MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』
第十七回目のゲストはILL-BOSSTINO(
THA BLUE HERB)憧れている人と自分
との違いを見つけてこそオリジナリテ
ィになる

MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』、第十七回目のゲストはTHA BLUE HERBのILL-BOSSTINO。THA BLUE HERBに多大な影響を受けたと語るアフロにとって、今回の対談は特別な思いがあったに違いない。しかし「影響」とはなんなのだろう? その人の身なりや言動を真似することだろうか。アフロは言う。「違いが武器になってくるし、それをどんどんやっていくことが、自分のオリジナリティの確立みたいなものに繋がっていったと思うんです」と。誰しもが他人に憧れた経験はあると思う。きっと「その人」というのは、周りのそれらと違う個性を放っていたからこそ惹かれたに違いない。自分がその人に近づくためには、真似をするのではなく、もっと本質的な“自分らしさ=オリジナリティ”を磨く以外に他はない。今回は「アフロとBOSSの違いとは何か?」。そこに焦点が絞られた。
●俺ら自身も間違えたりつまづいたり、だけどそこから立ち上がるっていう音楽でもあると思う●
アフロ:今、ツアー中ですよね。どうですか?
ILL-BOSSTINO(以下、BOSS):最高だよ、いつだって最高。
アフロ:その日によって良し悪しっていうのはないですか。
BOSS:ないね。いつだって良いと思えてるよ。
アフロ:「前半で気持ちが行き過ぎて前に突っ込んじゃった」とか。
BOSS:そんなのずっと後になったら出てくるかもしれないけど、今はないよ。ライブをやり過ぎると色々と手癖がついてくるからアレだけど、今はツアーを初めて3週間ぐらいだから伸びしろしかない。
アフロ:手癖っちゅうのは、慣れてきちゃうってことですか。
BOSS:そうそう。ライブをやり続けると「完璧なライブをやろう」という思考になって、小さいミスでも気にするようになる。俺の場合はアルバムをリリースして、ツアーをやって、その後はライブを一切やらないで新しいアルバムを作るというルーティンを繰り返す。それは何故かというと、その罠が怖いからであって。だから(ライブを)やり過ぎるのも良くない面もあると思ってる。
アフロ:ライブをしてて気持ちが乗らない日ってないですか?
BOSS:ないね。
アフロ:そっか、俺はあるんですよ。ライブをする気持ちになれないとか、歌っているリリックと反するような気持ちになってる日というのがあって。中には、そういうシチュエーションの曲もあるので、その場合は歌いやすかったりするんですけど。そうじゃない曲というのは、最初にどうしてもその歌詞に対して疑いから入ってしまう。そういう気持ちが乗らなかった時に頼りになるのがスキルというか、やってきた場数で。
BOSS:それはめちゃめちゃあるね。
アフロ:それを俺は「フィジカル」と呼んでいるんですけど。フィジカルを使うことで、自分の気持ちがゼロの状態からでも段々と気持ちが追いついてきて、感情を乗せて歌えるようになる。そういうのは実感としてあります。
BOSS:俺にとってのフィジカルってのはまたちょっと違ってて。極限状態に陥って、何も考えられなくなった時に使うんだよ。
アフロ:精神ってことですか?
