【インタビュー】Lucky Kilimanjaro
、聴く人の生活に新しい気づきと希望
とパワーを与える音楽の力

見た目はハッピーで賑やかな6人編成のバンド。しかし聴こえてくる音は、懐かしさと最先端を組み合わせた精密なエレクトロポップミュージック。歌詞は人生をポジティブに生きるメッセージに溢れメロディはどこまでもポップで伸びやか、ボーカルはラップの影響を感じさせつつ、素朴な親しみやすさでリスナーを惹きつける。Lucky Kilimanjaroは一言で説明できないほど、その存在は多様な魅力に溢れてる。メジャーデビュー第二弾EP『FRESH』に収められているのは、これを聴く人の生活に新しい気づきと希望とパワーを与える音楽の力そのものだ。バンドが掲げるビジョンについて、リーダーの熊木幸丸(Vo)に語ってもらおう。

■人にパワーをあげることで自分に何かが返ってくるほうがいい
■そのほうがやっている意味があると思うようになった

──「風になる」「HOUSE」のミュージック・ビデオを見て、このバンド、やけに楽しそうだなと。

熊木幸丸(以下、熊木):普段もけっこうあのままです(笑)。僕は今年29歳で、ほかのメンバーは1、2歳年下なんですけど、良い大人が大学生みたいなノリで過ごしている。良い意味でも悪い意味でも童心に溢れているバンドですね。

──お揃いの振付とかしたりして。かわいい。

熊木:あー(笑)。あれはその場でやっているんですよ。「カメラ回るんで適当に踊ってください」というノリでやっています。ゆえに、あのゆるさが出てるのかもしれない。

──でもそのあと出た「Do Do Do」「初恋」のミュージックビデオは一人で映ったり女性モデルを使ったりドラマチックな作り方もしていますね。

熊木:曲調次第ですね。メンバー全員が出なくても僕だけでちゃんと伝わるものもあるだろうし、逆にメンバーが出たほうがバンドらしくていい時もあるし。でもバンドの演奏シーンはまだないんですよ(笑)。

──基本は、サークルっぽいノリというか。

熊木:元々大学のサークルで知り合ったメンバーで、その時のノリが続いている感じです。18、19歳ぐらいで出会っているんで、もう10年近くになりますね。その頃から一緒にバンドをやっていたので、Lucky Kilimanjaroを組む前から仲良かったメンバーではあります。

──結成は5年前。社会人になってからだから、それなりの覚悟があったのでは。

熊木:でも組んだ時は「売れたい」という気持ちはあんまりなくて、「音楽やりたいな」という気持ちで始めました。みんなの意識が大人っぽくなったのは、去年メジャー・デビューしてからじゃないかなと思っています。
──音楽的リーダーは熊木さん?

熊木:基本的には僕がやりたいことをやらせてもらっています。メンバーの意見もありますが、僕に大枠のアイディアがあるので。僕がパソコン内で作ったものをみんなで共有するので、バンドっぽくないやり方も出てくるんです。

──そうなんですよね。トラックだけ聴くと、ヒップホップ、ダンスミュージックのフォーマットで作られていたり。一人でできちゃうタイプの音楽でもあるなあと思うんですけど、なぜバンドなんだろうと。

熊木:僕は中学生からギターをやっていて、ずっとロックバンドが好きなんです。高校の時はハードロックが好きで、ギターは速いほうが格好良いと思っていたタイプでした。大学もバンドサークルでしたし、バンドのほうが自然な流れだったんですよね。ただCDに収録されるサウンドはあまりライブ感を出しすぎず、淡泊なところも大事にしようと思っているので、「ライブを見ると全然違うね」とよく言われます。ドラム、ベース、ギター、パーカッションもいてシンセがいて音もかなり厚めになるし「ライブっぽくていい」と言われることは多いです。

