THE BACK HORN 王道と革新の最新傑
作『カルペ・ディエム』を完成させた
、21年目の充実の内幕

THE BACK HORNに駄作などないが、結成21年目にしてここまで新しいアイディアを盛り込んだアルバムを作り上げるとは、想像以上だった。通算12作目のフルアルバム『カルペ・ディエム』。アルバム全体を俯瞰して、4人が均等に作詞作曲に関わる初めての試みが、王道と革新の見事なミクスチャーを生んだ最新傑作。21年目の今を生きるバンドの充実の内幕を、山田将司(Vo)に語ってもらおう。
自分の心の奥底に潜む感情を掘り出して、それを声にして、ライブやって、そこに共感してくれる人がいて、ここまでやってきたけど、“果たして俺に何があるんだろうな?”ということをずっと考えていたんですよ。
――久々ですね。オリジナル・フルアルバム。
4年ぶりですからね。
――とはいえ、20周年のなんやかんやがあったから。全然、間が空いた感じもなく。
シングルも出して、宇多田ヒカルさんや、住野よるさんとのコラボ作品もあって、ミニアルバムも出して、ツアーも回ったりして、動きっぱなしではありましたね。だからこそ、このアルバムにかける思いはだいぶ高いというか。20周年が終わってもう一回一から、新たな気持ちで作れたアルバムではありましたね。
――今回、4人で作詞作曲の振り分けをしたという。
そうなんですよ。
――すごく面白い企画。誰が言い出したのか。
(菅波)栄純ですね。「アルバムどうしようか」という話をしている時に、「今回はみんなでやろう」と。俺と栄純と(岡峰)光舟で3曲ずつ、「光舟はこういう曲を、将司はこういう曲を、俺こういう曲を書くから」と。そしてマツ(松田晋二)は、みんなの書いた曲に歌詞を当てていく。「まんべんなくみんなが絡み合うことをやろう」と。
――栄純くんの頭の中には、設計図があったんだ。
あとあと聞いたら、設計図というよりは、前のミニアルバム『情景泥棒』がけっこう偏った、ドーン!という曲が多かったこともあって、フルアルバムは自然とバランスを取ってしまうことをわかりながら、たとえば「光舟はスラップで押し通す曲を書いて」とか、「将司は「孤独を繋いで」のような、マイナー調の疾走感のある曲を書いて」とか、そういうオーダーでしたね。
――そういう仕掛けがあるとモチベーションが上がるだろうという意図はあった気はする。もう十何枚も作ってきてるわけだから。
そのきっかけがあるのとないのとでは、集中力が全然違いましたね。“狙って書く”ということは、あんまりやったことがなかったから。今までのアルバムは、それぞれがどういう曲を書いてくるかを話し合わずに、自然と出てきたものを合わせてたから、一人ひとりの旬が合わさって“それが今のTHE BACK HORNだ”というものがあったけど、今回は21年目のリスタート感があったので、最初からバランスを考えながら作りましたね。
――光舟くん、大活躍。スラップばりばりの曲もあれば、素晴らしいメロディのミドル・ロックバラードを書いてきたり。
「ソーダ水の泡沫」ですね。
――いないから言っちゃうけど、こんなすごいメロディメイカーだったのかと(笑)。
俺もけっこう意外でした。「ソーダ水の泡沫」を光舟が上げてきた時に、“こんな曲書けるんだ”と思った。
――将司くんでいうと、「ペトリコール」がすごく好き。大人の童謡のような、不思議な魅力のある曲。
童謡の感じと、暗さと、隙間を生かしたようなサウンドって、昔のTHE BACK HORNにあった曲調なんですけど、「これを今、バンドでやってる人っていないよね」と。THE BACK HORNの持ち味として、「そういう曲を、将司お願い」ということでしたね。元ネタは15年ぐらい前、山中湖によく合宿に行ってた頃からあって、ずっと頭の中に残っていたメロディだったので、それを三拍子にしてまとめた感じですね。
――栄純くんは打ち込み得意だから、彼が作るのはプログラミングやエディットを駆使した、ナウなロック。
DTMをやりまくってるから、いろいろ使いこなしてますね。「心臓が止まるまでは」を持ってきた時に、最先端の音を取り入れてるけど、THE BACK HORNの持つ、過去を引き連れて、闇も引き連れて、ちゃんと前を向いていく、ど真ん中な曲だなと思って、先行シングルにしたんですね。
――それぞれの役割をしっかり自覚してる。
そこは信頼感ですね。どういう曲を持ってきても、どういう歌詞を書いてきても、誰も「これはTHE BACK HORNぽくないな」とは言わないから。みんながTHE BACK HORNに向ってるから形になるということは、20年やってきたからできることだなと思います。このメロディにどういう歌詞をのせるか?とか、たとえば「果てなき冒険者」だと、マツが「人の背中を押すような応援歌を書きたい」という以外は、どんな歌詞を書くかという話し合いは全然しなかったんで。そこはもう信頼して、みんないい歌詞を書いてきましたね。
――「果てなき冒険者」は輝いてます。“頑張れ”って、まっすぐに言い切ってる。
