約13年振りとなる新作「Möbius Str
ip」を発表したKEN ISHIIにインタビ
ュー!

デビューから26年、日本はもとより世界レベルで大活躍! その類い稀なる才能から“テクノゴッド”と称されるKEN ISHII。彼がニューアルバム「Möbius Strip」をリリースした。

KEN ISHII名義では実に13年振りとなる今作は果たしてどんな仕上がりとなっているのか……その全貌に迫りつつ、彼が作品を作り続ける理由や音楽との向き合い方など、たっぷりと話を聞いてみた!

“アップデートされた自分らしさを突き
詰めていた…”

——待望の新作「Möbius Strip」ですが、今回はどんなアルバムにしようと思っていたんですか?
KEN ISHII:アルバムとしては13年振りになるけど、その間もずっと曲を作り続けてはいたんだよね。それこそFlare名義でリリースしたり、KEN ISHII名義でもEPを出したり。でも、EPとなるとどうしてもダンスレーベルから出しているので、DJがプレイするための曲が中心になっていて

——それをアルバムにしようとは思わなかったんですか?
KEN ISHII:DJとしては存在感を示す意味でリリースは重要だと思う。ただ、僕の中でアルバムとなると別物。これがKEN ISHIIだっていう、自分が本当に作りたいものを作ってリリースしたいんだよね

——となると、今作はISHIIさんが本当に作りたい作品ということ?
KEN ISHII:そうだね。本当にナチュラルなアルバムというか、偽りや狙いもない、とにかく自分らしいもの。もともとリリースする、しないに関係なく曲を作り始めて、いわゆるDJトラックを作ろうとは思ってなかった曲ばかりだからね

——現在のテクノシーンも意識していなかった?
KEN ISHII:いわゆるトレンドというものは全然意識してない。逆に、アップデートされた自分らしさを突き詰めていた感じがする

——そもそも今のテクノシーンについてはどんな印象を持っています?
KEN ISHII:今、テクノは揺り戻しがきていると思うな。人気のある若いアーティストが続々と生まれ、彼らはみんなストレートなサウンドを提示しているし、それはすごくいいこと。ただ、これはダンスミュージック全体に言えることだと思うんだけど、基本的にどんな曲を作っているのかはそこまで関係なくなっているというか……もちろん素晴らしい曲はたくさんあって、評価されているんだけど、アーティストとしてのバリューはフェスなどの大きな舞台で活躍し、それが記録として残されることが重要視されてるのかなって思う。ある意味、楽曲よりも映像が重要視されているというか……
——ビッグフェスのアフタームービーなどのことですね。
KEN ISHII:そう。でも、そこに僕の拠り所はないとも思ってる。当然、僕にもそういう局面はあって、『Tomorrowland』に出演したときも楽しかった。大事なことではあると思うけど、僕は本来プロデューサーであり、音楽を作る喜びを感じるところからスタートしているからね。やっぱり自分が本当にやりたいことをやって、アイデンティティを示していかないといけない

——先ほど、“DJも存在感を示すためにリリースは重要”と仰ってましたが、やっぱり今の時代はDJも曲を作らないといけないんでしょうか?
KEN ISHII:必要だと思うけど、ある意味では一度売れてしまえば何かが変わる、そんな気がするね。例えば、日本のお笑い芸人も最初はネタで頭角を現して、売れてしまえばネタをしなくなる傾向があると思うんだ。それと同じようなことが僕らの世界でも言えるのかなって気がしてる。ただ、それでもお笑いであること、DJであることに変わりはないんだけどね。音楽にしても、正直曲を作ることで大金が得られるかと言えば、今はそうとも言えない。お金のため以上に……それこそプライドや自分を満たすため、あとは名前を絶やさないようするためだとか各自いろいろと目的があって、今のシーンでは1曲ヒットしたら大舞台でDJをし続けることが生き残るための術になってきていると思う。言うなれば、一度売れてしまえば曲を作ることがそこまで必要ではないかもしれないってことだね

——でも、ISHIIさんはプロデューサーだから曲を作り続けるわけですね。
KEN ISHII:僕はたまたまDJがちょっとできるようになって、いろいろな人と出会って、たまたま呼んでもらっているだけ……って思ってる。今も音楽を作って、いい曲ができたら嬉しいし、それはずっと変わらないよ

“Möbius Strip…音楽には終わりがな
い、答えはない…”

