MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』
第十八回目のゲストは岡崎体育 商業
音楽に誇りを持っているんです

MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』、第十八回目のゲストは岡崎体育。ライブハウスから大きな舞台へのし上がっていこうとするMOROHA、かたや自らを「商業音楽家」と自負して「いかにメジャーの世界で売れていくか」を意識しながら戦ってきた岡崎体育。スタンスもアプローチも異なる両者であるが、妙に話が合う(そんな気がした)。今回の対談は、世間の人が抱く「岡崎体育=明るく面白い人」ではなく、そのファスナーの向こう側に隠された男の熱血さを垣間見た。
●「みんな似たようなことをしやがって、クソだせえ」って、俺が打ち上げで言ってるのと一緒だと思った●
アフロ:今日は忙しい中、ありがとう。そして11月22日の対バンツアーも受けてくれて!……しかし、どうして受けてくれたのよ? 今日の対談も断られるかもなーと思ってオファーしたんだよ。
岡崎:いやいや、そんな! スケジュールさえ合えば、基本的に来たお話は受けたいと思っているんですよ。
アフロ:岡崎くんってさ「喋るのが苦手だ」という打ち出し方をしてない?
岡崎:いや、本当にそうなんですよ。キャラクターとか楽曲的に「元気な奴や」というイメージを持たれがちなんですけど、実際はそんなことなくて。家でオンラインゲームばっかりしてます。
アフロ:俺が思う印象を話しても良い? 最初に観たMVが「MUSIC VIDEO」で、やっぱり反射的に腹が立ったわけなんだよね。そういうこと言われるでしょ?
岡崎:ハハハ、めっちゃ言われました。面と向かってはなかったですけど「あの界隈のあの人が悪口を言ってたよ」みたいなことを人づてに聞いたり。
アフロ:それって結構食らわない?
岡崎:ショックはショックでしたねぇ。
アフロ:それをはね退けるメンタルはあったの?
岡崎:いやいや、はね退けてないです。もう露骨に落ち込んで「単純に面白いと思ってやったのに、嫌がる人が出てくるんだな」と思って。
アフロ:でもさ、何が俺は反射的に腹が立ったんだろうと考えたら「結局、お前らなんか平凡だ」というメッセージに感じられたことなんだよ。実際にそういう思いはあったの?
岡崎:デビューするに当たって奇抜な出方をしないと埋もれるだろうと思って。とりあえず色んな人のMVを参考に使える技術はないかなと観ていたら「アレ? みんな似通っているな」と気づいて。
アフロ:そういうことだよね。そこに皮肉はあったわけでしょ?
岡崎:そうですね。結局みんな似ているなと思って。
アフロ:MVを観たときに「みんな似たようなことをしやがって、クソだせえ」って、俺が打ち上げで言ってるのと一緒だと思ったの。俺が隠れたところで言っていることを作品で伝えた岡崎くんは、ものすごく勇敢だった。それをSNSで言う人は今の時代はいっぱいいるけど、自ら矢面に立って「これが表現です」というのは見事だった。で、完全に腹が立った気持ちがとけたのは、「FRIENDS」でギャラの配分について<バンドざまぁみろ>と歌ってるじゃん。あれも打ち上げで俺が口癖のように言ってることだった。
岡崎:ハハハ、そうなんですね。
アフロ:裏で言ってることを表に引っ張り出してきて、真っ向から突きつけるというのは、自分と近い部分があったからこそ反射的に反応した気がして。そこから気になってMVを出すたびにちゃんとチェックするようになって。結果、俺は岡崎体育のめちゃくちゃ良いお客さんになってた。「式」とかすげえ良い曲だし。そういう人はたくさんいると思う。
岡崎:そうですね。最初は「なんやねん、コイツ」と思っていたのが聴いているうちに好きになった、という人は結構いました。
●「あれ? これってイジメられてるのかな」って。そこら辺から自分のパーソナリティが歪み始めた●
アフロ:実は「MUSIC VIDEO」を観てチキショーと思っている時に一度会っているんだよ。
岡崎:え、どちらでお会いしましたっけ?
アフロ『RISING SUN ROCK FESTIVAL』の帰りの空港で、遠くから岡崎くんが歩いているのを見て「あ、岡崎体育が歩いてる」と思って。
岡崎:ご挨拶してないですよね?
