【ユアネス インタビュー】
死生観をテーマにした
連作から聴こえる充実
良いメロディーとしなやかなバンドアンサンブルで特定のジャンルに括れない体感を生み出すバンド、ユアネス。ミニアルバム『Ctrl+Z』、EP『Shift』という連作を経て、新たなテーマとアプローチを持ったEP『ES』をリリースする。特に今回はエレクトロニックなサウンドやピアノを大胆に導入、消化した楽曲もあり、何よりCDの1曲目からラストまでを曲順通りに聴くことで伏線がつながるコンセプチュアルな内容であることも醍醐味のひとつ。物語や映像をリスナー各々の心に投影する作品集と言える。
作品全体のアイデア自体と各々の曲、どちらが先でしたか?
古閑
作品としてのアイデアのほうが早いですね。今回はこういう死生観のある作品を作りたいというのと、連作でどういう表情を見せようかっていうことで、まずタイトルを考えたので。
そのためのデモはどれぐらい作ったんですか?
つまり、古閑さんの中でどういう要素の曲が必要か見えてたってことですね。
古閑
そうですね。作っていく段階でだんだん自分の中でも明確になっていきましたけど。最初は作品の中での抽象的な部分さえとらえておけば自分の中ではいいけど、だんだん組み立てていくうちにはまらなきゃいけないポジションが出てくるんで、そこは結構、試行錯誤しました。
今回気付いたのが、古閑さんのメロディーがいいとか黒川さんの歌がいいとか、もう当たり前のように聴いてたんですよ。
どんどん歌える表現の幅が広がってる実感はありますか?
黒川
実感はあります。前作はメロディアスなフレーズが多かったんですけど、それこそ今回はロングトーンや語りがあるし、今まで以上に熱を込めないメロディーや表現もあったので、ちょっと熱い声色で感情を出せるかとか思ってすごく試行錯誤をしましたね。僕があんまし通ってこなかったような表現方法だったから、その面に関しては幅は広がったんじゃないかなと思います。
古閑さんのデモをアレンジしていく時、どういうふうに楽しんで作っていきましたか?
田中
例えばリード曲の「紫苑」は曲自体がプリプロの直前にパッとできて。もうひとつリード曲で悩んでいたものがあったんですけど、「紫苑」がいきなり出てきた時に“こっちで良くない?”みたいな感じになって(笑)。いきなりできた分、そこから完成に向かうまでのみんなの推進力というか、“こうしよう”“ああしよう”って送る速さが新鮮なまま曲になった気がするんで、アレンジをどうするかっていうより、ただ単純にデモを聴いた時の感動のままレコーディングまでいけた感じはします。
透徹した音像ですよね。メロディーと歌がいいことに加えてサウンドも定着したんじゃないかなと。
古閑
うん。死生観がテーマとしてあったのでヒリヒリした感じというか、ギリギリ白い吐息が出そうで出ないぐらいの音にしたくて。バッキングのギターの音とかもハイをサラーッとしたような音にして、鋭くした感じもあります。
黒川さんは「紫苑」を自分なりに映像や感情を浮かべて歌いましたか?
黒川
さっきは声色に感情をどれだけ込められるかって話したんですけど、逆に「紫苑」に関してはどれだけ無機質でドラマチックに歌えるかっていうのを考えました。“花”って言ってしまえば、人間ではないじゃないですか。それを人間味強く歌ってしまった時にちょっと違うんじゃないかと個人的に思ったので、単語ひとつだったり、吐息だったりはちゃんと楽曲のコンセプトに馴染むようにしたんです。でも、ラスサビの展開は感情もありつつ、どっちかと言うと僕はきれいさのほうを出したいと思って歌いました。
そして、「ZQ5QEBS」ってピアノインストですが呼吸音も入ってません?
