Amelie「こうしなきゃいけない、とい
う考え方にとらわれていた」ーー『ア
イデンティティ』で表現した満たされ
なさの正体とは

2011年に埼玉県越谷市で結成され、着実に実力を伸ばし続けてきた4ピースロックバンド、Amelie。2018年には自身最大規模となる東京・恵比寿LIQUID ROOMでのワンマンライブを大成功させ、2019年8月には念願の『ROCK IN JAPAN 2019』へ出演。ツアーも各地でソールドアウト&満員御礼。11月13日にリリースされる、Amelieの2nd mini Album『アイデンティティ』は、そんな勢いにあふれた状況を感じさせつつ、一方でタイトルが示すように「自分らしさ」を見つめなおし、4人の原点を振り返るような楽曲が収録されている。2曲目「アイデンティティの証明」に、という一節があるが、実は彼女たちはこれまでパブリックイメージや固定概念にとらわれ、「自分らしさ」を閉じ込めていた。4人はようやくそういったものから解放されてきたと話す。「自分たちはこういうふうでいなければならない」「こういう理想を持っていなければいけない」ではなく、「これでいいんだ」という感覚で作り上げられた同作。今回は、メンバーのmick(Vo.Gt.Piano)、直人(Gt)、あっきー(Ba)、アサケン(Dr)に、『アイデンティティ』を通して見えるバンドの行き先について話を訊いた。
Amelie 撮影=日吉“JP”純平
――「カントリーロード」で何万キロ、何十年という表現がありますが、Amelieの過去曲には、「君といま生きている」でも何十年先、「ゼロじゃない」でも何十回、何百回、「朝は来る」では何度というふうな表現が特徴として出てきます。具体的な数字が出てこないのは、漠然としたものへの意識が強くて逆にあまり目先のことは考えないようにしてきたのかなって。
mick:確かにこれまで、無意識にいろいろ考えすぎていたところがあって、自分で可能性を狭めてしまっていたところがあります。「Amelieのmickはこうでいなければならない」という思いがずっとあって。遠い未来ばかり見ていたから、そういう「理想の自分」ばかり追いかけていました。今は、半径5メートルくらいの身の回りで起きていることや、近頃思っていることに興味があります。これまでは「そういう感覚で曲を作ってはダメだ」と思い込んでいたので。
直人:以前までは、目先のことに目が向いていなくて、背伸びをしていた感がありましたね。僕たちの近くで大きな結果を残しているバンドもいますが、みんな足元をちゃんと見て、細かいことをきっちりクリアしているんです。自分たちも漠然と先を見るのではなく、積み重ねを意識するようになりました。
アサケン:現在は足元をしっかり見ながら、ちゃんと前に進めている感覚があります。理想を追い求める中で、いろんな物事を取捨選択できるようになってきました。
あっきー:僕は性格的に目先を見るタイプなんです。大きな目標を掲げてもできることって限られているので。目の前のことを一つずつクリアしていった先に、未来へ辿り着ける。確かにバンドとして遠い未来ばかり見てきたかもしれないけど、それでも一歩一歩やってきたから、ようやく2021年に結成10周年を迎えられる。今、メンバーとそれに向けて何をしようか話し合っています。そういうことをやるのって初めてかもしれない。
Amelie 撮影=日吉“JP”純平
――Amelieは、「どこかへ向かって行くこと」を表現しているバンドでもありますよね。今作は特に場所や距離感に関するワードがたくさんあります。「カントリーロード」の、「アイデンティティの証明」は、「バウムクーヘン」には、「月の裏」はタイトルそのものが場所ですし、という言葉もあります。「東京」も場所だし、「フルスピードで」もが出てきます。
あっきー:あ、確か曲順を決めたときにそういう話をしていなかったっけ?