アフロ:してない。でさ、じっと眺めていたら「あ、岡崎体育が座った」と思って。
岡崎:ハハハ。座るでしょ、そりゃ。確かに自分から声をかけるのが得意じゃなくて。どこの会場へ行っても孤立していることが多いんですよ。
アフロ:そうなの? 友達が多い印象あるよ。
岡崎:実際に飲みに行ったりする友達はほぼいないですね。ゲームが趣味のミュージシャン仲間とネットの中だけで喋ってるくらいです。
アフロ:そこで魂の会話が出来てるわけでしょ?
岡崎:そうですね。面と向かってなくても、話したいことはオンライン上で喋れてる感じですね。
アフロ:俺はマジで友達がいないんだけど、最近は「友達いない詐欺」をやってる奴が多いなと思って。「いない」と言うことによって「こんなふうに喋れるのはお前だけだよ」と心の隙を見せてたぶらかす奴がミュージシャンで多い気がするのよ。
岡崎:ああ、確かに。「友達がいない」と言ってる奴を見ると、それは違うだろと思うんですけど、僕も友達が少ないのは少ないですね。心を開くまでに時間がかかるので。
アフロ:どうしたら開くの?
岡崎:グイグイ来てもらった方が良いですね。テキトーにボケたり、僕のことをイジってくれる方がツッコミやすいので。お互いによそよそしいと仲良くなりにくいですね。
アフロ:心を開いたら、どんな岡崎体育が出てくるの?
岡崎:むしろ岡崎体育を出さなくなるというか、音楽を始める前の本来の自分が出てくる。だから変に気取るとか、岡崎体育を演じなくて良いようになります。
アフロ:「鴨川等間隔」を聴いてると、明らかにイケてなかったわけじゃない。それは幼少期から?
岡崎:どうなんですかね。でも、小学生の頃は狂ったようにモテてたんですよ。体型も今よりガリガリで細かったですから。中学くらいからちょっとずつ根暗なところや偏屈なところが出てきましたね。
アフロ:中学かぁ……。何かきっかけがあったんでしょ?
岡崎:成長ホルモンがバーッと出て、髪の毛がくりくりんの天パになったんです。小学生の頃はさらさらで爽やかな感じやったんですけど、急にくりんくりんやから自分でも処理できなかったし、周りの人も「どうしたの?」って。それまでイジる側やったんですけど、急にイジられる側になって自分の立ち位置が変わったというか……そこからですね。
アフロ:中学生で上手くイジられるのって難しいもんね。
岡崎:そうっすね。「イジめ」と「イジられ」の差が曖昧なので、「あれ? これってイジメられてるのかな」って。そこら辺から自分のパーソナリティが歪み始めたというか。
アフロ:そこで岡崎少年がすがりついたのが音楽だったの?
岡崎:音楽を聴いてましたね。とはいえ全く友達がいなかったわけじゃないので遊んだりはしてましたけど、クラスの立ち位置は中学から変わりました。
アフロ:その辺から世の中を俯瞰して見始めるようになったんだろうね。
岡崎:そうです。どうしたらヤンキーからイジメられへんか考えるようになって「乗ってるバイクを褒めといたら大丈夫かな?」とか。
アフロ:ハハハ。「褒めといたら」って言葉にも底意地の悪さが出てるもんね。
岡崎:そうやって懐に入り込むようにしていたので、割とヤンキーからも好かれてましたね。その頃から両極で考えるようになったんですよね。「ウエイウエイしてる奴が楽しめる文化は何か?」「暗い奴が楽しめる文化は何か?」その両方を行き来していたので、それが今、僕のやっている大衆性みたいなものに繋がっているのかもしれないです。
アフロ:両方に馴染んで見せてるけど、実はどっちにも馴染んでいないわけじゃん。
岡崎:そうですね。
アフロ:「本当の自分はどこにいるんだろう?」と思ったりした?
岡崎:当時は明確に感じてなかったですけど、今思い返すとヤンキーの前では猫を被っていたし、根暗な友達の前では強く見られたいのもあって。結局なんやかんや何かを演じていたのはありましたね。本音で勝負できてなかったと思います。
アフロ:うんうん、本音か。
岡崎:アフロさんはどんな幼少期やったんですか。
アフロ:俺は小学4年生で転校したんだけど。そこから学校に馴染めなくて、家族もゴタゴタしてて、そこで俺は一捻りしたかな。
岡崎:友達は?
