Noism15周年に寄せて~新潟から日本
のダンスを変え続ける! 革命児・金
森穣率いる舞踊団の軌跡と現在

2004年4月、りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館で設立されたNoism(ノイズム)は日本唯一の公立劇場専属舞踊団で、芸術監督・金森穣のもと、オーディションによって選抜されたダンサーが世界中から集う。このほど15周年を迎え、2019年7月19日(金)~21日(日)新潟・りゅーとぴあ、7月26日(金)~28日(日)東京・めぐろパーシモンホールで15周年記念公演『Mirroring Memories-それは尊き光のごとく』『Fratres I』を催す。ここでは、Noismの舞台を旗揚げから観続ける舞踊評論家の高橋森彦が、ダンス界のトップランナーの軌跡をたどり、現在を紹介し、将来の展望にも触れる。
■新潟で日本のダンスの常識を変革!
Noism創設は画期的だった。発端は演出振付家・舞踊家の金森が、りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館舞踊部門芸術監督就任を打診された際に舞踊団創設を提案したことだ。金森は17歳で単身渡欧して巨匠モーリス・ベジャールなどに師事し、欧州のいくつかの著名舞踊団で活躍した。20歳で名振付家イリ・キリアンが率いていた時代のネザーランド・ダンス・シアター2において振付家デビューし、帰国後も精力的に創作を手がけ注目される。新潟市&りゅーとぴあが、それまで首都圏や海外からの作品を招聘するために使っていた予算を金森率いる劇場専属舞踊団の運営に回したのは英断だった。プロフェッショナルとして生活を保障されたダンサーたちが、我が国では例外的に恵まれた環境下で独自の創造・発信を続けているのである。
金森穣 Photo:Kishin Shinoyama
NoismはメインカンパニーNoism1(ノイズムワン)、研修生カンパニーNoism2(ノイズムツー)により構成される。Noism1は世界を見据えた創造活動を展開し、Noism2にはプロ志望の若手が集い新潟市内で催されるイベントや学校への出前公演などを行う。共に秋から始まる1年間のシーズン制を採用し、これは欧州の舞踊団と同様のスタイルだ。トレーニングに関しては「Noismメソッド」「Noismバレエ」という西洋のバレエ・ダンスの技法を基に金森が独自に考案した方法を導入し、ダンサーたちは強靭かつしなやかな身体を築き上げる。この身体の練度こそ、金森が掲げるプロフェッショナルたる「専門性」を保証するのだ。
りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
Noismというカンパニー名はNo-ism=無主義に由来する。「19世紀・20世紀に確立された様々な主義を、否定ではなくもう一度リスタディすることで、21世紀の私たちにとって有用なものを再構築していきたいという思いが活動の理念になっています。特定の主義を持たず、歴史上蓄積されてきた様々な身体知を用いて、あらゆるismを再検証すること。そしてそれを今この時代に有用な新しい形に置き換え、現代人としての身体表現を後世に伝えていこうとしています」(公式ホームページより)
Noism1 実験舞踊vol.1『R.O.O.M.』 (2019年) Photo:Kishin Shinoyama
■快進撃を続け、傑作・話題作を連打
