野外から劇場へ~ ダンス&落語&チ
ェロ生演奏の異色コラボで贈る、少年
王者舘『アサガオデン(劇場版)』

2017年に〈少年王者舘〉のダンス公演として、夕沈、中村榮美子、山本亜手子、雪港の4人組ユニットで始まった『アサガオデン』。過去3回の公演はすべて野外で行われてきたが、今回は劇場に場を移してこれまでとは趣向を変えたスタイルで『アサガオデン(劇場版)』と銘打ち、2019年12月14日(土)・15日(日)に東京・下北沢のザ・スズナリで公演を行う。
『アサガオデン』はもともと、毎年GW中に静岡市の街を舞台として、演劇、ダンス、パフォーマンスなどが行われるストリートシアターフェスティバル「ストレンジシード」に参加するため企画されたもので、〈少年王者舘〉は2017年と2018年に2年連続で出場。駿府城公園の芝生広場で上演し、2018年11月には「高知県立美術館」の中庭でも公演を行っている。いずれも、音楽家の園田容子によるアコーディオンやトイピアノの軽やかで愛らしい生演奏をバックに、お揃いの白いワンピースに身を包み、幾つもの透明なボールやハンドベルなどの小道具も用いた、妖精たちの戯れのようなダンスパフォーマンスを展開した。
少年王者舘『アサガオデン(劇場版)』チラシ表  コラージュ/アマノテンガイ
今回の演出を担当し、これまでも構成協力を行ってきた天野天街は、「“外の風物と絡む”ということから始まって、僕はみんなが持ち寄ったアイデアや小道具をもとに、野外でやるならそれをどう繋げていくかという構成を考えたり、出来た踊りにちょっと言葉を乗せたりしたぐらいで、あとはもう全部みんなに任せているんです」と。
そんな、開かれた広い空間である野外から、劇場という枠のある閉じられた空間に場を移す今回の企画について、振付も担当する夕沈は、「もともと劇場であるスズナリで、野外の作品である『アサガオデン』をやるつもりはなかったんです。スズナリが12月に3日間だけ空いているということで、ギリギリ1日仕込み、2日間だけの本番でお金をできるだけかけずにできること…をみんなで考えた時に、“素舞台でやってみる!?” “座布団一枚で落語か!”って半分冗談を言ってるうちに、他の劇団員から劇場版『アサガオデン』をやったら? と提案がありました。あの、野外やからこその太陽のひかり、風、みどり、空、飛行機雲、鳥や虫や、行き交う人や、デコボコの地面、雨模様になるかもしれない空、夕方になってゆく色とりどり、一瞬先もわからないドキドキとワクワクの刹那、そんな野外でしかできない気がする『アサガオデン』を劇場でやるのは至難のわざで、どうしたもんかと思い巡らして。お芝居仕立てにするのもなんか違うし、悩んだ果てに半分勢いで、一番かけ離れているような気がする落語と一緒にやったらおもしろい気がする! 落語はコトバのダンスやし! って。混ざり合って溶けたら、きっとどこか未知のおもしろいトコロに行けそうな気もして」と。
『アサガオデン〜カタン・コトン〜』 「高知県立美術館」公演より
そこから天野に落語台本の執筆を持ちかけたところ、旧知の間柄である漫画家・河井克夫の名前が浮上。河井に依頼した理由を天野は、「河井さんとは『さるハゲロックフェスティバル』(漫画家のしりあがり寿が主催し、毎年1月に行っている新年会ロックフェスィバル。天野は2011年から全体演出を担う“幻演師”として参加。王者舘も毎回出演している)を一緒にやったり、芝居を観に来てもらったりして付き合いがある。河井さんが女性漫画家6人に原作を提供した漫画が「コミックビーム」に連載されて、単行本にもなってるんだけど、その中に落語の話もあったんです。それで河井さんが落語を書いたら絶対に面白いなと思って。河井さんは桂枝雀とか好きで、上方落語に凝ってるんですよ。それで夕沈は関西人だから(京都出身)、夕沈への当て書きで落語台本を書いてもらったんです」と説明。