mick:そうそう、したよね。ロードムービーのような作品にしようという話をしていたんです。「カントリーロード」は地元・越谷をイメージしていて、そのあと東京へ行くという物語を設定していました。最後は映画のエンドロールが流れるような、そんな感覚の構成にしています。
あっきー:過去の曲や作品もロードムービー感はあったかもしれない。
アサケン:「ステップ✕ステップ」もまさにそうですね。確かにAmelieにはその感覚があります。僕らはライブをずっとしていないとダメなバンドだし、ツアーに出て旅をし続けなきゃいけないと思っています。Amelieには旅がつきもの。「人生とは終わらない旅である」と言いますし。この作品に関して言えば、地元・越谷からスタートして、東京へ行き、でも「ここじゃないな」と思ってフルスピードでまた走り出す流れ。その道中でいろんなものを探したり見つけたりする。
直人:距離感という話でいくと、僕らはお客さんとの距離もすごく重要にしています。ツアーに出て、みんなと顔を合わせて、伝えてることを大事にしているバンドなので。でも僕たち自身はどれだけ旅を続けても、結局、目的地は見つからない。それで良いと考えています。
Amelie 撮影=日吉“JP”純平
――この作品における旅の起点となる曲「カントリーロード」は、みなさんの故郷・越谷についての話でもあり、精神的な意味での原点も表している。という言葉などを用いながら自分たちがどれだけ大人になったか、そして成長しても変わらないものは何なのか、それを問いかけています。みなさんはいつ頃から大人としての成長を実感できるようになりましたか。
あっきー:僕は尖った言い方だと相手に伝わらないだろうなとか、自分がこういうふうに言われたら嫌だなとか、そうやって言葉を選べるようになってきて、そこで大人になってきたことを実感できました。昔は感情のままに相手とやりとりして、ムッとしたらそのまま表に出していたのですが、それで良いことなんて一つもなかった。そういえば、昨日のライブで何年も前に対バンしたバンドと久しぶりに会って、「Amelieって前は超うるさかったけど、今は落ち着いた」と言われたんです。そういえばそうだなって。昔は、楽屋に入ったら「いえーい」とハイタッチとかしていたから(笑)。俺たちもおとなしくなったんだなって、寂しい気分にもなったけど。
mick:先日のライブで、最後に「ヒーロー」をやったんですけど、MCが終わって演奏に入るまでにあえて間を置いているとき、お客さんのケータイの音が鳴ったんです。前だったらそれに我慢ができなくなって、間を詰めてすぐに演奏を始めていたんだろうけど、あのときはじっと耐えて間を作りました。何ならいつも以上に間をあけた。
あっきー:20秒くらい耐えていたよね。
mick:すごく長く感じた。ちょっと変な空気になったんだけど、でも「これも今日のAmelieのライブの一部か」と開き直れたんです。以前に比べると間違いなく忍耐力がついた。
あっきー:演奏する側からすると、ケータイの音って本当にきついんですよ。集中力が切れてしまう。だから、あのときのmickは「よく耐えたな」と感心しました。
mick:マネージャーからも「mick、大人になったね」と言われたから(笑)。
直人:バンドを取り巻く状況が変わったのも大人になれた理由の一つです。僕は今まで、ライブではとりあえずデカい音を出して、格好良く演奏をして、ミスをしてもあとで別の曲でカバーをすれば何とかなると思っていたんです。でも関わる人たちが増えてきて、わずかなミスでも大きな迷惑をかけることになってきた。だから、なんていうか……。演奏でミスをしちゃいけないなと。
mick:ハハハ(笑)。それ、基本じゃん!
直人:うん(笑)。でも、改めてちゃんと演奏をしなきゃいけないんだなって。そう思えるようになって「俺は大人になったな」って。
Amelie 撮影=日吉“JP”純平
――何だかすごくピュアなご意見ですね! アサケンさんはいかがですか。
アサケン:僕はゴールド免許を獲得することができたことですね。
――ハハハ(笑)。
アサケン:ツアーへたくさん出ているのに、よくゴールドを取れたなって。安全運転を心がけているので移動がすごく多いのに違反がないんですよ。ちゃんと正しく運転をしてゴールドを取れたので、すごく嬉しいんですよ、ゴールド免許。
Amelie 撮影=日吉“JP”純平
――でも、実際はそれができない大人もたくさんいますからね! 2曲目「アイデンティティの証明」では自分らしさを題材に、迷いながら生きている様が歌われています。曲の中でも出てきますが自分らしく生きようとしても、周りが何かを押し付けてきたりする。時には否定もされるはず。バンドをやっていると、そういう不条理な意見をぶつけられたりするんじゃないですか。
mick:意見をしてくる人も、私たちのことが嫌いで物事を言っているつもりではないはずなのですが、私自身、かつて自己肯定感が皆無だった時期があり、存在のすべてを否定されて生きている感覚があったんです。特に子どもの時は、そうでしたね。ただ、バンドの活動を通してそれらが削ぎ落とされていきました。この曲には、そのときの気持ちが反映されています。
あっきー:mickは確かに、言われすぎると気持ちが落ちちゃって、昔はそれで「全部を否定されている気がする!」って泣きながら、僕らといろいろ話し合っていたよね。今はそういうことがなくなったし、自分も何かを言うにしても、ちゃんと気持ちを整理して、何なら一度言葉を飲み込むようにしている。
