フルカワユタカ×Keishi Tanaka 浅
からぬ縁の両者が対バンを前に語り合
う、“あの頃”のこと

『BREATH』を5月8日にリリースしたばかりのKeishi Tanakaと、『epoch』のリリースを7月3日に控えたフルカワユタカ

共に4枚目のアルバムであり、ほぼ同じ時期にバンドを解散してソロになり、さかのぼれば元々は同じレーベルの先輩後輩であるこの2人は、8月6日(火)に東京・新代田FEVERで対バンライブを行う。
というわけで、長い付き合いだし、ただしずっと同じ距離感で同じ関係性だったわけではない、というのもあるし、そのあたりも含めてこれを機に一度いろいろ話してみるというのはいかがでしょう?と持ちかけて実現したのがこの対談です。なお、本当にこのあと夜の下北沢に去って行かれました、おふたりは。
■「後輩ができた! これで俺たち、きついことが半分になる!」と(フルカワ)
──今度の対バンは、FEVERの10周年企画ですよね。
フルカワ:はい。それはタカヒロ(フルカワの所属レーベル・Niw! Recordsのスタッフ)が決めてきた。10周年で何かやってくれませんかって話をFEVERに持ちかけられて、「この2組、あんまり一緒にやったことないからいいかもしれない」って思ったみたいで。
──え、あんまりやってない? 意外です。
フルカワ:あんまりやってないですね。バンド編成で一緒にやるのは5年ぶりくらい。
──最初の接点は?
Keishi:それはですねえ……。
フルカワ:憶えてないんだよね、俺。どうやって出てきたの?(笑)。
Keishi:僕が20歳ぐらいで、フルカワさん25歳ぐらいで。僕が東京に出て来て、Riddim Saunterというバンドをやり始めたぐらいに、フルカワさんとかNiw! Recordsの人たちと接点を持ち始めて。先に田上さん(TGMX)と遊ぶようになって、それでドーパン(DOPING PANDA)のレコーディングにおじゃましたのが、最初だと思います。バンドを組んだばっかりの頃で……2003年にNiw! Recordsができた時がデビューというか、そのレーベル発足記念コンピの曲が最初なので──。
フルカワ:ああ、そうか。憶えてないんだよなあ……。
Keishi:でも最初はみんなそんな感じだと思いますよ。Riddim Saunterは始まってたけど、ちゃんと認められてなかった自覚があって。最初のアルバムをリリースをすると決まるまで、ただのキッズがうろちょろしてるぞ、みたいな時期がけっこうあったと思います。
フルカワ:最初の対バンはどこ?
Keishi:それはだいぶ先ですね。大阪のTRIANGLE(クラブ)で、リディムとドーパンとMASTER LOWで対バン。
フルカワ:あったっけ? 憶えてない…………あ、ジャグジーあったとこ?
Keishi:そうそうそう! あのジャグジーは、あそこにいた人たちの関係性みたいな、いろんなものが表されていて。好きな思い出のひとつです。
──ハコにジャグジーがあったんですか?
Keishi:TRIANGLEの3階の打ち上げするとこに、大きなプールみたいなジャグジーがあって。3階に上がった瞬間に、一回出て、携帯と財布をカバンに入れてから行ったのをすげえ憶えてて。
──(笑)。落とされる準備ね。
Keishi:入った瞬間に俺らは落とされたんですよ、当然のように。で、チャーベさん(松田岳二)が間違えて落ちちゃって。チャーベさん最年長なんで、その瞬間にみんながジャグジーになだれこむっていう(笑)。
フルカワ:はははは。憶えてる憶えてる。
Keishi:チャーベさんを助けようとしてみんな落ちるっていうネタ。それで20人ぐらいが服を着たまま入ってたのが、あの頃の印象的な記憶っていうか。
──音楽的にはRiddim Saunterをどう思っていたんですか、フルカワさんは。
フルカワ:いや、いつ「いいな」って思い始めたか憶えてないんですよ、それも。
Keishi:気になるところですけどね。
フルカワ:もちろん今もいいなと思ってるんだけど、いつからかは……最初の頃はほんとに、「これで俺たち、きついことが半分になる!」としか思ってなかったから。
──ああ、自分たちよりも後輩ができて。
フルカワ:そう。とにかく本当にきつかったんで、日々の生活が……これが載るとまた怒られるんですけど(笑)。だから年表に太文字で載るくらいの出来事、「後輩ができた!」って。
Keishi:それをフルカワさんが言ってたのはすげえ憶えてます。「おまえらが出てきてくれて──」。
フルカワ:ほんとにラクになったんだよ。ほんとにラクになったの。二回言っちゃったけど(笑)。でも、こいつら音楽的にもすごいな、っていうのは、ある時急に気がついたわけじゃないと思いますよ。普通にすごいって認めてたんで、いつの間にか。
フルカワユタカ 撮影=大橋祐希
■ぶっちゃけ、2005年までの付き合いしかないんですよね。
そのあとは急に疎遠になってしまって(Keishi)
──僕はできあがってからのRiddim Saunterしか知らないんですけど、その頃は──。
Keishi:いや、全然できあがってないですね、まだ。僕の感覚で言うと、できあがった頃に解散した感じはあるんで。
──Keishiさんはドーパンをどう見ていたんですか?