アフロ:別に1人で良いと思ってた。そういう時期ってあるじゃん? あれが小4の時に一回来て。それまではひょうきんな奴で通っていたんだけど、ある日、転校先で友達と喧嘩した後に「だからお前はみんなから嫌われてんだよ」と言われて「え! みんなから嫌われてるの?」って。まあ思い返せば、何もないくせに俺はお前らとは違うんだって態度をとってたし嫌われる要素はたくさんあるよなと思ったな。そのまま学生時代にモテ期は一回もなかったね。
岡崎:モテ期かぁ。
アフロ:岡崎くんは小学生でモテ期が来て、そのあとはなかったの?
岡崎:そのあと明確にモテているのは今ぐらいですかね。恋愛でどうのこうのというよりも、単純に1つのシンボルとしてモテてる気がします。女の子からキャーキャーよりも、人からチヤホヤされている感じ。
アフロ:でも女の子からキャーキャー言われたいわけじゃん。
岡崎:僕、あんまりそれはなくて。
アフロ:ないの!? だけど「鴨川等間隔」では、カップルを後ろから蹴り飛ばしたいと思っていたわけでしょ? それはまさにそれじゃん。
岡崎:確かに公衆の面前でイチャイチャしてる奴らは嫌いなんですけど。だからといって「俺もモテたいのに」という感情に繋がらなくて、単純にイライラするだけで終わってました。
アフロ:その感覚で「鴨川等間隔」を作れるのはすごいね。なんか底に愛憎がある気がしたんだよね。自分もそうなりたいけど、なれない愛憎が。
岡崎:憎だけですね、憎しみだけでした。
アフロ:「そういう人たちに憧れているんだろうな」と思ったけど、そんなことなかったんだね。
岡崎:憧れかぁ……。実際に自分が恋人と鴨川のベンチに座ってお喋りしたいかと考えたらそうじゃないんで。恋人がいたとしても家でDVDを観ているだけで良いんですよ。あんまり普遍的なカップルのやっていることをなぞって、自分も何かやりたいのはないですね。
●商業音楽の方が向いていると思うし、そこに骨を埋めるつもりで音楽を始めました●
アフロ:ちなみに岡崎体育はツッコミの音楽だと思っているんだけど、それは言われない?
岡崎:ああ、言われますね。
アフロ:周りにツッコミを入れて、自分にもツッコミを入れると何も出来なくなったりしない?
岡崎:まさにそうですね。「MUSIC VIDEO」のMVを作ってから3年が経って、その間に色々とMVを出してきたんですけど。段々アイデアがなくなってきて、MVあるあるで使ったネタを今になって俺がやりつつある。音楽的な意味でもそうですし、技法的な意味でもちょっとずつ手詰まりにはなってきてますね。
アフロ:生き方的に手詰まりは感じない?
岡崎:生き方かぁ……。
アフロ:俺はなっちゃっているところがあってさ、例えばハロウィンとか反射的に「はぁ?」って思うの。だけど、それによってどんどん自分の中で可能性を奪っている気がする。楽しんでいる人に対して「そういう奴いるよね」とツッコミを入れた時に自分がそういう奴になりたくないという意味も含んでしまうじゃない? そこで1つ、のめり込むチャンスを逃しちゃう。
岡崎:言ってることは分かります。だけど、それが生き方での手詰まりに感じなかったですね。他人がやっていることを否定して、居酒屋で友達と悪口を言ってる人生もアリだと思う。この前、意を決して男友達4人で生まれて初めての東京ディズニーシーへ行ってきたんですよ。めっちゃカラフルな飲み物を持って写真撮るのとか嫌やったんですけど、実際にやってみたら楽しかったんですよね。
アフロ:それを他人から、曲のネタにされたら楽しめないわけじゃない? ……でも、ネタにされて良いのか。そうやって笑われる勇気を持って、自分の根源的なものを取り戻すというか。
岡崎:そもそも岡崎体育は自分がピエロになって、みんなが岡崎体育のやっていることで笑ってもらえたらと思って始めたんです。本当は普通にちゃんとしたロックバンドをやりたかったんですけど、自分が音楽で名を上げるにはコミックソングから入って、最終的には先ほど仰っていただいたような「式」とか「鴨川等間隔」とかまで行き着いてくれる人がいたら良いなと思ってやったんで。
アフロ:俺が「式」にたどり着いた時、岡崎体育に対して抜くはずだった刀の刃がなかった感じがして。「そっちにあったんかい」っていうね。正統派の実力野郎じゃねぇかって。いきなり「式」のような曲で1手目を打つのは考えなかったんだ。
岡崎:そうですね。メジャーのレコード会社からお話をいただいた時、「3年後にはさいたまスーパーアリーナでライブをする」と言ってたので、その3年の中で自分なりにスケジューリングをして、いつまでにこういう曲を出して、ここでバチッとバラード曲を出してという感じで考えてました。
アフロ:実業家だね。
岡崎:商業音楽に誇りを持って音楽やっているんです。色んな音楽の楽しみ方がある上で、自分の脳みそ的には商業音楽の方が向いていると思うし、そこに骨を埋めるつもりで音楽を始めました。
アフロ:そもそも商業音楽って何?
