【インタビュー】sleepyhead「得意な
こと、カッコいいことを突き詰めよう
って心が晴れた」

sleepyheadが3rd EP『endroll』をリリースした。武瑠の盟友であるTHE ORAL CIGARETTES山中拓也とコラボレーションし、MVでも共演している表題曲「endroll feat. 山中拓也(THE ORAL CIGARETTES)」は、繰り返し続ける光と影から産まれる希望がコンセプトのナンバー。アーティストとして共鳴しあう2人のピュアネスが混ざり合い夜明けへと溶けていくような広がりと中毒性を持つ楽曲となった。そんな山中との運命的な出会いのエピソードや武瑠がバンド時代に抱えていた葛藤、sleepyheadとして3D音楽をコンセプトに掲げ活動していく過程でふっきれたもの、そして、すでに青写真ができているという2ndアルバムについても語ったロングインタビューをお届けする。

■sleepyheadでは純粋に自分が得意なことや
■やりたいことをやろうって切り替えられた

──sleepyheadが始動して約1年半、独自企画の“カジノ型エンターテインメントショー”の開催や上海でのライブなどいろいろな試みをしてきたと思いますが、いま感じている手応えは?

武瑠:2nd EP『meltbeat』が完成してsleepyheadの土台ができた実感があって、その上で初めての全国ツアーを廻ったんですけど、バンド(SuG)時代より盛り上がって、自分もファンもお互いに成長したのを感じられたんです。それもあって、対バンしようと思って今年の5月以降はかなりライブの本数を増やしたんですけど、やってみて来年はライブを減らそうかなって。

──なぜ、そう思ったんですか?

武瑠:音楽シーンの構造がちゃんと理解できたというか、動員を増やすとか、規模を大きくするためにはジャンルって不可欠なんだなって。sleepyheadはジャンルを特定していないので、ジャンルがはっきりしているイベントにいきなり飛び込んでこじ開けようとするやり方は、やってみて楽しくないって思ったんです。だったら、カジノ型ライブのような自分が得意とする企画型のものを考えたり、ぶっとんだ映像を作ったり、アートワークにもっと時間を割くほうが大事だなって。

──闇雲にライブに出るのはちょっと違うのかなと?

武瑠:そう。得策じゃないなと思いました。例えたら総合格闘技をやってる人がボクシングの試合に出るみたいな感じがして。ワンマン展開だけにするとか、もっと絞っていこうと思いましたね。

──その一方でsleepyheadを始めてから表現することにおいて理解しあえる仲間が増えたのではないですか?

武瑠:そうですね。ライブを通じて仲良くなるっていうのはそんなにないんですけど、今回のEP『endroll』で、やまたく(山中拓也)と一緒に曲を作ったり、前作『meltbeat』でギターを弾いてもらったDURANくんやichikaくんだったり、WHITE JAMだったり「楽しいから一緒になにかやろう」っていう仲間は増えてきました。お互いに求めあったときにやろうよっていう、ある意味、純粋な付き合いができる友達というか。
──3rd EP『endroll』のタイトル曲「endroll feat. 山中拓也(THE ORAL CIGARETTES)」は山中さんとの共作曲ですが、仲良くなったキッカケは?

武瑠:最初はsleepyheadのコーラスをやってくれているimariが THE ORAL CIGARETTESと仲が良かったこともあってライブを見に行ったんですね。そのときは直接話すことはなく、繋がったのは俺がバンド時代に自分の名前を伏せて撮ったファッション系のCM映像を通してなんです。やまたくがその映像を気に入って、自分がやっているブランド(million dollar orchestrA)に共通のスタッフがいるので誰が撮ったか聞いたら「SuGの武瑠くんだよ」って。それで話をするようになったんですよね。

──じゃあ、知り合ったのはバンド時代なんですね。

武瑠:そうですね。で、「いつか映像を撮ってほしい」って言われて、そのときは俺もバンドを解散して音楽をやめようと思っていたので「じゃあ、撮るよ」って。それがTHE ORAL CIGARETTESの「PSYCHOPATH」のMVですね。

──クリエイティブ・ディレクターとして関わったんですよね。

武瑠:はい。「いつか一緒にやろうね」って言ってた頃は、やまたくに「音楽続けたほうがいいよ」って言われていて、「やー、でも、ジャンルとかないし、めんどくさいんだよね」って答えてたんですよ。音楽シーンのいろんな側面を見てなにもやりたくなくなっていた時期だったので。

──かなり落ちてたときに知り合ったのが山中さん?

