ジェネシス独自のサウンドを
確立した黄金期のメンバーによる
『怪奇骨董音楽箱』

本作『怪奇骨董音楽箱』について

そして、71年に本作『怪奇骨董音楽箱』はリリースされた。まず耳に残るのはコリンズのタイトなドラムワークだ。ハケットのギタープレイはと言えば、前任の優れたフィリップスを凌駕するテクニックで、このふたりの存在がジェネシスにとっていかにプラスになったか、前作と比べるとよく分かる。ゲイブリエルの演劇的要素もこの頃からより明確になり、彼が紡ぎ出す奇妙でシュールな歌詞は彼らの音楽を表現するのに欠かせないものとなっている。本作以降、コンサート時にゲイブリエルがさまざまなコスチュームで音楽劇を演じるようになっていくが、それはひとえに彼の思い描く超現実世界が、ジェネシスの高い演奏力で具象化できるようになったからに他ならない。また、クリムゾンから譲り受けたメロトロンの効果は絶大で、一気にサウンドに奥行きが広がることになった。

収録曲は全部で7曲。冒頭の10分半に及ぶ「The Musical Box」は牧歌的なイントロで始まり、徐々にドラマチックな展開になっていく。ジャケットを見ながら聴くと、グリム童話の一場面のような純粋な残酷さが味わえる。曲の途中で登場するハケットのギターソロは、驚くべきことにすでにタッピング(ライトハンド)奏法が使われていて、彼のプレイは当時のブリティッシュロックギタリストの多くに影響を与えただろう。

「The Return Of The Giant Hogweed」は植物が人間を襲うというSF的な内容のナンバーで、オペラ風で緻密な構成になっている。クイーンはジェネシスから多くの影響を受けていることがよく分かるナンバーだ。また、アルバム最後の「The Fountain Of Salmacis」ではコリンズの今も変わらない個性的なドラムが聴けるし、ゲイブリエルのトレードマークとなる演劇的展開が繰り広げられているのが素晴らしい。

秀逸なアルバムジャケットのイラストは前作から引き続いてポール・ホワイトヘッドが担当、奇妙でおどろおどろしい作風はゲイブリエルの狙い通りで、本作のイラストが彼の最高傑作だろう。なお、ジャケットに描かれている広い芝生の庭がある大邸宅はゲイブリエルの親の実家を参考にしているそうだ。

本作は全英チャートで39位となり、ジェネシスはようやく本国で認知されるようになるのである。そして、翌年の72年には本作をさらに上回る出来の『フォックストロット』をリリースし、世界的なプログレグループとして認知されることになる。ゲイブリエル時代のジェネシスのアルバムで、どれか1枚と言われたら僕は内容の充実度では『フォックストロット』を挙げるが、それでもティーエイジャーの時に出会った『怪奇骨董音楽箱』の邦題とジャケットの素晴らしさ(もちろん内容も良いし)がやっぱり忘れられないのである。

TEXT:河崎直人

アルバム『Nursery Cryme』1971年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.ザ・ミュージカル・ボックス(旧邦題 怪奇のオルゴール)/The Musical
    • 2.フォー・アブセント・フレンズ(旧邦題 今いない友の為に)/For Absent Friends
    • 3.ザ・リターン・オブ・ザ・ジャイアント・ホグウィード/The Return of the Giant Hogweed
    • 4.セヴン・ストーンズ/Seven Stones
    • 5.ハロルド・ザ・バレル/Harold the Barrel
    • 6.ハーレクイン(旧邦題 道化師)/Harlequin
    • 7.ザ・ファウンテン・オブ・サルマシス(旧邦題 サルマシスの泉)/The Fountain of Salmacis
『Nursery Cryme』(’71)/Genesis

OKMusic編集部

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