岡崎:売れる音楽であり、大衆が聴いている音楽だと思ってます。その逆は、ライブハウスでめちゃくちゃカッコイイ音楽をやっている人たち。
アフロ:ライブハウスでめちゃくちゃカッコイイ音楽をやっているアーティストは大衆音楽にならない?
岡崎:なる可能性は低いと思います。
アフロ:俺はそれを大衆音楽にしたい。スタンスを崩さずに大衆音楽になる気概でやっているんだけど、今のところなってる人はほぼいないよね。その理由は何でだと思う?
岡崎:国民性で判断するのはアレですけど、日本人の音楽の聴き方がそこまでストイックじゃないので。そういう音楽に対して、のめり込む力が他の国に比べて弱いのかなと思いますね。
アフロ:そういう土俵があったら、自分の音楽も変わってた?
岡崎:んー、そうですね。ライブハウスに若者がパンパンになる時代であれば、もしかしたら僕が今やっている奇をてらうようなことをせずに、メジャーの場まで来ていた可能性はあるかもしれないですけど。結構、分析とか考察をしちゃうんですよね。「こういう時代だからこれをやった方が良いんじゃないか」と色々勘ぐって音楽をやっちゃうので、岡崎体育の音楽のあり方に葛藤していた時期もあって。めちゃくちゃダサいことをやってんな、と思った時もありました。でも、それは一過性のもので、長く続けていくうちに自分の音楽に誇りを持つようになりましたね。
アフロ:面白いなぁ。自分の中でこういうことは歌にしたくない、とか線引きはあるの?
岡崎:基本的に他人から言われたことはやりたくないです。もしも誰かの意見を採用して「これは俺が考えたアイデアやねん」と言われるのが嫌なので、前から思いついていたアイデアでも他人から言われたらボツにします。
アフロ:そのプライドはどこで培ったの?
岡崎:元々の性格が頑固なんだと思います。どこかのタイアップでクライアントとか広告代理店からアイデアを出されても、それをはね退けて自分で歌詞を書き直してきたので。
アフロ:そっかぁ。
岡崎:悔しいんでしょうね。「岡崎体育やからあるあるソングで」みたいになっても、そういうのじゃないねんなと思って。そう見られていることも悔しいし提案された歌詞も俺が思っているよりもサブかったりして、それが嫌で書き直しましたね。
アフロ:サブいっていうのは?
岡崎:1年前に俺がやっていたのと全く同じような内容とか。そういうのはあかんやろと思ったりして。
●実家をリフォームするのと自分も大きな家に住むのが夢なんですよ●
アフロ:岡崎くんはお金を稼いでどうするの? 贅沢はしてる?
岡崎:全然してないですね。食費も先月は2万5千円なので。
アフロ:マジで!?
岡崎:ひたすら金を貯めて、実家をリフォームするのと自分も大きな家に住むのが夢なんですよ。実家が築60年くらいで、自分の部屋もちゃんとないような状態だったから、家とか部屋に関してはすごいコンプレックスがあったんですよね。それを解消するために「音楽で金を稼いで、デカイ家に住むぞ」というドリームを追っかけてます。アフロさんはご自分の金銭感覚をどう思われてます?
