テスラは泣かない。と映像監督・高橋
健人 相性抜群のタッグは“音楽×映
像”に何を託すのか

バンド結成11年目を迎え、10月2日に最新アルバム『CHOOSE A』をリリースした “テスラは泣かない。”と、彼らを映像という観点から4年以上支え続けている映像監督・高橋健人。両者がタッグを組んで制作された最新MV「自由」は、楽曲が持つ多幸感と解放感が視覚的に見事に表現された珠玉の作品だ。そうした“音楽✕映像”という無形表現の融合だからこそ織りなせる美しさを追求し続ける彼らは、互いをどう感じているのか? 当記事では、村上学(Vo/G)と飯野桃子(Pf)と高橋の三者による対話の中から、両者の親和性の高さの理由や最新作に至るまでのバンドの成長を紐解いていく。
――テスラは泣かない。と高橋さんとの出会いは?
村上:(高橋)健人さんを知ったきかっけは、健人さんが手掛けたte’ のMVを観たことですね。その映像がすごく格好良くて、僕らのメジャー2作品目のアルバムに収録されている「国境はなかった」という楽曲で初めてお願いさせてもらいました。僕らのバンドとしても、テンポの速さやエモーショナルな部分を押していきたいという気持ちが昔からあって、そうした側面が健人さんの作品の質や編集の仕方とリンクするんじゃないかな?と思って。それ以来はもう僕的にハマっちゃって、ずっとお願いしています。
高橋:僕も最初からテスラは泣かない。と自分の作品は合うなと思っていました。元々彼らのことは知っていましたし、正直そういったところが合わないとアイデアがなかなか出てこなかったりするんですけど、アイデアもすっと出ました。あと、最初に打ち合わせしたときに……ね?(笑)
村上:あぁ!(笑) 「国境はなかった」はメッセージ性が強くて、歌詞の一行一行全部に説明や図式を付けて渡して、プレゼンしていたんですよ(笑)。僕自身が神経質で、自分の想像と違ったものが出てきたときにすごくヘコむので、「こうしてほしい!」という意図をそういった方法で伝えたんです。そうしたら、僕が表面化していなかった向こう側の感情まで全部汲み取ってもらって、完全に「国境はなかった」の楽曲のイメージそのままで作って頂けて。あれは本当に凄かった。
高橋:あの図や式を見たときに、「これは生半可な気持ちでやれないな」と思いましたね(笑)。
飯野:その資料も、鹿児島から東京へ向かう飛行機の中で書いていたらしくて。隣の席の人にも絶対「何なんだこの人!?」って怪しんでいただろうね、ってみんなで話してました(笑)。でも当時は楽曲を作る際にも、作業が難航したり村上の想いが強かったりしたときには同じように資料をくれていたんですよ。
村上:当時はやっていましたね。でも、そこから「MOTHER」、「サラバ」と続けて作ってもらう中で、徐々に健人さんのイマジネーションに頼って作って頂くようになりました。そこからはもう安心して撮影に入っていましたし、今作もほぼ全部おまかせでしたね。健人さんの魅力は、こんなに穏やかそうな人柄なのに、結構毒があるところだと思っていて。斜めから見る視点や、健人さんが作品に込めるメタファーが僕はすごく好きなんです。今回の「自由」では砂時計がメタファーになっているんですけど、分かる人には分かったり、繰り返し観ることで気付くことがあったりする作風が、他の監督さんにはないところだと思っています。
――今の指摘は、高橋さんご自身にも覚えがあるものですか?
高橋:そうですね。そういったところは、自分でもかなり意識しています。アイデアを考えるときには、一番遠くから考えるようにしているんですよ。裏に意味をいっぱい隠して、あえて表からは分かりにくいようにするという作り方が好みなので、そういったところがテスラの音楽性とバチっとハマっていつのかな?と思います。
村上:「遠くから考える」ってどういうことですか?
