新居昭乃

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【新居昭乃 インタビュー】
O・ワイルドの『幸福な王子』から
生まれた3年振りのオリジナル作品

前作『リトルピアノ・プラス』以来、およそ3年振りとなるオリジナルミニアルバム『ツバメ』。この7曲入りのコンセプチュアルな作品が生まれた経緯とともに、同日発売のコンピレーションアルバム『Another Planet』についても話を訊いた。

悲しみを越えたところに
本当の幸せがある

2016年8月にリリースした30周年記念アルバム『リトルピアノ・プラス』以来となるオリジナルアルバム『ツバメ』がリリースされましたが、まずは今作のテーマを教えてください。

生まれてからだいぶ年月を経て、自分自身もそうですけど、周りの身近な人たちを見ていても、生きていく中で楽しいことよりもつらいことや悲しいことのほうが多いということも分かってきました。そんなつらいことや悲しいことをどういうふうに受け止めたらいいのかと、いろいろ考える機会があって。つらい例というわけではないんですけど、思い浮かんだのがオスカー・ワイルドの童話『幸福な王子』に出てくるツバメだったんです。読まれたことはありますか?

はい。これまでに何度か読んでいます。

本当は南に渡らなければいけない時期で、そうしないと自分の命が危ないのにもかかわらず、困っている人たちを助けたいという王子の気持ちにツバメは応えるわけです。私から見ると“この人を助けるためにツバメは死んじゃうのよ。ツバメはいいの?”と思ったりするんですけど、それって善意ですよね。最後には王子様のキラキラしたものが全身から剥げ落ちてしまって、ツバメも寒さで死んでしまう。これこそが人生だな、こういうことが多いなって。死ぬまではいかなくても、そんな理不尽なこと、不条理なことが多い中でどうやって生きていくか…それには何を指標にして、何を支えにして生きていくのかが大事になってくると思ったんですね。そういうイメージがあって、私にとってツバメは象徴的な存在になったんです。2019年に行なった弾き語りのツアー『Little Piano vol.8』でツバメの絵をシンボル的なものにして使ったり、今回のアルバムに入っている「羽はツバメ」という曲を作ったり。この曲はつらいことや悲しいことを乗り越えた歌で、悲しみを越えたところに本当の幸せがあるという歌にしたくて作りました。

それが今回のアルバムの始まりだったんですね。

この曲が軸になっています。と言っても、アルバムのために曲を作るという感じではなくて、これまで同様にその時その時に作りたい曲を作っているので、収録されている曲ができた時期はバラバラです。「花の行方」や「Soul of AI」は以前からあった曲ですし、「羊の夢」も2018年の暮れのコンサートの時に作った曲なので、自分で作曲した曲で2019年に入ってから作ったのは「羽はツバメ」の他は「氷の城」ですね。「眩光」や「In my tears」は他の方に作曲していただいたものなので。

そういった楽曲が集まったところで、アルバムとして世に出すためにレコーディングを行なったと。

はい。2019年の夏ぐらいにレコーディングを始めました。

参加ミュージシャンはギターの保刈久明さんをはじめ、ベースの渡辺 等さん、ウーリッツァ&アコーディオンの細海魚さん、アコースティックギターはtico moonの影山敏彦さん、ハープもtico moonの吉野友加さんといった個性的なミュージシャンの方ばかりで。

はまたけしさんが作曲してくれた「眩光」以外は、保刈くんがアレンジをしてくれていて、レコーディングに入るまでにアレンジを考えてもらっていたのでスムーズに録れました。tico moonのおふたりに参加してもらっているのが今回の特徴というか、コンセプトと言うほど大袈裟なものではないんですけど、“tico moonと一緒に”というのが音的に私がやりたかったことだったんです。2017年に品川のクラブeXで3人だけでライヴをやったのですが、それがすごく楽しくて、音楽の喜びを改めて感じたんですね。ふたりも私の曲と音楽をすごく好きになってくれたので、また一緒にできたらいいなって。それが実現しました。

そういうコンセプトがあったんですね。

そうです。音楽の解釈が合う感じがして、“私たち、すごく相性がいい!”って思いました(笑)。3人でライヴをするきっかけとなったのは遊佐未森さんのライヴなのですが、おふたりが遊佐さんのライヴに参加されていて、ゲストに呼んでいただいた時に私の曲も演奏してもらったんです。その時、“この方たち、すごくいいな”って感じて。なので、これも縁だと思います。出会いがあって、そこから次につながっていくというのはすごく幸せなことだと思っています。

ライヴもレコーディングも自分ひとりではなく、誰かと作っていくものですからね。

そう思います。「眩光」の作曲とアレンジをやってもらったはまたけしさんは、もともと自分の自主盤レーベルでふたり組ユニットのVelsipoを一緒にやっている方で、そこでははまさんが主に歌ってるんですけど、“私が歌うと思って書いて”って言ったらすごくいい曲ができてきたんです。ディレクターに相談したら、せっかくだから今回のアルバムに入れましょうという話になって収録することが決まったという。

この曲もアルバム用に作ったわけではなかったんですね。

実はそうなんです。自分が作曲した曲じゃないものが入ることによって世界が広がると思いますし、自分が歌いたいと思う曲なので、まったく異質なものというわけではありませんから。「In my tears」も保刈くんが作曲したものですけど、ほぼ全ての曲のプロデュースとアレンジをしてくれてるし、ちゃんと私が歌うことをイメージして作ってもらったものなんです。

人と人がつながって出来上がったアルバムなわけですね。

ジャケットも学生時代からの知り合いでもある写真家の舞山秀一さんに撮ってもらった写真を使っています。これもアルバムのジャケットの撮影のために撮ったものじゃないんです。プライベートで“写真を撮ろう”と言ってくれて、千葉に舞山さんのスタジオがあるんですけど、その近くの海で撮影したんです。なぜそのタイミングだったのかは分からないんですけど(笑)。夜明けに撮りたいということだったので、夜明け前に現地に行きました。その時に舞山さんが“今週は美女ウィークだったんだよ”って言ってて、その週毎日錚々たる美しい女優さん方の撮影で、最後が私、新居昭乃。なんかごめんなさいって感じでした(笑)。でも、すごく素敵な写真なんです。

2020年の2月11日と24日にはニューアルバムのリリースライヴが行なわれますが、どんなライヴになりそうですか?

tico moonのおふたりと、地球の裏側のチリまで一緒に行ってくれたバイオリンの藤堂昌彦くんの4人でのライヴになります。アルバムと同じようにはできないので、アルバムのアレンジにこだわらず、ゼロからいいかたちを探して3人の音を生かしたものにしたいと思っています。『ツバメ』が7曲入りのミニアルバムなので、他の曲…例えば『ツバメ』と同じ日にリリースするコンピレーションアルバムの『Another Planet』に入っている曲とかも歌おうと思っています。
新居昭乃
ミニアルバム『ツバメ』
アルバム『Another Planet』

OKMusic編集部

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