チェッカーズ、
大ブレイクの最中に制作された
『絶対チェッカーズ!!』に見る
ロックスピリット

心意気を大いに買えるデビュー盤

アルバム『絶対チェッカーズ!!』は1984年7月21日発売。3rdシングル「哀しくてジェラシー」の発売直後、その人気が爆発した渦中であった1984年5月8~17日にレコーディングされたという(2ndシングル「涙のリクエスト」が1984年3月29日放送のテレビ歌番組『ザ・ベストテン』で1位となり、それから7週連続1位、14週間ランクインし続けたので、そのことからも渦中だったことが分かる)。超過密スケジュールに追われていた頃であって、満足にレコーディング時間を取れていなかったであろうことは全10曲で収録時間35分余りということからも分かるが、それでもチェッカーズのロックバンドとしての意地のようなものが感じられる作品ではある。

まず、M6「涙のリクエスト」がアルバム用に再録されている点にそれを見る。本作収録バージョンは一発録りだという。パッと聴いて気付くことはストリングスが入ってないことと、言われてみれば間奏とアウトロが長いことと、サビが1回多くなっていることが分かるものの、はっきり言って演奏がものすごく上手いとか、シングル版に比べてグルーブ感が増しているという印象はない。だが、誰が言い出したことなのか分からないが、「涙のリクエスト」を録り直そうとした心意気は大いに称えたい。

某有名音楽評論家が自身のラジオ番組で「ギザギザハートの子守唄」をオンエアした時、“しかし、へったくそだねぇ”と笑っていたことをよく覚えているのだが、バンドやロックというのは煎じ詰めていけば、演奏の上手い下手は二の次、三の次である。チューニングが合ってないとか、そもそもリズムや音程が合ってないというのは論外であるけれども、そうでなければ、演奏力以上の“プラスα”の方が大事である。「涙のリクエスト」を再録、しかもそれを一発録りしたのは、ロックバンド、チェッカーズの意地であったろうし、それは今も残る生真面目なテイクから感じることができる。

チェッカーズは4thアルバム『FLOWER』(1986年)から作詞作曲からアレンジまでバンドで手掛けた楽曲を収録するようになり、シングルでも12th「NANA」(1986年)から完全オリジナル楽曲を発表していく。その辺は『絶対チェッカーズ!!』からもうかがえる。M7「MY ANGEL (I WANNA BE YOUR MAN)」とM8「ガチョウの物語」とがそれ。前者は高杢禎彦(Vo)作詞、武内享(Gu)作曲。後者が藤井郁弥(Vo)作詞、大土井裕二(Ba)作曲。ともに編曲クレジットはチェッカーズとなっている。いずれもシングル曲として出せたかというと、さすがにこのままでは難しかったと言わざるを得ないが、デビュー当初からプロの作家から楽曲を提供してもらうだけのバンドではなかったことをはっきりと示していた。この他、郁弥はM1「危険なラブ・モーション」、M3「ウィークエンド アバンチュール」、M4「渚のdance hall」で作詞を、鶴久がM2「HE ME TWO(禁じられた二人)」とM3「ウィークエンド アバンチュール」で作曲を手掛けている。

また、『絶対チェッカーズ!!』はチェッカーズがバラエティー豊かなポップなバンドであることをよく示している。編曲クレジットがチェッカーズであったM7、M8の他、アカペラ曲のM10「ムーンライト・レヴュー50s'」はチェッカーズには高杢と鶴久というサイドヴォーカルがいて、アマチュアの頃からドゥーワップのスタイルも内包していたことが分かる。さらに、M1「危険なラブ・モーション」ではR&R、M3「ウィークエンド アバンチュール」ではレゲエ~スカ、M9「ひとりぼっちのナタリー」ではのちのヒット曲「星屑のステージ」や「夜明けのブレス」にも通じるミディアムバラードと、起伏に富んだ楽曲が収められており、レコーディング期間も収録時間も短かったにもかかわらず、アルバムとして形にしようと腐心したことも分かる。そここも本作のいいところだと思う。

歌詞はオールディズなR&Rバンドであることを意識してか、様式美に染まったものが多くて若干閉口なところもあるのだが、売野雅勇作詞のM2「HE ME TWO(禁じられた二人)」がそれらを補って余りある。

《Woo… He an' Me Two/Woo… 泣きながら》《渚に埋めた 涙のダイアリー/who-who, Two boys》《禁じられた恋が 今も忘れられず/窓の下にひとり 命賭けで/Call your name》《後指さされても 変わらないと誓った/愛は指を抜ける 砂のように far away/あの日から止まらない/tears on my cheek I miss you》(M2「HE ME TWO(禁じられた二人)」)。

チェッカーズのファンはご存知のことと思うが、この楽曲のテーマはゲイである。信じられないことに、ファッキンな国会議員から現在もなお“生産性がない”と批判的な視点を向けられるLGBT。今から30年以上も前に、当時人気絶頂であったバンドがそれをサラリと取り扱っている。その先見の明と、おそらくこの時期にはまだ英断だったであろう判断を下したバンド、スタッフの姿勢はまさしくロックであったと言える。

TEXT:帆苅智之

アルバム『絶対チェッカーズ!!』1984年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.危険なラブ・モーション
    • 2.HE ME TWO(禁じられた二人)
    • 3.ウィークエンド アバンチュール
    • 4.渚のdance hall
    • 5.ギザギザハートの子守唄
    • 6.涙のリクエスト
    • 7.MY ANGEL (I WANNA BE YOUR MAN)
    • 9.ひとりぼっちのナタリー
    • 10.ムーンライト・レヴュー50s'
『絶対チェッカーズ!!』(’84)/チェッカーズ

OKMusic編集部

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