武瑠:めちゃくちゃ落ちていて、一時期は週3ぐらいで遊んでいましたね。いま思うとアイツもなんでそんな時間があったのか謎ですけど(笑)。

──山中さんも武瑠さんを親友だと発言していますよね。

武瑠:俺はそういう存在がいなかったから印象的な出会いでしたね。やまたくはいろんな人にちゃんと正面から向き合って愛を注げるんですよ。俺は人間関係を絞って付き合うタイプなので、愛の容量がすごいと思いました。その分、ためこんじゃう性格かもしれないけれど。
──同じアーティスト同士、共通点を見出したんでしょうね。

武瑠:そうですね。規模は違えど真ん中でバンドを動かしていくプレッシャーだったりファンに求められているものをわかりつつ、アートワークやクリエイティブな面で半歩先を行きたいっていうところで抱えるジレンマだったり。必ずしも最新のものや尖っているもの、感性豊かなものが支持されるわけじゃないから、彼も葛藤している時期でいろんなことにトライ&エラーしていましたね。俺もバンド時代にさんざん味わってきたことだったからシンパシーを感じたんですよね。

──わかりやすかったり、らしいものが求められている状況がある一方で、いまやりたいことを形にしたいというジレンマということですか?

武瑠:例えば「この曲、面白い」っていうのが好きになったキッカケだとしたら、その人に超シリアスな曲は求めないじゃないですか? こういう気分になれるからSuGを聴くとかTHE ORAL CIGARETTESを聴く人が多いと思うんですよね。そこから外れて進化していくのって難しくて、そこにちゃんと折り合いをつけて求められるものをやる人もいれば、トライしてみてから戻る人もいる。俺とかやまたくは戻れない人種なんですよね。

──先へ先へと表現を進化させていきたいタイプ?

武瑠:そうですね。俺の場合はメジャーのときは「音楽をやる以上はたくさんの人に聴かれないと」とか「スタッフに返せるのは数字だけだよ」ってずーっと言われてきたので、バンドの最後の2年間は「やりたいことをやるためにはやりたくないこともやらなくちゃいけない」とか、どんどんハマっていく感覚があったので、これ以上続けると仕事になっちゃうなと。そう思ったのが解散のひとつの理由だったんです。チャートの10位以内に入ったら落ちることは許されないみたいなプレッシャーがあって、それがパワーになったりもするんですけど、ちゃんとやってこられたので、sleepyheadでは純粋に自分が得意なこと、やりたいことをやろうって切り替えられた。いいタイミングだったのかもしれないですね。

──独立はちょうどいい転機だったんですね。

武瑠:とは言え、最初はまだモヤモヤしていたんですけど、この1年ぐらいで大多数の人たちに向けて言葉や音楽を放つのは自分の役目ではないなって気持ちが晴れてスッキリしたんですよ。もっと得意なことを突き詰めようと。

──そんな気持ちで向き合ったのが今作なんでしょうか?

武瑠:今作がそうというわけではなくて、1stアルバム『DRIPPING』(2018年)を作り終わった頃から2ndアルバムは『SENTIMENTAL WORLDS END』というタイトルにしようって決めていて、どうしたらいいアルバムになるのかずっと考えてきたんです。すぐに出すのは力不足なので、1st EP『NIGHTMARE SWAP』を作って、考案中のアルバムからのシングルカットみたいなイメージで2nd EP『meltbeat』(2019年)をリリースした。そしたらsleepyheadというものを掴めた感触があったから、もっとレベルを上げられると思って自分の中のテクノな部分を昇華して作ったのが今作です。アルバムでは切なくて踊れる音楽を作りたいと思っているんですが、それはsleepyheadが始動したときからやりたかったこと。1stアルバムではやりきれなかったのでいままでのEPはそこに向かう成長過程みたいに捉えているんですね。

──では今作もアルバムへと続いていく流れなんですね。

武瑠:そういうつもりで曲を書いています。
■映画の最後に流れるエンドロールって内容を反芻する時間で
■そこからまた新しい自分になるという感覚があった

──「endroll feat. 山中拓也(THE ORAL CIGARETTES)」は武瑠さんから声をかけて「一緒に作ろうよ」と?

武瑠:そうですね。成長過程の意味あいと音楽的にもっとレベルを上げたいと思っていたこともあって、実験的な場が欲しかったんです。「endroll」はタイトルと公開されているMVのイメージがあった上でやまたくとittiというトラックメーカーと3人で「どういう感じにする?」って話して作った曲。ittiがまずリズムトラックを作って、やまたくがそれにコードとメロディをつけて最後に俺が歌詞を書くっていう。

──3人で共有したイメージは?

