市村正親、久野綾希子『キャッツ』を
語る(番外編)

作曲家アンドリュー・ロイド・ウェバーの代表作のひとつであるミュージカル『キャッツ』。このほど映画化され、2020年1月には日本でも公開される。これに先立ち、2019年12月11日に、ミュージカル舞台のオリジナル・ロンドン・キャスト盤の再発売も決まった。これを記念して、ミュージカルを中心に日本の芸術/エンターテインメントをリードしてきたトップスター、市村正親と久野綾希子が『キャッツ』の思い出を語りあった。
『キャッツ』は1981年のロンドン初演を受けて、1983年に劇団四季により日本初演された、現在までロングラン体制を続けている不朽の名作。劇団四季在団中に『キャッツ』に出演した市村・久野の二人は、苦労話を含むエピソードや作品の深層など密度の濃いお話を語ってくれた。
その本編はCD同梱のブックレットに掲載されているが、文字数の制限もあり、割愛を余儀なくされた貴重な発言もあった。数多くの名作に出演されてきた二人だけに、興味深い経験談ばかり。そこで、ここでは番外編として、本編に収録出来なかった貴重な話が特別に掲載できることとなった。
久野は劇団四季版『キャッツ』の初演でヒロインのグリザベラに抜擢され、3年に渡り計850回同役を演じた。持ち歌である有名な名曲「メモリー」は、彼女のシグネチャー・ソングになったが、この曲を納得出来るまで歌いこなすには様々な葛藤があった。劇団四季の座内のオーディションは1983年に2回実施されたそうだ。
■『キャッツ』の座内オーディションについて
久野綾希子:ちょうど、「メモリー」の ♪ タッチ・ミー(お願い、私にさわって~)のチェンジした後の高い声のパート、Cプラスの少し高いパートを生声で出したくて、最初のオーディションの時はまだ挑戦の段階で、かろうじて受かったのですが、一か月後の二次テストの前に、軽井沢の知人の別荘を紹介して頂いて、誰もいない時に裸足で外に出て、こんもりした山に向かって、何度も「ギャー」と歌い込みました。それこそ寒稽古みたいでした。それで何とか、自分で納得出来る声が出せるようになったのです。
グリザベラを一貫して演じた久野に対して、市村は異なる時期に異なる3つの役を演じた。様々な名作で様々な役に独自の生命を注ぎ込む彼らしいチャレンジのお話からリンクして、やはりロイド・ウェバーの代表作として名高い『オペラ座の怪人』の怪人役についても語ってくれた。
■『オペラ座の怪人』のオーディションついて
市村正親:僕が怪人(『オペラ座の怪人』)の役に決まった時、浅利慶太(演出家・劇団四季の創設者の一人)さんが、ハロルド・プリンス(『オペラ座の怪人』の演出家)に「市村はあそこまでの声は出ないから」と言ったら、プリンスが「大丈夫、稽古で出させるから」と言ったそうです。
当初浅利さんから「ラウルをやってくれ」と打診されて、彼の中には僕の中にラウルのような永遠の青年のイメージがあったようですね。他の候補の人たちは歌が上手なんですが、プリンスが「うーん、違うな」となる。そこで先ほどラウルでオーディションを受けた市村に歌わせてみて、となった。プロフィールに『エクウス』や『エレファント・マン』でフリークスを多く演じていたこともあって、僕の歌を聴いてみたいと思ったそうです。それで僕なりのターゲットを持って怪人として歌ってみました。衣装さんの部屋に怪人の素顔の写真があって、「こんな風貌であんなにきれいに歌うんだ」とびっくりしたのですが、これは猿之助の黒塚だなと気が付きました。鬼婆が本性を出す前に月影で踊っている時の気持ちで、クリスティーヌに対して歌えばいいのだなと思って臨んだのですね。
日本のミュージカルに欠かせない二人の興味深い話の数々。ぜひ、CDのブックレットの本編も読んで頂きたい。
(構成・文:村岡裕司 ※文中敬省略)

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