KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術
祭 2019、全公式プログラムと見どこ
ろを紹介

 
Eco(環境)とEcho(響き)を意識した、最先端の舞台が京都に集結
「EXPERIMENT(実験)」を感じさせる、世界各国の先鋭的な舞台を紹介する「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」(以下KEX)。第10回を迎えた今年度は「世界の響き(エコ=モンド)-エコロジカルな時代へ」というテーマで、自然だけでなく政治や文化など、現代人をとりまくあらゆる「環境」について、今一度考察をうながすような作品をそろえてきた。その内容を、公式プログラムとなる11作品を中心に紹介。一部プログラムは、会見に出席したアーティストの声も掲載する。

過去KEXに2回登場し、テクノロジーやドキュメンタリーの要素を、ユニークな形でダンスに取り入れた作品で人気を博した、シンガポールのチョイ・カファイは『存在の耐えられない暗黒』を日本初上演(10/5・6)。「幽霊に振付は可能か?」をコンセプトに、暗黒舞踏の創始者・土方巽の踊りに迫る。恐山のイタコの口寄せや、土方のアバター作成などあらゆる手段を使うことで、土方の振付を没後33年の現在によみがえらせることができるのか? 自らその実験に挑戦する姿は、忘れられないものになるだろう。
チョイ・カファイ『存在の耐えられない暗黒』 Photo by Katja Illner
どちらもKEX常連の「チェルフィッチュ」の岡田利規と、現代美術家の金氏徹平は、共同製作で『消しゴム山』を世界初上演(10/5・6)。岡田が岩手県陸前高田市で見た震災復興の風景に、衝撃を受けたのがきっかけとなった作品だ。人間と物質が対等に存在し、かつリアルタイムで立ち会う「観客」以外の“鑑賞”も可能な舞台とは? を考えるという、前代未聞の舞台空間作りに挑戦する。
チェルフィッチュ×金氏徹平『消しゴム山』 (c)︎Shota Yamauchi
「通常演劇は人間によって演じられ、人間のために演じられるものですが、そこにとどまらない何かに、演劇という形式はなることができるのか? と。先日金氏さんと京都でクリエーションを行い、手応えを感じています」(岡田)
「岡田さんとの仕事は謎解きみたいになることが多いんですが、今回も複雑なお題をいただいてます。演劇という空間を通して現実の世界、人間やいろんなモノの存在の仕方に対して、新しい視線を提示できないかなと思っています」(金氏)。
(左から)岡田利規、金氏徹平。 [撮影]吉永美和子
KEX三度目の登場となる「庭劇団ペニノ」は、2018年初演の『蛸入道 忘却ノ儀』を関西初上演(10/11~15)。劇場の中に寺院さながらの空間を建立し、俳優たちが執り行う宗教的な儀式に観客も巻き込まれていくという仕掛けに、東京の初演では大きな評判となった。視覚や聴覚だけでなく、香りや熱気なども含めた複数の感覚を同時に刺激していく舞台。虚構と現実の境だけでなく、時間や空間などの感覚も激しく乱される稀有な体験ができるだろう。
庭劇団ペニノ『蛸入道 忘却ノ儀』 Photo by Shinsuke Sugino
今年のプログラムの見どころの一つに、アフリカ圏を拠点とするアーティストを初めて招へいするという点が上げられるが、その一人がモロッコのダンサー・振付家のブシュラ・ウィーズゲン。今回は代表作『Corbeaux(鴉)』を日本初上演する。頭に白いスカーフを巻いた黒衣の女性たちが、トランスしたような動きや叫びを見せるパフォーマンスで、都市の広場などの劇場以外の空間で演じるのを前提にした作品だ。KEXでは二条城(10/13)に平安神宮(10/14)と、あえて日本の情緒あふれる空間をチョイスしている。
ブシュラ・ウィーズゲン『Corbeaux(鴉)』
「モロッコで行われている儀式で構成した、心の病を抱える人の表現について考える作品。心の病を抱えた人を社会は隠そうとするけど、あえてオープンスペースにその存在を置くことで、見えてくるものがあるのではないかと。実際、上演する場所によって何が起こるかわからないという性質を持っているので、素晴らしい(2つの)場所で上演するのが待ち遠しいです」(ウィーズゲン)
ブシュラ・ウィーズゲン(左) [撮影]吉永美和子
同じくアフリカ圏から、南アフリカを拠点に活躍する美術家のウィリアム・ケントリッジは、ビジュアルコンサート『冬の旅』を日本初上演(10/18)。世界屈指のバリトン歌手のマティアス・ゲルネの歌と、世界的ピアニストのマルクス・ヒンターホイザーのピアノ演奏による、シューベルトの連作歌曲集『冬の旅』のライブに合わせて、ケントリッジ作のドローイングが投影されていく。200年近く前に作られた歌に描写された風景(あるいは心象風景)の数々が、アパルトヘイト時代の南アフリカや、あるいは今現在と奇跡的に結びついていく様を、耳と目で確かめていきたい。
ウィリアム・ケントリッジ『冬の旅』 (c)P.Berger/artcomart.
やはり南アフリカからの参加となる振付家・パフォーマーのネリシウェ・ザバは、2作品からなる『Bang Bang Wo/Plasticitization』を日本初上演。「黒人」でしかも「女性」ということを強く意識した、社会性の強い作風が評価されている。レクチャーをしながら、様々な穀物が入った袋を積み上げていくことで、社会支援する側/される側の権力の構図を浮かび上がらせる『Bang…』。大きなプラスチックバッグを使ったパフォーマンスを通して、アイディンティティの揺らぎから環境の問題まで、様々なことを訴える『Plasticitization』。ユーモア交じりながらもストレートに突き刺さる、彼女のメッセージに圧倒されるはずだ。
