浅井健一&TIKが叩き出す熱狂と美し
さ 更新される音楽の歴史

浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS(ジ・インターチェンジ・キルズ)によるツアー『INDIAN SUMMER QUATTRO GIGS』が2019年6月30日(日)、渋谷クラブクアトロにてファイナルを迎えた。本記事では、6月29日セミファイナルの模様をレポートする。

Photography_ATSUKI IWASA
Text_Sotaro Yamada

浅井健一&THE INTERCHANGE KILLSとは

浅井健一について音楽メディアで説明するのは野暮中の野暮だが、ミーティアには若い読者が多く、一周回って知らない人もいるかもしれないので、まずは簡単に触れておく。浅井健一は、1990年代に活躍した3人組ロックバンドBLANKEY JET CITY(ブランキー・ジェット・シティ)のフロントマン。愛称はベンジー。のちの日本の音楽に多大な影響を与えたカリスマで、ミュージシャンのファンも多い。たとえば椎名林檎が『丸の内サディスティック』にて「そしたらベンジーあたしをグレッチで殴って」と歌ったフレーズなどは有名だろう。椎名林檎がレジェンド化している2019年現在、そのレジェンドが「神様」と崇めるのが浅井健一、と書けばもうじゅうぶんだろう。

他の誰にも似ていない詩的な歌詞も特徴的で、今でもその人気は根強い。詩人の最果タヒは、自身のルーツに浅井健一の歌詞をあげている(小説トリッパー『身のある話と、歯に詰まるワタシ』尾崎世界観との対談や、立東舎コラム『浅井健一さんの歌詞/感受性そのものの言葉』など)
http://rittorsha.jp/column/2019/02/2-1.html
『冬のセーター』『赤いタンバリン』『SATURDAY NIGHT』などの楽曲は、当時を知らなくても耳にしたことがある人が多いのではないだろうか。少なくとも、日本の音楽を掘っていけば必ずすぐに行き当たる。

浅井の他のメンバー、照井利幸(てるい・としゆき Ba.)はROSSORAVENといったバンド活動や自主レーベルで活動し、浅井のソロなどにも参加。中村達也(なかむら・たつや Dr.)はTOKIE(ex. RIZE)や武田真治も参加していたロックバンドLOSALIOSとして活動しているほか、役者としても渋い演技で活躍している(代表作に『蘇りの血』『HiGH&LOW』『悪と仮面のルール』など)。

レジェンド×レジェンドによる演奏

さて、そんなレジェンド中のレジェンド浅井健一が、こちらもレジェンドバンドであるナンバーガールの中尾憲太郎(なかお・けんたろう Ba.)とカナダやアメリカなどで活動してきた小林瞳(こばやし・ひとみ Dr.)と組んだバンドが浅井健一 & THE INTERCHANGE KILLS。2016年より活動しており、これまで『METEO』『Sugar』と2枚のアルバムをリリースしている。

今回のツアーは、浅井健一ソロとしてのシングル『METALIC MERCEDES』のリリースにともなったツアーであり、6月22日の名古屋クアトロを皮切りに、東名阪で4公演をまわってきた。2月にはソロ名義で『HARUKAZE』と『ぐっさり』の2曲を配信リリースし、3月から4月まで全国8公演のツアーを終えたばかりでもあり、2019年における浅井健一の活動は非常に活発化している。

この日の渋谷クラブクアトロには、ブランキー世代から20代前半と思しき若者まで幅広い世代のオーディエンスが大勢詰めかけていた。ほとんど満員電車状態で身動きを取るのが難しいほど。梅雨のじめじめした空気を冷房の強い冷気が吹き飛ばそうとしていたが、オーディエンスの異様な熱気にはかなわなかったようだ。SEとしてビー・ジーズの『メロディ・フェア』が流れるステージに、中尾憲太郎、小林瞳、浅井健一が登場すると、フロアに大歓声が起きる。小林のドラミングに浅井の高音ギターがカットインし、ややあってから中尾のベースが入り、『Vinegar』からライブはスタートした。
(浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS『Vinegar』MV)

中尾&小林のリズム隊が生み出す音の重さは、高速で連打されるボディブローのように聴く者の内臓を鈍く打ち付ける。その上を浅井のギターが自由に飛び回り、空気を切り裂いていく。この3人の演奏は、打ち込みを聴き慣れたオーディエンスにとってはちょっと刺激が強すぎるかもしれない。だが、一度聴いたら忘れられない浅井の歌声とユニークな歌詞が絶妙なバランスでこの曲に軽やかさを与えていて、決して古びないポップさがあるのが聴きどころのひとつだ。何しろ、歌詞はフィッシュ&チップスの食べ方や皿の洗い方について歌っているのだから。

フィッシュアンドチップスに ビネガーかけて タルタルソース つけずに食べる それってかなり 理解できないよ 一緒にやってくのは無理だ (中略) 食器洗いをする時は まず水につけてから 蛇口止め 油もんは 別にして やるんだぜ

なんとまあ、ユニークな歌詞だろうか。歌う人次第ではダサい曲になってしまいかねない。だがMVを見れば一目瞭然なように、最上級にクールなハードロックとして楽曲は完成されている。

