クラシックギタリスト鈴木大介~リエ
ージュ・フィルとの共演を直前に控え
てのインタビュー

クリスティアン・アルミンク指揮、ベルギー王立リエージュ・フィルハーモニー管弦楽団の京都公演が2019年6月29日におこなわれる。(以前、アルミンクに取材した記事はコチラを参照) その直前スペシャルイベントが、京都公演でソリストを務めるギターリスト鈴木大介と、京都芸術大学の教授で作曲家の酒井健治を招いて先日行われた。
鈴木大介がリエージュ・フィルと演奏するタン・ドゥンのギター協奏曲「Yi2」の聴きどころを語るだけに留まらず、現在のコンテンポラリーミュージックにおけるクリエイティブの在り方についてなど、多方面に話は及び、大変興味深いトークセッションとなった。
そして第二部として鈴木大介のプレミアムライブも行われ、参加者にとってとても魅力的なイベントとなった。
トークセッションからタン・ドゥンにまつわる話と、イベント終了後に鈴木大介に取材をしたコメントを紹介したい。
プライべートでも仲が良いという二人 (c)山本康平
酒井健治 いつの時代にも、時代を先取る革新的な作曲家と懐古主義的、保守的な作曲家はいます。タン・ドゥンは保守的なスタイルの作曲家と言って良いでしょうね。作品はハリウッドの映画音楽やアメリカのエンタテインメントを感じるモノも多いです。 また、同時に欧州では、人が聴いたことのない響きとは何かを追求するブーレーズやシュトックハウゼンのような音楽もあります。一口に現代音楽と言っても両方存在します。
京都芸術大学の教授にして作曲家 酒井健治 (c)H.isojima
鈴木大介 ブーレーズやシュトックハウゼンと云った大家は新しいものを作って来たと思いますが、現代音楽の作曲家の中には、手法は新しいけれどサウンドしない、企画倒れとも言えるものも数多くあるのではないですか。
クラシックギタリスト鈴木大介 (c)H.isojima
酒井 合理的でない難しさ、人間の肉体に取り込めないような複雑な事を書いている作曲家も、ハリウッド的な音楽を書く作曲家も、すべて再演を繰り返して生き残っていくものだと思います。私自身は、同時代の聴衆の方と感覚を共有する事を目指して書いていますが、実際に何が正解なのかは、50年後の聴衆がジャッジする事だと思います(笑)。
鈴木 なるほど。僕ら演奏家も軽々しくジャッジしないようにします(笑)。
作品の良し悪しは50年後の聴衆が判断するのだと思います(笑)。 (c)山本康平
鈴木 タン・ドゥンのこの曲は1998年の作品ですが、尖がった部分とキャッチーな部分の配合のバランスが面白い作品です。
酒井 フラメンコから始まって中国、そして中東もある。この曲はアメリカそのものだと思います。実にコスモポリタン!タン・ドゥンはアメリカの作曲家そのものだと思いますね。
タンドゥン作曲ギター協奏曲「Yi2」のスコア (c)山本康平
鈴木 この曲をベルギーのオーケストラがどう弾くのか。興味ありますねえ(笑)。指揮者のアルミンクは何度かやっているそうですが、京都での演奏が日本初演となります。
タン・ドゥンのギター協奏曲「Yi2」のスコアを見て話す二人 (c)山本康平
実際にはスコアを見ながら、細かくギターでの実演を交えて二人が曲を分析していくのだが、これ以上は本番の演奏のお楽しみということにさせて頂こう。 話を交えながら、自然体でギターを弾く鈴木大介。 武満徹が編曲をしたビートルズを楽しそうに弾くその姿には、音楽に向き合う姿勢のようなものが表れていてとても好感が持てた。
楽しそうに武満徹編曲のビートルズを演奏する鈴木大介 (c)山本康平
イベント終了後、鈴木大介に話を聞いた。
―― 大変楽しいトークセッションで、演奏も素敵でした!鈴木さんにとって現代音楽とはどういったものですか。
鈴木 僕は軸足を現代音楽に置いたクラシックギタリストです。現代音楽を現代美術のように感覚的に楽しんで頂けないものかと、常々考えています。美術品はそこに飾って有れば、ふーん、こんなモノが有るんだね!と楽しんで頂ける。音楽も漠然と、こんな響きが有るんだね!と思って頂けるような機会を設ける事が出来れば、現存する親しみのある有名曲も、もっと違った形で楽しんでいただけるのではないかと考えます。しかし実際には、音楽は咀嚼できないと倦厭されてしまうし、そうなるとよく判らないと思われてしまうでしょうし…。難しいですね。
―― 片方で映画音楽のアレンジなんかも積極的にやられていますね。
鈴木 ピアノは誰もが知っている曲だけでプログラムを組み、コンサートが出来ますが、ギターはそうはいきません。クラシックギターでも皆さんが知っている曲だけでコンサートが出来ればという事で、映画音楽をクラシック音楽として聴ける形にアレンジして来ました。従来から存在する皆さまご存じの曲に加え、現代曲、そして映画音楽と、ギターのレパートリーが少しは広がったのではないかと思います。
自らを、現代音楽に軸足を置いたクラシックギタリストと語る (c)H.isojima
―― 鈴木さんと言えば武満徹作品は切っても切れない関係ですが、武満徹の作る映画音楽は彼の膨大な作品群の中でどんな位置づけですか?