BOSS:フィジカルはそのまま肉体だよ。反復していること。不可抗力でギリギリの状態になった時にフィジカルを使うんだよ。例えば、会場のクーラーがぶっ壊れて室温が40度を超えて、誰も何も考えられない状態でも気づいたらライブが出来てたみたいな。そういう場面でフィジカルというか今まで反復してきたことが活きてくる。だから、いざという時のために取っておいた方が良いと俺は思う。
アフロ:そうなんですかね。
BOSS:ライブの数を増やし過ぎて何が危険かと言えば、歌詞を間違えたり、つまづいたり、噛んじゃったりというのをどんどん避けていくようになる。少しのミスでも排除していくようになるじゃん。本来プロってそういうものだと思うんだけど、それが極まっちゃうと危ういな。あくまでAIじゃなくて、人間がやっているものだから。から。
アフロ:それは分かりますね。
BOSS:さっきも言ったように、俺らはそうなりたくないから1回ゼロに戻ろうとする。今はゼロからやってる過程だから、間違えもするし噛んだりもする。そういう中でやりながら立て直していく途中にいるからツアーは楽しい。ライブをずっとやり続けるようになったら、ライブの精度はめっちゃ上がっていくんだけど人間味がなくなるよね。俺ら自身が間違えたりつまづいたり、だけどそこから立ち上がるっていう音楽でもあると思うから。ただ、それはジレンマでもあると思う。俺らは本当は上手くなりたくて練習をしてるのにね。
アフロ:それで言うと、我々はライブと制作を分けていないからこそ、リリースツアー中もアルバムに入ってない曲を歌ったり、直前でセトリをいじったり。フリースタイルのところをどれだけ入れるかだったり、お客はどんな顔をしてるか、どんな音響で音が鳴っているのかとか、その日の特別を探して拾うようにしてますね。その日の状況を汲んでライブに反映させて、常に新鮮さを自分の中に取り入れてる感じですね。
BOSS:なるほどね。
●憧れの人との違いって何だろう?●
アフロ:しかしアレですね。ライブの本数や向き合い方については、自分なりの考えがあってやっているつもりなんですけど。俺の中でBOSSさんはあまりにも影響が強すぎるから、言われたことを100%受け止めてしまって、それが答えに思ってしまうというか。
BOSS:意識しすぎだよ。
アフロ:そもそも、色んな人に憧れを抱いて音楽を始めてるんですよ。もちろんBOSSさんもその中の1人で。ラッパーからすればダウンタウンみたいな存在なんです。そこを一目散に走って、あるところまで行くとみんな「俺は憧れになれない」と気づく。仮に、なれたところで2人目はいらないと気づく。その時に「じゃあ、自分が憧れた人と違うところはどこなんだろう」と考えて、俺はもっとみっともないなとか、恥ずかしい恋バナをするなとか。そういう違いが武器になってくるし、それをどんどんやっていくことが、自分のオリジナリティの確立みたいなものに繋がっていったと思うんです。
BOSS:うんうん、そう思うよ。
アフロ:だけど「意識しないようにする」というのが、「一番意識していること」なんですよね。
BOSS:そうかもしれないね。
アフロ:最初にBOSSさんと会ったのは、俺が札幌まで会いに行って「むっちゃ影響を受けたんで、俺のCDを聴いてもらって少しでもお返しをしたいです」って。それ、覚えてますか?
BOSS:あったあった。
アフロ:それも正に意識した結果だと思うんですよ。ある意味、物凄くとらわれているんですけど「これってBOSSさんはしないだろうな」というのをなるべく選ぶというか。それぐらい意識してないと、本当に追いかけちゃうくらい影響が強かったですね。俺以外からも、そう言われることって多くないですか?