内容については全ておまかせだったそうだが、上がってきた台本は『蟻丁稚』という蟻の世界の話で、「すごく面白い」とのこと。「アリ松という主人公が、お家はん(女主人)にお使いを頼まれていろいろなことに遭遇して、最後に蟻地獄に落ちるとみんなが助けに行く…というような話ですけど、『不思議の国のアリス』にも繋がっていたり。面白いんだけど『アサガオデン』とは関係ない話だったから、“朝顔のイメージも入れてよ”と頼んだら、“蟻の頭って、朝顔の種みたいだね”と言って、いろいろ繋げてくれました」
『アサガオデン〜カタン・コトン〜』 「ストレンジシード」参加公演より
また今回の【劇場版】に際し、生演奏を行う音楽家についても、王者舘とは古くから関わりの深いチェロ奏者の坂本弘道に、新たにオファーをかけたという。
「演奏形態はチェロを基本におまかせで、音源に生演奏を重ねてもらったり、生演奏だけのシーンもあったり、相談しながら決めていきます。空たかくたかく飛べそうな感じ、海の上、海の下、沈んで泳いで浮かんであるいて走ってカケルカケル感じ……とか、坂本さんはいつも“感じ”を伝えると弾いてくれはります。みんな風にのって、雲の上までとおくトオク、スイスイスーイと飛んで行けそうです」と、夕沈。
大量のエフェクターや鉛筆削りなどの道具を用いたり、時にグラインダーを使って火花まで散らしながら即興演奏を行う坂本の特異な音楽性と、落語、ダンスという異種格闘公演を、果たして天野は演出として、どうまとめるのか。
「無茶ぶりされた三題噺を、どう繋げるか、ということですよね。落語はある程度ちゃんと一人で演じないと面白くもなんともないので、まず夕沈に覚えてもらわないといけないので大変だけど、そこから変容させて、落語に書かれたものを逆輸入しながら演出していきます。落語はきっちりやっても20分か25分ぐらいかかるから、それが真ん中にドンと居座る感じで、基本は、屋外は屋外でしか出来ないこと、劇場は劇場でしか出来ないことをやる。劇場でしか出来ないことで一番簡単なことを言ったら、暗転が出来たり、明かりを絞ったりできることですよね。それらを融合させて、素舞台で、見たこともない世界を創ります」
そして、要となるダンスについては、夕沈からこんな返答が。
「皆でネタ出しごっこしてつないだり、アレンジしたりして作っています。全体の構成も、コレとコレとソレとアレつなごうか、間にコレを入れようか、間にアレあったらおもしろいなぁとか、皆であーだこうだしながらコツコツ積み重ねてゆきます。今度はスズナリでなんして遊ぼ、なんか物のようなものがあるなら、どう作って、どう使って、どうしたらおもしろいやろう、楽しいやろうと皆で遊ぶ、試行錯誤の遊びです。この先、ヨボヨボのババアになっても、こうしてアホみたいに遊んでいられたらおもろいなー言うて稽古してます。そして、遊びをどうカタチにしていくのかという、なかなかに過酷な、嬉し楽しのアホのお遊戯です」
たった2日間、3ステージ限りの異色ダンス公演。静岡や高知で観ている人も、初めての方も、“見たこともない世界”を体験すべく、スズナリへ!
なお、『アサガオデン』千穐楽の翌日12月16日(月)には、19:30より三鷹SCOOLにて演劇コラムニスト中西理がホストを務めるセミネールin東京「ポストゼロ年代演劇の新潮流」が開催される。今回はゲストに少年王者舘 天野天街を招き、その作劇術の核心に迫る(詳細は下記イベント情報参照)。
取材・文=望月勝美

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