高橋:思考法が2つあって、1つは思いっきりベタなことを考えて、そこから連想させて遠ざける手法。もう1つは突拍子もなく思いついたテーマに基づく手法ですね。「自由」と砂時計の組み合わせは、割と近いところから発想していきました。村上くんと話しているときに、彼が「自由は無限ではなく、有限だ」と言っていたんですよ。そこから、終わりはあるけれど、繰り返し回り続ける砂時計がイメージとしてリンクするなと思ったんです。
村上:いや、凄いですよ。映像のタネ明かしをするのはナンセンスだとは思いますけど、逆らえないものを自分の手で回して、“抗えないもの”と“操れるもの”を砂時計と回転する映像で表現する発想は、マジでどうかしてるなと思いますね(笑)。本当に凄い。
テスラは泣かない。 / 高橋健人 撮影=菊池貴裕
飯野:「自由」の映像は、私たちが楽曲を作る上で共有していたイメージとのリンクっぷりがこれまで以上に顕著に表れていましたね。繋がっているようで繋がっていないかのような連続する“点”が最後に繋がるんですけど、今作の中だけで点が繋がっているのではなくて、これまでの道筋とも繋がっているというチーム感も、今回はかなり強く感じました。鳥肌が立つようでした。
高橋:“連続する点”ということで言えば、テスラの楽曲を映像にするときには、一枚の画でバンっと伝えるよりも、細かい画の蓄積でキャラクターが出来上がっていく方が素敵だなと思っているんです。だから、正面ではなく、手元や足元のカットが比較的多くなっているんですよね。そうやってジグソーパズル的な見え方にしたいというのは、毎回意識しているところです。
今回は“日常と非日常”の二面性をテーマにしようと思って「自由」の映像制作に入ったんですけど、今までのテスラの作品を観返したら、どの作品にも対比があることに気付いたんです。それは何故だろう?と考えて思ったのは、自分がテスラの曲を聴くときには、聴いている気分によって聴こえ方が変わるな、ということでした。気持ちが落ち着いているときは冷静に歌詞の世界観に浸ることができるし、逆に高揚している時に聴くとメロディの激情がダイレクトに伝わってくるというか。多分、最初から無意識のうちにそういったところを表現していたんだなぁと思いました。
村上:うわー、それすごい嬉しいなぁ……! ミュージシャンはぶっちゃけた話、フェスで演奏したときに手が上がらなきゃいけないっていうところは、わりと狙っていると思うんですよ。それは僕らも音楽を生業にしている以上、狙うところではあるんです。でも、自分が言葉を紡いで表現する以上は歌詞や世界観を提示していきたい。逆に言えば、そういった相反する想いのせいで葛藤が生まれるんですけど。だから、そういう面を汲み取ってもらって映像として表現してもらえているのはめちゃくちゃ有難いですね。
――「自由」も砂丘でのシーンと日常のシーンのコントラストが際立っていますよね。あと、SNSで公開されていたメイキング映像の最後のシーンで「一生忘れないわ」と言った高橋さんの言葉の直前に「過酷だった」という言葉が聞こえますが、そんなに過酷だったんですか?
一同:超ツラかったです!(笑)
村上:あのメイキング映像を編集したのは僕なんですけど、健人さんの「一生忘れないわ」の後にみんなで延々と愚痴を言っているのは全カットしました(笑)。
健人:風や砂ももちろんキツかったんですけど、斜面が急すぎて楽器を運ぶのがめちゃくちゃ大変でしたね。
飯野:キーボードを弾いているときもグラグラだったんですよ。今回のMVを観た友達や家族から「弾き様が凛々しいけど、弾き方変えた?」って訊かれたんですけど、そのときは「変えたよ~」なんて言ってはいたものの、実際は足元がぐらついていたから男らしく弾いていたっていう(笑)。
村上:撮影中に健人さんに「テスラ、ちょっと色気出てきたね」と言ってもらえたのがめちゃくちゃ嬉しかったですね。
飯野:え、それいつ言われたの?
高橋:砂丘のシーンを撮っているときの、日が暮れる直前くらいだよね? なんか、若さだけじゃない熟練感が出てきた感じがしたんだよね。
村上:いや、そうなんですよ。エモく頭振っておけば格好良くなるとは思うんですけど、確かに年齢重ねて、身体を動かしていると、なんていうんですかね……はしゃいでいるように見えたくないというか。自分たちが気持ちよくなっているだけじゃいけない、という思いがあるんですよね。希望だけで音楽をやっていないし、売れるぞ!とか一発当てるぞ!とかの気持ちだけじゃなくて、ロックをすることは、同時に悲しみもあると思うんですよ。人が通常の生活をする中で、何かに成りきって、音楽に噛り付いて、身体を揺らすということは、少なからず悲しみがあるものだと思っていて。
でも、そういう感情から滲む“憂い”が、暗く見えてしまったら本末転倒だと思うんですよ。音楽は人の背中を押すものであるべきだし。だから、そういう自分たちの葛藤や憂いが、健人さんの映像の中では“美しさ”として昇華しているのは凄いと思いますし、それは今まで僕らの軌跡を見てきてくれている健人さんだからこそだなと思いました。
テスラは泣かない。 / 高橋健人 撮影=菊池貴裕
――これまでの作品を観ても、そういった両者の理解の深さや信頼関係はもちろんのこと、テスラは泣かない。の楽曲と映像の親和性の良さは抜群だなと思います。
村上:楽曲を映像化するというイメージは、楽曲を作る時に常にありますね。作曲をするのと同時に頭の中に映像を浮かべて作っていますし、逆に映像にしない方がナンセンスというか。
飯野:アルバムを作っていく中で、「あ、この曲がリード曲になりそうだな」という方向性が決まり始めた段階で、村上さんの頭の中では曲を完成させようとするのと同時に、映像のことも考えているんだと思うんですよね。「ここのアレンジのところでこうしてほしい」みたいな。
村上:映像と音楽って、合致した瞬間に一緒に心中するものだと思っているんです。だから本当にマッチしないと残念なことになるし、その点で健人さんと作り上げた6作品に関しては、本当に全部お世辞抜きでちゃんと心中していると思っています。
高橋:なんか“心中”って言い方、良いっすね(笑)。
テスラは泣かない。 撮影=菊池貴裕
――これまで最も近くで映像を撮り続けてきた高橋さんから見て感じるテスラの変化ってありますか?