──良い意味でギャップがあるというか。

熊木:ちょっと不思議な感じですよね。お洒落な感じかと思ったら妙に和気あいあいとしている、みたいな(笑)。でも「こういう雰囲気を出そうぜ」と言って始めたバンドじゃないので、自然にこうなっていった感じです。

──トラックや歌い回しはラップの影響がかなりあるのかな?と。

熊木:USのラップにはすごく影響を受けています。チャンス・ザ・ラッパーが好きなんですけど、曲を作っているブラストラックスっていうトラックメイカーがいて、「Do Do Do」という曲では参考にしました。でもラップっぽくしようと思ったことはあまりなくて、僕は詞を先に書いて、それからメロディを考えるので、いっぱい書くとメロディが速くなる。だからラップっぽく聴こえるのかもしれないです。

──あ、詞先なんですね。それはちょっと意外かも。

熊木:メジャー・デビューEP『HUG』からそうなったんです。それまでは言葉の力をそんなに大事にしていなかったんですけど、『HUG』以降はその力を再認識するようになりました。『HUG』以前は、自分が格好良くあろうと思っていたんです。でも今は、人にパワーを与えることで自分に何かが返ってくるほうがいいなと。その方がやっている意味があると思うようになって、そうなると詞をちゃんと書かないといけない。実際それが良くて、詞を聴いてくれるお客さんがすごく増えて、「救われました」「勇気が出ました」と言われることが増えて、こういう形になって良かったと思っています。

──そこがターニング・ポイント。

熊木:メジャー・デビューだからということでもなく、ちょっと前からモヤモヤしていたんですよ。それでやり方を変え始めた時期にデビューの話をいただいて、タイミングがきれいに重なった感じはあります。自分では良かったと思うけど、レコード会社のみなさんは、今までとは僕のやることが違うから困惑しなかったかな?とは思いますけど(笑)。
──今回の2nd EP『FRESH』の5曲は、先行シングル4曲プラス新曲1曲。これは元々作っていたもの?

熊木:春先ぐらいにEPを出すことが決まって、それに向けて新曲を書いていたんですけど、そもそも僕は1曲ごとに聴けるタイプの曲を作る癖があるので、レコード会社から「連続シングルで出したら面白いんじゃない?」という提案を頂いて、その方がお祭りっぽく面白いし、いろいろな曲を作れるから「やりましょう」ということになりました。結果的にEPにまとまりましたけど、シングルをたくさん出したというイメージですね。

──中心になる曲とか思い入れがある曲はありますか?

熊木:シングル第一弾の「風になる」は、ラジオのパワープレイをたくさんいただいて、聴いてくれた人から「転職決めました」とか「うまくいきました」とか、本当に生活に響いた言葉をいただいて、僕らの音楽にはそういう力がちゃんとあるんだと感じました。その段階ではシングル4枚分を全部書き終わっていたので、2020年ももっと人の生活を良くしていけるような、社会を良くしていけるような曲を書こうと思いましたね。2019年の最初に出した「風になる」が僕らにとってもパワーになったし、来年からさらに頑張ろうと思えた曲なので思い入れはかなり強いです。

──「この先は誰にもわからないけど、自分で選ぶことはできるよ」。確かに、転職サイトのCMソングにぴったりな。

熊木:そうかもしれない(笑)。だからそういう反応は本当に嬉しかったです。こういうタイプの嬉しさは、メジャー・デビュー前の楽曲では全然なかったので、「僕はこういうことが嬉しいんだ」というものを実感しました。

──新曲「FRESH」も、似たようなテーマといえばそう。

熊木:そうですね。「風になる」は、“好きなことを恐れずにやりたい”ということですけど、「FRESH」は“知らないことに対してどんどんアクションしていこう”ということで、そこから想像力がふくらんでいくと思うので。知らない人と話すのはちょっと怖いけど、そこに新しい関係や新しいクリエイティブが出てくるかもしれないと思うと、知らないことを知っていきたい、同じところにいちゃうのは良くないという思いで書いた曲です。2曲とも“新しい自分に出会おう”というテーマは同じで、そこはLucky Kilimanjaroとして伝えていきたいことの一つではあります。

