MOROHA、ホルモン不在の予期せぬワン
マンで問われた真価と交わした約束―
―「また悔しさのある場所で会いまし
ょう」

『「MOROHA IV」 RELEASE TOUR “対”』2019.11.17(SUN)大阪・味園ユニバース
「11月17日(日)味園ユニバースにマキシマム ザ ホルモンは出演しません。我々の単独です。お前らだけなら意味がねぇよ って方は悔しいですが払い戻しの詳細を待っていて下さい。いつか必ず音楽で胸倉を掴みに行くのでそれも待っていて下さい。ただ願わくばそのチャンスを来週、俺達に下さい。心から。」――アフロ(MC)のTwitterより
全国30本に及ぶワンマンツアー『「MOROHA IV」 RELEASE TOUR “単独”』を終え、間髪入れずに始まった対バンツアーのはずだった。11月17日(日)、大阪・味園ユニバース。マキシマムザ亮君(歌と6弦と弟)の体調不良のため、マキシマム ザ ホルモンは年内に予定されていたライブの出演を全てキャンセル。この日は急遽、MOROHAのワンマンライブへと趣を変える。ワンマンライブと言えばむしろ、フォロワーからは望まれるであろうホームな空間だが、あのホルモンとの対峙を一度は期待して集ったオーディエンスを前に、単独でステージに立たなければならないこの日は、言わばアウェイのワンマン。そんなスリリングな空間に、いつも通りと言わんばかりにふらりとステージへと現れた2人。

MOROHA

昭和の情緒漂う元キャバレーという魔窟・味園ユニバース。足元から突き上げる山吹色の照明のみが己を照らす中、UK(Gt)のボディタップが高鳴る鼓動とシンクロしていていく「ストロンガー」から、決死の形相でまくし立てるアフロの気迫に圧倒される。<バカにされるのは 惨めな思いをするのは 俺達が弱いから悪いんだ>。オーディエンスの前に立ち、最初に発した言葉がこれだ。言わば不可抗力の単独公演に、しょっぱなから自ら退路を断つようなリリック。話が違う、開演直前にもらった殴り書きのセットリストは、この曲が最初じゃない。ド頭から筋書きなし、いつも以上に真価が問われるライブでバチバチの一本勝負が始まった。
MOROHA
「MOROHAです、よろしくどうぞ」と言うアフロに応えるような、割れんばかりの大きな拍手。<CD売上枚数より 大事にしたい再生回数 でもそれより大事にしたい 現場でもらった拍手の数>。情熱とユーモアを手にまだ見ぬオーディエンスにライブに来ないかと呼びかける「YouTubeを御覧の皆様へ」で描いた景色が、目の前で実現しているような幸福な循環。叩き上げのミュージシャンの地を這うような日々を綴った「それいけ!フライヤーマン」でも、立ち尽くしステージを凝視する者、遠巻きに見つめる者、その場で肩を揺らす者……一緒に拳を上げることも、一緒に歌うことも、一緒にステップを踏むこともない。誰1人一緒じゃない、様々な人間が今、MOROHAのライブを観ている。
MOROHA
「ホルモン病欠ってことで、ダイスケはん(キャーキャーうるさい方)が謝りに来てくれたんですけど、ちょっと楽屋で本音が言えなかったんで言っていいですか? ライブしねぇならただの中年だよ!もう1つ言っとくぞ。体調管理できないヤツは二流だ!」とのアフロの痛烈なMCには、会場にいる腹ペコ(=ホルモンファン)もろとも大盛り上がり。そして、彼はこうも続ける。
「どこかで会ったら伝えてくれよ。あいつらにあんなこと言われたまんまでいいの? 一流なんじゃないの? それ以上に、帰ってきてほしい人がたくさんいるよって。どれだけ待ってても来やしないから、今日の対戦相手は、あなたや、お前や、君や、1人1人とやり合うことになります。こんなに幸せなことはありません。さぁ味園、そのつもりで勝負しようぜ。俺たちMOROHAと、お前らじゃなくて、お前の、一騎討ちだ。はじめましての皆さん、出会ってしまったね。もう手遅れだ。向き合う以外ないんだよ。本日も言いたいことはただ1つ、「俺のがヤバい」!」。
