『いなくなれ、群青』黒羽麻璃央イン
タビュー 7年目の俳優がたどり着い
たアプローチは「作品にとってどう映
ったらいいか」

9月6日に封切られる映画『いなくなれ、群青』は、河野裕氏の同名小説を映画化した作品。“捨てられた人々”が集う謎の島・階段島を舞台に、主人公の高校生・七草(横浜流星)と、幼なじみの真辺由宇(飯豊まりえ)を中心とした物語を描く青春ファンタジーだ。
人々が過去の記憶を失いながら生活する不可解な環境にありながら、高校生らしい普遍的な葛藤や苦悩を描き、さらには消えゆく人々を追う展開も魅力の本作。そんな中でも、特に謎の多い登場人物・ナドを演じたのが、俳優・黒羽麻璃央である。黒羽はミュージカル『刀剣乱舞』シリーズなどのゲーム・アニメ・漫画を舞台化した“2.5次元”作品を代表する俳優に数えられながらも、ストレートプレイや朗読劇、さらには『広告会社、男子寮のおかずくん』などのドラマ・映画にも出演。俳優7年目にして、あらゆるメディアで多種多様な役柄を演じる活躍ぶりを見せている。いつも屋上にいて、主人公・七草と親密な間柄であることを匂わせつつ、啓示めいた言葉を投げかける青年・ナドという不可思議な役柄を、黒羽はどのように理解し、どう演じたのか。役へのアプローチを中心に語ってもらった。
考えるのは役ではなく「作品にとってどう映ったらいいか」
黒羽麻璃央 撮影=岩間辰徳
――独特の設定の物語ですが、最初に脚本を読まれた際にはどんな感想を持ちになりましたか?
色で表現するなら、灰色という印象でしょうか。群青とまではいかず、キラキラしているというよりも、どちらかと言えばモヤのかかったようなイメージです。ただ、本読みの段階でだんだんと世界が見えてきたので、そこからは与えられた“ナド”という役柄、ミッションをクリアしようという一心で演じました。
――ナドは、登場人物の中でも特に謎が多い人物ですよね。理解するのは難しかったのでは?
ナドは、ひとことで言えば“よくわからない人”なんです。よくわからない人を演じる時には、開き直るしかないと思っています(笑)。雲のような役を、無理をして理解して演じようとすると、空回りしてしまうことがあるので。だから、擬音語や抽象的な表現を使ってしまって申し訳ないんですが、「タンポポの綿毛のように白くてふわっとした人」というイメージでとらえました。それと、(原作小説では)「100万回生きた猫」と名乗るので、猫のような自由さを持っていればいいな、と。
――高校生にしては、大人びた人物ですよね。
ナドは、たぶん精神的に他の生徒たちよりも年上です。撮影していた頃、ぼく自身も25歳で、他のキャストのみなさんより少し年齢が上でした。だから、若い人たちの中にそのままいれば、その関係性は自然に溶けて出てくるんじゃないか、と。達観した存在であることがうまく映っていればいいな、と思いながら演じていました。
黒羽麻璃央 撮影=岩間辰徳
――ナドのイメージは、脚本から読み解かれたのでしょうか?
そうですね。こういう作品は、アニメや漫画原作のものほど(役づくりの)ヒントが多くはないので、脚本からイメージして、自分の中で想像していく。あとは本読みや他のキャストさんの芝居を見て、「こういう役がここにいたら面白いかな」と、考えたりしました。これは作品を通してのことですが、それぞれのシーンごとに自分の役がどういう意味を持っていて、そのシーンがどうあるんだろう、と……役を考えるというよりも、作品にとってどう映ったらいいかをイメージしながら演じました。「どんな感じで居れば七草が混乱するか?」「どうすれば観て下さるお客さんの頭の中に“?”を付けることが出来るか?」という風に。
――他の作品でも、役の立ち位置を重視することが多いのですか?
作品によって違いますが、ここ最近はそうかもしれないです。『いなくなれ、群青』に関しては、“ファンタジーの要素”を任されていたので、あまり役を作り込まないで居ました。生きているのか、いないのかも怪しい役ですし。
(c)河野裕/新潮社 (c) 2019映画「いなくなれ、群青」製作委員会
――出演シーンは、ほぼ横浜流星さんとの二人芝居でしたよね。横浜さんが屋上に出るときに、黒羽さんが手を差しだして迎え入れる動きに「理解しあっている」ようすが感じられました。
あの動きは生まれて初めてやりましたが、説得力があったのならよかったです(笑)。
――現場で打ち合わせなどしながら、演じられたのでしょうか?
特に打ち合わせたりはせず、自然に居ました。流星くんのことをそんなに深く知っているわけではないんですけど、もしかしたらぼくと何か似ている部分があるのかな。人として、根本的な考え方とかが似ているから、一緒にいて自然に見えたのかも知れないです。勝手にフワッと思いついたことですけど(笑)。流星くんとは、お芝居の勉強会、ワークショップでご一緒して、昔から知っている仲ではあるのですが、お仕事をご一緒するのは今回が初めてでした。
――横浜さんとのお芝居で、感心したところはありましたか?
流星くんは本読みの段階から、もうすでにちゃんと七草だと思えたので、「すごいな」と感心しました。普通は手探りで始めたりするんですが、すごく七草だったんです。あとは、主演をやられているので、負担をかけないようにしようと思いました(笑)。連日のハードスケジュールの中で参加していらっしゃったので。1、2日参加するぼくのために時間を使わせてしまうのは申し訳ないな、と。屋上のシーンに関しては、ほぼ1日で撮影しています。
――そこまで気を遣わなくても(笑)
いやいや、(横浜が)どれだけ忙しいかわかっているのでそう思いますよ(笑)。
――登場人物の抱える悩みや葛藤は普遍的だったので、共感しやすかったです。黒羽さんご自身が最も共感した、あるいは似ていると感じた役は、誰ですか?
ぼく自身は、佐々岡(松岡広大)みたいな人にすごく憧れを持っていました。熱くて、みんなの中心にいられる人。学生時代には、ぼくも目立ちたい精神を持っていましたし。でも、根本的な部分は七草のようなネガティブ思考なので(笑)。そういう自分とは違う姿を見せたいから、佐々岡のように明るい人でいようと思っていたんですけど……でも、そういうのって疲れるんですよね。だから、ありのままでいよう、と思うようになりました。友達のために熱くなれる人はいいな、とは今も思います。
――お話をしている限り、ネガティブ思考な方とは思えないのですが。
いや、実際には悲観主義的なほうだと思います。楽観的な役を演じることが度々あったので、役作りでそう見えることはあったと思います。でも、自分とはちょっと違うのかな、と思うことのほうが多かったですね。
黒羽麻璃央 撮影=岩間辰徳