──そういう意味では「Do Do Do」もそう。

熊木:そうです。Lucky Kilimanjaroとして今年はそういうメッセージを打ち出そうと思って書いたので、それがお客さんにちゃんと伝わって、「Lucky Kilimanjaroはそういうバンドなんだ」と思ってもらえばいいと思ったので。しつこいぐらいに同じ意味の言葉を入れています。全曲違うメッセージでも良かったんですけど、僕らが何を言いたいのかを出していこうと思ってこういう形にしました。

──ラッキリのキャッチ・コピーが「世界中の毎日をおどらせる」。もちろんダンスという意味もあるし。

熊木:心おどるという意味も込めて、日々が良くなるという意味で使っています。“踊る”という言葉を意図的に入れるようにして、たぶん全曲に入っていると思うんですけど、それは意図的に「Lucky Kilimanjaroイコール踊る」になれるように。ずっと歌っていればお客さんの中に入って来て踊るバンドだと思うから踊ってくれる。だから意図的に、もう「踊る」はいいからと言われるまでやり続けます(笑)。
■僕は人間のポジティブな面をひたすら追い求めたくて
■そこをふくらませるアーティストでありたいと思います

──「初恋」は恋の歌だけどワードはけっこう硬くて、「何かを得るためにバランスを諦めた」という表現がすごく印象的です。

熊木:僕の中での主題はそちらなんです。恋が失われたけど、また新しい恋を初恋のような気持ちでということ。「何かを得る時には何かを失う」ということで、後悔しないでどんどん新しい気持ちを大事にしようという歌です。「初恋」というタイトルにしたのは、こういう2ステップの洋楽っぽい曲に情緒を足したくて、タイトルをつけました。

──あと、なんといっても「HOUSE」が最高。インドア派のアンセムですよ。

熊木:実際、ライブでもすごい盛り上がって頂けるんです。インドア派の曲なのに(笑)。夏フェスでもこの曲をやって、みんな踊ってくれたんですけど、アウトドアの夏フェスで♪ここから出れない~って歌ってるのをおかしいよと思いながら(笑)。この曲は完全に僕というよりは、「こういう人いるよね」ということで、友達にも多いし、うちのドラムもわりとこういうタイプで、13時に起きたりするんですけど(笑)。そういうのを思い浮かべて、ゆるい気持ちで書いたんですけど、みんな共感してくれて。

──ゆるいけど、これは世代の象徴だと真面目に思いましたよ。「退勤→速攻帰宅」「NETFLIXでこもる」「部屋で踊るハウスミュージック」とか。キャッチーな歌詞がずらり。

熊木:今の世代の考え方の一つなんだなと思いますね。

──それをアッケラカンと明るいハウスビートに乗せて歌うのが素敵だなあと。昔はインドア派って、引きこもりとか暗いイメージがあったけど、今はそこから生まれるクリエイターもたくさんいるし。

熊木:僕もそういうことを歌いたくて。今は家で曲も作れるし何でもできるから、家ってイケてるんじゃない?ということを、ちょっとふざけつつ歌っている歌です。でも常に今を切り取りたいと思っているし、ポップスである以上今の人のために歌いたいと思うので、そこの空気を良くしていくことを徹底したいと思っています。
──家だからハウスミュージック。誰もが思っていたけど誰もやらないアイディア(笑)。

熊木:ここまで安直でいいのかな?と思ったんですけど(笑)。それぐらいのほうがいいんだなと改めて実感しました。何を言っているのかが誰でもわかるし、インドアの要素と踊る要素をしっかり組み合わせれたのも良かったです。ふざけて書いた割には、良いテーマになったと思います。