——今回のアルバムのタイトルは「Möbius Strip」。つまり“メビウスの帯”ということですよね?
KEN ISHII:“音楽は終わりのない旅”ってことだね。作品を作る中で今回も本当に学ぶことが多くてさ。それこそプログラミングやエンジニアリングの部分など、テクニカルな部分で言えば、この10年で大きく進化しているし、音楽には終わりがない、答えはないんだよ

——ISHIIさんでもまだまだ学ぶことは多いんですね……。
KEN ISHII:ソフトウェアやハードウェア、プラグインにしてもすごくできることが増えているし、5年前にはできなかった音処理が今は簡単にできるようになってる。そういった進化を糧に……というか、今もひとつひとつ学びながら作ってる。ただ、そういった新しさの反面、音楽の本質的な部分はそこまで変化していないと思う。いわば、進化するテクノロジーという小枝を駆使した上で、結局自分にとって何が面白いのかと言えば、本来好きだったもの。やっぱり、僕の中にある根幹は変わらない

——その根幹というのは?
KEN ISHII:僕にとってはデトロイトテクノになってくるのかな。デトロイトテクノの捻りや実験性、ファンキーさ、コード感とかが原体験としてあって、自分が好きなものを作るとなるとそれが自然と出てしまうと思う。もちろん今のテクノも好きだけど、ムリに作ることはないというか……他にも作ってる人はたくさんいるからね。今回は自分にしかできないものを作ろうと思ったんだ
——デトロイトテクノという意味では、今回Jeff Mills(ジェフ・ミルズ)が参加されていますよね。デトロイトテクノ界の重鎮。
KEN ISHII:彼は個人的にも仲良くさせてもらっていて、いわゆる先輩であり、尊敬するアーティスト。常にチャレンジし、作品を作り続ける、本当にスゴいアーティストだと思ってる。そんな人と一緒に曲を作れることは素直に嬉しかったよ。ジェフは自分のプロジェクトでコラボすることはあっても、他人の作品に参加することはほとんどないからね、僕の中ではようやくできたって感じ。彼を引っ張り出したことだけでも満足感はあったね

——念願の……ということですね。しかも、今回は2曲も一緒に作っていますよね。
KEN ISHII:まずは彼にアルバムのコンセプトなどを全て話して、最初に2つのパーツが送られてきたんだ。それがどっちも素晴らしくて、僕が2曲ともやりたいってお願いした。1つがダンスっぽいトラックの“Take No Prisoners”。これは、昔のジェフの雰囲気の曲で、彼自身すごく気に入ってくれた。もうひとつの“Quantum Teleportation”は、今のジェフというか、アブストラクトな感じだね

——その他にも、スペインのDOSEM(ドゼム)、日本人のGo Hiyamaさんが参加しています。
KEN ISHII:ドゼムはデビューしたときから知っているけど、今やいわゆるメロディックテクノの第一人者としてスゴい人気だよね。とても才能があるし、曲も素晴らしいから、それも当然だと思うけど。実はもともと僕のファンだったらしくて、今回声をかけたら『ぜひ!』と言ってくれたんだ。彼との曲“Green Flash”は僕自身かなりの意欲作だと思ってる。今のメインストリームとはちょっと違った感じだけど、2人の良さが際立った、いいバランスの曲になったからね。かたやHiyama君は日本のテクノのパイオニアの1人だけど、今はとてもアーティスティックなスタイルで、それがまた素晴らしくてさ。あのエクスペリメンタルな作品は僕が今すぐできるスタイルでもないから、一緒に作ってみたいなと思って。今回のアルバムの中でも最も実験的だけど、美しいサウンドになったと思う

“僕はテクノがなかったら音楽をやろう
と思ってない…”

——13年振りの作品となるわけですが、その分プレッシャーみたいなものを感じたりしますか?
KEN ISHII:プレッシャーはある。でも、それはみんな同じことだと思う。世の中に作品を提示する以上、好きじゃない人がいるのも当然だしね。ただ、キャリアを重ねてきて、あまり気にしなくはなったかな。それ以上に今回はただ面白いもの、好きなものを作るってことだけだったし。気になる音を見つけたら、それを膨らませて曲を作ってみようって感じだった