アフロ:お金を稼げるようになったから、前よりは欲しいものを買えるけど。根っこにしがみついている貧乏くささは抜けないよね。
岡崎:周りでめっちゃ金遣い荒い奴いますけど、ちょっと憧れるんですよね。「今を生きてるし、そっちの方が正しいかな」と思っちゃいます。
アフロ:逆にコスパ悪いなと思わない? 深夜のスーパーで半額シールを貼られた食品を買うと「この世で賢いのは俺さ」って気分になる。金遣いの荒い奴を見ると純粋に燃費が悪いよなって。でも、一度味わったら戻れなくなるのかな?
岡崎:節約をしている中で喜びを感じるようになってますけどね。近くのスーパーでペットボトルを買うより、実はあっちの薬局の方が安いと知ったら「よっしゃー」と思うので。
アフロ:自分の中の贅沢って何?
岡崎:思いたったらお金を使うこと。今までは携帯を変えようと思ってもお金がないから我慢していたんですけど。今はその辺の家電量販店に行って、すぐ買えるようになりました。
アフロ:じゃあ必要な物に対してはお金を使うんだ。
岡崎:そうですね。必要な物に躊躇しなくなったのは大きいですね。あとはディズニーランドもそうですし、ふらっとお金のかかる場所にも行くようになりました。音楽でお金をもらえるようになっても、変わらずのポテンシャルで曲を作れるので、僕の場合はそこじゃなかったんやなと気づいて。
アフロ:実は、そこそこに満たされた状態でも貧しさを見つけるのって、感性でどうとでも養えたりする。「幸せになりたい」と歌うのは、まだ幸せじゃない奴が歌う前提があるけど、幸せになった瞬間に歌えなくなるのかと言ったらそうじゃない。
●オーディンエンスに対してめちゃくちゃ落胆して「そういう気持ちで聴いてたんか」と●
アフロ:結婚願望はある?
岡崎:人並みにはありますね。
アフロ:結婚をしたら発表はする?
岡崎:そうですね。もう30歳ですし、俺はアイドルでも何でもないんで。結婚してもしてなくても仕事に関係ないと思うようになりましたね。
アフロ:人によっては難しかったりするかもね。
岡崎:そういえば、あるミュージシャンが結婚発表をしたらファンクラブの会員が7割減ったらしいんですよ。それを聞いた時、オーディンエンスに対してめちゃくちゃ落胆して「そういう気持ちで聴いてたんか」と。それで憤りを感じたんですよね。
アフロ:そうやって憤りを感じた時にさ、商業音楽家としての軸がブレたりしない?
岡崎:めちゃくちゃブレますし、すごく葛藤しました。自分に恋人がいようが、奥さんがいようが気にしてほしくない。単純に岡崎体育のコミックソングとして聴いてほしいのに、相手がいることでファンが離れる恐怖を感じてしまってます。
アフロ:オーディエンスに対して信用ならないと思ってしまった時の辛さったらないよね。
岡崎:そのアーティストさんの話を聞いた時は辛かったですね。
アフロ:「結婚して離れるようなことがあれば、それだけ軟弱な愛され方だったんだ」という人もいるだろうけど、それはまた違うような気もして。好きゆえに決別しなきゃ、というのがあるかもしれない。「結婚したなら私も行かなくちゃ」みたいな。
岡崎:ファンクラブを離れるのは分かるんですけど、曲そのものを聴かなくなるとしたら「そういう音楽の聴き方をしていたんやな」と思っちゃいますね。
●熱血かどうかなんだよ●
アフロ:全然話変わるけど、今日はまだ聞きたいことがあって。言葉(歌詞)をすごい大事にしていると思うんだけど、ライブって環境的に歌詞が聴き取りにくいじゃん。それってどう解決してるの?
岡崎:聴き取ってもらってナンボやと思っていたので、爆音の中でも聴き取れるように音をいじって、それを外にいるスタッフにも聴いてもらって毎回確認します。曲中のネタ部分でもお客さんが笑っていると「ああ、聴こえているんだな」って。その辺の努力はしているつもりです。
アフロ:ラップで難解な言葉を使ったり、歌い方でグルーヴを作ろうとしたら、どうしても言葉を潰しちゃうじゃない? すべてのラッパーに言えると思うんだけど、歌詞カードを見ないと分からない言葉はたくさんある。それはそれとして良しとしてる?
