“音を見ろ”、新・視聴体感芸術が誕
生!「鼓童×ロベール・ルパージュ〈
NOVA〉」製作記者発表会レポート

新潟県の佐渡島を拠点に活動し、世界各国で公演を上演している太鼓芸術集団「鼓童」が、新たな挑戦をする。シルク・ドゥ・ソレイユ『トーテム』などを手がけ、“映像の魔術師”とも言われるカナダの演出家ロベール・ルパージュとコラボレーションした「鼓童✕ロベール・ルパージュ〈NOVA〉」を2020年5月23日(土)から上演されることになった。
日本文化と最先端ビジュアルテクノロジーが融合する、新・視聴体感芸術。映像や光、演者の動きをプログラミングして再現する“音を見る”=サイマティクス(音や振動の可視化)がテーマだ。上演に先駆けた2019年11月13日、東京都内で行われた製作記者発表会の様子を写真とともにお伝えしたい。
まずは、プロモーション動画をご覧いただきたい。
鼓童×ロベール・ルパージュ〈NOVA〉/Introducing Kodo x Robert Lepage “NOVA”
発表会の冒頭、鼓童の公演活動及び創造活動全般の企画制作を行う株式会社北前船の青木孝夫代表が「鼓童の音と映像とお客様の想像力が重なり合って、三位一体で作り上げる、今までにみたことのない、今までに感じたことのないような新視聴体感芸術をお届けできるものと確信しております。ご来場いただいたお客様には、NOVA公演を通じて、人類共通の価値や豊かさなどを共感しあって、未来に向かって希望を持っていただけるような、そんな舞台をお届けできるように願っております」と挨拶した。
鼓童×ロベール・ルパージュ〈NOVA〉製作記者発表会で披露されたスペシャルパフォーマンスの様子
発表会ではスペシャルパフォーマンスとして、鼓童✕ロベール・ルパージュ〈NOVA〉の本編から3つのシーンが抜粋して披露された。
1つ目は「雨」を表現したシーン。打ち手ではない第三者が太鼓の打面に触れ、音色に変化をつけた。当初は音色の違いを聞かせるだけの音楽だったが、ロベール・ルパージュが直感的に「雨」という世界観を演出として付け加え、一緒に作り上げた1曲だという。2つ目は「プラスチックの粒」を使ったシーン。太鼓の打面に敷き詰められた粒が、革の振幅とともに舞い上がり、音色に変化をもたらす。3つ目は「残像のエフェクト」を使用したシーン。打ち手のストロークの残像が映し出されることで、太鼓の音を表現するために必要な身体性が増幅して現れた。
いずれも「見たことのない」「体感したことのない」新しいステージになっていた。
鼓童の住吉佑太
続いて、鼓童の住吉佑太と演出家のロベール・ルパージュが対談を行った。
−−今回の「NOVA」という作品に込めたそれぞれの思いを教えてください。
住吉:今回の作品は、自分たちだけでは挑戦できない要素が多々詰まった作品になっております。今回の作品に限らず、私たちが舞台で表現したいものは、誰しもが持っている人間の魂や本能的な部分に訴えかけていく何かです。今回、そこにロベールさんのテクノロジーを使った演出を掛け合わせて、改めて私たち打ち手の魂を分析したり増幅したりしながら、作品を作っていっております。
 
一見テクノロジーと魂というものはかけ離れているようなのですが、その二つが互いに引き立たせ合いながら、テクノロジーが入ることで、逆に生身の人間がより浮き彫りになっていく、より強くお客様に伝わっていく。そんな作品にしていければと思っています。
 