BOSS:あるにはあるかな。アフロの世代とか今ヒップホップシーンの中でも勢いのある人たちの中でも、それを隠さないで公言してくれる人がいて、そこから入ってきてくれるお客もいるみたいだね。
●そういう状況にいたから絶対に負けられないよね。だって負けたら人生終わりだもん●
アフロ:ちなみにBOSSさんは「負けの美学」ってないですよね。そこが俺と決定的に違うところだと思うんですけど。
BOSS:そうかな? 俺の場合、負けから始まってるからじゃないかな。田舎者で、コンプレックスもあって、楽器は何も弾けなくて……この3つなんて音楽をやってる奴からすれば、敗者以外の何者でもないじゃん。持たざる者から始まってるよね。俺とアフロも状況的には似たようなものだけど、地元から東京に上がってきた人間と、今も札幌に住みながら自分たちで自主制作をやってる人間の違いもあると思う。東京には自分の周りに同じ夢を共有したり「負けてもみんなで上がっていこうぜ」と言える空気があるわけじゃん。
アフロ:はい。正に、そういう空気から抜ける為の闘いもありました。
BOSS:俺みたいに札幌に住んでると、「札幌から上がって行こうぜ」って思ってる奴なんてほとんどいない、今はわからないけど少なくとも俺の時代はそうだった。自分たちしかやる人がいなくて。そういうところから東京のHIPHOPに勝負をかけようとなったら、負けたら終わりなんだよ。1回負けたら終わり。もう夢も終わり。音楽を続けるという次元じゃない。社会的に存在価値なし。そういう状況にいたから絶対に負けられないよね。だって負けたら人生終わりだもん。来月の家賃も払えずにこの世の中に居場所をなくしてしまう。その違いがあるんだと思うよ。
アフロ:そういう世界を知っていながら、BOSSさんの音楽は俺たちの日常にも降りてくるわけじゃないですか。俺が衝撃だったのは、“マネー”じゃなくて“金”だったんですよね。メイクマネーの歌は聴いてきたんですけど、BOSSさんの歌ってる「欲しいのは金だ」というのは俺の知ってるお金だったんですよ。そういうところに初めて触れさせてくれたのがTHA BLUE HERBで。
BOSS:今言った通り、その時は切羽詰まってて本当に金が欲しかったんだよ。まあ自主制作だからね。お金がないとどうにもならないという切羽詰まった具合は、雇われミュージシャンと比べ物にならないくらい違うね。俺たちは借金から始まってるから。
アフロ:新しいアルバム(『THA BLUE HERB』)でも<去っていく奴が去っていく奴の歌を歌ったらリアルなんじゃないか>という歌詞があって。負けを絶対に口にしないけど、人が負けていく……負けていくというのは酷な言い方かもしれないですけど。
BOSS:それは今の話とは違うよ。あくまで負けられないって言う切迫感から俺は始まってるって意味でさっきは話した。でも、このリリックはそこから20年以上経って、今は「俺はそれを簡単に負けとは思わなくもなった」という視点の曲だから、そこは20年前に言っていた負けではないんだよな。それを「”負け”と受けとるなよ」って言ってるんだよ。「去っていくなら去っていく奴の歌を歌う方がリアルなんじゃね?」は「まるで負けたかのような顔をするなよ」という意味であって。この20年の間に俺の中にも変化があるし、そこを克服していくのが俺等の道でもある。
アフロ:あぁ、そうなのか。ついつい俺は極論で考えているところはあるかもしれないです。去っていくことを負けと言わないと、自分のケツに火がつかないというか。それを「負けじゃないんだよ」と言ってしまったら、そっちに甘えてしまう自分が見えますね。
BOSS:今、何歳?
アフロ:31です。
BOSS:31だったら、今の俺の「負け」の解釈についてもこれだけ乖離が生まれるよ。俺が31歳の頃なんて、まだ2ndアルバムを作ってる時期で『未来は俺等の手の中』も作ってないよ。俺にもそういう時期があったし、全ては過程だと思う。そういう意味じゃアフロは早熟というか、俺の31とは比べ物にならないくらい先を行ってる。だけど、アフロがいる16年後の世界に俺はいるから。やっぱり、その「負け」という言葉1つとってみても、どっちが良いとかじゃなくて違いは出るよ。そこはしょうがないね。
●いや「逆境を遊ぶ」だね●
BOSS:ところでさ、アフロは自分のことを「僕」っていう?
アフロ:言わないっすね。曲にも書かないです。
BOSS:俺も書かないんだけど、自分のことを歌詞の中で「僕」と言える奴はある意味強いと思う。共感の幅が広がることもあるだろうし、「俺」よりも目線を下に見せれる気がする。
アフロ:「俺」っていうとすごく個人的になるじゃないですか。それによって、その曲がどんどん自分のものになっていくというか。それが良さだと思うんですよね。
BOSS:普段も「僕」って言わない?
