本水使い、左右同時宙乗り、大スペク
タクルの超大作活劇 スーパー歌舞伎
II『新版 オグリ』いよいよ開幕

2019年10月6日(日)から東京・新橋演舞場にてスーパー歌舞伎II『新版 オグリ』が開幕する。本作の公開稽古が5日同劇場にて行われ、本番さながらのど派手な芝居が披露された。
公開稽古の前に行われた囲み会見には本作の主人公“オグリ”こと、小栗判官を交互出演で演じる市川猿之助と中村隼人が登場し、初日を前にした心境を語った。
本作の演出も勤める猿之助は今の心境について「初日前の独特の、勝つか負けるかというヒリヒリした感覚、超高額のスロットマシーンをやるような心境と一緒。まさにギャンブル」と笑いを誘いつつ「多分勝つと思います。いい仕上がりになっていると思いますよ」と笑顔を見せる。
隼人はこの日初めての通し稽古としたそうで、「昨日猿之助兄さんのオグリを見ましたが、歌舞伎『ワンピース』でもなく、従来のスーパー歌舞伎でもない仕上がり。作品作りの力になれれば」と語った。自身が演じる野武士のオグリたちについて、「現代でいうところの半グレ集団。それをどう演じるかが面白い。またすべてを持っていた男が閻魔大王によってすべてを失い餓鬼病(がきやみ)となる落差、その病が治った後の歓喜の落差を楽しんで演じたいです」と話していた。
猿之助は隼人と同役を交互出演する事について「人生をより多く経験している人と若さの絶頂にある人。全然違いますね」と微笑み、「この違いが(役に)どう出るか楽しみですね」と口にした。
「舞台がシンプルに映像と鏡だけ。だから芝居力がモロに出てしまう」とこの作品の怖さを語る猿之助。「本作の元となる『オグリ』は伯父の(二代目市川)猿翁が20数年前にやりました。当時から映像を使った演出とかをやりたかったが、技術が追い付いてなくてできなかったんです。20数年たってやっと伯父の発想に時代が追い付いた。今度はそれを僕の身体を使って実現するんです」と胸を張っていた。
「今回、今まででいちばん深い芝居になると思います。泣けると思います」と語る猿之助に「そのとおりでございます」と相槌を打つ隼人。「本水だったり、演舞場初となる馬に乗って左右同時宙乗り、プロジェクションマッピングやLEDパネルを使った映像技術。そして今回お客様の頭上が星空になるところも見どころとなるのでは」と嬉しそうに述べていた。
(左から)中村隼人、市川猿之助
公開稽古の模様をお伝えしよう。※この日、オグリ役は猿之助が務めた。
小悪党の集団・小栗党の6人が、意に沿わぬ嫁入りをする直前の照手姫(坂東新悟)を奪い去る場面から話が始まる。隠れ家に現れた頭目・オグリは照手に自由に生きろと語る。そんなオグリにいつしか心を寄せていた照手は父親の前でオグリと一緒になりたいと宣言するも、反対され、二人は手に手をとって逃走。
夫婦の誓いを交わし、バラの庭を前に一同は歓喜の舞を踊るが、刺客の放った毒矢で照手以外全員が倒れてしまい、照手も元の縁談を破談にした償いとして相模川に沈められる事となる。が、牢番の配慮で照手は川を流されることに。(一幕)
川に流された照手は翁(石橋正次)に助けられ、小鮎と名前を変えて生活をするが、妻の悋気を受け、人買いの手に。一方、命を落とし、地獄で閻魔大王(浅野和之)と対面したオグリたちは、仲間たちを馬鹿にされ、閻魔堂を破壊する。(二幕)
閻魔大王はある想いからオグリを生き返すが元のオグリではなく餓鬼病姿にしていた。通りがかりの遊行上人(隼人)がオグリに水を飲ませ、土車と木の札を用意し、村人と共にオグリを引いていくことに。そのころ遊女屋に売られた照手は名前を小萩と変え女中をしていたが、店先にいる餓鬼病に心を痛め、数日間暇をもらって餓鬼病の世話をする。実はその餓鬼病こそが昔愛を誓ったオグリだった。その事に気が付いていない照手にオグリは……。(三幕)
舞台上に設置された大きな鏡は出演者だけではなく観客も映し出す。そこに映る人や提灯の灯りは現実のものか鏡に映しだされたものか、いつからか判別できなくなっていた。まさに「全員参加型」の芝居の様相となっていた。
会見で話していたとおり、映像で映し出される美しいバラの庭、川面や満月が幻想的に浮かび上がる中、オグリたちと照手はそれぞれが血の通った熱量の高い芝居を繰り広げる。オグリは当初、自信と力をみなぎらせ、向かうところ敵なしといった状態で、本水を使って勇壮たる立ち回りを見せる。ところが三幕で手脚が上手く動かず、顔も半分痛んでしまった餓鬼病姿となってからは、自問自答を繰り返し、いつしか他人を思いやる事の大切さを知る。猿之助は一、二幕の勢いと三幕とのギャップを見事に演じ分け、後半は思わず目に熱いものを感じさせる。
そして照手役の新悟は、オグリへの想いを胸に、どんな境遇に置かれてもポジティブに生き抜こうとする美しく、知恵とあたたかい心を持った女性を力強く演じていた。
三幕のみに登場する遊行上人役の隼人は、少ない出番ながらも存在感を示す。この隼人がオグリ役を演じる場合はどのような姿を見せるのか、期待に胸が膨らむばかりだった。
本水使いや左右同時宙乗りなど、ど派手なパフォーマンスに目が奪われがちだが、その背景にしっかりとした物語のテーマがあるからこそ、この物語は最後まで観客を魅了し続けるのではないだろうか。
最後に公演オリジナルグッズ「スーパーリストバンド」を身に着け、踊り明かす登場人物たちの笑顔の奥に、この作品で描こうとした真の“歓喜”の姿を見たように感じられた。
こちらが噂のスーパーリストバンド。「(ワンピース歌舞伎の)タンバリンよりは使える(笑)」(猿之助さん)
「税込みで1個1000円! 10%増税の中1000円とはお得!」(猿之助さん)「暗い道でも灯り代わりになりますからね!」(隼人さん)
取材・文・撮影=こむらさき

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