鈴木 武満徹という人は、料理人でいうと世界中の料理が作れた人です。イタリアンでもフレンチでもアフリカの料理もエスニックなカレーのようなものも、本当に何でも。しかし、コンサートホールで演奏される作品としては、日本に生まれた彼の感性を代弁してゆくような和のテイストが感じられる音楽が殆どでした。実はジャズやアフリカ音楽にも造詣が深いんだろうと思わせるものの、それがストレートには絶対出てこない。ところが、映画音楽では、たとえばタンゴのパートが全部音で書いてあったり、ジャズのビッグバンドの曲でも全部のパートを書いている。武満徹の世界中の料理が作れる遊び心、レパートリーが映画音楽の中には出ているのです。
美しい鈴木大介のギター! (c)山本康平
―― 武満さんはギターを弾けたのですか?
鈴木 いえ、弾けません。コードを押さえるくらいですね。
―― ギターを弾けない方がギターの曲を書くと、理にかなっていない点などがあるのではないですか。ロドリーゴもギターを弾けなかったと聞いたことがあるのですが。
鈴木 ロドリーゴはギター弾けませんよ。だから彼の譜面には弾けない和音がいっぱい書いてある。それをギタリストが色々と工夫して弾いています。指揮者がスコアだけを見ていて、どうしてこの音とこの音を抜いているんだ?と聞くというハナシは、まま有るハナシです。若い頃は狼狽えていましたが、この年になると、それは完全に指揮者の勉強不足だと言い切れますね(笑)。
―― 鈴木さんは色々な楽器奏者とコラボしたり、活動の幅が多岐に及んでいますが、目指すゴールは何処になるのでしょうか。
鈴木 それは、はっきりしています。日本のギターのスタイルを作る事です。スペインにはフラメンコ、ブラジルにはサンバやボサノバ。アルゼンチンならタンゴ、中南米にはフォルクローレ、アメリカ合衆国にはカントリーミュージック。国ごとに違ったスタイルがありますよね。 たとえば、「春の海」の琴のパートや、雅楽を譜面化したものなどをギターで弾いてみると、違和感なく弾けて、ギターのサウンドが和の楽器の中にもある事がわかります。そんな事からも日本人はギターが好きなんだと思います。 それなら、積極的にギターにコミットした日本の音楽が有ってもいいのではないかと考える訳です。ロックもジャズも含めて日本のスタイル。日本人がこういうものが日本の感性で弾くギターだと言えるようなものを作る事が、自分のライフワークです。その原点が武満徹さんや、細川俊夫さんですし、僕が委嘱してきた池辺晋一朗さんや西村朗さん他の音楽の中から僕が汲み取っていかなければと思っています。
日本のギターのスタイルを作りたい! (c)H.isojima
―― 今週末に迫ったリエージュ・フィルとのタン・ドゥンのコンチェルトの話は、先ほども出ましたが、それ以外にも色々とコンサートをやられる予定ですね。 9月に大阪のいずみホールでやられる「ランチタイム・コンサート」と12月に東京文化会館小ホールでやられる「プラチナ・シリーズ」について、手元に資料がありますが、これこそ鈴木さんの音楽世界ですね。 いずみホールは「ジャンル無用の楽器ギターを満喫する!」とサブタイトルに書かれているとおり、スカルラッティ、シューベルトから、バリオス、ジョビン、ピアソラそしてモリコーネに武満徹と、振り幅の大きなプログラム。 一方、東京文化会館は、先ほどのハナシではありませんが、鈴木さんの考えるギター音楽がずらりと並んだコンサートなんじゃないですか。
鈴木 はい、そうですね。いずみホールの「ランチタイム・コンサート」は、音楽学者の岡田暁生さんからのリクエストです。ギターってこんなにも色々な事が出来るんだ!と、ギターの多彩さを聴いて頂くためのコンサートです。 12月の東京文化会館のコンサートは、仰る通り、僕が考える日本のギター音楽を皆さまに提示出来るプログラムとなります。曲はすべて日本人による作品。酒井健治、西村朗、池辺晋一朗、武満徹、猿谷紀郎、そして渡辺香津美といった方々の作品が並びます。どれも美しく、そして格好いい曲です。僕自身が武満徹でデビュ―したことも有って、その後書いて頂く作曲家の方が、超現代音楽ではなく、広く聴衆にアピールする曲を書いてくださる傾向があり、とてもラッキーなんです(笑)。現在の日本に生きる皆さんが、このコンサートを聴いた帰りに、ホッと落ち着けて、とっても腑に落ちたなと思っていただけるコンサートになればいいなぁと思っています。
色々なタイプのコンサートを行っている鈴木大介 (c)山本康平
―― クラシックは苦手だけどロックやジャズなら聴く!という人も多いと思いますが、鈴木さんのギターはそういったジャンルの壁みたいなものを感じさせないのが良いですね。
鈴木 ありがとうございます。最初にも話しましたが、僕はクラシックギタリストです。色々なモノが混ざり合っていますが、ジャンルは一切超えていません。すべて鈴木大介の弾くギターです。ギターを弾いていて、楽しいと思える部分が年々増えてきたように思います。以前は、練習と違う事が起こるのが嫌だったのですが、ようやくハプニングも新しい発見と置き換える事で、楽しいと思えるようになりました。僕の場合ある規範があって、そこに向かっていくギターのスタイルではなかったので、そう思えるまで随分時間がかかったように思います。どうか一度コンサートにお越しください。お待ちしております。
一度ライブにお越しください! (c)H.isojima
取材・文=磯島浩彰

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