望月秀幸・望月左太寿郎インタビュー
『お囃子プロジェクトvol.14』「パー
カッションではなく邦楽囃子」

歌舞伎や日本舞踊の舞台で活躍する囃子方の、望月秀幸と望月左太寿郎による『お囃子プロジェクト』。彼らの14回目のライブが、2019年9月3日(火)~4日(水)にヤマハ銀座スタジオにて開催される。邦楽囃子の魅力を伝えるべく2010年にスタートしたこのライブの見どころを、秀幸と左太寿郎に聞いた。
脇役のお囃子が主役になるライブ
ーーお囃子プロジェクトとは、望月秀幸さんと望月左太寿郎さんのユニット名なのでしょうか?
望月秀幸:僕ら2人、限りなくユニットに近い動きをしてはいるのですが、正確には、2人の個別の演奏家が主宰するプロジェクトの名前です。2人とも囃子方として、主に伝統芸能の世界で演奏しています。そこには歌舞伎役者さんや舞踊家さんなど舞台にメインで立つ方がいて、お囃子はそれを演奏で支える脇役的存在であることが多いです。「お囃子を主役にできるイベントを」と考えたのがお囃子プロジェクトです。
ーー今回で14回目となります。ふり返ってみていかがでしょうか。
秀幸:第1回目のライブでは、今まで自分たちに「お客さんを喜ばせる」という意識がなかったことに気づかされたんです。その気付きをくれたのは、ゲスト出演してくれた、ドラムとパーカッション2人編成のバンド「ニトロン虎の巻」でした。客席は主に僕らのお客さんでしたが、彼らは最後、会場の全員を(あおるように)スタンディングでわかせてくれて。衝撃的でしたし、悔しくもありました。
望月左太寿郎:良い悪いではなく方向性の違いとして、古典の演奏会は、演奏者たちがお互いに向き合い、芸能や作品に向き合うところを見ていただくところがあります。それは僕たちが追求していかなくてはいけないところです。しかし、彼らが、初めてのお客さんたちに向き合い、心をつかんでいくのを見てパワーを感じました。僕たちもより多くの方に向け、まず入口として興味をもってもらい、単純に楽しんでいただける新たな企画も必要だと感じました。
望月秀幸
歌謡曲からプロレス音楽、そして古典へ
ーーライブでは、昭和の歌謡曲をお囃子とミックスした楽曲を多く演奏するそうですね。
秀幸:藤山一郎さんの『東京ラプソディ』、郷ひろみさんの『バイブレーション』、西城秀樹さんの『ギャランドゥ』などですね。年齢層が高めの方にも喜んでいただけますし、若い世代の方も知識なく聞いて楽しんでいただけていると思います。1980年代くらいまでの曲は、お囃子と合わせやすい音階の使い方やコードの展開をしているんです。
演奏会以外にも、フットサルで月2回は顔をあわせている仲なのだそう。
ーー秀幸さんは、プロレスもお好きだとか。
秀幸:今回はメキシコ出身の伝説のプロレスラー、ミル・マスカラスの入場曲「スカイ・ハイ」をアレンジした楽曲があります! プロレスの曲はお囃子に合いやすいんです、昔から。
左太寿郎:昔から?!(一同、笑)
秀幸:とはいえ僕たちのベースには、古典の興味をもっていただきたいという思いがあります。ですから、毎回1曲だけ古典の曲をやります。何曲も入れると埋もれてしまいますが、歌謡曲の中に1曲だけ古典が入ると存在感が際立つんです。他にも尺八をメインとした新曲、サンバやラテンを取り入れた曲などを予定しています。
ーーVol.14は、囃子方、笛の他に、ラテン・パーカッション、アコーディオン、韓国打楽器、ウッドベースと、バラエティに富んだ編成です。先ほど“サンバやラテン”とのお話がありましたが、それらの楽曲と邦楽囃子は、自然とミックスできるものですか? それとも意識的に、それぞれのジャンルに寄せてお囃子を演奏するのでしょうか。
左太寿郎:ライブ中に「いまはラテンだから」「ここはサンバだから」と意識することはなく、常に自分たちのジャンルの音楽だという意識で演奏しています。
