、3人の女性は中心となる「ワルツ」、テクニカルな魅力の「ロシアンガール」、男性を目隠しして登場する「ダークエンジェル」と、それぞれのパート名がありますね。
寺田 はい、私はこの作品の主要なパートは一通り踊ってきましたが、今回は「ワルツ」を踊ります。『セレナーデ』は音楽に乗れるので踊りやすいです。優雅で美しい反面、体力的にはコール・ド・バレエを含めて非常にハードなところがありますが、大好きな作品です。
――踊っていて好きなシーンはどこでしょう。
寺田 最後の「エレジー」です。最初のパートも目まぐるしく構成が変わり、動きがあって好きなのですが、その後に「エレジー」ですごくしっとりするところが大好きです。今回「ワルツ」では井澤駿君と踊ります。最初の部分などはフレッシュに、楽しく戯れているような感じを出したくて、そこを今、駿君と合わせています。そこから最後の「エレジー」へと、変化を付けて持っていければいいなと思っています。
『セレナーデ』はストーリーのないバレエと言われていますので、お客様が好きなように、想像力を豊かにして、肩ひじ張らずに自然に見ていただければ。曲(チャイコフスキー『弦楽セレナード』)も馴染みがあって美しい曲ですしね。
「セレナーデ」 (c)The George Balanchine Trust
■木下は「Dance to the Future」で2作品を発表
――ニューイヤー・バレエの先にはなりますが、木下さんは「Dance to the Future」(以下「DTF」)では2作品を発表されます。まず米沢さんと踊る『Contact』についてお聞かせください。
木下 オーラヴル・アルナルズの曲『Happiness Does Not Wait』を聴いているときに「これでデュエットを作ったら素敵だろうな」と思ったのがきっかけです。そこから作品をつくっていくうちに、パ・ド・ドゥで簡単に手を繋いではいますが、人との出会いなども含め、「手をふれ合うこと」自体がすごく素敵で神秘的なものだと感じ、そういうコンセプトで作品をつくっていきました。
――深いですね。もう一つの『アトモスフィア』は男性のソロですね。
木下 これは僕の夢でした。いつか男性のソロを作りたいと思っていて、そして尊敬する先輩である雄大さんに踊ってほしかったんです。クラシックの動きとは違いますが、身体をゆったりと流したり、それによって生まれる動きに身体のねじりを加えたりしながら、踊って動くことで生じるエネルギーや力といったパワーも感じられるような作品にしたいと思っています。
■個性の違うそれぞれの作品を楽しんで
――それでは「ニューイヤー・バレエ」に向けて、お客様にメッセージを。
寺田 お正月にエネルギーをチャージして、頑張ります。全く違うタイプの作品をいくつも見られる機会ですので、皆さんどうぞ観に来ていただきたいと思います。全幕バレエとは違った楽しみがあると思います。
木下 全く同じです(笑)
――ありがとうございました。
「海賊」 撮影:鹿摩隆司
取材・文=西原朋未

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