吉川晃司、35周年ツアーファイナル。
信念がアップデートされた夜
Photography_Takashi Hirano
Text_Aki Ito
存在自体がパンクだった
存在時代が、パンクだった。既存のセオリーから、はみ出していたのである。
このスピリッツは、今でも吉川晃司を形成する中で、最も重要なファクターだ。
ヒットシングル連発、その変化
3曲終わったところで、この日最初のMC。「35周年なんで、懐かしいあんな曲からこんな曲までやっていきますよ」とチャーミングな笑顔を見せた後「17歳の時に弾いていたギターです。まだ元気だった」と、1985年1月に発売されたシングル「You Gotta Chance ~ダンスで夏を抱きしめて~」へ。吉川晃司主演映画の主題歌にもなったこの曲は、初めてシングルでチャート1位を獲得した1曲でもある。80年代ならではの打ち込みを重ねたインパクトのある三連符から始まるビートチューンに、会場が即座に反応してバウンドする。ここからは、まるで「1人でベストテン」。80年代中盤のヒットシングルを連発していく。「にくまれそうなNEWフェイス」では、右手をひらひらさせるリリース当時のアクションを見せたかと思えば、最後にはキーの一オクターブ上を地声で歌うというアドリブも披露。「サヨナラは八月のララバイ」の最後のシャウトでは、これまで滅多にやらなかったフェイクも見せた。懐かしい曲が思い出のシャワーのように、観客に降り注ぐ。イントロが始まる度、大歓声があがり、会場のボルテージも、一気にレッドゾーンまで振り切られた。
これまでの周年ライブでも、懐かしい曲はセットリストに組み込まれていたが、メドレーに入れられることが多かった。また、アレンジも象徴となるような音色やフレーズは残すが、生バンドのサウンドを前面に出したスタイルに変えられていたように思う。しかし今回は、違った。すべての懐かしい曲をフルで歌い、アレンジもなるべくリリース当時のままで再現しようとしていたように思う。もちろん、バンドメンバーのスキルとエネルギーで、とてつもなくダイナミックには、なっていたのだけど。
この変化は「ライブは観客のためにあるもの」という吉川晃司の信念がアップデートされた証拠だろう。
バラードでも座らない観客
吉川晃司のスピリッツをしっかり受け止めている観客の心意気も、また素晴らしい。
肌にビリビリくるギターロック
2020年の全国ツアーを発表
「新しいホールができるので、(2020年の)5月にこけら落とし3daysやる予定です。そこからツアーがスタートするのかな。来年もしっかり音楽をやっていきたいと思っています。楽しみにしていてください」。
「オリンピックまでは歌い続けるから」と、水球日本代表Poseidon Japan公式応援ソング「Over The Rainbow」を披露。「SPEED」「せつなさを殺せない」と、最後まで観客を躍らせ、歌わせた。ファイナルのフィナーレを迎え、上気した笑顔と「ありがとう」という歓声、鳴りやまない拍手。それぞれの思いが会場に溢れる。ステージ上の吉川、バンドメンバーにも、観客にも、光る汗が見える。照明にあたり、キラキラ光る汗。満足げな表情とも相まり、まるで小さな勲章のように見えた。
明るくなった会場に吉川が語りかけるように言う。
「笑顔で再会を。気を付けて帰ってください。今日は本当にありがとうございました」
この日、深夜から早朝にかけ、大型台風の上陸がアナウンスされていた関東地方。ライブが終わった後、観客の帰路を心配し、ステージ上から「気を付けて帰って」と繰り返しアナウンスしていた吉川晃司。1人の人間として仲間を案ずるその姿が、とても印象的だった。
吉川晃司は止まらない
吉川晃司は止まらない。「止まったら死んじゃうから(笑)」と本人はインタビューで笑っていたし、たぶん、本当にそういう性分なんだと思うが、じつはそれだけじゃない。
求める人がいるから、止まらないのだ。
たぶんみんな、あの汗を求めている。ちょっと乱暴に言ってしまえば、情報でさえ不確かな時代に、時間を共有し、心を通わせる、そんな確かな空間を求めているのだろう。
だから吉川晃司は止まらない。多くの人と“確かなもの”を、共有するために。
吉川晃司 オフィシャルサイト
吉川晃司 スタッフ Twitter
吉川晃司、35周年ツアーファイナル。信念がアップデートされた夜はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。
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