ネリシウェ・ザバ『Bang Bang Wo/Plasticitization』 Photo by Candida Merwe
チェルフィッチュ作品の美術を担当するなど、演劇とも縁の深い京都の美術家・久門剛史は自身初の舞台芸術作品となる『らせんの練習』を世界初上演(10/20)。日常生活を送る京都を始め、アイスランドやタイなどの世界各国で採集したフィールドレコーディングと、様々なオブジェを舞台に配置することで、演劇だけでもインスタレーションだけでも表現しきれない、異色の空間を実現させる。
久門剛史『らせんの練習』 (c)︎Tsuyoshi Hisakado
「アイスランドを訪れた時、地球の原型が残っているような場所で“人間がどう頑張っても勝てないもの、歯向かっていけないようなものと、どう関係していったらいいのか”ということを考えました。3.11の時にも近いものを感じたので、その気持ちを意識しながら作ろうと思います。この目で見た風景や録音物をいろんな形でミックスさせながら、ある光景を劇場の中に作っていきたいです」(久門)
久門剛史。 [撮影]吉永美和子
こちらもKEX初の参加国となるイランからは、脚本家・演出家のアミール・レザ・コヘスタニが率いる劇団「メヘル・シアター・グループ」が『Hearing』を日本初上演(10/24・25)。男子禁制の女子寮内で、聞こえてはいけないはずの“声”が聞こえたことをきっかけに、女学生たちの関係が変化していく様を、映像を交えながら描く。そこからは、現代のイランが抱える女性の立場や女子教育の問題だけでなく、相互監視がエスカレートしつつある、世界全体の姿も同時に見えてくるだろう。
アミール・レザ・コヘスタニ/メヘル・シアター・グループ『Hearing』 (c)︎Amir Hossein Shojaei
2017年にKEXで上演した『バルパライソの長い坂をくだる話』で「第62回岸田國士戯曲賞」を受賞した、神里雄大が主催する「岡崎藝術座」は、新作『ニオノウミにて』を世界初上演(10/25~27)。この『バルパライソ…』製作で京都に滞在した時、居酒屋でたまたま出会った男性から、琵琶湖の外来魚・ブルーギルの意外な話を聞いたのが原点となったそう。琵琶湖周辺でリサーチを重ねることで、琵琶湖の生態系のみならず、現在日本にまん延する排外主義にまで話題が及んでいくという、ドキュメンタリーと演劇の劇的な融合とも言える世界に期待だ。
神里雄大/岡崎藝術座『ニオノウミにて』
KEX初参加となる韓国のアーティスト、サイレン・チョン・ウニョンは、現地のゲイコーラスとコラボする形で、世界各地で上演してきた『変則のファンタジー_韓国版』を上演。2018年に『日本版』を横浜で上演したが、『韓国版』は今回が日本初上演となる(10/26・27)。一時期韓国で流行した、すべての登場人物を女性だけが演じる音楽劇「ヨソン・グック(女性国劇)」。この「女性だけの芸能」に関して、日本の「宝塚歌劇団」も含めて10年間もリサーチを重ね、ジェンダーの揺らぎに焦点を当てて作り上げた舞台だ。
サイレン・チョン・ウニョン『変則のファンタジー_韓国版』 (c)︎Namsan Arts Center
「今はヨソン・グック自体は消滅しているのですが、その歴史を紐解くことで、当時のことだけでなく、今の社会のジェンダーとの関係を語るインターフェイスになると気がついて、この作品を作りました。現代におけるジェンダー・ポリティクスだけでなく、他のマイノリティの問題にも言及できると思います」(サイレン・チョン)
サイレン・チョン・ウニョン(右) [撮影]吉永美和子
さらに展示企画として、グループ展『ケソン工業団地』を開催(10/5~27)。北朝鮮が土地と労働力を、韓国が資本と技術を提供する形で2004年に建設され、2016年に政治的緊張のために閉鎖された「ケソン工業団地」。2018年のソウルで、この団地をテーマに開催された展覧会の中から、3人のアーティストの作品を紹介する。団地内の裁縫工場を模した空間を作ったイ・ブロクの『Robo Cafe』に、棺桶を背負って団地の近くの山に昇る男の姿をとらえたイム・フンスンの映像インスタレーション『Brothers Peaks』に加え、もう1作品を展示。いずれもこの団地に希望を持って生きた一般市民の記憶をたどり、その12年間をいかに両国の未来につなげていくかを問いかけるような作品だ。
イ・ブロク『Robo Cafe』
イム・フンスン『Brothers Peaks』
この公式プログラム以外にも、期間中は「フリンジ企画」にエントリーした51作品が、京都市内各地で上演される。またメイン会場の[ロームシアター京都]には、プログラムの紹介やドリンクの提供、感想シェアカフェなどが行われる「ミーティングポイント」を設置(10/5~27・毎週水曜休)。公演の合間に一息つくのに、重宝するスポットとなりそうだ。
(左から)岡田利規(チェルフィッチュ)、ブシュラ・ウィーズゲン、久門剛史、金氏徹平、サイレン・チョン・ウニョン、橋本裕介(KEXプログラム・ディレクター) [撮影]吉永美和子
また今回を最後に、第1回目からプログラムディレクターを務めてきた橋本裕介が退任。来年度からは塚原悠也(アーティスト/contact Gonzoメンバー)、川崎陽子(プロデューサー/現KEX制作統括)、ジュリエット・礼子・ナップ(PR マネージャー/現KEX広報)の3人体制となる。第10回ということも加えて、これが一つの分岐点となりそうな今年のKEX。フリーパスやホテルプランなども上手く活用して、初秋の京都まで足を運んでみよう。

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