浜田麻里 photo by 堀田芳香

浜田麻里 photo by 堀田芳香

【浜田麻里 リコメンド】
紆余曲折を経て辿り着いた
26年振りの日本武道館

35周年のタイミングで
日本武道館のステージに

 そんな中、浜田麻里はデビュー35周年のタイミングで再び日本武道館でライヴを行なうことを見据え始めていた。具体的にはいつから考えていたのかは分からないが、さまざまな発言などから察するに、本人監修のベスト盤『INCLINATION III』(2013年発表)、シングルコレクション『浜田麻里 30th ANNIVERSARY MARI HAMADA ~COMPLETE SINGLE COLLECTION~』(2014年発表)のリリースを経て行なわれたツアーの際には、将来的な計画として秘めた想いの中にはあったと推測できる。

 個人的にその想いを聞いたのは、『Mission』(2016年発表)に伴うツアーの序盤、Zepp Nagoyaの終演後のことだった。楽屋に訪れた際の何気ない会話の中で“35周年の時に日本武道館で”という発言があったのだ。すでにその頃には5,000人超を収容する東京国際フォーラムのチケットを入手するのも困難になっていた現実もあり、むしろもっと早くても不思議ではなかった。逆に言えば、しかるべき時期に日本武道館のステージを設定したかったのだろう。当時も今もそう解釈している。

 言わずもがな、日本武道館は世界でもっとも有名な日本のベニューである。The Beatlesに始まり、数多くの著名アーティストがこのステージに立ってきた。名ライヴアルバムとして語り継がれているCheap Trickの『Cheap Trick at Budokan』(1978年発表)でこの会場の存在を知ったと話すミュージシャンも少なくない。国内のアーティストの間でも、やはり今も日本武道館は大いなる目標であり、この“ロックの殿堂”で公演を行なうことはひとつのステイタスでもある。

 浜田麻里自身は、日本武道館そのものに強い思い入れがあるわけではないと明かしており、今回の公演は“ファンのみなさんとひとつの物語を作る”ものだと話していた。かつてライヴ活動を休止した際の最後のステージが日本武道館だったこともあり、その頃を知る人は“浜田麻里が武道館に戻ってきた”という感慨深さを覚えることだろう。卑近な例かもしれないが、対外的にも分かりやすい。言わば、積み重ねてきた活動の象徴として日本武道館があった。

 しかし、事は簡単には運ばなかった。かねてから彼女の意向を耳にしていたはずの担当スタッフから告げられたのは、その時期に日本武道館を押さえることが不可能だとの一報だった。近年、東京エリアでのコンサート会場不足はよく知られているが、いずれにしても彼女の失望の大きさは計り知れない。来たるべき日に向けて、さまざまな取り組みをしていたゆえになおさらだ。

 音楽制作においても、30周年のツアーを経て、新たな創造性を発揮するための体制作りを思案していた。『Mission』を引っ提げた国内転戦もそのひとつの試みだったはずで、『Gracia』のツアーにおいては3人のバンドメンバーが入れ替わった。これはよりヘヴィかつテクニカルな側面が色濃く出た作品の特性も大いに寄与している。現状維持なのか刷新なのか、彼女にとっても厳しい選択だったが、導き出された結論に異を唱えるスタッフもいたようだ。

 誤解のないように言うが、これは主従関係の問題ではない。アーティストを支えるためにスタッフはいる。そのためにはアーティストの本来的な姿を的確にとらえなければならない。もちろん無理難題を押し付けるというのは論外だが、本作の“私の35年は芸能エンターテインメント化された音楽シーンではなかなか理解されにくくて…”というMCにもあるように、浜田麻里の歩みは葛藤の連続だった。それが傍からも再びの上昇機運の中にあると思われていたこのタイミングでも起こったのだった。

 そんな状況にありながら、彼女は『Gracia』の制作を進めつつ、常に前を向いていた。願えば叶うわけではないが、新たなコンサートプロモーターと組むことを決意して吉報を待った。

 2018年8月1日にリリースされた『Gracia』はオリコンチャート初登場6位を記録。彼女のアルバムがトップ10入りしたのは約22年振りのことだった。各メディアで掲載されたインタビューでは、未だ決まらぬファイナル公演を日本武道館で開催したい旨を発信し続けていたが、それが想いの強さの表れだったのは間違いない。そして、ようやく決定したのが2018年の10月下旬。11月2日のZepp Tokyo公演のステージにおいて、“4月19日、日本武道館でやります”と自身の口からオーディエンスに告げられた。

OKMusic編集部

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