MOROHA
胸を打ち抜くそんなアフロの言葉に、怒号のような雄叫びで返すオーディエンス。何かに憑りつかれたように一心不乱に連呼される「俺のがヤバい」という言霊が、怖いぐらいの迫力でフロアに降り注ぐ。続く「勝ち負けじゃないと思える所まで俺は勝ちにこだわるよ」といい、ここで何かを説明する必要がないぐらい、そんなことが野暮に感じるぐらい、全ての情念が歌詞に込められている。這いつくばったその景色を見た者だけが、いや、その景色から目を逸らさなかった者だけが歌える歌。
MOROHA
UKがギター1本でドラマを描いていく「tomorrow」を喰らうと、MOROHAのライブの持つ独得の空気の理由が分かる。歌詞を追うと、それ以外のことができない。動かないじゃなくて、動けない。ライブで1つになれるのは、どれだけ共有できるかじゃない。どれだけ同じものに心を奪われるかだってことだ。
「拝啓、MCアフロ様」でも、アフロの極めて個人的な物語だと分かっているのに、ライブを観ている自分はミュージシャンでも何でもないのに、楽曲の根底に流れる人としての優しさや儚さ、通じる愛にこんなにも胸を揺さぶられる。「GOLD」では、歌詞の一文に<あたし 恋のメガラバ 好きなんだ>とホルモンの楽曲をさらりと混ぜ込む粋な計らいを見せつつ、1つ1つ言葉を重ねていく。なぜ、MOROHAはアフロとUKと2人なのか。なぜ、歌とギターなのか。なぜ、ライブにサポートメンバーを入れないのか。なぜ……そんな疑問の数々も、ライブを観れば全てに納得する。これ以上でも、以下でもない。これしかない。
MOROHA
「少し喋るので、この時間は身体を楽にしてください。我々のライブはみんな仁王立ちで聴くんで、逆に血流が悪くなってどんどん倒れていくんで。そして、ずっと沈黙を守ってきた我らの王が喋るんで、心して聞くように!」と、MCのコーナーではUKも交え、先ほどまでのヒリヒリしたムードが嘘のように抜群のトークスキルを発揮し始める2人。ここでは、「ダイスケはんと一緒にスタッフの方が来て、神妙に「今回は本当にすいませんでした……」と謝ってくれたんだけど、靴がもう「お祭りだー!」みたいな色のポンプフューリーでめちゃくちゃ派手なの」というMCには、会場から笑いが巻き起こるひと幕も。さらには、「ここで報告があるんだけど、昨日彼女が出てった。さっき(「GOLD」で)「大丈夫 大丈夫 きっと大丈夫」って歌ったけど、響くな~」とアフロが衝撃の告白。「仲直りしなよ、どっちでもいいけど」とつれないUKにも、「お前がどっちでもいいと思ってると、お客さんなんてもっとどっちでもいいと思ってるよ。明るい話をしよう。何そのUKのズボン、いいね。いっぱい輪ゴムがついてるみたいで。そこに鍵とか引っかけられるね。……鍵、置いていったんだよな彼女」と返すアフロが、またもとことん場を沸かせる。
MOROHA
そして後半戦は、UKのイントロのフレーズでざわめき、乾杯のコールで叫び、長いプロローグから怒涛の「革命」へ。ここまでのライブですでにばっくり開いたオーディエンスの胸倉にねじこむ、傷のなめ合いから脱して本気で生きろと自分に突き付けるメッセージ。「お前がやるって決めたんだろ、お前が始めたんだろ、やるからには時代をぶち抜けよ!」と夢を焚きつける「上京タワー」とたたみかけ、感動的なまでに美しくメロウなギターからの「四文銭」が泣ける……。1回きりの人生で、命を燃やし尽くすように何度でも、何度でも届けられる、この言葉の凄み。この音楽を前に、自分はどう生きるのか。確かにアフロの言う通りだった。もう前の自分には戻れない、MOROHAに出会ってしまったという感覚。