武瑠:“陽はまた昇り繰り返す”みたいな。映画の最後に流れるエンドロールって自分にとっては内容を反芻する時間で、そこからまた新しい自分になるという感覚があったのでスタート的な意味あいで作っていますね。

──エンドロールなのに始まりの曲とも受け取れるのはそういうことだったんですね。ギターのアルペジオから始まって想像がつかない展開をする曲で、音の広がりと武瑠さんと山中さんのボーカルのコラボが美しい。

武瑠:やまたくの声が太くてローとミドルが特徴的なのに対して、自分は息の成分とかハイの部分が強い声なので重なったときに、お互い邪魔しないというか心地いいんですよね。やまたくがアレンジもしている曲なんですけど、自分だったらここまでギターを入れないっていうアプローチをしてくれて、ittiのトラックとめちゃくちゃ相性がいいなと思いました。テクノで無機質なサウンドに多くの人が心を掴まれるやまたくのキャッチーなメロディがカチッとハマって、作る過程も楽しかったです。誘う以上はいままでやまたくがやったことがない空気の曲にしたかったので。

──ittiさんはドラムンベースのDJなんですよね。

武瑠:そう。クロアチアのフェスとかに出てる謎の日本人なんですけど7~8年来の友達で今回、がっつりオファーさせてもらって。

──歌詞の“憧憬は今も明日への道標”はつねに思っていることなんですか?

武瑠:いつも忘れちゃうことなんだけど、結局、原動力になっているのは自分がカッコいいって憧れる世界観だなって。さっき話したように「こうしたほうがいろんな人たちに届く」とか「話題になったほうが勝ち」みたいな邪念に惑わされたりするけど、自分の中の純粋な声に耳を傾けたら「カッコいいことをやってカッコいいって思われないと結局、楽しくないんだよな」って。
──立ち戻る想いなんですね。今作はittiさんがトラックを手がけたインスト「doors」で始まりますが、映画のオープニング曲みたいな立体感と迫力がありますね。

武瑠:ittiはホントに面白くて音楽をまったく知らないのにDJをやってたヤツなんですよ。メジャーデビューした頃、俺、毎週ファッション系のパーティやっているようなクラブに行ってたんですけど、当時そこに出入りしてた人がいまはみんなブランドやってたり、VJになったりしてるんです。プロディジーのメンバーやBIG BANGも来てたりとか。そこでittiがDJをやっていて当時からカッコいいなと思っていたんですけど、しばらく連絡とらないうちにプロになっていて、イギリスのレーベルから出ている音源を聴いたら「こんなに進化してるんだ?」って。で、連絡して「ちょっとやってよ」っていう流れで前作に収録されている「heartbreaker」に参加してもらったら、メガトンパンチなサウンドでギターがなくてもここまで盛り上がれるんだって思ったんですよね。

──ドラムンベースでもかなりダークな世界観ですよね?

武瑠:めっちゃダークですね。それこそ日本じゃ絶対売れないでしょっていう(笑)。音色選びがとてつもなく上手いんですよね。

──そんなiitiさんと武瑠さんの化学反応が刺激的な3曲目の「dark side beach」はキテるというか、とがってるなと思いましたよ。

武瑠:ははは。この曲はittiのリズムトラックありきで俺がコードとメロディをつけたんですけど、マジで挑戦ですね。これからの自分の指針に繋がる曲で、自分の中ではめちゃくちゃカッコいい曲。

──カッコいいです。日本のポップシーンでは間違いなく異色だけど。

武瑠:でもsleepyheadならイケそうな感じはするんですよ。音楽が主役というよりレーザーとかの照明や映像と合わせたらさらにカッコよくなるだろうなって。ツアーファイナルのBLITZに向けて絶対に必要な曲ですね。

──タイトルに“beach”ってついてるけど密室感ハンパないです(笑)。

武瑠:前回のツアーが終わったあとハワイに行ってみたんですよ。子供の頃に一度行ったことあるんだけどつまらなかった印象があって、今回行ってみたらやっぱりそんなに面白くなかった。自分に合ってないんですよね。
──ハワイのどこがピンと来ないんでしょう?