NoismことにメインカンパニーNoism1では主に金森作品を上演している(以下、特に注釈がないものは金森作品)。旗揚げ公演『SHIKAKU』(2004年6月)は鮮烈だった。筆者は東京・パークタワーホール公演を観たが、通常のプロセニアム形式の舞台ではない。白い床に白いオブジェが並ぶフラットな空間でうごめくダンサーたちは観客たちに限りなく接近する。そしてオブジェが取り払われると、厳かな儀式のようなパフォーマンスを展開した。続く『black ice』(2014年10月)は三部構成で、緊張感あるダンスもあれば、白い菱形のオブジェや巨大なキッチュな舞台装置も登場しスペクタクル性もある異色作。最初期の頃は実験的かつ観客にとってインパクトの強い創作で押しアピールしていた。
Noism1『SHIKAKU』(2004年) Photo:Kishin Shinoyama
続く「Triple Bill」(2005年7月)で近藤良平、黒田育世、アレッシオ・シルヴェストリンという外部振付家に作品委嘱する試みを経た後の『NINA-物質化する生け贄』(2005年11月)は、人間と人形(物質)の関係性、存在を鋭く問う凄みのある傑作となった。身体の強度が半端なく完成度も高いこの作品は国内外で数多く再演されNoism初期の代表作となる。そして『PLAY 2 PLAY-干渉する次元』(2007年4月)では、巨大な鏡を配した装置、『NINA』に続くトン・タッ・アンの音楽と共にスリリングなダンスが繰り広げられ、金森が2008年に平成19年度芸術選奨文部科学大臣賞(舞踊部門)を受賞する原動力となったのである。
Noism1『NINA-物質化する生け贄』(2005年) Photo:Kishin Shinoyama
■見世物小屋シリーズから劇的舞踊へ
2008年開始の見世物小屋シリーズでは、肉体の復権を強く打ち出しつつ現代社会で起こる諸問題に迫り、第 1 弾『Nameless Hands-人形の家』(2008年6月)の成果によりカンパニーが第8回朝日舞台芸術賞舞踊賞およびキリンダンスサポートを受賞した。1960年代に一世を風靡したアングラ演劇の影響や金森が兄事する演出家・鈴木忠志へのシンパシーも感じたが、スケールが大きく社会性も備えた野心作である。なお同シリーズは第2弾『Nameless Poison-黒衣の僧』(2009年11月)、『Nameless Voice-水の庭、砂の家』(2012年6月)と続く。
Noism1『Nameless Hands-人形の家』(2008年) Photo:Kishin Shinoyama
いっぽう、この時期に『ZONE-陽炎 稲妻 水の月』(2009年6月)を新国立劇場と共同制作する。そして、その中の1パート「academic」を改訂し『solo for 2』として「NHKバレエの饗宴2012」で上演した。さらに『solo for 2』は新国立劇場の「DANCE to the Future 2013」で取り上げられ、新国立劇場バレエ団が踊った。西洋の舞踊技法を踏まえた力強さと柔軟さがNoismダンサーに求められる基盤だとあらためて証明されたのである。創設メンバーで副芸術監督も兼ねる井関佐和子(2018年第30回ニムラ舞踊賞受賞)らダンサーたちは日々鍛錬に励んでおり、Noism1およびNoism2 から辻本知彦(元シルク・ドゥ・ソレイユ)、島地保武(元フォーサイス・カンパニー)、平原慎太郎(OrganWorks主宰)、堀田千晶(バットシェバ舞踊団)、飯田利奈子(ネザーランド・ダンス・シアター1)といった逸材が飛躍していることを付記したい。