古閑
あぁ、そうです。息を吸う音とか、ブレスの音が良くて。「あなたは嘘をつく」のレコーディング中にできたブレスの音なんですけど、その時に伝えたいことを言う前に息を吸って自分の中で消化して発してるってことに気付いて。「ZQ5QEBS」では“言いたいけど言えない”みたいな表現として、ずっと息を吸い続けている。で、次の「CAPSLOCK」に続くというのをやりたかったんです。
なるほど。そして、まさしく新境地はその「CAPSLOCK」ですね。エレクトロニックなサウンドやビート感が新鮮で。
古閑
活動を続けていく中で楽曲制作をしていって、できないこともいろいろあるんですけど、だんだんソフトの音の勉強もしたりして。やりたいことの幅が自分の中でも広がっていった時に、電子の打ち込みのドラムをちょっと使ったり、シンセのサウンドだけで曲を構築してみたいっていう想いがあったんです。今は劇伴音楽とかに興味があって。映像の後ろで流れてる音楽みたいなものをここでもやってみたかったんですが、いきなりそれで音楽を作ってしまうと変わりようがすごくて馴染めないし、リスナーに寄り添えないので、そのポイントをちょっとずつ色を足すというやり方で表現しています。
このEPを作って、よりバンドとして進めた部分があるとしたら何でしょうか?
田中
何だろ? ゲームみたいな話になっちゃうんですけど、その度にセーブポイントみたいな、帰ってくる場所が増えていってる気がして。『Ctrl+Z』のサウンドは今の僕たちからしたら過去だけど、でもいつでも引き出すことはできるっていうのもあるし、だからこそこのバンドの幅が広がってる気がします。今回の『ES』は振り幅がすごいじゃないですか。しかも、その間の物語を司る部分もちゃんとあって。だから、この先も何かを作り上げていく時、“あの時の音感もいいよな”って思って、また違う方向に進んで行くんだろうなと思う。そういう意味では先がもっと楽しみになるようなEPになったんじゃないかなって個人的に思っていて。このレコーディングができたことで、自分だけじゃなく他のメンバーに対しても“ここまで行けるんだったら、次に何かやる時はこういうことしてみてほしい”という気持ちが生まれて、挑戦することがどんどん楽しみになってます。
小野
電子音を取り入れることも、ピアノとちゃんと絡んだ曲をやることも、自分たちでやることによって、ユアネスらしさをちゃんと出せるっていうことが確信できたし、すごく勉強になりました。“こういう曲ではこう叩けばちゃんと曲の内容と寄り添えるんだ!?”とか、ただ他の楽器に合わせるだけじゃなくて、鳴ってる音全体に馴染むように叩くっていうのを学べたと思います。
そして、ライヴだとまた違う側面を見られるのがユアネスの面白いところで。黒川さんの“毎回1回目”みたいなフレッシュさとか(笑)。
いい意味で全然テンプレにならない感じが希少だと思います。
取材:石角友香
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EP『ES』2019年11月20日発売
HIP LAND MUSIC
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『ユアネス One Man Live Tour 2020 "ES" 』
1/11(土) 福岡・BEAT STATION
1/12(日) 広島・SECOND CRUTCH
1/18(土) 新潟・CLUB RIVERST
1/19(日) 宮城・MACANA
1/25(土) 北海道・cube garden
2/01(土) 大阪・Umeda CLUB QUATTRO
2/02(日) 愛知・Nagoya CLUB QUATTRO
2/16(日) 東京・LIQUIDROOM
ユアネス:福岡で結成された4人組ロックバンド。琴線に触れるヴォーカルと美しいメロディーを軸に変拍子を織り交ぜるオルタナティブなバンドサウンドを構築。詞世界を含めひとつの物語を織りなすような楽曲が特徴的。重厚な音の中でもしっかり歌を聴かせることのできるライヴパフォーマンスは、エモーショナルで稀有な存在感を放っている。2020年にTVアニメ『イエスタデイをうたって』の主題歌として書き下ろした「籠の中に鳥」はユアネスを代表する一曲に。さらに、坂本真綾の「躍動」(『Fate/Grand Order』第2部後期主題歌) でバンド初となる楽曲提供(作曲/編曲/演奏)を行なう。21年12月に1stフルアルバム『6 case』を発表し、22年1月からは8都市でのワンマンツアーを開催予定。ツアーファイナルとなる東京公演は過去最大キャパとなるLINE CUBE SHIBUYAで開催する。ユアネス オフィシャルHP
「紫苑」MV