<音楽より大切な人 音楽で大切にしたい>と歌う「恩学」の最中に、先ほどのMCを受け「沁みるぜ~!」と絶唱するアフロに、ドッと沸く会場(笑)。「エリザベス」といい私小説のように人間模様を描いた1曲1曲が、言葉とギターが、聴く者の胸に沁み込んでいく。〈バカにされても見下されても お前は手を抜かなかったじゃないか〉、この言葉が刺さる自分でいられるか。「夜に数えて」の己に厳しく、気持ちをすくい上げるリリックに助けられ、そして試される。
MOROHA
「払い戻しがもちろん何件かあって、非常に悔しく思いました。それよりも、もったいないという気持ちが強く出てきました。それは、俺らが観てもらうチャンスをなくして悔しいじゃなくて、キャンセルした人たちがMOROHAを聴く機会を失ってもったいないなって。愛されるに値する音楽だと思う。そして、嫌われるに値する音楽だと思う。感情の振れるところ以外、正直、意味がないと思ってる。夏フェスとかを見てると、友達ができて最高とか、仲間ができてよかったとか、そういうことばかり耳に入ってくるんだけど、俺はライブハウスに来て、別に友達なんていらねーな、1人で生きていけるなって、そう思うタイプの人間でした。1人の強さを感じるのか、人の温かみを感じるのか。ただ、そういう場所を行き来してると、結構しんどいこともあって。ミュージシャンというのは割と体調とか精神を崩したりするヤツが多いんだけど、例に漏れず、ホルモンもそんな形でキャンセルになったわけです。でも、大丈夫でしょ。だって自分で言ってるからね、何度だって「ぶっ生き返す」って。悪いけど今日は不戦勝だからな。お前らが次は挑戦者だ、忘れんじゃねーぞ。そのときはどうかまた、ライブハウスに来てやってください。今日しかない俺たちに、今日出会ってくれて、ありがとうございました!」
MOROHA
<悔しさそれだけが芸の肥やしだ>と言い切る最後の「五文銭」で、己に問い続ける、求め続ける答え。虹色の照明に打たれた2人が、全身全霊で想いをぶちまけていく!
「2019年、紅白歌合戦に俺たちの名前はありませんでした。今年もダメだった。またダメだった。これだけ負け続けてると悔しいとすら言えなくなってしまう。それが一番悔しい。だからと言って、負けたことを茶化してヘラヘラしてると、それに慣れてしまって、悔しさを忘れてしまう。だから恥を忍んで、「俺、悔しいんすよ」って言い続ける。俺たちはたくさん裏切ってきたけど、いつでも俺たちのことを幸せにしてやりたいよな、笑って抱きしめてやりたいよな。たった1回きりの人生、また感情のある場所で会いましょう、また悔しさのある場所で会いましょう。どうかその日まで、どうか元気で。決して負けないで」
MOROHA
壮絶なアウトロ。予定調和のアンコールもなし。そりゃそうだ。これを観た後にアンコールなんて言えるわけがない。通常ならツアーも始まったばかりのライブレポートとなると、ネタバレになるようなセットリストや内容は出せなかったりするものだが、MOROHAのライブにネタバレという概念は存在しない。なぜなら1本1本がまるで別モノになるからだ。
「俺達は「同じジャンル」と言える相手がいない。だからこそ全方位に挑まなきゃならない。全部に悔しさを感じてた。それは凄く幸せな事だと思う。ポップス、パンク、ヒップホップ、落語。全部、魂の名前だ。俺の魂の名前はMOROHAだ。」――アフロのTwitterより
『「MOROHA IV」 RELEASE TOUR “対”』、旅はまだ続いていく。
取材・文=奥“ボウイ”昌史 撮影=ハヤシマコ

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