ロベール:私たちの今回のコラボレーションは、まずは物語を鼓童のみなさんと語りたいと私は考えました。テーマは、クリエイションです。私たち自身エクスマキナ(※ロベール・ルパージュの芸術指揮のもと、多分野で舞台演出・製作を担う総合制作会社)のメンバーも、鼓童のみなさんもクリエイターです。宇宙は創造から生まれました。そして、人間も創造から生まれました。そんな意味でクリエイションの思いをこの舞台に込めました。ただ、クリエイションというのは、私たちを破滅に導くということも忘れてはいけません。
演出家ロベール・ルパージュ(Robert Lepape)
−−これまでの作品にも、日本の伝統芸能が影響していると聞きました。鼓童のどこに魅力を感じていらっしゃいますか?
ロベール:兼ねてから私は鼓童のみなさんのお仕事、作品づくりに感心をしておりました。本当に印象深く、厳しさと規律の中に身を置きながら鍛錬されていると思い、拝見してきました。
 
近年私は演劇の世界からオペラやサーカスに惹かれるようになってきています。と申しますのも、オペラやサーカスのパフォーマーたちは、同じように厳しい規律の中に身を置きながら、身を削っています。パフォーマンスがしばしば自然を超越してしまうということがこれらのステージにはあります。鼓童のみなさんもそれに共通したお仕事をされていると思いました。
ケベックでの稽古の様子 (提供:鼓童)
−−日本の太鼓をご覧になった時は、どのようなところにシンパシーを感じられたのですか?
ロベール:和太鼓と、一般に言われる打楽器の大きな違いは、やはりバイブレーションが大変深いということだと思います。人々の魂まで、そのバイブレーションが届きます。
 
−−特に鼓童のどのような部分に魅力を感じ、テクノロジーと掛け合わせようと考えられたのでしょうか?
ロベール:テクノロジーというのは、彼らの仕事の別個のものではありません。彼らの仕事、作品づくりの延長線上にあるものだと私は考えています。アーティストの我を決して奪ってしまうものではないし、また、バーティカルなものももたらすことができると思っています。
ケベックでの稽古の様子 (提供:鼓童)
−−一方、鼓童としては、ロベールさんのどのような部分にシンパシーを感じましたか?
住吉:ロベールさん自身がすごく日本をお好きでいらっしゃって、私たち鼓童のこともいつもリスペクトしてくださっていることを、セッションの端々からひしひしと感じさせていただいております。また、私たちもロベールさんの気持ちにお応えしたいという強い気持ちがありますので、お互いのクリエイションというか、やりとりというのはすごくフェアで心地よくクリエイションさせていただいております。
 