mick:あったね、そういう時期。よく泣いていた。
アサケン:だけどバンドをする上では、そういうことも経験として生きる。むしろ普段の仕事や生活の中でいろいろと意見を押しつけられて、それでも自分を押し殺して生きなきゃいけないことの方が多いはず。で、その反動で好き勝手に生きているよう人を妬んだり、叩いたりしちゃう。
直人:バンドとしてまだまだ分からないことが多かった時期、周りの意見を取り入れすぎた結果、彷徨ってしまって、それでみんなで悩んだことがありました。今回、作品を通して自分たちをちゃんと肯定できた気がしました。意見ももちろん取り入れるけど、ほどほどにしてうまくやっていきたいですね。
――その次の3曲「バウムクーヘン」「月の裏まで」「東京」は、どれも満たされなさが表現されていますよね。、、と。ストレスフルな状態を吐き出していくような曲。
mick:いま指摘をされて、潜在的に「そうだったのかも」と気づきました。先ほどもお話をしたように、「こうしなきゃいけない」という考え方に捉われていたから。
あっきー:バンドとしては、満たされることはこの先もないかもしれない。ライブをしていて「なんでこんなに届かないんだろう」と思うことが多いんです。ステージからお客さんの姿がよく見えるんですけど、後ろの方で腕を組んで無表情だったりすると「なんでこの人には届かないんだろう」って。それを気にしても仕方がないんですけど、すごいバンドは全部を巻き込むじゃないですか。
――周りと自分を比べてしまって、満たされないことは確かにありますよね。
あっきー:だから今はSNSで、身近なバンドがどういう活躍をしているか分かるじゃないですか。どうしても自分たちと比べちゃうんです。ライブのキャパが上がって、そこでソールドアウトを記録したとか。じゃあ俺たちは果たしてどうなのかと。そこで悔しい気分に襲われてしまう。
Amelie 撮影=日吉“JP”純平
――僕は、同業者のやっていることを気にするのが嫌なので、Twitterでは身近なライターや評論家のアカウントは大体ミュートをしています。
mick:なるほど、そういう手があるんだ。
あっきー:そうする気持ち分かります。SNSにはみんな基本的には良い面を書きますよね。だけど僕自身も、それを見てもメンタル的にプラスになりづらくって。もちろん、自分も頑張らなきゃとはなりますが。
mick:曲を作る身としても、何があっても満たされることはないですね。むしろ、そういうちょっとした隙間や心の穴があるから、言葉や気持ちが曲につながっていく。気持ち的には大変なんだけど、それでも孤独をちゃんと味わうようにしています。
アサケン:バンドがうまくいっていても、不足感は何かしら生まれるはず。欲は尽きないから。あっきーが言っていたように、僕も結構、他と比較してしまうんです。Amelieは周りの多くのバンドに比べると幸せな環境で活動させていただいているはずなのですが、それでも常に満たされなさはつきまとっています。ただ、どん欲に理想を追い求める方が健全で幸せだし『アイデンティティ』はそういう意識が向いた作品。満たされてはいないけど、嫌な満たされなさではありません。
直人:というか、僕は満たされたらバンドを辞める。常にそういう気持ちで音楽をやってきました。僕も以前までは周りのことを意識しちゃっていたけど、周囲と比べても仕方がないし楽しいことだけ拾っていくようにしています。

Amelie 撮影=日吉“JP”純平

――みなさんの意見を踏まえた上で最後の「フルスピードで」を聴くと、Amelieはどこに辿り着くんだろうと思いますね。
アサケン:Amelieはフルスピードで走り続けるしかないし、それで突然バッタリと死んだなら、それはそれでしょうがない。いまさら引き返すこともできないし、だったらひたすら前を向いて走りたい。
直人:単純に誰よりも良い音楽を作りたいですよね。そうすれば、いろんな結果がついてくるはず。
あっきー:昨日、まさにmickとそういう話をしていたんですよ。昔は「もっと売れたい」という願いばかりだったんですが、2021年に10周年を迎えることができる。そうやって節目をちゃんと迎えられるバンドは一体どれだけいるんだろうって。どんどんいなくなっていく中で僕たちはすごく幸せなのかもしれない。ゴールは分からないけど、アーティストとして、ミュージシャンとして、生きているうちに良い作品を出し続けて、残して、そして死んでいきたい。
mick:「フルスピードで」は、レーベルの先輩たち(SUPER BEAVERsumika)が武道館公演を成功させて、そのライブが終わったあと「次はお前たちだからな」と重いバトンを渡されたことがキッカケとなり出来た曲なんです。私は小さい頃からミュージシャンに憧れて、武道館でライブをすることが夢でした。でもそればかりこだわるのではなく、「死ぬまで歌い続ける」という方向にシフトチェンジしたんです。まずちゃんとフルスピードで走って、その中で夢が実現できたら良い。そういう気持ちで生きていきます。
Amelie 撮影=日吉“JP”純平
取材・文=田辺ユウキ 撮影=日吉“JP”純平

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