高橋:「アテネ」辺りから、音楽的にも人間的に質感が変わった気がするんですよね。人間臭くなったというか、柔らかくなったと思います。
飯野:私たちとしても、そう言われることが多くなりました。
村上:その点に関しては、思い当たりありまくりですね。メジャーデビューをして鹿児島から東京に来て、当時は背伸びをしていたところはあるんですよ。それから吉牟田(直和/Ba)が学業専念のために1年間バンドを抜けて、また戻ってきたことで、バンドができることは当たり前じゃないというか、自分は自分以上でも以下でもないということを強く感じたタイミングではありましたね。
高橋:本当にめちゃくちゃ良くなったもん。
村上:本当ですか? え、じゃあ逆にですよ? 初期の頃は「調子乗ってんなこいつ」って思ってました?(一同爆笑)
高橋:思ってないよ! 何でそんな悪口言わせようとしてんの(笑)。もちろん、さらにっていう意味ですよ!
飯野:言わせちゃったよ(笑)。でも健人さんが、音楽だけじゃなくてこういう村上の捻くれたところも受け止めてくださっているからこそ、私たちもずっとお願いできているんです。
――音楽だけではなく、人間性や成長を近くで見てきた人だからこそ任せられているところは大きいんでしょうね。「背伸びをしなくなった」というお話でいえば、最新アルバム『CHOOSE A』もそういった印象がより強く感じられる作品だと思いました。11年目を迎えたバンドの余裕というか、培ってきたスキルに遊び心が上乗せされているように感じるのですが、バンドの今のメンタリティーはどういったものですか?
村上:「自由」という曲を出せるくらいには、本当に自由に制作できましたし、『CHOOSE A』の楽曲作りのなかで“オルタナティブ”というキーワードがよく出ていたんです。僕ら自身、NUMBER GIRLbloodthirsty butchersのような昔のオルタナロックがすごい好きなんですけど、オルタナってそこまで多いジャンルではないと思うんです。でも、自分たちはロックでありオルタナであり続けたい。10周年を終えて11年目に入ったということで、それなりに自分たちの身の丈を知ることができているという実感が生まれましたし、「自分たちにはこれができる/これしかない」という理解の下で表現することさえできれば、誰かの真似ではないテスラ流のオルタナになることが分かったというか。そういう意味では、今作でやりたいことがやれている気はしますね。
――歌詞に関しても、開き直ったという言い方は語弊かもしれないですけど、受け入れた上でどう進むか?という意味合いを含むものが多い気がします。「冒険」の<必要なのは希望なんかじゃない>はまさにそうですし、<必要なのはスポットライトを照らすイメージ>という歌詞も印象的でした。
村上:<スポットライトを照らすイメージ>のフレーズに関しては、“自分”にスポットライトを当てるイメージなんです。自分の見たくない部分にスポットライトを当てる、という意味合いですね。“希望”と言うと明るいところを目指すように思われるかもしれないけど、そうではなくて、冒険=自分自身の見たくないところやダサいところにスポットライトを当てて、自分の身の丈を知ることなんじゃないか?と思って書きました。
高橋健人 撮影=菊池貴裕
――なるほど。そうした“弱さ”を肯定して歌うことは、勇気のいること=怖さでもあると思うのですが、それを歌えるようになったというのはバンドにとって大きい変化ですね。
村上:まさにそうですね。やっと自分のことを一人称で歌えるようになったなと思います。恥ずかしいことは恥ずかしいんですけど、良い意味で開き直ることができている気がします。
高橋:僕が一番変化を感じたのは、ライブでの変化ですね。昔にテスラのライブを観たときは単純に「めちゃくちゃ上手いな」と思ったんですけど、何年後かに観たときにはもう別人のような印象でした。迫力が違ったし、「マジでMV撮りたいな」と思いました。
村上:めちゃくちゃ嬉しいな! 少し前にライブにも来てくれて、そのときに今作に収録されている「融点」を完成したばかりの新曲として演奏したんですよ。そしたら健人さんが「新曲良かったですよ。画はだいたい思い浮かびました」って言ってくれたんです(笑)。
高橋:この曲作るんだ、と思ったもん!(笑)
飯野:違ったー!(笑)
高橋:実はもうアイデアもあったんですよ。
村上・飯野:えー!!!
村上:マジすか? うわー、じゃあいつか作りたいですよね。ちなみにどんなアイデアだったんですか?
高橋:ライトを大胆に動かして、影をぐわっと作りたいなと思って。人が立っていて、後ろにビルとか大きな壁とかを持ってきて――みたいな。
村上:それをライブで聴きながら考えていたんですか? すげぇな……。
高橋:あと、ライブも撮りたいですね。チャンスがあれば。
村上:いつでも! 俺らも健人さんの表現の幅の広がり方に追い付けるように頑張っておきます。

取材・文=峯岸利恵 撮影=菊池貴裕
テスラは泣かない。 / 高橋健人 撮影=菊池貴裕

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