「ホリプロの“本気”を目撃してくだ
さい」~堀義貴社長と梶山裕三プロデ
ューサー、『デスノート THE MUSICA
L』を語る~

初日までいよいよあと1か月強となった、『デスノート THE MUSICAL』の再々演。キャストが総入れ替えとなる今回は、とかく新キャストにばかり注目が集まりがちだが、そもそもはホリプロが世界進出を本気でもくろむ中で生まれた作品だ。その誕生の経緯から、創作過程と海外展開、そして再々演への期待までを、社長とプロデューサーが語り尽くす――!
■少子化+漫画人気+蜷川幸雄=デスノート⁉
梶山:『デスノート THE MUSICAL』の発端は、初演からさかのぼること3年半の2011年に、社長から「輸入ばかりしていても仕方ないから、そろそろ輸出できるミュージカルの企画を考えてよ」と言われて、僕が「デスノートはどうでしょうか?」と提案したことでした。その時のことって、覚えていらっしゃいますか?
原作コミックス1巻 表紙
堀:もちろん。当時考えていた色々な“点”が、提案を受けて一本の“線”につながって、腑に落ちたという感覚でしたね。時系列で辿ると長いストーリーになるんだけども(笑)、まず輸出できる企画を募った背景には、日本の少子化があります。エンターテインメントを観る人・作る人ともにこれからどんどん減っていくわけだから、マーケットを海外に広げるしかないと考えた時、自社でいま作れるのは舞台だと。一方、それとはまた別のところで、デスノートが世界で知られていると実感できる機会が当時は多くあって。
梶山:知られているというのは、原作漫画とアニメ版、そしてホリプロも製作委員会に入っていた、藤原竜也主演の映画版(2006年)のことですね。
映画「DEATH NOTE デスノート」 ジャケット
堀:そうそう。漫画とアニメの人気は、海外のアニメ関連イベントに足を運ぶ中で前から感じていたんだけども、映画のほうはじつは、公開当時はそこまで分からなかったんですよ。でも数年後、ロンドンに短期留学した竜也を訪ねて一緒に食事をしていたら、現地の方が近づいてきて「あなた映画スターでしょ。ケーブルテレビでデスノートを見たから知ってる」と。その後、2010年に蜷川幸雄さん演出の『ムサシ』でニューヨークに行った時も、竜也はやはり人気者でした。蜷川さんと言えば、蜷川さんのおかげで数々の海外公演ができて、日本の作品の素晴らしさは海外にも通用する、と目の当たりにしていたことも“点”の一つ。頭の中の引き出しにあった色々なことが、「デスノートどうでしょうか?」と言われた時に“線”となって、すべての答えがいきなり出たような気がしたというわけです。
梶山:なるほど。さらにさかのぼると、確か社長は映画化の話が出るずっと前に、原作漫画はすでに読まれていたんですよね。どうでしたか? 最初の印象というのは。
堀:悪であるはずの殺人が、見方によっては善に見えてしまうところが非常に普遍的で、ものすごく面白いと思ったことを覚えています。世界の歴史をみても、争いってお互いに自分が正しいと思っているところで起こるわけで、正義というのは揺らぐものなんですよね。だから読者も、フィクションとはいえ遠い世界の話ではなく、自分の身にも起こり得る話として読めるのだと思います。しかも今は、僕が初めて読んだ頃と違って、SNSでの“炎上”が日常茶飯事。悪気なく人の人生を台無しにするという意味で、まさにデスノートの世界が現実で起こっているのを感じますね。
梶山:演出の栗山民也さんも、原作を読んだ時、今の日本の現実と重なるから演劇にする意味があるとおっしゃっていました。漫画とはいえ、すごく社会的な物語なんですよね。
■原作からは想像がつかない舞台が生まれるまで
梶山:そんなデスノートをミュージカル化すると発表した時、反応というのはどうだったのでしょうか。確か社長のSNSはあの頃からフォロワーがすごく増えたので、ダイレクトな反応があったことと思いますが。
堀:それはもう、騒然としましたよ。「いつまでデスノートにしがみつく気か」とか「ホリプロもとうとう2.5次元に手を出すのか」とか、ほとんどがアンチ(笑)。対応はしませんでしたけど、日本人というのはたった10年でいい作品を古いとみなして捨ててしまうのか、そんなにもったいないことはない、だったら30年続く作品を作ってそれを変えてやろう、と心の中で思っていましたね。世間の潮目が変わったのは、クリエイティブ陣とキャストを発表した時。今度は「ホリプロ、本気か」というツイートが出回るようになりました(笑)。うちが本気だということは、一般の方々だけではなく、集英社さんにもなかなか分かってもらえなかった記憶がありますね。