20周年を終えて、彼の中でいろいろ感じたことがあったみたいで。でも応援歌って一番難しいですよね。ちゃんと響かせないと応援できないから、人間力が試されるテーマだと思うし、この「果てなき冒険者」は、ドーン!という曲じゃなくて、景色も描きながら背中を押していく、人の心にすっと入っていく。マツはそういう歌詞がうまいんですね。マツの歌詞はちょっと水彩画っぽくて、栄純の歌詞はどちらかというと油絵に近い感じというか。
――ああー。原色を投げつけるような。わかる。
そう。マツはもっと景色から作って、人の心にすっと入ってくる。それがやっぱりうまいなと思います。こういう、日常に馴染む曲調であればあるほど、言葉はどんどん磨いて精査していかないと難しいですよね。そこに強い思いがあった上で言葉を選んでいく、そういう曲ほど、思いが強くないと書けないと思います。「果てなき冒険者」の歌詞は素晴らしいなと思います。逆に栄純が書いた「I believe」とか、苦しみから抜け出せない人に届ける、救いの言葉はないけれど、掻き立てられるような、こういう歌詞は栄純しか書けないなという気はします。
――マツくんが応援歌なら、栄純くんが書いてるのは何だろう。
栄純も、元々応援したい気持ちが根っこにあるから、言葉の選び方は最高のセンスを持ってるし、たとえ闇に触れるような言葉だったとしても、後ろ向きでは絶対に終わらせないのが昨今の栄純だなという気がしてます。ポジティブな言葉だけで見せないで、でもしがみつきながらでも前を向いていくぞという姿勢が、共感できますね。
――自分の歌詞はどうですか。
頑張りましたね(笑)。「鎖」は、栄純から「THE BACK HORNの十八番の曲を作ってくれ」と言われて、それって“とにかくいい曲作ってくれ”ということですよね。
――ですね。とんでもない無茶振りですけどね(笑)。
「ライブで盛り上がるTHE BACK HORNの定番曲を作ってくれ」と言われて、そこで「鎖」というのは、自分自身を縛り付ける鎖と、自分と他者を繋ぎとめる絆としての鎖と、そのどっちも描きたいなと思ったんですよ。サビ頭の“絶対的な鎖で一つになって、繋ごうもう二度と離れぬよう”って、最初に歌詞をみんなに見せた時に「けっこう過激だね」と言われて、鎖で繋ごうって「自分の欲が強くないとなかなかそういう言葉は出てこないと思う」と言われて、ああそうかと。でも自然に出てきたんですよね。
――それはあえて言うなら、ファンやリスナーへのメッセージということになるのかな。
うん、そういう気持ちで書きましたね。ライブをイメージしながら書いた曲なので。なかなか自分って変わらないなという気持ちを、ここ数年感じていたんですよ。実際この間40になって、この歌詞を書いてる時も“そろそろ40だな”とか思っていて、ずっと音楽やってきて、音楽に支えられてここまで来て、人と人との繋がりとか、自分の心の奥底に潜む感情を掘り出して、それを声にして、ライブやって、そこに共感してくれる人がいて、ここまでやってきたけど、“果たして俺に何があるんだろうな?”ということを、ずっと考えていたんですよ。
――それは、ネガティブな意味ではなく。
ネガティブな意味ももちろん入ってます。やっぱりその時に、目の前にいる人と繋がること、ライブで共鳴して、聴いてくれてる人の何かしらの力になってあげることができたらな、ということを常に思っていて。
――ああ。それで、今の俺はそれができているのか?という。
そういうことは、常々思いますよね。メンバーもみんな思ってると思います。
――それを踏まえて書いた。
そうですね。ライブのあの空間って、こっちも絶対的なものを与えたいし、お客さんも求めてるし、それをこの瞬間に繋ぎとめるという、その鎖という意味もあって。絶対離さないよ、大丈夫だよという気持ちも含めた、鎖という言葉が出てきましたね。
――アルバムの最後を飾る「アンコールを君と」の歌詞もすごくいい。“また生きて会おうぜ”ですよ。ここに言い尽くされている。
俺がよくライブで言う言葉なんですけど、「使っていいか?」って、マツが俺の言葉を使ってくれて、栄純と光舟が共同で作曲した、完全に4人の思いがこもった曲です。この流れがまた、いいんですよね。「果てなき冒険者」で終わりかと思っての「アンコールを君と」の、他の楽器も何も入っていない4人だけの曲で終われたこのアルバムは、すごく美しいなと思います。
――見事。まさにアンコール。
元々この曲自体、アルバムに入る予定はなかったんですよ。栄純と光舟が作ったデモが結構前にあって、「この曲に歌詞のせてみたんだけど」と言ってマツが持ってきたんですよ。まさにアンコールでやりたくなるような曲ですよね。激しいとかじゃなくて。
――そう。むしろ明るい広がりがある。
これからのツアーを想像すると、これがアンコールでできると思うと……実際アンコールでやるかどうかはわからないですけど、すごくいい空気感だろうなということは想像できますよね。
――アルバム・タイトルの『カルペ・ディエム』。意味は、“その日をつかめ”“今を楽しめ”。これは誰が?