浅井健一の歌詞はすべてそうなのだが、説明を超えて「かっこいい」と人に思わせてしまう強烈な力がある。ふつう、人はまず言葉を理解してから好き嫌いを判断し、後からその魅力について考えるものだ。しかし浅井健一の歌詞を聴いたり読んだりする時は、この順番が逆転してしまう。まず言葉としての強度と魅力に惹かれ、その後に意味が入ってくる。しかも簡単には理解できないから、つい意味を深読みしてしまう。

『Vinegar』という曲ならば、もちろんビネガー(酢)という意味で捉えるのが素直な受け取り方だろうが、この言葉には「不機嫌」や「活力」という意味もある。あるいは語源的には「頂点」という意味もあるようだ。すると、「Walking Vinegar Last Forever」というコーラスに、何か別の意味を見出したくなってしまうのが人間の好奇心というものだろう。

こうした歌詞の突出した魅力が、今でもオーディエンスに解けそうで解けないパズルを提供し続けているわけだ。浅井健一がつくる楽曲がひとつも色褪せない理由のひとつは、そんなところにもあるのではないだろうか。

熱狂の渦は、美しさへと収束する

「Let’s Party!!」という浅井の声を合図に、ブランキー時代の楽曲『パイナップルサンド』や『BANG!』が続く。空気をつんざくギターソロ、まるで爆発のようなベースとドラム。スリーピースとはにわかに信じられないほど分厚い演奏に、ほとんどすべてのオーディエンスが手をあげ身体を揺らし絶叫して応える。曲と曲のあいだには「ベンジー!」という叫び声が飛び交い、止むことがない。

熱狂の渦、という言葉がふさわしいフロアだった。そうした熱狂を、ちょっとなごやかな浅井のMCが中和する。「おかえりー!」というファンの声に「ただいま」と気さくに応じると「“新しい新曲”やるわ。すごいポップな歌なんで、みんなも歌ってくれ」というベンジー語で笑いを誘う。このミドルテンポの新曲は、たしかにサビでシンガロングを誘うポップな曲だった。今後のライブの定番になるだろう。

本ツアーの中心曲のひとつだった『INDY ANN』では、緑・赤・青の照明が怪しく3人を照らし、滲み出るようなギターの音が壮大なうねりをつくっていく。優しいアルペジオで始まる『Your Smile』、孤独の先にある優しさを歌った『HARUKAZE』などを続け、序盤の爆発的なライブは、少しずつ美しさへと収束していく。

特に、中尾と小林のコーラスの美しさは、浅井健一&THE INTERCHANGE KILLSを形作る重要な要素のひとつだと言ってもいいだろう。小林の透き通る声の美しさは言うまでもなく、中尾の2種類の声(力強い声とファルセット)も、浅井健一の楽曲と相性が良いようだ。2人の声が折り重なることで、楽曲には独特の奥行きが生まれていた。

そしてもちろん浅井の歌声である。高度なギタープレイを披露しながらビブラートを効かせて歌う彼の歌は、やはり他の誰にも似ていない。ギターの音と浅井の声がシンクロした時、それはいまだ名づけられていないひとつの楽器のような響きで空気を揺らす。

『赤いタンバリン』『ガソリンの揺れか
た』『METALLIC MERCEDES』

海外のインディーロックとの親和性も感じさせる新曲『Precious』、『Freedom』『Ginger Shaker』とスローな楽曲のあとに、何の予告もなく挟まれた『赤いタンバリン』は、間違いなくこの日のハイライトのひとつだった。ブランキーの代名詞とも言える楽曲は、やはりこの場にいるほとんどのオーディエンスが暗記しており、はじめからおわりまでパーフェクトな大合唱が起きた。

20年経っても名曲は名曲だ。この曲がリリースされた時にリアルタイムで聴いていた人とその当時生まれたばかりの人が、同じフロアで同じ熱で、同じように盛り上がっている様を見ていると、本当に「人は愛しあうために生きてるっていう噂 本当かもしれないぜ」と思ってしまう。

そうしてたたみかけるように今回の主役である『METALLIC MERCEDES』と、浅井健一というキャラクターが見事に1曲に詰め込まれた『Beautiful Death』を続けて本編は終わった。

もちろん拍手は一瞬たりとも鳴り止むこ
とがなく、即アンコールへ。

オーディエンスの質問に答える形でMCを進め、フロアが和やかな雰囲気になると、話し終わるか終わらないかといううちに『ガソリンの揺れかた』のイントロへ。もちろんここでも悲鳴のような歓声と大合唱。さらには『Watching TV ~English Lesson~』でギター・ベース・ドラムの激しいセッションからPONTIACSの『GALAXY HEAD MEETING』と続け、上がりきったフロアの熱を0.1℃も冷ますことなく最高潮のままフィナーレを迎えた。

それでも拍手と歓声は鳴り止まない。

ダブルアンコールとして『Fried Tomato』、間髪入れずに『SKUNK』。誰もが聴きたがっている曲をもったいぶらずにあっさり演奏するところが清々しい。爆発的とでも形容したくなるような、語彙力を失ってしまうような激烈なインパクトをもって、本ライブは終わった。