『デスノート THE MUSICAL』初演チラシより
梶山:はい、そうでした。社長につないでもらって僕が最初にお話をしに行った時には、「週刊少年ジャンプの読者でも観られるように、チケット代は5,000円くらいでお願いします」と。そこからもう、作戦会議ですよ(笑)。うちの舞台を観ていただいたり、ワイルドホーンがいかにすごい作曲家なのかを根気強く説明したりすることで、ようやく「ホリプロさんの本気が分かりましたので、あとはお任せします」と言っていただけたんです。
堀:うちが目指しているのは、原作から想像できる範囲のものを作るんじゃなく、全然違う世界まで持って行くことなんだって、伝えるには時間が必要だったよね。
梶山:本当に、一般の方々には初日が開くまで伝わっていなかったような気がします。社長ご自身は、そういう本格的なミュージカルになる手応えというのは、どの時点で感じられていたんですか?
堀:NYから送られてきた音楽を台本と照らし合わせながら聴いた時、ああもう出来た!って。楽曲の配置のされ方がそれぞれのキャラクターに合っていて、バラエティに富んでいるし、肝になるナンバーもちゃんとありましたから。
梶山:なるほど。その音楽を作ったフランク・ワイルドホーンさんとホリプロとは、2000年のミュージカル『ジキル&ハイド』以来、その時点で10年近いお付き合いがありました。
梶山裕三プロデューサー
堀:そうですね、すでにビジネスパートナーという以上の友情が生まれていたと思います。ただ、デスノートに対しては最初、全然乗り気じゃなかった(笑)。受けてくれたのは、彼の息子さんがたまたまアニメ版のファンで彼に受けるよう勧めてくれたことと、濱田めぐみという女優がいたおかげです。フランクは濱田を非常に気に入っていましたから、死神レムを彼女がやるとなった時、彼の中でインスピレーションが湧いたんだと思うんですよ。ラブストーリーじゃないものをめったに書かないフランクが、レムというキャラクターに“愛情”を書ける余地を見出した。それと、レムを濱田が、リュークを吉田鋼太郎がやると決まったことは、この作品が原作から飛躍する大きなきっかけでもあったと思います。
■いずれドーバー海峡か大西洋を渡る作品
梶山:この作品は、ホリプロとして初めて海外にライセンスした作品となりました。日本初演の2か月後に幕を開けた韓国公演を観て、率直にどんな感想を持たれましたか?
堀:非常に感慨深かったですね。何十年もかけてドーバー海峡か大西洋を渡ろうと思って作った作品が、その第一歩となる韓国公演に、こんなにも早く辿り着けるとはと。それから、韓国側がここを変えたいあそこも変えたいと言ってきていた中、集英社さんとの約束を守って、変更を阻止できたことへの感慨深さもありました(笑)。それまではずっと、阻止される側だったわけだから。
梶山:逆の立場になれたことは、僕にとっても何物にも代えがたい経験でした。正直、普段ロンドンとかNYのプロデューサーにされてるみたいに、冷たくすることもできたと思うんですよ(笑)。でもそこは、「いや気持ちは分かるけれども…」という対話をしながら進めて、行き着いたのがあの形でした。
『デスノート THE MUSICAL』2015年2017年 韓国プロダクション
堀:大きな経験と自信になったよね。でも韓国公演はさっきも言ったように、この作品とこれに続く作品で、ウエストエンドかブロードウェイに行くための第一歩。20年かかろうが30年かかろうが実現する、という当初の気持ちは今も変わりません。その“これに続く作品”にあたるのがミュージカル『生きる』(2018)だったわけですが、あの企画にOKを出せたのも、海外スタッフとの何気ない会話があったからなんです。好きな映画の話で盛り上がった時に挙がった名前だったから、企画が出てきた時すぐに判断できた。海外のニーズを知るためには、日々アンテナを研ぎ澄ませておく必要があります。そのアンテナを持っている人が増えていけば、いずれ誰かがドーバー海峡か大西洋を渡ることになると思いますよ。
梶山:『デスノート THE MUSICAL』に興味を持ってくれている国はすでにいくつかあって、実際に会ったりもしていますから、ドーバー海峡か大西洋かどうかは分かりませんが(笑)、きっとそう遠くないうちに海は渡れると思います。
■ハイブリッドな日本オリジナルミュージカル
『デスノート THE MUSICAL』2020年 チラシより
梶山:そして今回、『デスノート THE MUSICAL』はオール新キャストによる再々演を迎えます。新生デスノートについて、社長が楽しみにしているのはどんなことですか?