これはマツの案です。“カルペ・ディエム”って、あんまり聞いたことないじゃないですか。言いたくなるような、暗号みたいな感じがあって、それもまたいいですよね。
――“メメント・モリ”と対になって使われる言葉ですけどね。そっちは“死を思え”で、こっちは“今を楽しめ”。死じゃなくて生を強調するのがいい。
まさに今のTHE BACK HORNだから付けられるタイトルだと思います。今回は、『運命開花』の時以上にリアクションが楽しみなんですよ。だいぶ自信が、みんなあるんで。これだけ四等分で作ったアルバムが、どんなふうに感じてもらえるのか。

――そして初回限定盤には、2019年2月の武道館の映像が丸ごとついてくる。武道館、幸せでした?
幸せでしたね。本当に嬉しかったですね。感謝と、そのぶん自分がもっとお客さんの心を震わせたいなという気持ちが、やりながらありましたね。20周年のアニバーサリー・イヤー中は、ずーっとライブをやってたので、ここで20周年が一区切りするんだという気持ちで、全部お客さんからもらってきたものが、MCにしても何にしても自然とこぼれるような、感謝の気持ちがこもったライブだったなと、今思うとそういう感じがしますね。
――個人的名場面は。
いやー、どこだろうな。まあ「Running Away」とか、仕掛けもドーンと入ってるし、やっぱり上がりますね、火って。
――あはは。火に上がる。
すごいアホみたいなこと言ってますけど(笑)。俺、火とか水とか、好きなんですよね。「太陽の花」のMVも、水を張った上で演奏したんですけど、テンション上がりますね、水は。冷たいとかやめてとか、そういう気持ちにはならずに、光舟と栄純がかけた水を浴びて興奮してました。プリミティブな強さがあるじゃないですか、水も火も。そこに力をもらう感じがあるというか、自然と嬉しくなりますね。
――なるほど。言われてみれば。
THE BACK HORNは、水もののMVが多いんですよ。15年ぶりぐらいの水ものでしたけど、デビューから3年ぐらいの間は、4本ぐらい濡れものがありましたね(笑)。イメージ的にあるんでしょうね。水は、抗えないものに抗うというか、人間を作っているものという生命観もあるし、THE BACK HORNイコール水みたいな感じは最初からありましたね。山や森というよりは、海や水というか、ちょっと虚無感があって、生命観もあって。

――リリースツアーが11月18日から、年をまたいで22本。ライブハウスをしっかり回るパターン。東京初日はWWW Xって、これはプレミアムですよ。
Nothing’ s Carved In Stoneのライブを見に行ったことがあって、音がすごくいいなと思って。THE BACK HORNではやったことないし、面白いなと思って、俺が提案したんですよね。新鮮だからやってみようって。
――ツアーは新たな気持ちで、21年目の決意をもって。
そうですね。また昔の曲と『カルペ・ディエム』の曲たちが絡んだ時に、すごくいい表情を見せそうだなというのは、もう感じてますね。まあライブはやっぱり、あんまり狙ってやるものでもないなと最近感じていて、こっちのこの思いのまま臨んで、ポロポロとこぼれ落ちたものを見てもらうくらいの、そのほうが面白いじゃないですか。何があるかわからない感も含めて。完成形ばかり目指して小さくなるよりは、メンバー4人が爆発して、よくわかんなくなったらなったで、それもライブだし。お客さんも絶対そのほうがワクワクできるだろうなというのは感じますね。
取材・文=宮本英夫

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