ブランキーには間に合わなくても、浅井
健一の音は鳴り続ける

その後しばらくはフロアに爆発の余韻のようなものが漂っていたし、このライブを見た人たちのなかでは、余韻は今でも胸のなかで小さな火のように燻り続けているに違いない。

今このライブレポートを読んでいる人の大半は、おそらくBLANKY JET CITYには間に合わなかった世代だろう。音楽を好きである以上、それはきっと大きな損失だ。リアルタイムで並走できた世代とのあいだには、永遠に届かない見えない壁のようなものが立ちはだかっているように感じられるかもしれない。

この世代にはブランキーはいない。しかし、キルズがいる。浅井健一がいる。浅井健一は20年経った現在も、衰えるどころか当時とまったく変わらない熱量と質量で新たな音楽を作り続け、当時の楽曲を再現もさせ、音楽の過去と現在と未来をつないでいる。

ブランキーの解散から20年。浅井健一はブランキーの不在を埋めるのではなく、浅井健一を更新するというもっとも難しいやり方で、ブランキーとは別のもうひとつの軸を打ち続けた。

その姿、その音楽は、あらゆる世代のロック少年・少女たちの心を震わせ続ける。これから先も。

<セットリスト>
Vinegar
パイナップルサンド
フルサト
FIXER
BANG!
新曲
INDY ANN
Your Smile
HARUKAZE
新曲
細い杖
ハノイの彫刻
Freedom
Ginger Shaker
赤いタンバリン
METALLIC MERCEDES
Beautiful Death

En 1. ガソリンの揺れかた
En 2. Watching TV ~English Lesson~
En 3. GALAXT HEAD MEETING

WEn 1. Fried Tomato
WEn 2. SKUNK

<リリース情報>

2019年9月25日(水)リリース
アルバム「BLOOD SHIFT」
《初回生産限定盤(CD+DVD)》BVCL 996~997 価格:4,200円+税
《通常盤(CD)》BVCL 998 価格:3,000円+税

予約URL:https://aoj.lnk.to/nKeBKWN

<ライブ情報>

浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS
「BLOOD SHIFT TOUR 2019」

チケット先行予約:https://epIus.jp/atiksingle19-hp/
2019 年 6 月 30 日(日) 20:00 ~ 7 月 21 日(日) 23:59 まで

10/6(日) 宇都宮 HEAVEN’SROCK UTSUNOMIYA VJ-2
OPEN 17:30 START 18:00 info HEAVEN’SROCK UTSUNOMIYA VJ-2 028-639-0111

10/10(木) 神戸 VARIT.
OPEN 18:30 START 19:00 info 清水音泉 06-6357-3666

10/11(金) 京都 磔磔
OPEN 18:30 START 19:00 info 清水音泉 06-6357-3666

10/13(日) 三重 CLUB ROOTS
OPEN 17:30 START 18:00 info JAILHOUSE 052-936-6041

10/14(月祝) 静岡 UMBER
OPEN 17:30 START 18:00 info JAILHOUSE 052-936-6041

10/19(土) 仙台 CLUB JUNK BOX
OPEN 18:00 START 18:30 info GIP 022-222-9999

10/20(日) 山形 ミュージック昭和Session
OPEN 17:30 START 18:00 info GIP 022-222-9999

10/26(土) 札幌 cube garden
OPEN 18:00 START 18:30 info マウントアライブ 011-523-5555

10/27(日) 旭川 CASINO DRIVE
OPEN 17:30 START 18:00 info マウントアライブ 011-523-5555

10/31(木) 高松 DIME
OPEN 18:30 START 19:00 info 夢番地岡山 086-231-3531

11/1(金) 広島 SECOND CRUTCH
OPEN 18:30 START 19:00 info 夢番地広島 082-249-3571

11/3(日) 福岡 DRUM Be-1
OPEN 17:30 START 18:00 info LAND 092-710-6167

11/4(月祝) 宮崎 SR BOX
OPEN 17:30 START 18:00 info LAND 092-710-6167

11/6(水) 大分 DRUM Be-0
OPEN 18:30 START 19:00 info LAND 092-710-6167

11/7日(木) 門司 BRICK HALL
OPEN 18:30 START 19:00 info LAND 092-710-6167

11/9(土) 福井 CHOP
OPEN 18:00 START 18:30 info キョードー北陸vチケットセンター 025-245-5100

11/10日(日) 金沢 vanvanV4
OPEN 17:30 START 18:00 info キョードー北陸vチケットセンター 025-245-5100

11/16(土) 大阪 CLUB QUATTRO
OPEN 17:30 START 18:30 info 清水音泉 06-6357-3666

11/17(日) 名古屋 CLUB QUATTRO
OPEN 17:00 START 18:00 info JAILHOUSE 052-936-6041

11/19(火) 東京 マイナビBLITZ赤坂
OPEN 18:30 START 19:30 info SMASH 03-3444-6751

浅井健一&TIKが叩き出す熱狂と美しさ 更新される音楽の歴史はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

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