生きている実感を得られるから、映像は面白い
黒羽麻璃央 撮影=岩間辰徳
――『いなくなれ、群青』のナドだけではなく、作品のキーになるような役を演じる際に心掛けていらっしゃることはありますか?
「作品が面白くなればいい」というくらいですかね。『いなくなれ、群青』のナドは、自分で言うのもなんですが、“止め”の役どころ、エンドクレジットで最後に名前が出てくるような存在でした。こういう役は初めてだったので、「止められるように、流れていかないように」という思いはありました。あとは、作品に深みを持たせることが出来れば、くらいです。こういう“わけのわからない人”を演じるのって、楽しいんです。「わからないな」と思いながら、ふわっと演じる。そういうのが面白いな、と思っています。
――必ずしも、役の全てを理解する必要はない?
ある程度のところまでは、「こういう人間だ」ということはわかるんですが、特に今回のナドに関しては、深いところまではわからずじまいな部分もあります。役についてのヒントも少ないので。そこは、現場で監督のOKが貰えればいいかな、と。もちろん、だいたいの役は理解して演じますよ。「こういう人だ」ということが説明できるように、知識を身につけたり、イメージを作りながらやります。でも、全てを掴もうとするほうがキツイというか。わからなくても、一度が思い描いているイメージのままやってみよう、というところはあります。
黒羽麻璃央 撮影=岩間辰徳
――ここ1、2年で、『広告会社、男子寮のおかずくん』など、ドラマ・映画のお仕事が増えていますね。映像ならではの面白さを感じるようになりましたか?
やっぱり、映像は後世にまで残りますから。今の時代だと、家だけじゃなく、どこでも観られるということもあります。配信や映画の上映が終わっても、レンタルやセルで観ることが出来る。自分が生きているということが、どこでも確認できるということは、映像の面白いところだと思います。どちらかと言うと、ぼくは舞台を重点的にやってきたのですが、地元(宮城県)に帰ると、舞台に触れる機会がある人はそこまで多くないんです。だから、ぼくが「ちゃんと生きている」ということを証明できるのが、ドラマだったり、映画だったりするんです。「〇〇を観たよ」と言ってもらえて、生きている実感を得られるから、映像は面白いと思います。
――そういう見方をする方は初めてお会いしました。
ぼくは、もともとはドラマや映画に憧れて、この世界に興味を持つようになりました。最初に舞台のオーディションに受かったので、そこを中心にやってきたんですが、「最初にやりたかったのは何だったっけ?」と振り返るようになって。そこから、ちょこちょこと映像のほうにも顔を出せるようになってきました。そうすると、今度は舞台の面白さもより感じるようになったんです。だから、最近はいいバランスでお芝居が出来ているな、と思っています。映画の取材でこういうことを言うのもなんですが、今はすごく舞台をやりたいんですよ(笑)。ドラマや映画をやっていると舞台をやりたくなって、舞台をやっていると映像をやりたくなる。こういうバランスが、今は心地いいです。
――黒羽さんは、いわゆる“2.5次元俳優”の代表格としてメディアで取り上げられることが多いですね。ただ、ご本人はそれほど2.5次元を意識していらっしゃらないような気がします。
そうですね。「2.5次元」って、ぼくが舞台をやり始めた後で出てきた言葉なんです。昔からアニメ・漫画・ゲームの舞台化は行われていて、作品自体も存在していましたが、はっきりと言葉として使われるようになったのは、ここ数年だと思います。ぼくは自分から「2.5次元俳優です」と名乗ったことは一度もないんですが、そう紹介していただけることに、時代を感じますね。
黒羽麻璃央 撮影=岩間辰徳
――映像と舞台を勝手が違うと感じることはありますか? 
何もかも違うと思いますよ。野球とサッカーくらい違うと思います。
――映像では、カメラに撮られることを意識する方も多いですが。
それも、監督や作り手によるんじゃないかと思います。舞台でも見せ方を意識する場合もありますし。映像だとリアルさを求められて、究極的には“そのまま撮られる”だけを目指す場合もあります。逆に、舞台でも「一瞬を盗み見しているような気分にさせる」芝居や、お客さんに「こういうシーンです」と説明するような演技をしなきゃいけない場合もあります。だから、何が正しいのかはわからないですよね。映像でも舞台でも、作り手によって意識することは違うな、と思います。だからこそ、今は色んな役を幅広くやれればいいな、と思っています。幅広くやったほうが、面白いんですよ。
黒羽麻璃央 撮影=岩間辰徳
『いなくなれ、群青』は9月6日(金)より全国公開。
インタビュー・文=藤本洋輔 撮影=岩間辰徳

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