武瑠:うーん。日本人ばっかりだし、タイのビーチのほうが面白いなって。しかも向こうで救急車呼ぼうかと思ったほど体調が悪くなって急性腸炎で入院したんですよ。せっかくハワイに来たのに毎日点滴打って、夜の暗い海を「自然って怖いな」って違うベクトルで見てて(笑)。

──だからこんな暗黒ビートの曲が生まれたわけですね。

武瑠:そう。せっかくならこの経験を無駄にしないようにしようってハワイでベースのリフを考えてボイスメモに録音して日本に帰ってittiに投げて。

──南国で災難に見舞われてもただでは転ばなかった。

武瑠:それからいろんな体験しようと思って毎月、どこかに旅行しようかなってモードになっています。この前も香川県の直島に行ってきたんですけど、島自体がアートですごく良かった。そこで知り合った人に無人島に連れていってもらって映像もいっぱい撮ってきたんですけど、スマホばっかり見ていたらホントに世界が小さくなってきちゃうなって。画面の地図だけで完結しちゃうのは危ない。いまは情報勝負の時代って叫ばれてるけど、自分は情報と感性の掛け算だなと思っているので、感性を狭めたくないなと思いました。

──確かにその通りですよね。そして4曲目「bedside」はR&Bテイストで武瑠さんらしい切なくメロディアスなラブソングです。

武瑠:自分がいちばん得意とするタイプの曲ですね。こういうテイストの曲はストックにたくさんあるんですけど、『endroll』というタイトルに決まった時点でキャッチーな曲を入れたいなって。

──歌詞にも“流れない今日もエンドロール”って出てくるので繋げた部分もあるのかなって。

武瑠:そうですね。歌詞は出だしの“ベッドサイドに忘れてきたのは 伝えようとしたハズの「さよなら」”っていうところから書いたんです。前作に入っていた曲「akubi_girl」はいちばん再生数が多くて、関係者からも「こっちをタイトル曲にしたほうが良かったんじゃない?」って言われたんですけど、自分の声や感性に合っているのかなって。それで試しに「akubi_girl」のコード進行をそのまま使ってみようと思って作ったのが「bedside」です。

──コード進行が同じなんですか?

武瑠:全く一緒です。イントロもサビもAメロもBメロも。構成もあえて似せています。いわゆるR&Bの王道のコード進行なんですけど、メロディとアレンジとテンポ感でこんなに変わるんだと思った曲です。

──今作がさっき話してくれたアルバムに繋がっていくイメージですか?

武瑠:そう。ただ現状、EPに入れた曲はアルバムには入れない方向で考えてます。いちばん得意な音楽を詰め込もうと思っているんですけど、踊れる曲とダークな曲のバランスをどうしようかなって考えているところです。リリースは1年ぐらい先になる予定なんですけどね。

──10月からスタートするツアーのファイナルはsleepyhead史上、最も大きな会場となるマイナビBLITZ赤坂ですね。

武瑠:そうなんですよ。最初はノンジャンルでソロでBLITZでしかも平日ってムリじゃない?って思ってたんですけど、決め手はBLITZがライブ営業を終了することを知ったからですね。「じゃあ、やっとくか」って。SuGのメジャーデビュー後、初のツアーのファイナルもBLITZだったし、THE ORAL CIGARETTESのライブを初めて見たのも、昔MIYAVIさんのライブを見て悔しくて泣いたのもBLITZ。思い入れが強くて音もいい会場なのでこれは「挑戦しろ」っていうタイミングなのかなと。大きな会場でぶっとんだことやろうと思っています。

──3D音楽のクリエイター、武瑠さんの全てを注ぎ込むような。

武瑠:ツアーで曲を育てて臨みたいですね。いま考えているのはダンサー50人ぐらい呼ぼうかなって。セットも映像も照明もこだわって、ひとりの強みを活かしてツアーの収益金をすべて使うような見せ方をしたいと思っています。

取材・文●山本弘子
リリース情報

3rd EP『endroll』
2019.9.25 Release
SACT-0008 ¥1,800 (税抜価格)+税
1.doors
2.endroll
3.dark side beach
4.bedside

ライブ・イベント情報

<sleepyhead LIVE TOUR 2019>
2019/10/14[月/祝] 横浜Baysis
2019/10/19[土] DOMe柏
2019/10/22[火/祝] 下北沢 BasementBar
2019/10/26[土] 前橋ダイバー
2019/11/2[土] 名古屋 ライブホール M.I.D
2019/11/3[日] 梅田 Zeela

<sleepyhead LIVE TOUR 2019 FINAL>
2019/11/21[木] マイナビBLITZ赤坂

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