秀幸:そうやって僕らが古典に専念できるのは、ゲストで出演してくれるラテン・パーカッションの村瀬Chang-woo弘昌さんと、韓国打楽器の山田貴之さんの存在が大きいです。お囃子を崩さずにミックスできるよう、洋楽と邦楽の架け橋になってくれています。しかも仙波清彦さんのお弟子さん上がりで、囃子方が使う譜面を読める方々なので、僕らが「邦楽器隊で中ノ舞やりたい」「チョボクレやりたい」など専門用語で言うことも、そのまま理解してくれます。
ーー洋楽と邦楽では音楽のルールも異なりますね。
左太寿郎:例えばフレーズやパターンの多くは8拍で1つの手になり、それぞれに名前があります。さらにそれらを組み合わせたブロックにも名前がついているんです。
秀幸:譜面には、音符の代わりに、それらの名前が言葉で書かれています。大鼓小鼓があわせて入るところには「大小入り」とか、演奏についても、ヲロシ、キザミ、上ヨリ打切などの言葉で書かれています。
左太寿郎:実は、そのパターン、このフレーズをどう演奏するかは、自由なんですよ。ジャズのアドリブとは少し異なりますが、中身は自由。なので同じ曲も演奏家により色が変わってきます。
望月左太寿郎
ーーそこもくみ取れるようになると、とても面白そうですね! ところで、あえて邦楽囃子の譜面や言葉を使われるのはなぜでしょうか。
秀幸:たしかに、やろうと思えば五線譜にお囃子の言葉を書き込むこともできるんです。しかしお囃子の譜面をみると、不思議と古典の気持ちになれるんですよね。
(左太寿郎、うなづく)
秀幸:現在、色々な方が邦楽器を使いアレンジした音楽をやっていますが、お囃子プロジェクトは、その中でもかなり古典の伝統にのっとった活動しています。着物に袴で姿勢よく演奏し、踊るようなことはしていません。あくまで邦楽囃子の演奏家として、このプロジェクトをやりたいと思っています。
左太寿郎:色々なジャンルから選曲しつつも、邦楽囃子の根本の部分は崩していません。そこは私たちの中に“パーカッションではなく邦楽囃子だ”という共通の認識があるからだと思います。
あくまで邦楽囃子の演奏家として
ーー古典芸能の家に生まれ、東京藝術大学を卒業され、その道のサラブレッドであるお2人がこのような挑戦をされていることは興味深いです。お囃子プロジェクトについて、ご家族はどんな反応をされていますか?
左太寿郎:基本は応援してくれていますね。でも親子で同じ仕事をしている以上は、意見がぶつかることもありますよ。
秀幸:今でこそ「日本の伝統芸能を世界へ」といった動きもありますが、父が若かった頃は、古典以外のことをやるのはタブーとされる時代でした。でも父が昔、三味線でベンチャーズのリフを弾いてくれたりしたのを覚えているので、お囃子プロジェクトでやるようなことが嫌いではないと思うんです。ライブにも来てくれますし、トーク中に僕がボケたことを言うと、誰よりも大きな声で笑うので、会場のどこにいるのかすぐに分かります。
ーーそれは心強いですね!
秀幸:心強い、……ですかね(笑)
左太寿郎:ただですね、彼のお父さんは、僕には仕事の大先輩です。ライブの客席にいられると緊張するのですが、ある時、最前列に座っていて。
秀幸:その時は、さすがに母に怒られていました(一同、笑)
ーー今後の目標をお聞かせください。
秀幸:海外での演奏会には興味があります。
左太寿郎:海外で評判になったものが日本に帰ってくると、興味をもってもらいやすいと思うんです。
秀幸:それにアンケートを見てみたいですよね。僕らはライブの時に必ずアンケートをお願いし、「良くなかったところ」を書いていただくようにしているんです。どんな感想が聞けるのか、気になります。最終的には古典に興味を持ってもらいたい。この会から、古典にいってみたいというのがスタートでありやっている意味でもあります。
左太寿郎:そこがブレてしまうと、僕らがやる意味がなくなってしまうと思っています。
ライブ会場では小鼓体験コーナーも。
『お囃子プロジェクトvol.14』は、9月3日、4日の2日間3公演。ライブを聴きながらお酒も楽しめる空間なので、かしこまらず、ぜひリラックスした気分で足を運んでみてほしい。
取材・文・撮影=塚田 史香

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