Keishi:いやあ……メジャーに行ったの何年ですか?
フルカワ:2005年。
Keishi:2005年か。ぶっちゃけ、その2005年までの付き合いしかないんですよね。そのあとは急に疎遠になってしまって。
フルカワ:メジャーに移って、事務所にも入ったからね。それはまあしょうがなかったですね。いろいろあったんで。
Keishi:その前までは、僕はフルカワさんとすごい仲いい印象あったんですけど。気が付いたときには「あれ?」って。
フルカワ:原付あげたのってメジャー行ってからじゃない?
Keishi:その頃じゃないですかね。行ったときぐらい。
フルカワ:そうだよね。それからあとは、たまに会っても……俺が人生でトップクラスにチョケてた時期だったから(笑)。いちばんイタいときというか。
Keishi:変な関係のとき、ありましたよね。会うまでは今まで通りの気持ちなんだけど、しゃべり終ると変な関係だと思ってた時期が、正直僕にはあって。
──誰と対談してもそういう話が出てきますね、その時期のフルカワさん(笑)。
フルカワ:いや、ほかの人とのそういう、俺が尖ってた話はまだいいんです。まだ自分を許せるんだけど、リディムに関しては後輩だから……ちょっと理不尽っていうか、尖り方を間違えてるっていうか。リディムに対しては、俺、全然かっこよくないです。最低です(笑)。
Keishi:当時、「なんでなんだろう?」みたいな感じはありましたけど──。
フルカワ:いや、ここあんま掘り下げないでいいよ!(笑)。
──でも確かに、ドーパンはメジャー方向にシフトしたけど、リディムは方針を変えませんでしたよね。メジャーも断るし……僕が憶えているのは、縁のある事務所の方がずっとリディムを口説いてたけど、ダメだったっていう。
Keishi:それもよく聞かれる話ですけど。そういうのに関しては、「リディムをあの時ああしとけばよかったな」とかはないんですよ、正直。ないけど、今だったらこっちの方が面白いかなという判断も、もちろんあって。当時の20代前半の頃の、なんて言うんだろうな……自信がないことの裏返しだったのかなと、今思うと。ビビってたんですよ。
──ああ、音楽業界にね。
Keishi:自分がメジャーに行くこと、変わってしまうことにビビってただけで。それで変わんない人もたくさんいるし──。
フルカワ:その言い方だと、俺を見てビビってたってことか(笑)。「あんな変わり方したくねえな」っていう。
Keishi:いやいや、そんなことはないですけど(笑)。 なんか、バンドができあがってなかったから、行けなかったし、いろいろ断ったりとかもあったけど、今思うとただビビってただけなんだな、っていうのはすごい思います。そもそも、音楽で生活しようと思ってなかったし、その頃は。難しいことを考えないで音楽をやって、それがたまたまうまく回ってた感じです。20代はそれでいいと思う。
Keishi Tanaka 撮影=大橋祐希
■「バンドやめるんだったらドーパンに入らないか?」って言われて(Keishi)
──で、解散してソロになった時期って近いですよね。リディムが2011年でドーパンが2012年。
Keishi:そうなんですよね。フルカワさん、あの話ってどっかで言ってますっけ? 俺をドーパンに誘ってくれた話。
フルカワ:ああ、全然してるよ。
Keishi:じゃあいいのか。それがけっこう意外だったというか──。
──すいません、ここでも話してもらっていいですかね。
フルカワ:DOPING PANDAとして活動を続けている中で、ある時期から自分の歌が自分の表現を堰止めてる感じがずっとしてたんです。バンド始めたときは、もともとギタリストだったし、あんまり歌のことを深く考えてなかったんです。でもやっていけばやっていくほど、そこが足枷になっている気がずっとしていて。まあ、「歌が並だから、俺はすごい天才だけどうまくいかないんだ」みたいな言い訳にしてる部分も半分あったんだけど、本当に悩んでたんですよ。最後のアルバム2枚のちょっと前ぐらいから。それでKeishiを誘ったんです。
Keishi:リディムが解散するのが耳に入って、「バンドやめるんだったらドーパンに入らないか?」って言われて──。
フルカワ:まじめにしましたよ、その話。
Keishi:うれしかったけど、それは悩むことでもなくて。自分がドーパンに入りたいかどうかとかじゃなくて、もう考えられないわけです、こっちからすると。「何を言い出してるんだこの人は? フルカワさんが歌わないDOPING PANDAなんてないでしょ」っていう。だから即答で断ったし。迷えなかったですよ。
──フルカワさん、相当弱ってたんですね。
Keishi:それを思いましたね、僕も。
フルカワ:グルングルンでしたよ、頭の中。だってあれ2011年でしょ?
