REPORT / Visible Cloaks, 尾島由郎
& 柴野さつき 世界初のプレミア・
ライブ! 端正な美学に支えられた、
アブストラクトな電子音と無機質なポ
エトリー。忘我の環境音楽、現代に極
まれり

今年4月に〈RVNG intl.〉からリリースされた3組の共作『serenitatem』をテーマに、同名のイベントが6月5日(水)東京・渋谷WWW、8日(土)大阪・Conpassにてワールド・プレミア・ライブとして開催された。ちなみに東京公演は、過去にGigi Masin、Andras、Suzanne Kraft、Laraajiなどが出演した都市型アンビエント・イベント、“Balearic Park”の一環として企画されたものである。

この作品は、Visible Cloaksがかねてより大ファンだった尾島由郎へ連絡したことがきっかけになったという。エリック・サティやドビュッシーといった近現代のピアノに精通する柴野さつきの参加も叶い、人間とコンピューターそれぞれの態度に差が見られないほど柔和かつ端正なアンビエント・ミュージックに仕上がった。当記事では、その内容が世界で初めて生演奏で実現されたWWW公演の模様をリポートする。

Text by hikrrr
Opening DJ “環境音楽 set” by Spencer Doran
Visible Cloaksの片割れであり、 『Kankyō Ongaku: Japanese Ambient, Environmental & New Age Music 1980​-​1990』(https://lightintheattic.net/releases/4088-kankyo-ongaku-japanese-ambient-environmental-new-age-music-1980-1990) (*1)を監修したSpencer Doranが観客を迎え入れる。四季のように移りゆく流れは、緩やかながらも変化に富んでいる。その魅力は到底ひと言に収まり切らないけれど、“優雅”なコンセプトは根底にあったと言えるだろう。鳥の声や川のせせらぎなど、環境音楽としては定番のフィールド・レコーディングが挿し込まれ、会場には妙な安心感すら漂う。朝食でも摂りたいような、爽やかで上質な気分になった。

ただ実際のWWWは普段よりほの暗く、朝というよりは真夜中の粧い。静謐な空間に天井の照明がやわらかに降り注ぎ、どこか星空を想わせる。この幻が覆い尽くすと、音の中に深淵な宇宙が見えてきた。プラネタリウムのBGMを彼に担当してもらいたいなどと、単純なアイディアが浮かび上がる(雑念ではなく本望だ)。そうこうしている内に心はすっかり落ち着いてしまって、毛羽立った魂が救われていくのが分かった。

こうした琴線に触れる旋律を”環境音楽”と呼称こそすれど、それは私たちの周囲を取り巻くサウンドを指すだけのものではない。真摯に向き合ってみれば、単なる背景のままにはしておけないほど鮮やかなイメージが立ち上がってくる。つまりそれは黒衣ではなく、サラウンドに鳴り響く、極めて贅沢な音楽体験の立役者なのだ。
*1 日本の“環境音楽”にフォーカスを当てたコンピレーション・アルバム。シアトルの名門レーベル〈Light In The Attic〉からリリースされ、吉村弘、尾島由郎、久石譲、土取利行、清水靖晃、イノヤマランド、YMO、細野晴臣(さらにLP盤には高橋鮎生、坂本龍一)を収録している。


Visible Cloaks, 尾島由郎 & 柴野さつき
長い静寂ののち、霧と光に包まれて4人のシンフォニーがいよいよ幕を開ける。ふわりとたなびく羽衣に似たシンセサイザーの質感は、開始早々、もうすでに抽象性を極めている。時間も空間もすべてその輪郭を失って、音楽家たちだけがただそこに在るような光景だった。拍手するのも憚られるほど完璧な世界。これはもはや“夢”としか形容できない。例えば、ぼうっとした暗闇の中から美しい怪物がこちらをジッと見つめている――その恐怖と恍惚を同時に感じてしまえるのだから。

微動だにできない荘厳な雰囲気から一転、Spencerが木琴を叩けば風がたちまち踊り出し、先ほどまでそこに居た何者かは野花へと姿を変える(私はそこで、思わず息を殺していた自分に気づく)。なんて愉しげなマレットだろう。そして希望を感じさせるピアノを好例として、音調は豊かに広がり、皆が自然とそこへ心を向ける。正確に言えば“開放”か。変化の少ないライティングが一役買っていたに違いない。
アンビエントとはおそらく、音楽が環境を志向した結果ではなく、環境そのものが音楽を構成する要素を備えている証だ。虫や街の音が入らないわけではない(ので、今や明確な線引きは難しい)し、もちろんミュージック・コンクレートより優れているとも言わないけれど、アンビエントが他と最も異なる点はやはりその抽象的な側面だろう。そのおかげで想像や解釈、感受するところに自由があり、非常に好ましい。

また、これほど聴覚に頼ったライブ・コンサートもそう多くないはず。身体性はほとんどゼロと等しいにもかかわらず、音楽と一体になったかのような感覚が湧いてくるのは、未だに不思議でならない。海――まるで快楽の海へ身を放り投げたかのようだ。ところで、日常的にアンビエントを聴かない人に対して、この良さをどう説明したらいいか……とふと思う。オルゴールの蓋を開いてそっと耳を傾ける、あのひと時に近いかもしれない。窓の外、遠くでは夕方5時を伝えるサイレンがこだましていて。
ステージに話を戻そう。丸みのある爽やかな電子音と無機質なポエトリー。現実味のない響きと詞ながら、それでも言葉の力は強大だ。波のようにイメージが押し寄せ、あっという間にシーンが具体化する。かと思えば、鋭いエレクトロニック・サウンドが鳴り、それは散りゆく。その刹那的な概念がフィクション性に拍車をかける――そうして最後には、何も残“さ”なかった。私の頭の中に残ったのは無だけだった。彼らは芸術家としての美的責任を全うしたのだと思っている。

■Setlist

1. Anata
2. Toi
3. Atelier
4. Lapis Lazuli
5. Stratum
6. Canzona per sonare no.4
7. Wyatt ah Um
8. Wheel
9. World
10. Organic Steps
En. Terrazzo
以下は、6月1日から2日にかけて長野県・こだまの森にて開催されたフェス“FFKT”における、Visible Cloaksのパフォーマンス。

【イベント情報】

Visible Cloaks, Yoshio Ojima & Satsuki Shibano – serenitatem – World Premiere Live

日時:2019年6月5日(水) Open / Start 19:30
会場:東京・渋谷 WWW Shibuya


【リリース情報】

VISIBLE CLOAKS, YOSHIO OJIMA & SATSUKI SHIBANO 『FRKWYS Vol.15: serenitatem』

Release Date:2019.04.19 (Fri.)
Label:Rvng Intl.
Tracklist:
1. Toi
2. Anata
3. You
4. Atelier
5. S’Amours ne fait par sa grace adoucir (Ballade 1)
6. Lapis Lazuli
7. Stratum
8. Canzona per sonare no.4
9. Toi (Tokyo Mix) *bonus track

■ リリース詳細(http://www.inpartmaint.com/site/26074/)

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