アフロ:言わないっすね。「俺」か「自分」って言います。
BOSS:俺は先輩と話す時、たまに「僕」と出る場合がある。そこにはあまり意識はないんだけど打算が働いてて、ワザとへりくだって猫を被ってるのかなと思ったりもする。俺が「僕」と言うことによって、この人はどういう顔をするのかな、なんて覗いてる自分がいるのかもしれない。だから俺が使う「僕」は素直じゃない使い方だね。
アフロ:そう考えると、BOSSさんはおっかないっすよね。
BOSS:そうだよ。
アフロ:歌詞の中でも「追い詰めちゃダメだと逃げ道を作って、そっちに追い詰めるんだ」みたいなことを歌ってますよね。俺ね、そういう怖さを感じる時がありますもん。それはダメですよ。
BOSS:ハハハハ、何でだよ。それは俺の処世術だから。ストリートで学んだのはそういうところだよね。それはめちゃめちゃHIPHOPで活きてるよ。
アフロ:どう活きてるんですか。
BOSS:結局、全ての物事に対して清廉潔白に正々堂々なんて出来ない。だから、そういう世界で学んだ処世術はめっちゃ役立ってる。東京で色んな人たちと会っても、札幌で会ったことのない新しいタイプの人って東京にはいなかった。だから、ちゃんと接することが出来た。
アフロ:BOSSさんにとって、ストリートは学校だったんですね。
BOSS:そうそう、学校だった。
アフロ:そう思うと俺は1つしかないんですよ。学生時代に野球部で培った処世術しか知らないんですよね。
BOSS:確かにアフロは素直だよな。それはMOROHAの音楽性にも出てるよ。
アフロ:すぐに「負け」って言うし。
BOSS:ハハハ、そうだね。良いんじゃない? そう考えたら俺とアフロの違いなんていくらでもあるんだよ。
アフロ:野球部の頃は、補欠で下手くそなくせに「後輩からなめられたくない」という一心で、どうにかなめられないように立ち回りで頑張ってたんですよね。だから下からなめられることに対して、過敏になっちゃってて。そういう経験ってBOSSさんは人生で一度もないっすよね。
BOSS:だけど俺も野球部だったよ。
アフロ:でも絶対に下から怖がれてましたよね?
BOSS:いや、俺は後輩とも一緒に遊ぶタイプだった。函館に少年野球の後輩がいるんだけど、ある日たまたま会ったら「本当に昔から変わらないっすよね」と言うから、「俺ってどんなだったの?」と聞いたんだよ。そしたら、俺が小6でそいつが小4の時にめっちゃ大雨が降った日があったと。「もう練習できないってなって、みんな帰ったんですけど。BOSSさんだけは、俺たち2個下のガキを集めて『これからファインプレー大会をやるぞ』って。泥だらけになって難しい球を捕る遊びをしたことを覚えてます」と言ってて。それを聞いて「今の俺もそういうところあるな」と思った。
アフロ:「逆境に燃える」みたいなことですか。
BOSS:いや「逆境を遊ぶ」だね。20周年の野音で雨が降った時も全く同じことで。ファインプレー大会のように「残ったやつだけでこの場を遊ぼうぜ」という姿勢は変わらないなと思った。
アフロ:そこはシンパシーを感じます。そういう時は「雨にやられている」というMっ気が働きます?
BOSS:いや、全然違う。
アフロ:そっか、これはシンパシーじゃないんだ。その話を聞くと同じことをやってるのに俺とBOSSさんはマインドが違うんですよ。
BOSS:違うんだな。
アフロ:俺はそのマインドでやってこれたっすね。
BOSS:良いじゃん。補欠って大事だよ。それは持たざる者とも呼ぶし、ボーン・ルーザーとも呼ぶ。俺だって免許も資格もない、同じように社会的には補欠なんだし、補欠の方が多いんじゃない? でも、補欠が世の中を動かしてる方が面白いじゃん。
取材撮影協力=炭火焼 尋 (東京都目黒区上目黒3-14-5ティグリス中目黒II 3F)
文=真貝聡 撮影=横井明彦

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