ハマスホイ鑑賞のキーワードとデンマ
ークの"ヒュゲ"を実感 『ハマスホイ
とデンマーク絵画』記者発表会レポー
ト
ハマスホイの展示は、2008年に国立西洋美術館にて『ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情』というタイトルで開催されてから10年以上が経過している。2008年の展示はその質の高さから口コミで評判になり、予想をはるかに上回る入場者数を記録した。以下、展示に先立って行われた記者発表会の様子をレポートする。
ミステリアスな室内画を描き続けたアーティストの姿
ハマスホイは室内画の画家として知られているが、建築画や肖像画、風景画も描いている。
彼が室内画を描くようになったきっかけは、コペンハーゲン旧市街、ストランゲーゼ30番地のアパートに引っ越したことだった。ハマスホイがアパート内部を描いた一連の作品は高く評価されるようになり、その後別の家に移ってからも、やはり主に室内を描いていたという。
ヴィルヘルム・ハマスホイ 《室内―開いた扉、ストランゲーゼ30番地》 1905年 デーヴィズ・コレクション蔵 The David Collection, Copenhagen
ハマスホイはローマの国際美術展で第一席を取得するなど、生前から高い評価を受けていたが、没後はデンマークでも忘れられていた。1980年辺りから再評価が始まり、1981年にコペンハーゲンで個展が開催、1997年~1998年にはフランスのオルセー美術館やアメリカのグッゲンハイム美術館で展覧会が催され、大きな驚きと高い評判を呼んだ。
ハマスホイ絵画鑑賞のためのキーワード
山口県立美術館 学芸員 萬屋健司氏
一つ目は「静けさ」だ。ハマスホイの室内画において、後ろ姿の人物としてしばしば登場するのは妻のイーダだが、彼女は抑えられた色調で描かれており、どこか修道女のような静寂さを醸している。ハマスホイが描いたアパート内部は、彼と家族が住んでいるはずであるにも関わらず生活感がなく、人が去った後のような静けさが漂っている。
三つ目のキーワードは「豊かな色調」だ。ハマスホイの色調は複雑で繊細である。彼の知人によれば、ハマスホイのパレットは白色と、濃さの異なる灰色しかなかったとのことだ。この逸話には誇張もあるだろうが、色彩を抑制することで絵には禁欲的な空気が漂う。
ヴィルヘルム・ハマスホイ 《カード・テーブルと鉢植えのある室内、ブレズゲーゼ25番地》 1910-11年 マルムー美術館蔵 Malmö Art Museum, Sweden
4章からなる展示構成
ハマスホイとデンマークの同時代のアーティストを広く紹介
第2章 スケーイン派と北欧の光
第3章 19世紀末のデンマーク絵画‐国際化と室内画の隆盛
第4章 ヴィルヘルム・ハマスホイ‐首都の静寂のなかで
第3章では印象派から手ほどきを受けた画家たちや、デンマークで隆盛した室内画に着目する。出来事を描かないために物語がなく、落ち着いた雰囲気をたたえる室内画は当時のデンマークで広く流行した。
ピーダ・イルステズ 《ピアノに向かう少女》 1897年 アロス・オーフース美術館蔵 ARoS Arhus Kunstmuseum / (c) Photo: Ole Hein Pedersen
第4章のハマスホイを紹介するセクションでは37点の絵画が公開されるが、そのうちの21点は2008年のハマスホイの展覧会にはなかった作品だ。デビューする前に描かれためずらしい絵や、ハマスホイの作品の中でも紹介されることの少ない風景画や肖像画、建築画のほか、妻のイーダを描いた作品も含まれる。
ヴィルヘルム・ハマスホイ 《農場の家屋、レスネス》 1900年 デーヴィズ・コレクション蔵 The David Collection, Copenhagen
デンマークを知るためのキーワード
"ヒュゲ"を感じさせる絵画も紹介
ハマスホイの静謐でどこか不穏で、じっくり見るほどに魅了される作品世界と、彼が生きた時代のデンマークの絵画をたっぷりと味わうことができる『ハマスホイとデンマーク絵画』、この冬見逃すことなく足を運びたい。
SPICE
SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。