『クリスチャン・ボルタンスキー -
Lifetime』展レポート 47点の作品が
集う、日本最大規模の回顧展

現代フランスを代表する作家、クリスチャン・ボルタンスキーの半世紀にわたる創作活動を紹介する展覧会『クリスチャン・ボルタンスキー -Lifetime』(会期:~2019年9月2日)が、国立新美術館にて開幕した。
《出発》 2015年 「クリスチャン・ボルタンスキー −Lifetime」展 2019年 国立新美術館展示風景
《シャス高校の祭壇》 1987年 「クリスチャン・ボルタンスキー −Lifetime」展 2019年 国立新美術館展示風景

本展は、ボルタンスキーが手がけた初期の代表作から、東京展のために制作した最新作まで、計47点の作品が集う日本では過去最大規模の回顧展となっている。自己や他者の記憶にまつわる作品や、歴史や人間の存在の痕跡をテーマに据えながら、作品を作り続けてきたボルタンスキー。
《合間に》 2010年 「クリスチャン・ボルタンスキー −Lifetime」展 2019年 国立新美術館展示風景
《影》 1986年 「クリスチャン・ボルタンスキー −Lifetime」展 2019年 国立新美術館展示風景

“空間のアーティスト”を自負する作家は、「展覧会をひとつの作品のように見せる」と語る。会場内の作品は時代順に並べられているのではなく、すべてボルタンスキー自身が考えた配置となっている。
「クリスチャン・ボルタンスキー −Lifetime」展 2019年 国立新美術館展示風景
各作品にタイトルやキャプションは添えられず、会場にて配布される新聞で解説を読むこともできるが、まずは会場の中に入り、ボルタンスキーの世界を自由にさまよいたい。一般公開に先立ち催された内覧会より、見どころをお伝えしよう。
「見る人それぞれの人生を映し出す、鏡のようになっている」
1960年代後半より作家活動を開始したボルタンスキーは、1970年代から国際的な活動を続けてきた。本展は、作家が60年代末に制作した貴重な映像作品《咳をする男》、《なめる男》をはじめ、70年代から現在にいたる各時代の代表作で構成されている。
《なめる男》 1969年 「クリスチャン・ボルタンスキー −Lifetime」展 2019年 国立新美術館展示風景
70年代には、積極的に写真を扱った作品が多く、本展には《D家のアルバム、1939年から1964年まで》が出品されている。光を用いたインスタレーションを手がけるようになった80年代の作品では、子どものモノクロ写真と、クリスマス用の包装紙を撮影した紙を入れたプレートを電球で飾りつけた《モニュメント》シリーズが印象的だ。
《モニュメント》 1987年 「クリスチャン・ボルタンスキー −Lifetime」展 2019年 国立新美術館展示風景
「クリスチャン・ボルタンスキー −Lifetime」展 2019年 国立新美術館展示風景

90年代からは大規模なインスタレーション作品が目立つようになり、金属製の箱に、スイスの地方紙の死亡告知欄から切り取られた人物の写真が貼られた《死んだスイス人の資料》や、新聞から切り取り、拡大された100枚の写真で構成される《三面記事》などが展示される。
《死んだスイス人の資料》 1990年 「クリスチャン・ボルタンスキー −Lifetime」展 2019年 国立新美術館展示風景
《三面記事》 2000年 「クリスチャン・ボルタンスキー −Lifetime」展 2019年 国立新美術館展示風景