Keishi:そう、2011年の夏ぐらいです。
フルカワ:ってことは……その年が最後のアルバムなんですよ。震災でツアーが飛んで、発売日も延期になったり。弱ってるっていうか、もう大変な時期で。
Keishi:そのとき、数年ぶりに、人間のフルカワさんとしゃべってる感じがしました。
フルカワ:(笑)。なんだよそれ!
Keishi:それまでは、たまにしゃべってても、なんて言うんだろう、中身がない感じがしてたんですよ。自分も相談とかしようとも思わないというか──。
フルカワ:すごいこと言ってんな(笑)。
Keishi:いやいや、なんか、お互い本音を言ってないっていうか。で、思い悩んでるとか知らない状態で、いきなり「ドーパンに入らないか?」の話になったから。すごい衝撃を受けて、その時に「あれ?」と思って。解散の話とかは知らなかったけど、何かが起きるのかなと──。
フルカワ:いや、まだ解散は決めてくて。そっから半年後だね。でも、今思うと、正直すごいオファーしてるなと思うよ。
Keishi:そうですよ!
■調子よくてもやめますから、バンドは(フルカワ)
──で、それぞれソロになって。バンドからソロへの移行が、Keishi Tanakaはとてもスムーズにスッと行った印象があるんですけど。
Keishi:なんか、間を空けたくなかったんですよね。あと、弾き語りのオファーがあって、その頃はギター始めたばかりで、大して弾けなくて演奏が止まっちゃったりもしてたんですけど、でも、誘われてるのを断っちゃダメだなっていうのがあったんで。無理矢理ライブを入れるようにして、入れたから練習するみたいな感じで。
フルカワ:不安とかはなかった?
Keishi:それがあんまりなかったんですよね。モチベーションがめちゃめちゃ高くなってて。解散するっていうことは、そういうことな気もするし。バンドもけっこう調子はよかったんですけどね、解散のタイミングのときって。
──はい。「今? なんで?」と思いました。
Keishi:メンバーの都合があってライブの本数を減らしたっていうのはちょっとあるんですけど、そのときに制作をしようと思えなかった時点で、もうないなと思って。音楽に対するモチベーションを上げるためにはどうしようかなと思って、メンバーと相談したらメンバーも同じようなことを考えてたから、解散したんです。だから、ソロをやることにモチベーションが上がらない理由がないというか。
──それをどういうふうに見てました?
フルカワ:いや、そのときはいろんな話を聞いて、Keishiが今言えないようなこともいろいろあったと思うし。うちもあったしね。ただ、調子よくてもやめますから、バンドは。人と人でつながってるものだから。そりゃあいろんな方面から色々話を聞きましたよ。どれが正解かわかんないから言わないけど。
Keishi:なんですかそれ、気になる(笑)。
フルカワ:いろんな話は尾ひれも付いた状態だったと思うし、自分もそういうふうになってたから、全然違和感はなくて。「え、解散するんだ?」とか思わなかった。2011年のあのときって……震災のせいには絶対しちゃいけないんだけど……。
──ああ、ミュージシャンみんな食らってましたよね。「俺、音楽やってていいのか?」「音楽やる意味あるのか?」っていう。
フルカワ:そう、やっぱり食らう人は食らってましたから。俺もそんなに強い人間じゃないんで、「音楽やっていいのか?」って純粋に思ったし。もちろん、解散するっていうことにはいろんな理由がつきものだけど、リディムに限らず、あの頃って解散とか休止が多かった気がするんですよ。自分たちがやめたからかもしれないけど。そういうもんなんだろうな、とも思ってましたね。
Keishi:僕らは震災の前に始まった解散話でしたけど、ただフルカワさんの言ってることはよくわかります。あの頃は誰も正解がわからなくて、むしろ正解はない状況で、活動しても自粛しても叩かれるみたいな感じもあったし。やるとかやらないの決断が、なんでも難しくとらえられてた時期はありましたね。
フルカワ:うん。だから、当時の空気感的にね。まあ、始まれば終わるしね。
フルカワユタカ / Keishi Tanaka 撮影=大橋祐希
■フルカワさん、ソロになって、やさぐれてましたね(Keishi)
──で、それぞれソロになってから接点は復活する?
