【Mitchie M インタビュー】
ボカロという多彩な
表現が可能な分野なので、
さまざまなジャンルに
チャレンジしていきたい
今の自分が出したいものは
全て出せた
リリックもご自身で書かれていますが、上手くミクの各々のキャラクター性が表れていますね。
もちろんミクに成り切って歌詞を書く面もありますが、現代社会とのつながり、これはとても大事なので、その辺りも意識はしています。各曲そこに新しさみたいなものを吹き込まないといけない自覚もあって、今回で言うとSNSや検閲、AIにしても発達の先みたいな、問題提起や話題になっていることを盛り込んだりはしています。いわゆるただ可愛いだけじゃないというか。でも、それも提起に留めていて、あえて断言はさせていません。やはり聴いて楽しんでいただき、想像の余白を持ってもらいたいです。なので、そんなに深いところまで踏み込んだりしていないんです。
なるほど。それにしても今作は17曲とぎっしり詰め込みましたね。
今の自分が出したいものは全て出せたかな。やり切った感はあります。ちょっと悔やまれるのは、今回はバラードがなかったところだけで。かなりアッパーな曲でひたすら攻めたなって。
前作ではバラードも配信されていましたが、今回バラードが入っていなかったのには何か理由でも?
作りたかったんですが、単純にアイデアが浮かびませんでした(笑)。ただの普通のバラードを歌わせても面白くないし、オリジナリティーもないですからね。反面、アッパーな曲が続くので、聴かれる方が途中聴き疲れしないかが心配です(笑)。
中でも、今回はラップやスキャット、掛け合いまでにも至っていますが、あの絶妙なニュアンスを出せるのはすごいなと。
非常に細かく神経を使いますからね、調声は(笑)。確かに難しいです。だけど、やはりミクの歌の可能性は突き詰めたくて。自分の中でも突き詰めていく意識を持っていろいろと挑戦したし、それが実現できた部分は多々あります。その辺りのニュアンスも昔からブラックミュージックを好んで聴いていたことが役立っていますね。
加えて、いろいろとモチーフもユニークです。ニュース番組だったり、プロレス中継だったり。
ことニュース番組に関しては今回、テレビを観ていてパッと浮かんだんです。これまでこんなモチーフを歌にしたものを聴いたことがなかったので、アイデアを本当に作品に落とし込めるかは心配でした。
何をきっかけにチャレンジしてみようと?
たまたまニュース番組を観ていたら、BGMがフュージョンだったので、そんなニュースをまるまる…それこそ各コーナーや途中で選挙速報が飛び込む場面も含め作ってみたら面白いかなと。プロレスの実況のほうは構想から2年掛りましたね。ミクではないんですが、そもそもはKAITOが絶叫しながら実況するのが面白いかなとの発想から始まったんです。最近は強弱を付けられるエフェクターも開発されたので、それを駆使して実現しました。
アナウンサーの興奮状況が伝わってきますよ。他にも80'sや90'sの懐かしい部分も耳を惹きました。
ポップなものであれば、いろいろと吸収して表現したいんです。今回も60年代から現代まであらゆるポップミュージックを取り込んでみたら、このようなバラエティーさになりました。これらの曲を聴いて、それらの下敷きになっている音楽性を発見して、そこから掘ってもらえたりしたら本望です。世の中には本当にいろいろな種類の音楽があるので。ボカロの有名な曲となるとやはりロックか流行りのダンスミュージックが多いように感じますが、せっかくボカロという多彩な表現が可能な分野なので、さまざまなジャンルにチャレンジしていきたいです。
そして、ジャケットイラストは前回の貞本義行先生に続き、今回は美樹本晴彦先生が手掛けてらして。
自分がリクエストしました。僕自身先生の作品を観て育ちましたからね。実現できて非常に嬉しいです。
全てを包み込むような宇宙観も魅力だし特徴的です。
あの繊細な描写にはとても感動しました。先生の特徴でもある柔らかくてやさしい感じの表現は特に。ミクもあえて陰がある感じに描かれていて、それがすごく自分の音楽性にも近いと感じました。自分の音楽性も明るく作っても明るくなり切れないんですよね。それは普段僕が好きな音楽性が理由なのかもしれませんが(笑)。なので、もう全てが今作とリンクしてぴったりだなと。ぜひ作品を聴きながら、この絵に浸っていろいろと想いを馳せてもらいたいです。
取材:池田スカオ和宏