——曲を作る際にモチーフとして映像などに触発されることはないんですか?
KEN ISHII:それもあるよ。それこそ普通のテクノトラックを聴いている中で面白い部分を見つけて『俺も負けてられない!』って思うこともある。名前が知らないアーティストでも面白い音処理をしてると気になるんだよね

——気になるのは“音”なんですか? メロディとかではなく?
KEN ISHII:ことテクノに関しては細かい音が気になるかな。正直、今はそんなに新しい音色がないというか……だからみんな往年の名機の音を使ったりしているんだと思うけど、そうなるとある程度好きな音が偏ってきちゃうんだよね。でも、音の処理とかは新しいものは新しいからすごく気になる。僕だけかもしれないけどね(笑)

——それは昔から?
KEN ISHII:そうだね。例えば、RHYTHIM IS RHYTHIM(リズム・イズ・リズム)の“Strings of Life”とか未だに好きだけど、大半の人はあのメロディックでドラマティックな展開が好きだよね。でも、僕は最初に聴いたときにリズムトラックのパターンの豊富さにヤラれてさ。当時10代だったけど、素人ながらあれはシンセサイザーじゃないと思ったし、どうやって作っているのかが気になった。それ以外にもYMOとかKraftwerk(クラフトワーク)が好きで、聴き込んでいくうちにある曲をシーケンスだけ聴いて、それがどう変化していくのかメモしたりしてたね

——となると、ボーカルトラックにはあまり興味はないですか?
KEN ISHII:ないというか……あまりやってないね。そもそも得意じゃないかな

——ISHIIさんにとって、テクノは最適なジャンルですね。
KEN ISHII:僕もそう思うよ。そもそも僕はテクノがなかったら音楽をやろうと思ってないし。この音楽が生まれて、突然僕の目の前に現れて、これだったら僕でもできると思ったのが始まりだね

“世界中のIPAの香りと味わいが詰まっ
た作品なのかも!?”

——ここ数年はビールにドハマりしていると聞いていますが、今回の制作中、ビールは何か影響しましたか?
KEN ISHII:はっきり言って……このアルバムはビールなしで作った曲は1曲もないね(笑)。そういう意味では、世界中のIPA(インディアペールエール)の香りと味わいが詰まった作品なのかも(笑)

——ちなみに、今一番お気に入りのビールは?
KEN ISHII:手前味噌で恐縮だけど、僕がRISE & WIN Brewing Co.とレシピの段階からコラボして作った『KIKK IPA 2019』。12月に世に出るのでヨロシク(笑)

——あとは、ISHIIさんの中で音楽以外にMöbius Strip的なことってありますか?
KEN ISHII:世の中の解明されていない謎や超常現象に対する興味かな……。子供のころから相変わらずだけど。昔からずっと変わらない謎もあれば、時代時代で解釈が変わってきているものもあったり、ツアー中のロングフライトで読んでいる本は大抵このあたりだったりするね

——最後に「Möbius Strip」をリリースして今後、それこそ2020年は日本でも大きなイベントがあります。そんななか、ISHIIさんはどんな一年にしたいと思っていますか?
KEN ISHII:ベーシックな部分では、自分が辿ってきた道を振り返りながら、久しぶりにライヴで各国、各都市を巡りたい。あとは、映像やゲームなどにも多角的に関わっていきたいね

——ゲームというと、パックマン40周年のテーマ曲も手掛けましたよね。
KEN ISHII:あれは面白かったね。当時の音をそのまま、あえて活かす感じで使ったんだけど、それが意外と複雑に作られていて大変だったり。でもやっぱり、世界中の誰もが知っているであろう曲をオフィシャルで触れることが喜びって大きいよね。しかも、来年は生誕40周年ということで、大きな展開があるようだし。僕自身どんなことになるのか楽しみだよ

——この曲はアルバムには収録されていませんよね。
KEN ISHII:でも、限定盤の7インチに収録されるから、ぜひ聴いてみてほしいね
【リリース情報】
アーティスト名:KEN ISHII
作品名:「Möbius Strip」
リリース元:U/M/A/A

1.Bells of New Life
2.Chaos Theory
3.Take No Prisoners (Album Mix) with Jeff Mills
4.Vector 1
5.Green Flash (Album Mix) with DOSEM
6.Silent Disorder with Go Hiyama
7.Prism
8.Vector 2
9.Skew Lines
10.Polygraph
11.Quantum Teleportation with Jeff Mills
12.Vector 3
13.Like A Star At Dawn
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