岡崎:僕は良しとしてないです。なのでネタ曲もそうだし、ラップ調の曲も自分のワンマンではモニターを設置して歌詞を全部出してます。
アフロ:なるほど。行き着くところはそうなってくるよね。大衆に音楽を届けるプライドがあれば、それが出来るのよ。結局、ライブハウス、現場、音楽だけで、ってプライドがあると中々そこへ飛び込めない。歌詞を聞き取らせる為に躊躇なくモニターを出せるのは商業音楽に誇りを持っている姿勢の表れだよね。
岡崎:そこをやらなかったら設備投資のお金もかからないし、ぶっちゃけ黒字になりやすいんです。だけどお客さんへの配慮として、歌詞が聴き取れへんのやったら見えていた方が良いと思うのでモニターを用意して。CDを聴き込んでくれている人やったら、歌詞が聴き取れなくても自分の脳内で補完すると思うんですよ。だけどフェスで初めて観たお客さんだったり、友達に連れてこられたお客さんだったりには、ライブ中に何を言ってるか聴き取らせるのは至難の技だと思います。MOROHAはライブのスタイルを変えないですか。
アフロ:そうだね。だけど変えた方がカッコよくなるなら変える。今は音的な部分も含め、言葉とギターだけという逃げ場のない雰囲気を自分たちは気に入ってるから、今はコレで行こうと思ってるけどね。
岡崎:僕も今までは自分の身ひとつでステージに立つことにプライドを持ってて。さいたまスーパーアリーナまでは、MacBook1台と自分の身体だけでバックバンドもバックダンサーもつけずにライブをしようと。実際、さいたまスーパーアリーナのステージに立ったら、すごい満足感があったんです。だからこそ今後のやり方としては、バックバンドもバックダンサーもつけて自分の音楽に付加価値をつけてどこまで広がれるのか実験的にやってみたいと思っているんです。
アフロ:逆に今まで1人でやってきたことがすごいよね。
岡崎:僕に出来てバンドに出来ないことは、1人でステージに立つことやと思っていたんです。ある意味、反骨精神みたいなものがあったんでしょうね。
アフロ:自分のことを熱血だと思わない? 今日はそれを言おうと思ってたんだよ。
岡崎:すべてに対して炎を燃やすことはないんですけど、ここだけは譲りたくない部分があるので。要所要所では熱血だと思います。
アフロ:熱血って良いことだと思うの。今までも自分自身は熱血だと思っていたけど、これからは声を大にして「熱血だ」と言いたいなと思って。岡崎体育の「MUSIC VIDEO」のMVを観て楽しむのは良いんだけど、それを第三者が自らの刀のように振りかざして誰かが作ったMVを「MUSIC VIDEOでいじられたアレの事だ」と見下す事は一番カッコ良くないと思う。それは岡崎体育が矢面に立って、自分のエキスを出したMVだから良いのであって。第三者がそれで戦おうとするのはカッコイイと思わない。じゃあ、それを一言で言い表すのは何かと言ったら、熱血かどうかなんだよ。熱血であることに対して、自分自身が引き受け入れられているか。人に指をさした時、残りの指は自分をさしているというじゃない。それがちゃんと出来ているかだと思うんだよね。今日はそこを感じたので、より好きになった。
岡崎:深かれ浅かれ作品を残しているので、それが後世に残って「昔、岡崎体育という奴がいたな」となった時にダサく思われなくない。ビジュアル面じゃないところで僕は究極のナルシストなんですよ。
アフロ:そっかぁ。(机の料理を見て)あんまりごはん食べてないけど大丈夫?
岡崎:すいません、さっき食べてきちゃったんですよ。
アフロ:そっかそっか。ちなみに好きな食べ物は何?
岡崎:ペペロンチーノが好きで。
アフロ:この近所にある、●●っていうスパゲッティのお店知ってる?
岡崎:あ……僕、自分が作るペペロンチーノが好きなんですよ。
アフロ:いや、ナルシズムが強いな!
アフロ・岡崎:ハハハ!
取材撮影協力=炭火焼 尋 (東京都目黒区上目黒3-14-5 ティグリス中目黒II 3F)
文=真貝聡 撮影=高田梓

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