−−NOVAは「音を見る」、「音の可視化」ということで、サイマティクスがテーマとなっていますが、このテーマを聞いた際はどのようにお感じになりましたか?
住吉:サイマスティクスという事象自体は僕も前々から気になっていた事象でした。すごく神秘的で美しいものだなと感じているのですが、今回の作品においては、サイマティクスという事象だけをただただ再現するのではなく、例えば、あらゆる素粒子が音によって結ばれているという哲学に始まり、自然の中から生まれてくる音、そして私たち人類が築き上げてきた文明の中から聞こえてくる音、はたまた自分たちの鼓動の音、自分たちの魂の音。そういったものを全て可視化できるかどうかというのが鍵になってくるのではないかと思っています。サイマティクスから色々な物語を紡いで、一つの世界観を皆さんにお届けできるような舞台にしたいなと思います。
住吉佑太(左)とロベール・ルパージュ
−−NOVAで特に注目すべき見どころがあれば教えてください。
住吉:まず、インタラクティブであるということがすごく私たちにとっては新鮮です。というのも、普段映像作品とコラボレーションをする時は、映像の方は完全に決まっていて、音楽が寄り添っていくことが当たり前になっているのですが、今回はその真逆で、私たちがその日に日に、少しずつテンポ感も違ってしまうし、その日の息でやっている音楽に、映像が合わせてくれるというインタラクティブなテクノロジーを使っての演出となります。
デジタルなものなのですが、人間の息がかかっているというか、そういったアナログの持つうねり、力強さみたいなものも、ライブ感として、ショー全体にそういった要素があると思います。
ロベール:佑太さんが仰ったように、今回は音とイメージのインタラクティブな作品になっておりますが、それだけではなく、音とイメージ、そしてムーブメントもインタラクティブに取り入れられています。鼓童のステージというのは大変ショーアップされたステージです。それは彼らの体、音だけでなく、彼らの動き、彼らから発散されるエネルギーまでもが表現されているという意味です。
鼓童×ロベール・ルパージュ〈NOVA〉製作記者発表会で披露されたスペシャルパフォーマンスの様子
−−今回のNOVAで初めてチャレンジすることはどのようなことなのでしょうか?
ロベール:もちろん私にとって大変大きな挑戦となりました。一番は、テクノロジーと人間らしさのバランスです。鼓童のみなさんの動きというのは、まさに人間らしさの象徴だと思います。
住吉:いつもは自分たちの作品を作る時は、先に音楽があって、曲をどう並べて、一つのショーにしていくかというプロセスで作品をつくっていくのですが、今回は何もない状態のところから、まずロベールさんからコンセプトやストーリーといったものが書かれたプロットを共有していただいて、それを私たち自身で噛み砕いて、音にしてまたロベールさんにお返しする。それを受け取ったロベールさんがそこに新たな意味を加えたり、世界観を広げたりしながら、そういったやりとりを繰り返す中で作品を作ってきています。
それは、今までの鼓童ではやったことのない試みということもありますし、一つのシーンにそれぞれの哲学があるので、音がどんなに飛躍しても一つの筋はぶれずに作品にしていけるんだなと、クリエイションにおける点でもかなり勉強させていただいています。
もう一つは、普段の舞台だと、自分の体と音楽だけで表現していかなくてはいけないので、お客様がここまでは我慢できるというポイントがあると感じているんですけれども、今回は音楽以外の要素もたくさんあるので、いい意味で音楽も冒険ができるといいますか、音楽が展開しなくても、テクノロジーの部分が展開することで、いつも以上にためられたり、緩急の振り幅が大きくつけられるので、音楽性といった意味でも、かなり前衛的な試みができるのではないかなと思います。
鼓童×ロベール・ルパージュ〈NOVA〉製作記者発表会で披露されたスペシャルパフォーマンスの様子
−−NOVAは鼓童にとってどのような意味を持つのでしょうか?
住吉:本当に世界中のどこにもない新しいジャンルの舞台だと思います。演劇や芝居でもないですし、バレエや舞踊でもないし、かといってただのコンサートでもライブでもない。まさに新視聴体感芸術と打ち出していますけれども、鼓童にとっては太鼓の新しい可能性と新しい側面を模索し続けていくという点でも、かなり大きな意義のある作品になるのではないかなと思います。
−−最後に、今後の展望について教えてください。
ロベール:これまでこの作品づくりはケベックにて行われてきました。私のカンパニー・エクスマキナのスタジオです。今、本当に興奮しています。この作品を完成させるために、今度は最終段階に入りますが、それが日本で行われるからです。
住吉:この作品のテーマは、全人類共通のテーマだなと感じております。何より言葉の壁もありませんので、NOVAを通じて、私たちは太鼓の可能性を世界中に発信していきたいなと思っています。

鼓童×ロベール・ルパージュ〈NOVA〉製作記者発表会に出席した、株式会社北前船の青木孝夫代表、鼓童の住吉佑太、演出家のロベール・ルパージュ、鼓童の石塚充、三浦友恵(右から)
本公演は、2020年5月14日(木)・16日(土)横須賀芸術劇場 にてプレビュー公演、その後2020年5月23日(土)~31日(日)東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)での東京公演を皮切りに、同年9月まで熊本、新潟、山形、神奈川、愛知、大阪を巡演する。本日2019年11月14日(木)13:00より東京公演のプレオーダー(抽選/~2019年12月2日(月)18:00まで受付)を受付中だ。
取材・文・撮影=五月女菜穂

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