フルカワ:いやいや、ライブは一緒にやりましたけど……。
Keishi:僕的には「ドーパンに入らないか?」の時点で関係は復活してるんですけど、でもなんか、フルカワさん、ソロになって、やさぐれてましたね。
フルカワ:単純に自分がうまくいってなかったからね。バンドでダメだったけど、ソロになったら逆にすごくうまくいくんじゃないかと思っていたら、全然で。
Keishi:あの、(下北沢)シェルターに誘ってくれたじゃないですか。荒井さん(荒井岳史the band apart)と。あの時期はどうなんですか?
フルカワ:いや……もちろん打ちのめされたね。……でも、さらにそのあともあるんだよね、打ちのめされてる時期。事務所を一回やめて、打ちのめされて、事務所に戻ってからもしばらくライブができない時期があって、そこでも打ちのめされて。もう、ほんと最近だよ? 俺。楽しくなってきたのは。
Keishi:(笑)。
フルカワ:一昨年ぐらいから。Base Ball Bearのヘルプでツアーに行ってからだもん。それまではなんにも楽しくなかった、本当に。
Keishi:僕はそのシェルターの打ち上げで、けっこうまたしゃべれるようになった気がしていて。荒井さんと3人でしゃべって、それまで俺には弱いとこは見せなかったのに、「俺はさあ……」みたいな話をしていて。そのときも、けっこう関係性が変わった気がしたんですよね。
フルカワ:あの頃は俺はね、いちばん自分に自信がない時期だったと思う。けっこうKeishiを持ち上げてた記憶があるよ(笑)。実際、歌、よかったし。自分が取り残されてる感じがちゃんとあって。須藤くん(須藤寿/髭(HiGE)とかにも気を遣ってたもん。逆にKeishiはリディムのときよりも、アーティストとしての自我が芽生えてるな、っていう自信も見えたし。「ああ、変わったなあ」って思いましたよ。
Keishi:まあ、やるしかないからでしょうね、一人になって。
フルカワ:そうだよね。それを感じて、「自分は何やってんだろうな」みたいなところはありましたよ。
──そう思わなくていいようになったのは?
フルカワ:それは、最近です。ほんとに最近。楽しくなったのはBase Ball Bearのツアー・サポートからだけど、本当の意味で自信を持てるようになってきたのは前のアルバムくらいから。スタジオコーストで主催イベントをやってからぐらいですね(2018年1月28日)。あれ、あのスタジオコースト以来だっけ? 会うの。
Keishi:いやいや、そんなことないです。
フルカワ:いつ以来だっけ?
Keishi:会ってはいる気はするんですけど……これ、SNSの怖いとこですね。
フルカワ:本当に。わかんなくなっちゃうんだよね。会ってる気になるっていう。
──今度の対バンは、アンコールで何か一緒にやったりはしないんですか?
フルカワ:ああ、その話もしようかなあと思って、今日。やりたいと思ってますよ。
Keishi:マジですか?
フルカワ:お互いの曲をカバーし合うとか、いろいろあるじゃないですか。せっかく長い関係性もあるから、なんかやった方がいいなあと思って。
Keishi:出番、僕が先ですよね?
フルカワ:いや、(スタッフに)どっちなの? どっちでもいいよ?
Keishi:いや、フルカワさんが後でしょ。
フルカワ:この後って何かある?
Keishi:いや、今日はこれで終わりです。っていうか、空けてました。
フルカワ:ほんと? じゃあちょっと行こうか?
──と、2人で下北沢の街へ──。

取材・文=兵庫慎司 撮影=大橋祐希

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