浦井健治とアヴちゃんが魅せる ブロ
ードウェイミュージカル『ヘドウィグ
・アンド・アングリーインチ』ゲネプ
ロレポート

ブロードウェイミュージカル『HEDWIG AND THE ANGRY INCH ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』が2019年8月31日(土)からEX THEATER ROPPONGIほかで上演される。2019年版は、浦井健治がヘドウィグ役、バンド「女王蜂」のボーカルのアヴちゃんがイツァーク役を演じる。初日を前に行われたゲネプロ(総舞台通し稽古)と囲み取材の様子を写真とともにお伝えする。
ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のゲネプロの様子
ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のゲネプロの様子
ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のゲネプロの様子
本作の主人公は、愛と自由を手に入れるため性転換手術を受けたものの、手術の失敗によって股間に「アングリーインチ(怒りの1インチ)」が残ってしまった、男でもあり女でもあると同時にそのどちらでもないロックシンガー・ヘドウィグ。幾多の出会いと別れを経験し、傷つき倒れそうになりながらも、己の存在理由を問い続け、「愛」を叫び、「カタワレ」を求める姿を描く作品だ。
俳優・監督であるジョン・キャメロン・ミッチェルと作詞・作曲のスティーヴン・トラスクがニューヨークのナイトクラブSqueezeboxでヘドウィグを登場させ、そのキャラクターを膨らませて1997年よりオフブロードウェイで上演し、ロングランを記録した本作。その後、ブロードウェイを始め世界各国で公演され、2001年には映画化も実現。サンダンス映画祭観客賞、監督賞など数々の賞を受賞し、舞台・映画ともに一大ブームを巻き起こした。
日本では、04年、05年に三上博史主演で初演、07年、08年、09年には、全編英語詞の歌唱で話題を呼んだ山本耕史版、そして12年には映画監督・大根仁の演出による新たなヘドウィグ・ワールドが誕生した森山未來版、15年にはオリジナルキャスト版が上演されている。
ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のゲネプロの様子
ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のゲネプロの様子
ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のゲネプロの様子
本編が始まる前から、アヴちゃんが演じるイツァークや、バンド「アングリー・インチ」のメンバーが舞台上に現れ、音出しをしたり、スクリーンに投影される画像のチェックをしたり。イツァークの前説が終わり、浦井が演じるヘドウィグがド派手に登場して、1曲目「Tear me down」がスタートする。そこからもう世界に引き込まれる。“ヘドウィグ劇場”の幕開けだ。
上演時間、約1時間50分(休憩なし)。ほぼ独白という形で、自らの生い立ちや思いを語り出すヘドウィグ。「The Orign of Love」や「Midnight Radio」など、ロックで、ビビットな歌詞の楽曲の数々が、爆音の生音で奏でられる。爽快感があって、刺激的。本当にライブに来ているような感覚になる。
もちろん扮装の関係もあるのだが、ヘドウィグを演じる浦井は、「本当に浦井健治か……?」と思うほどに歌い方、立ち居振る舞いなど全てにおいて、ヘドウィグが降臨していた。今回、「こんな歌い方もできるのか」「こんな芝居もできるのか」などと新しい浦井を見せてくれたと思う。一方のアヴちゃんは、鋭く力のある眼差しと、音域の広い歌声が印象的。しっかりと芯のあるイツァークだった。
ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のゲネプロの様子
ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のゲネプロの様子
ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のゲネプロの様子
囲み取材の様子をお伝えしよう。
−−いよいよ本番ですが、今の意気込みをお願いします。
浦井:この夏、一日も休まず、朝から晩まで、ずっとみんなで作ってきました。稽古してきました。家族のような、女王蜂のアヴちゃんというカリスマ性のある、僕にとってのパートナーが、これだけ色々なことにトライして、惜しげもなく色々ことを教えてくれて、一緒に作ってくれたことが宝物のようです。
また、バンドのメンバーが、愛らしくイカつい方々が揃っているんですね。バンドではなく出演者として、ヘドウィグの世界を作ってくださっているので、演出の桜子さん(※福山桜子)が目指したものというのが、きっとロックミュージカルであり、ストレートプレイのようであり、魂の叫びでもあり、何かの殻を破ることにリンクするのかなと思います。自分は役者冥利ってこういうことだなと思います。……こんな格好になりました(笑)
アヴちゃん:すごい似合ってる! 毎日毎日一緒に合わせてやっていて、浦井さんでよかったなと感じることがたくさんあって。きっと同じぐらい負けず嫌いで、かつ、相反しているもの、だけれど相反しすぎていて、その距離も尊重しあっているというか。この二人をキャスティングした人すごいね。
私自身も自分の歌い方などを一度解体して、解剖して、人にやってもらうことを初めてやって。きっと誰しもができることではないので、それができてしまった浦井さんに対して尊敬もありますし。浦井さんから頂いたものも実はある。(劇中で)笑っちゃうぐらい浦井さんの瞬間があるので。お互いのいいものを交換しあってきました。楽しんでいただけたらなと思います。
ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のゲネプロの様子
−−役作りをどのようにされてきたのでしょうか。
浦井:まず、稽古場でスカートを履いていました。足を開いて座っていると、「おまた!」って言われます(笑)
アヴちゃん:(犬などに対する)「ハウス!」みたいなね(笑)
浦井:それが癖づいていて、コンビニでレジで並んでいる時でさえも、ヘドウィグのように(笑)。日常の中にどんどん入ってくる感じがありました。
アヴちゃん:私は相場を知らないんですけど、稽古期間も普通よりかは短いと思うんですよね。(浦井は)台詞の量も歌も膨大。その上で魂というところにトライしていたので、役作りどころの話じゃないというか。全部自分を使わなくては! という感じでやってらっしゃいましたね。
ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のゲネプロの様子
−−ちなみに、スネの毛は剃られたのですか?
