舞台『はい!丸尾不動産です。』兵動
大樹が「泣きそうだった」と感無量、
桂吉弥も「ワンチームになれた」と語
った第2弾が大好評な理由

「しゃべくりの達人」として大人気の兵動大樹、桂吉弥がダブル主演を務める舞台の第2弾『はい!丸尾不動産です。〜本日、家に化けて出ます〜』の公演が12月2日(月)、大阪・ABCホールで終幕した。
同作は、発明好きの老婆・光子の死をきっかけに、彼女と土地売買の交渉をおこなっていた不動産営業マン・菅谷、息子家族の林田、その妻・早苗と息子・亮介、訪問販売員・角田のそれぞれの事情や素性が明かされていく物語。死んだはずの光子が、若かりし頃の姿で化けて出てきたことから、さらに大きな混乱が生じていく。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
今回もっとも見応えがあった部分は、社会問題となっている「老人の孤独死」についての捉え方だ。老人が一人きりで暮らし、そして死んでいくことは総じて「不幸」と言えるのか。林田の「孤独死を減らしたい」という力強い主張は、何もかも正しいのか。老人の死を反射的に「悲しいもの」「寂しいもの」として受け取ってしまう風潮に、違った考え方を投げかけてくる。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
光子は、息子家族と疎遠に暮らしていたが、世間がイメージ付けるような「寂しい老人像」ではなかった。好きなアイドルのDVDを観て、酒やお菓子を思う存分喰らい、とにかく好き放題に生きた。一人暮らしの老人=悲劇的なもの、というイメージへと押しやりがちな社会の目を鮮やかに裏切る、光子のおもしろおかしい晩年。化けて出てきた彼女の存在が、周囲の意識を少しずつ変えていく。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
一方で、菅谷は不動産屋としての立場から「老人が一人で自分勝手に生きて、死んでいくのは迷惑」ときっぱり言い切る。孤独死があった家は事故物件として扱わなくてはならず、不動産的にはデメリットばかり。ただし、それは決して嫌味ではない。たとえ偽善であっても「孤独死を減らしたい」と訴えかける人間はいた方がいい。そうやって老人問題に取り組み、行動する人間が増えれば何かしら社会は変わる。結果的に「孤独死」が減るかもしれないし、悲劇的に思われがちな一人暮らしの老人像に変化が生まれるかもしれない。後半はそういったメッセージ性の強いストーリーが押し寄せ、涙を流す観客が続出した。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
しかし前半から中盤にかけては、とにかく笑いっぱなし。菅谷に対して執拗に「ジャケットを脱いでくれ」と迫る林田の変態的な眼差し(実は、光子が開発した全自動毛玉取り装置の性能を試したかっただけ)。息子・亮介が、化けて出てきた光子の可愛らしさにのぼせ上がり、祖母であることを忘れて「オトコ」になり、蜘蛛男のように忍び寄って抱きつこうとするところ(演じた明石陸の手足の長さが余計に不気味さ倍増)。菅谷に扮した兵藤が何度も茶化してくることで、光子を演じた清井咲希が本気まじりでイラつく一幕。前作『本日、家をシェアします』以上に遊びの要素が盛り込まれ、コメディとしてもまったく隙がなかった。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
起伏が大きいストーリーに、出演者の気持ちもグッと入り込んでいた印象だ。早苗役・三船美佳は後半、光子が一同に対して本音を語るシーンで、本物の涙を流しているように見えた。だからなのか、カーテンコールでは吹っ切れたように「フーッ! ワーイッ!」と兵動や吉弥たちも戸惑うほどのハイテンションを見せた。「今日の公演には私の母、息子、旦那が観に来ていたので、緊張していたんです」と肩の荷が下りたような感じだった。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
公演後は、SPICEが独占で各出演者に単独インタビューも実施。キレの良いオタ芸を披露するなど新人ながら異彩を放った亮介役・明石陸は、「公演を重ねるにつれて、お客さんに笑ってもらえる箇所もわかってきた分、逆に「ここで笑ってもらえなかったら、どうしよう」と不安に思うこともあった。そういった面も含めて、とても刺激を受けた舞台でした。」と充実の表情。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
光子役を務めた清井咲希(たこやきレインボー)は、稽古を重ねて大きく成長。おふざけが過ぎる菅谷に強烈なタイキックを放ったり、光子の胸の内をしっとりとした雰囲気で語ったり、観客を泣き笑いの渦へと巻きこんだ。清井は「光子として生きることができましたし、この役に出会えて良かったです。本番中、本当にグッとくるところがありましたから。舞台の楽しさを知ることができました。今後も演技を頑張りたいです」とこれからの舞台出演に意欲をみせた。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
リフォーム会社の訪問販売員として冒頭登場するも、実は老人をターゲットに遺産を強奪する詐欺師という、振り幅の大きい角田役を演じきったのは、佐藤太一郎(吉本新喜劇)だ。太一郎は、「角田は物語の大どんでん返しを担うキーマンだったので大きなプレッシャーがありました。ただ、演出家・木村淳さんたちのもとで、のびのびとやらせていただけて、すごく感謝をしています。みんなとは昔からの知り合いのような空気感があって、めちゃくちゃ楽しかったです」とこの座組の居心地の良さを話してくれた。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
息子なのに光子の姿が最後の最後まで見えなかったり、妻・早苗がいないとロクに仕事ができなかったり、何もかもが煮え切らない男・林田に扮した桂吉弥は、「最初、脚本をもらったとき、台詞量も多かったり、光子の姿が見えないという芝居だったり、「これ、出来るんかな」と掴みどころが全然なかったんです」と不安が先行していたという。しかし、「太一郎さんが本番直前で、僕らのベクトルを揃えることを言ってくれたんです。実は、兄やん(兵動)が「太一郎くん、もしも何か思っていることがあるなら言った方が良いよ」とキッカケを作って、そして胸の内を明かし合った。そこで「ワンチーム」になれたんです」と知られざるエピソードを口にしてくれた。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
光子と交渉して土地売買を成立させるも、彼女の突然死で契約がうやむやになりかけて右往左往する不動産屋・菅谷役には、兵動大樹。SPICEの事前インタビューで「演出家の木村さんにも内緒のボケを考えている」と言っていたが、その真相について尋ねると「菅谷が独白をするシーンがあるんですけど、そこで流れるバックミュージックの音が大きくなって「うるさい!」と怒鳴るところ。あれが、ギリギリまで内緒にしていたボケなんです。結局は木村さんに「どうですか」と相談したら、「良いですね!」と採用してもらいました」と実行に移すことができたという。兵動も充実度がかなりあったようで、「いろんな意味で泣きそうになった。再演したい気持ちですし、このメンバーで違う話もやってみたい。最高ですね、丸尾不動産」と終演後も気持ちが高ぶったままだった。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家に化けて出ます』
『はい!丸尾不動産です。』はシリーズ化が明言されており、続編もきっと企画されるはず。1作目、2作目で舞台作品として娯楽性の高さ、メッセージ性の深さをきっちり印象づけた。次回作はどのような手を打ってくるのか。待ち遠しい気持ちでいっぱいだ。
取材・文=田辺ユウキ 撮影=田浦ボン

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