堀:我々の頭の中で出来上がっているイメージとは違うものが出てくる可能性があり、それによって作品が若返る、というのが一つ。もう一つは、韓国からパク・ヘナさんが参加してくださることがもたらす効果、ですね。濱田めぐみのほかに、レムのあの“愛情”の歌を歌える人がいるのかと思っていた中で彼女の名前が挙がった時、これも腑に落ちたんですよ。彼女がOKしてくれた時、やはり何事も、腑に落ちれば物事は前に進むんだなと。
梶山:オファーは僕がしに行ったんですが、韓国にはいい俳優はいっぱいいるけれども、栗山さんのように本当にちゃんと導いてくれる演出家と仕事をしたいから、ぜひ前向きに考えたいと言ってくれました。日本にも世界に誇れる演出家がいるんだって、逆に教えられた気がしましたね。そして実際に受けてくださって、いま歌稽古が始まっているんですが、彼女の声の魅力は本当にすごい。初めて聴いたスタッフは号泣していました。
『デスノート THE MUSICAL』2020 レム役 / パク・ヘナ紹介映像
堀:彼女の歌には、誰もが素直に感動すると思います。そんな彼女が、この若いキャストが高みを目指すきっかけに、そして観る方が「国籍なんて関係ないんだ」と思うきっかけになったらいいなと。初演の感想の中には、「音楽も脚本も外国人が書いてるなら日本オリジナルじゃないじゃないか」という声もあったんですが、僕はそれは違うと思う。だって、この間のW杯で活躍したラグビーの選手たちもテニスの大坂なおみ選手も陸上のサニブラウン選手も、みんな日本代表じゃないですか。これからの日本は、なんでもハイブリッドな状態じゃないといけない。韓国人キャストが参加するミュージカルは過去にもありましたけど、今回はそのことが、若い人たちにもっと伝わるといいなと思っています。
梶山:すごく共感します。では最後に、社長から改めて、読者の皆さんにお誘いのメッセージをいただけますでしょうか。
堀:まずはとにかく、観ていただきたいということですね! 観て好きじゃないなら好きじゃないでいいんですが(笑)、この作品が初演以来、世界を目指してる作品だってことは、観ないと分からないでしょうから。いずれ海外での上演が定着して、日本の皆さんが誇れる作品になるまで、何度でも手直ししながら上演を重ねていくつもりです。ホリプロの海外展開作品の“一の矢”である『デスノート THE MUSICAL』を、ぜひ目撃していただきたいですね。
堀義貴社長
梶山:本当にそうですね。手直しと言えば、今回は音楽の力をもっと信じようということで、栗山さんと相談しながら脚本のスリム化を進めています。そして新キャストですが、ヘナさんだけじゃなく皆さん本当にすごい。初演・再演の成功という相当なプレッシャーの中でこの仕事を受けてくれているんですが、それをはねのけようと、それぞれが驚くほどしっかり準備してきているんです。そんな新キャストがお届けする、さらに面白くなった新生デスノートをぜひ体験していただきたいと、僕も心から思っています。
取材・文=町田麻子

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