──インドア派とはいえ、すごく人生に前向きなのがいいなあと。

熊木:聴いてくれる人が明日から良い生活が送れることが、僕の一番目標としていることで、バンドをやる上で義務だと思っていて、それが自分を救っているとも思っているんです。前向きなことを思ってはいても、嫌なことがあるとふっと違う考えがよぎったりするけど、でも自分がこういう曲を書いてライブで歌うことが自分の救いにもなってるのかなと思ったりします。歌詞は「良くしていきたい」という思いのままに書きますね。

──そこがこの手のサウンド…とか言うと大雑把だけど、こういうダンスポップミュージック的な楽曲の歌詞としては圧倒的にフレッシュに感じていて。ある意味青春パンクやギターロックにも通じるような。

熊木:そういう感じもありますね。僕は人間のポジティブな面をひたすら追い求めたくて、そこをふくらませるというか、そういうアーティストでありたいと思います。

──ラッキリの曲は、どれもそういう、あらためて気づくような新鮮さがあって。トラックはループ中心でメロディもAメロとサビの繰り返しみたいなシンプルな構造で。

熊木:展開は多くないですね。
──ビートはシンプル、コードもシンプル、メロディも素直、歌もコブシとかつけずにストレート。なのになぜこんなにキャッチーな曲がじゃんじゃん生まれてくるのか?と。すごいなあと素直に思います。

熊木:僕はいろんなことができるタイプじゃなく、たとえばソウルフルに歌えるわけでもないですし、自然に自分の中で一生懸命やっていたらこういう形になったという、自分でも説明できないんです。ダンスミュージックが好きだからループさせようとは思っていたんですけど、「何でこういう形にしたんですか?」と聞かれても「わかんないです」ってなっちゃいますね。ただ、色がないという色が一番格好良いかなと思うので。そこにちゃんと人が集まってくれるなら、それでいいなと思います。

──そして11月23日、渋谷WWWでの初ワンマン・ライブ。告知しようと思ったら、もうソールド・アウトしちゃっていました。

熊木:ちょうど「HOUSE」のシングルを配信した頃、先行販売の段階でほとんどなくなっちゃって。「初恋」や「FRESH」を聴いてライブに行こうと思った人は、ソールドじゃん!と思ってるだろうなと思って、嬉しい反面申し訳ない気持ちでいっぱいです。でも、今も来年のために曲を書いてますし、ライブもどんどんやっていきたいと思っています。

──バンドとしての近未来の夢は。

熊木:聴いてくれる人が「ラッキリ聴いたら気分良くなるよね」とか、そういうものが浸透していって、たとえば僕らが1万人、2万人集められるようになったら、その空気が社会的に広がっていくかなと思っていて、そういうことが起きるといいなと思っています。僕らの音楽から少しでも世の中の色が良くなっていけばいいなと思っていて、まずはその空気を感じたいと思います。そのスタートとして「風になる」はすごく良かったと思うし、その空気がどんどん大きくなるのが夢ですね。あとは、水道橋の学校のサークル出身なので、東京ドームでやってみたいです。

──ああー、場所近いから(笑)。

熊木:それと僕は埼玉出身なので、さいたまスーパーアリーナも。大きな景色は見てみたいと思います。

──今日お話しさせてもらって、バンド名に「ラッキー」が入っている意味がわかった気がする。

熊木:元々そういうポジティブな意味合いがほしくてラッキーという言葉をつけたので。そのままちゃんとバンドの形になって良かったなと思います。今になって整合性が出てきた気がしますね。

取材・文●宮本英夫
リリース情報

『FRESH』
2019.10.02 Release
MUCD-1473 \1,600(TAX OUT)
1.FRESH
2.風になる
3.初恋
4.HOUSE
5.Do Do Do

ライブ・イベント情報

初ワンマンライブ「FRESH」 SOLD OUT
11月23日(土) Shibuya WWW

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