Noism1+Nosm2 劇的舞踊『ラ・バヤデール―幻の国』 (2016年) Photo:Kishin Shinoyama

全国各地での認知度を高めたのが劇的舞踊シリーズだ。劇的舞踊『ホフマン物語』(2010年7月)、劇的舞踊『カルメン』(2014年6月)、劇的舞踊『ラ・バヤデール―幻の国』(2016年6月)、劇的舞踊『ROMEO&JULIETS』(2018年7月)は、有名な文学やバレエを自在に読み替えつつドラマ性豊かな語り口が魅力で、多くの観客を獲得した。各地の劇場との連携も深まり、『カルメン』以降はSPAC(静岡県舞台芸術センター)の俳優が出演し、演劇関係などからも注目される。その他にも近代童話劇シリーズvol.1『箱入り娘』(2015年6月)、同『マッチ売りの話』+『passacaglia』(2017年1月)などの意欲作を発表し、最新作の実験舞踊vol.1『R.O.O.M.』/『鏡の中の鏡』(2019年1月)でもさらなる挑戦を続ける。外部出演では2011年8月に「サイトウ・キネン・フェスティバル松本(現在は「セイジ・オザワ 松本フェスティバル」)で金森演出振付のバレエ『中国の不思議な役人』、オペラ『青ひげ公の城』を上演し話題をさらった。さらに「NHKバレエの饗宴2015」で新作『supernova』を発表している。
Noism1×SPAC 劇的舞踊『ROMEO&JULIETS』(2018年) Photo:Kishin Shinoyama
■海外で、そして地元・新潟で
Noismを語る上で欠かせないのが海外公演だ。2019年7月現在、11ヵ国21都市で公演を行った。地域も欧州、ロシア、アジア、北米、南米と広範囲にわたる。以下、最近の主なものを挙げておく。2017年3月~4月には国際交流基金の主催によるルーマニア2都市公演としてブカレスト国立劇場で劇的舞踊『ラ・バヤデール―幻の国』を、シビウ国際演劇祭のプレ企画としてNoism1『マッチ売りの話』+『passacaglia』を上演した。2018年11月にはInternational Festival of Arts “DIAGHILEV. P. S.”から招待され、マリウス・プティパ生誕200年記念の特別企画としてロシア・サンクトペテルブルクのアレクサンドリンスキー劇場で劇的舞踊『ラ・バヤデールー幻の国』を披露。今年(2019年)5月にはロシア・モスクワのチェーホフ演劇祭に招かれ劇的舞踊『カルメン』を上演した。海外公演といっても形態は様々だが、Noismに関してはすべて招待公演で、費用も招聘側の全額負担あるいは文化庁や国際交流基金の助成を得て実施している。
Noism1+Noism2 劇的舞踊『カルメン』ロシア・モスクワ公演 Photo:Alexander Kurov / Chekhov International Theatre Festival
新潟市きっての国際的な文化大使であると共に地元での活動を大事にしているのも疑いない。Noism1の作品は基本的に新潟で幕を開ける。Noism2も定期公演をりゅーとぴあで行い、そのほかにも劇場外でのパフォーマンスも行ってきた。そして2015年より「サマースクール」を開校し次世代舞踊家育成にも努める。また「水と土の芸術祭」、「新潟インターナショナルダンスフェスティバル(NIDF)」(金森、井関らベテランによるNoism0『愛と精霊の家』という傑作も生まれた)にも関わり、新潟市の芸術文化振興に寄与してきた。新潟県内の高校・大学のダンス部が近年全国コンクールにおいて活躍することも多く、これもNoismというプロフェッショナルな団体の存在が大きく影響していると思われる。そして全国各地からNoismの公演を観るために新潟へと足を運ぶ観客も少なくない。新潟公演でのアフタートーク時に来場者が居住地を明かすこともあるが多岐にわたる。新潟の観光・経済面に少なからぬ貢献を果たしてきたはずだ。なお2008年に金森が平成20年度新潟日報文化賞を受賞している。
サマースクールで指導する金森穣 Photo:Ryu Endo
■新潟から、さらなる未来に向けて
15周年を迎えNoismは歩みを止めない。先に触れた5月のモスクワ公演を成功させた勢いをもって、記念公演『Mirroring Memories-それは尊き光のごとく』&『Fratres I』(新作)を新潟・東京で公演する。前者は旧作から黒衣にまつわる場面を抜粋したものをベースに金森が出演するパートを加えた珠玉のオムニバスで、2018年4月に〈上野の森バレエホリデイ2018〉で初演された。2019年、金森が第60回毎日芸術賞を受賞した対象の一つとなった名舞台で、このたび新たなシーンが1つ増えるという。後者のタイトルはラテン語で「親族、兄弟、同士」といった意味で、Noismの今が濃密に反映された作品になりそうだ。また少し先だが2019年12月~2020年1月には日本人として初めて欧州の公立劇場の舞踊部門芸術監督を務めた森優貴の新作と金森の新作『Fratres II』によるダブルビルを新潟・埼玉で上演する。Noismの最新形を体感したい。

Noism2『火の鳥』(2016年) Photo:Kishin Shinoyama

Noism&金森は常に進化し華々しく活動してきたが、その道程は苦闘の連続だった違いない。先駆者故の辛さである。後続が生まれ、点と点がつながり線となり、日本のダンスシーンがさらに変革していくには少し時間がかかりそうだが、そのためにも闘い続けていくしかないだろう。気がかりなのは活動期間延長についてである。当初は3年ごとに更新されてきたが、直近では1年の更新となり、2020年9月以後の更新に関して現時点(2019年7月中旬)では未定だ。新潟市が世界に誇る生きた文化財産の価値を国内外の多くの人々が実感しているのは間違いない。Noismが新潟から描く豊かな未来のヴィジョンが果て無く続くことを願うばかりだ。
Noism 15周年記念公演 PR movie
取材・文=高橋森彦
※本稿執筆にあたり、Noism公式ホームページを参照した。

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