ボルタンスキーは、展覧会のタイトルにもなっている“Lifetime”(生涯)について、以下のように語る。
「Lifetimeとは、私の人生の時間です。ですから、私の芸術的な人生の展開のすべてがここにあるわけです。ただし、見る人それぞれの人生を映し出す鏡のようになっているとお考えください。展覧会をひとつの作品としてみて、その中にある“詩”や、自分自身の思い、そこから出てくるような哲学的な考察に、まずは身を任せていただきたい」
クリスチャン・ボルタンスキー
無数の見知らぬ人々の肖像に囲まれていると、不意に忘れていた記憶がよみがえるようなことがあるかもしれない。自分ではない誰かの存在を感じながら、静謐な会場の雰囲気を味わいたい。
東京展から出品される最新作も
国立国際美術館(大阪)、長崎県美術館と国立新美術館の3館が共同で企画した本展覧会について、ボルタンスキーは、「各展覧会がそれぞれ似ていて、かつ異なるものだと考えている。それは、同じ戯曲の作品を異なる演出で見せているようなものだ」とコメント。
《白いモニュメント、来世》 2019年 「クリスチャン・ボルタンスキー −Lifetime」展 2019年 国立新美術館展示風景
すでに閉幕した国立国際美術館の展示と比較すると、《白いモニュメント、来世》に加えて、東京展のために制作した《幽霊の廊下》が新たに追加されている。
《幽霊の廊下》 2019年 「クリスチャン・ボルタンスキー −Lifetime」展 2019年 国立新美術館展示風景
《幽霊の廊下》 2019年 「クリスチャン・ボルタンスキー −Lifetime」展 2019年 国立新美術館展示風景

揺れ動く不気味な影に誘われるように通路を抜けると、天井の高さを活かした展示空間が眼前にひろがる。
《スピリット》 2013年 「クリスチャン・ボルタンスキー −Lifetime」展 2019年 国立新美術館展示風景
後半の展示では、広大な空間に漂う、100枚を超えるヴェールからなる《スピリット》や、黒い服のかたまりが積み上げられた《ぼた山》の存在感が際立っていた。また、所々に配置された黒いコートを羽織った人型の作品《発言する》は、鑑賞者に向けて複数の問いかけを規則的に発しているので、ぜひ耳を傾けてみてほしい。
手前:《発言する》 2005年 奥:《ぼた山》 2015年 「クリスチャン・ボルタンスキー −Lifetime」展 2019年 国立新美術館展示風景
展覧会を訪れることは、教会で沈思黙考する時間に似ている
個人や集団の記憶、宗教や死を主題として作品を制作してきた作家だが、近年は、形として残らない作品にも取り組んでいる。“人々が語り継ぐこと”をテーマに、神話を作り出したいという作家の願望のもと制作された《アニミタス》シリーズは、世界各地に設置された大量の風鈴を、長時間にわたって撮影した映像作品。本展に出品される《アニミタス(白)》は、カナダ北部の厳しい気候の中で撮影が行われ、被写体はすでに失われているものと考えられている。会場全体に響き渡る鈴の音が、神秘的な空間を作り出していた。
《アニミタス(白)》 2017年 「クリスチャン・ボルタンスキー −Lifetime」展 2019年 国立新美術館展示風景
《ミステリオス》 2017年 「クリスチャン・ボルタンスキー −Lifetime」展 2019年 国立新美術館展示風景

また、会期中に変化していく作品も存在する。床に置かれたたくさんの電球からなる《黄昏》は、毎日3つずつ消灯するとのこと。会期終了時には真っ暗になる本作は、人生があらかじめ死に向かって進んでいくことを示しているのだそう。
《黄昏》 2015年 「クリスチャン・ボルタンスキー −Lifetime」展 2019年 国立新美術館展示風景
ボルタンスキーは、展覧会を訪れることが、教会で沈思黙考する行為に似ていると語った。
「たとえば、ある教会の扉が開いていて、その中にふらりと入っていきます。中は暗くて、腕を動かしている人がいたり、独特な匂いが満ちていたり、音楽が鳴っていたりする。その教会のベンチに座って、黙って何分間か考える。教会はそのような考察の場所です。数分間の沈思黙考の後に教会を出て、自分の人生の中に、ふたたび帰っていくのです。太陽の中、自動車が通るところに戻っていきます。展覧会を訪れることは、そのような行為に似ていることを私は望みます」
《ヴェロニカ》 1996年 「クリスチャン・ボルタンスキー −Lifetime」展 2019年 国立新美術館展示風景
そして、最後にこう付け加えた。
「芸術家の作品は問題を提起するものであって、答えを出すものではありません。感動を与えるとか、そうしたことも関係ありません。ですから私が提起した問題から触発をされて、みなさん自身で問題を提起していただきたいと思います」

中央:《黄金の海》 2017年 側面:《保存室(カナダ)》 1988年 「クリスチャン・ボルタンスキー −Lifetime」展 2019年 国立新美術館展示風景

『クリスチャン・ボルタンスキー -Lifetime』展は2019年9月2日まで。

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