浦井:僕はなぜか生えないんですよ。
アヴちゃん:そうだよね、スネの質問とかあるよね(笑)
浦井:網タイツを最初に履いた時に、アヴちゃんが最初要らないって言ってくださって。
アヴちゃん:だって色がめっちゃ綺麗だから。
浦井:色が綺麗とか、僕初めて言われて(笑)
アヴちゃん:え、でも足の色が綺麗とかあるよね??
−−普段モデルもされているアヴちゃんですが、浦井さんにどんなアドバイスをされたのですか?
浦井:たくさん。例えば、女王蜂のアヴちゃんの歌唱法を一から教えてくださったり、腰から歩くとか……台詞の一番後ろをあげてみたり……。
アヴちゃん:ギャルね。
浦井:すごく純粋で、正義で、そういうのを生身で教えてくれて。自分もすごく飛び込めた。人間として勝ち気だし、絶対に負けないという部分もある。弱い部分もあるけど、絶対に人を見捨てないという格好よさがありました。
アヴちゃん:うれしい。イツァークという役は、すごく抑圧されている役。ヘドウィグからの抑圧もあるけれども、自分の今まで生きてきた感じも抑圧という感じで。私は本業でバンドをやっているんですけれども、「解放」ということを、生業にしていたんだなということを初めて気がつきました。好き放題、自分は屋根のないところで生きているんだなということを、今回この役を生きることで気づくことができました。
生まれて初めて嗚咽で歌えなかった。解き放って歌っていたものを、解き放たないようにしようとなって......歌詞がとてもセンシティブな歌詞なんですけれども、全部心臓に刺さってきちゃって。大きい声出せないし、嗚咽で歌詞が自分から出ないという。浦井さんも、ここで泣いちゃうんだっていうところでお互い泣いたよね。
浦井:泣いたね。
アヴちゃん:目と目があったら、泣いてしまうシーンとか。演技とは思っていないですね、毎回。
ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のゲネプロの様子
−−改めて作品の魅力を教えてください。また、それを一言で表すとしたらどんな言葉になりますか。
浦井:世界中で愛されている、ヘドウィグ。ヘドウィグという役や、それを演じてきた役者やキャラクターにコアなファンがついているものだと思うんです。そこからバイブルとして生きる様というものを学んだ人もいる。それを今、日本の4代目として、我々が一緒に作っている。
今この作品を上演する意味というのもまた色々と見えてきたし、やはり愛を叫ぶ、愛ってなんだろう、優しさってなんだろう、色々なことを考えながら稽古場で過ごしてきたんですけれども……。結局自分と向き合うことが重要で、自分からは逃げられない。生身の人間はこんなに弱いけど、こんなに強いんだなということと、一人じゃないんだなということ、それがきっと最後の「Midnight Radio」に繋がっていくんじゃないかな。
自分にとっては、殻を破るということかな。今こうやって浦井として喋っていますけど、舞台上では全然違う喋り方しているので。それぐらいのことをやらなくてはいけない、全部出さなくてはいけない。恐ろしさもあるけど、それを楽しいと思えるところまで、みんなでもがいていきたいと思います。
アヴちゃん:私は10代の頃に、多感なお友達から作品を貸してもらった。その子は、主人公が恋に破れたり、病んだり、亡くなってしまうような、いわゆる“ジェンダー系”の作品の一つとして見ていて、すごく辛かった思い出があって。時間が経って、自分のバンドがうまく行っていない時にみて、ヘドウィグもうまくいっていないから、並びたてられたような気がして、また傷ついて……。
どんどん時が経って、改めて作品をみた時に、やってみたいなと思った。そんな時に、この話がきて。私のように感じている人は、ひょっとしたらそんなに多いわけじゃないかもしれないけれども、見る時によって自分が分かるというか。変わらないでいるからこそ、自分の変化に気がつけるすごく偉大な作品なんだなと思います。一言で言うと……言えません!
ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』に出演する浦井健治(右)とアヴちゃん
−−最後に一言お願いします。
浦井:この作品で始めてミュージカルをみる人もいると思いますし、ミュージカルが大好きという人も、劇場も含めて、初めてロックに触れる人もいると思いますし、たまたま見る方もいると思いますけども、ものすごく、えぐられるところがあると思います。
この作品からいろいろなものを受け取ってもらって、最後に、実はピュアでまっすぐで、人生って少し希望が持てるんだなというようなことを思っていただける……ちょっと開けたものが心に残る気がするんです。きっとそれが、イツァークやヘドウィグが追い求めている部分だと思います。それをみなさんに受け取ってもらえるように、頑張っていきたいと思います。ぜひ劇場にノリノリできて欲しいなと思います。
アヴちゃん:ふらっときてください。タダじゃ返しません!

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