SHE'Sのスペシャル編成ホールワンマ
ン『Sinfonia “Chronicle”』が浮き
彫りにする、彼らの魅力と現在地

Sinfonia “Chronicle” #2 2019.12.3 中野サンプラザ
やはりこの企画は良い。SHE’ Sが弦楽四重奏とホーン隊とともに行うホールワンマンシリーズ、シンクロこと『Sinfonia “Chronicle”』。同タイトルが付いてから今回で2度目だが、2017年に行ったホールツアーでもストリングスをフィーチャーしていたので、いつもの編成にプラスアルファが施されたSHE’ Sを筆者が観るのは、これで3度目ということになる。
SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA
SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA
ライブが始まってまず気づいたのは、メンバーがみなこれまで以上に楽しそうなこと。「Over You」のイントロが華やかに弾けるやいなやステージの前方ギリギリまで駆け出してピョンピョンと跳びはねてみせる井上竜馬(Vo/Pf/Gt)。木村雅人(Dr)が前の3人のことをしっかり目で追いながら笑顔でリズムを刻み、「Un-science」のギターソロではお立ち台に上った服部栞汰(Gt)が気持ちよさそうに海老反りになってスポットライトと歓声を浴びる。ポーカーフェイスの広瀬臣吾はあんまり見た目上変わらないシュアな演奏だが、かなり早い段階から定位置を離れてプレイしたり、いつもより大きめにアクションしている。気がする。要は、4人がとても自然体に、自信を持ってプレイしていることがよくわかる立ち上がりだ。
SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA
SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA
1曲目「Over You」と同様にミニアルバム『Awakening』(2017年)に収録された「Beautiful Day」はスウィング気味の横揺れなノリが心地良い。思えば『Awakening』という作品自体、ストリングスを大胆に取り入れた作品であった。メジャーデビューしてさほど経っていない時期の彼らにとって、ともすればバンドの輪郭をぼやけさせかねない挑戦的な試みだったよな、と今思い返せば感じるのだが、結果としてあの時点で、彼らがバンドでありながら所謂“バンドサウンド”に固執しない姿勢を強みとして打ち出したこと、自分たちの曲がストリングスやホーンによって鮮やかさを増すタイプのものであると確信できたことは、その後の進路を切り拓く上で大きかったと思う。その一つの象徴であるこの“シンクロ”の魅力はファンにもすっかり浸透したようで、この日の中野サンプラザはSOLD OUTの満員状態。曲調にあわせてクラップしたり音に身を委ねたり、局面が進むごとにライブハウスの狂騒とは一味違う音楽空間が出来上がっていく。
撮影=MASANORI FUJIKAWA
撮影=MASANORI FUJIKAWA
ソングライティングを手がける井上のルーツでもある、エモロックの手触りを持ったインディ期の曲「Just Find What You’ d Carry Out」が管と弦の音色によって華やかな装いとなっていたり(エンディングでは木村の派手なドラムソロという見せ場も)、かと思えば続く「Getting Mad」では4人のみの編成となって井上がギターを弾くことでタイトなロックンロールを投下したりと、ライブ全体の流れを踏まえた工夫とアレンジも冴えていた。彼らには優雅な曲や洒落た曲も多いが、ストリングスやホーンが入るからといってそういう曲一辺倒なライブにはならない。アッパーな曲もやるし、「Clock」のようにシークエンスとともにクールな質感を打ち出したりもするし、アコギ2本とカホン、鍵盤というアコースティックセットで「フィルム」を演奏するという試みも。とりわけ、ダイナミックでドラマティックなロックバラード「Ghost」が見事。あえて一旦メンバーがステージを去ってストリングスのみの流麗な演奏に集中させてから、タイトルコールとともにスタートして徐々に白熱していく演奏は、長いアウトロでピークを迎える。各楽器が各々のリミットを外していくかのような名シーン。
SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA
直近で配信リリースされ、このライブの翌日にシングルリリースされた新曲たちも、もちろん披露された。「Masquerade」はストリングスの生演奏が入ることで、アイリッシュのような、ラテンやフォルクローレにも通じるような独特の多国籍感が増幅。「Letter」は4人のみで奏でるミニマルなサウンドに、ほろ苦く響く低音からナイーヴなニュアンスを帯びた高音まで丁寧に歌う井上のボーカルが調和を見せ、新しい一歩を踏み出そうとする者たちへのエールであると同時に自分自信の覚悟を告げるようなMCから歌われた「Your Song」では、サウンド面のスケールの大きさと等身大のメッセージとが違和感なく同居していた。そういえばこの日、過度に煽ることも、自らの想いをじっくり語るようなMCも、ほとんどなかった。要所要所、あくまでさらっと、井上が独白のような調子で曲に込めたテーマを口にする程度で、あとのMCは4人のキャラが出た緩めの会話がほとんど。その分、演奏は熱量高くガッツリと。その塩梅がとても良い感じだった。
SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA
SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA
とはいっても、「Time To Dive」以降のラストスパートは自然とボルテージが上がらざるを得ない内容で、ビッグバンド・サウンド調の「Sweet Sweet Magic」では色鮮やかな照明を浴びながら各パートのソロ回しが決まり、ホーンとストリングスの存在でボリューム感も楽しさも二乗、三乗となった「Dance With Me」では井上が客席間の通路へと突入。本編ラストは、リリース以降、彼らのライブにおける大事な位置で演奏され続けている「The Everglow」だった。今日が終わりそれぞれの人生を送っていく中で、またどこかで再会することを約束するような歌。彼らが音楽を鳴らす理由ともいえるテーマをしっかりと届けてくれた。
SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA
「俺らは近くにはおられんけど、ちゃんと音楽で繋がってるんやなって再認識した2日間、今日でした」
アンコールでマルーン5のカバー「She Will Be Loved」を演奏した後、そう言った井上。ストリングスもホーンも勢ぞろいして、これまたリスナーに対して抱く想いが結晶化した曲「Stand By Me」へ。サンプラザってこんなに明るくなるんだな、っていうくらいの光量で会場全体が輝く中、ライブは終わりの時を迎えた。
SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA
バンドは来年、東名阪のZeppワンマンを含むツアーを予定しており、それに伴う何らかのリリースも匂わせているなど、まだまだ先へと進んでいく途上にある。是非とも、より人気を得て多くの人を巻き込み、新しい名曲もどんどん生み出してほしい。そうすれば、この1年に1度くらい行われるスペシャルなライブもより楽しみになる。進化していく部分とその軸にある彼ららしさの両面を味わえる新旧織り交ぜたセットリストは、来年や再来年にはどうなっていくだろう。そんな想像までさせてくれるのだから、やはりこの企画は良い。

取材・文=風間大洋 撮影=MASANORI FUJIKAWA

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