死刑制度のひとつのあり方を提示する
、緊迫の二人芝居~刈馬演劇設計社『
異邦人の庭』が名古屋で

名古屋を拠点に活動し、実際の事件や事故など現代社会で巻き起こる出来事に想を得た作品を手掛けることの多い劇作家・演出家の刈馬カオス。彼が主宰するソロユニット〈刈馬演劇設計社〉では今回、近未来の日本を舞台に、刈馬がかねてから関心を持っていた死刑制度のあり方についても触れた二人芝居『異邦人の庭』を、名古屋・伏見の「G/pit」にて11月15日(金)~17日(日)まで上演する。
連続殺人を犯したらしい死刑囚と、その支援者として拘置所の面会室で出会う、女と男。それぞれの目的のため、“獄中結婚”をする二人の対話をワンシチュエーションで描く今作では、〈刈馬演劇設計社〉では常連俳優の岡本理沙が死刑囚の女を、そして島根を拠点として、47都道府県でワンマンツアーも行うなど全国で活動する〈劇団ハタチ族〉の西藤将人が支援者の男を演じる。
近年、自身のユニットでも外部演出でも手掛けることのなかったミニマムでシンプルな二人芝居の劇作と演出に、新たな試みとして挑む刈馬カオスに話を聞いた。
刈馬演劇設計社『異邦人の庭』チラシ表
── まず、今回の公演を刈馬さんの作品ではレアな二人芝居にされた理由から教えて下さい。
僕はだいたい6人とか7人ぐらいのお芝居をやることが多いんですけど、最近ちょっと大きめのプロダクションの作品や、劇場も大きかったり人数も多めで派手な演出をするような企画が続いていたので、ミニマムな作品にしたい、というのが非常に希望としてあったんです。ただ、役者を少なくするとその分だけ動員が減るという問題もあるので、じゃあどうしようと思った時に、それを逆手に取って全然お金が掛からない、すごくシンプルなそぎ落とした空間で、役者2人だけを見せるようなお芝居が出来たらな、という意図で企画しました。
── 獄中結婚のお話ということですが、これも実際の事件などを題材にされているのでしょうか。
実際の事件ということはないんですが、ちょっとだけ関わっているのは、座間市の9遺体遺棄事件です。男が自宅アパートに自殺志願の女性を誘い込んで殺した事件ですけども、自殺志願の人を殺したということで「同意殺人かどうか」みたいなことが言われましたけど、その男に関しては明らかに同意殺人ではないと言われていて、そういう事件のことだとか、“殺人の善し悪し”みたいなことですね。それと最近は、介護に絡んで嘱託殺人とかもあったり、そういったところを、かねてから興味があった死刑制度と絡めて劇に出来ないだろうか、と思いました。
── 今回はちょっと劇作に苦しまれたとか。
それは単純に僕の心身の不調なんですけども、作劇的には楽しくやれている方だと思います。初めてご一緒させていただく俳優さんや経験の浅い俳優さんとかの場合は、どうしても書く段階でそのことを気にしながら書かなくちゃいけないところがあったりするんですけども、今回は俳優に対してストレスがないので。西藤将人さんとご一緒させていただくのは初めてですけども、彼の舞台を3回見ていて感じもわかっていたり、岡本さんも常連ですからすごく話が早いので、そういう意味では余計なストレスなく書けているという感覚はあります。
稽古風景より
── この作品で、西藤将人さんを初めて起用されたのは?
まず、抜群に上手いので。雰囲気もすごくあって、何か機会があったらご一緒させていただきたいなと思いつつ、なにせ遠方の方なのでなかなかそういう機会は難しいだろうなと思っていたんですね。それで今回、二人芝居で経費の掛からない公演形式を考えた時に、あ、じゃあ西藤さんを呼べるんじゃないかなと。そこにお金を掛けることは可能ではないかと思いついて、ぜひ! ということでお願いした次第ですね。
── 稽古を進めてみて、お二人とも思い通りのキャラクターになっている感じですか?
すごく微妙なニュアンスだとか、もちろん僕のほうから方向性だとか出したい空気みたいなことはお話するんですけども、1を言って10返ってくる感じです。
── 今回の作品で表現したいものや、ポイントにしている部分というのは?
いわゆる動きだとか、出ハケとかで見せるようなタイプの…会話劇ってよくそういうことだったりするんですけど、そういうのではなく、今回は本当に役者がほとんど動かない、ただ座って喋っているだけなのにずっと面白い、ということを目指してます。
── 拘置所の面会室の、ワンシチュエーションで?
そうですね。そこで日付だけが飛ぶ、という感じで。
── 観ている方も息詰まるような感じなんでしょうか。
かなり、お客さんも身動き出来なくさせようとはしてます。下手に動いたら空気を壊しちゃう、という風に思って、お腹が鳴らないように気を付ける、みたいな(笑)。そういうお芝居になるかと思います。『クラッシュ・ワルツ』(2013年初演、同年に第19回劇作家協会新人戯曲賞も受賞した作品)なんかの時もそうなんですけど、結構僕は静かな緊張感のある芝居の時は、出来るだけお客さんが観終わったあとにドッと疲れるような風に創りたい、という思いが元々あるので、その欲求がかなり強く出た企画なんじゃないかなと思います。
稽古風景より
── 「G/pit」の空間の使い方としては、スタンダードな感じですか?
そうですね。プロセニアムなんですけど、袖も作りませんし、機材だとかそういうのも普通に置かれた状態の、そのままの空間でやるつもりです。
── 趣向を凝らした舞台美術も刈馬さんの作品の特色のひとつですが、今回はそれも封印して素舞台のような形で。
そうですね。「G/pit」にある長机とパイプ椅子を使うだけです。いわゆる〈ワンテーブル・ツーチェアーズ〉というパターンで、それだけでも芝居が出来る、というものを自分なりにやりたかった、という感じですね。音響も使わないで、照明も1灯か2灯だけを使う、照明変化なしの形になります。
── 音響も無いとなると、本当にシーンとした中でセリフだけが聞こえて、観客は物音をたてられないような状況ですね(笑)。
そうなんです。なのでいわゆる演出効果というものは、今回はほとんど無い状態ですね。
── それは刈馬さんの中でひとつの挑戦、という感じですか?
そうです。やっぱり小手先ではなく、どれだけ役者とセリフの力で見せることが出来るのか、というのは以前だったら絶対に出来なかった挑戦なので。
── ご自身の中で、そういう思いに至った変化があったと。
ひとつには、ある程度そこに挑めるだけの自信がついたんだと思います。もうひとつは、ここでそういう無茶に挑まないと、自分が大きくステップ出来ないと。自分への無茶振りですね。
── 今回は敢えて、ご自身にプレッシャーをかけた作品なんですね。
まぁ常にプレッシャーと楽しみとが半々ですね。皆さんそうだと思いますけども、いつもやっぱり新しいことをやろうとはしているので。

稽古風景より
刈馬演劇設計社『異邦人の庭』チラシ裏
取材・文=望月勝美

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