兵動大樹の眉間にシワがより、桂吉弥
からは笑顔が消えた……舞台『はい!
丸尾不動産です。』の稽古場に特別潜

芸人・兵動大樹と落語家・桂吉弥がダブル主演をつとめる舞台『はい!丸尾不動産です。〜本日、家をシェアします〜』。5月30日に初顔合わせと台本の読み合わせがあり、その後、各出演者が多忙な合間をぬって稽古に参加。
今回は、同舞台の記者発表からその動向を追いかけてきたSPICEが稽古場へ潜入し、その模様を特別に取材させてもらった。

『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』舞台稽古の様子

わたしたちが稽古場に入ると、すでに芝居の練習がはじまっていた。その中心には、演出の木村淳の姿があり、身振り手振りで出演者たちに内容を説明。まず話し合われていたのが、兵動演じる不動産屋・菅谷と、吉弥扮する元銀行員・林田の出会いのシーン。シェアハウスへ入居することになった林田が、菅谷のことを褒めちぎりながらも、少しずつディスり気味になっていくくだりだ。
木村は、「このシーンはちょっと遊んでもいいかなぁ」とニヤッと企むような表情を浮かべる。続けて、「できれば兵動さん、吉弥さんはそれぞれ5つずつ、このシーンで「すべらない話」をいれてほしいんです。で、本番では初日に兵動さんが5つ、翌日は吉弥さんが5つという風に交互にやりあっていく感じで」とリクエスト。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』舞台稽古の様子
そうすると、兵動がすかさず「林田さんはなんや、私と同い年なのに貫禄がありますね。着物とか似合いそうですね」と落語家の正装である着物について触れ、吉弥も「ええ、まあ。昔、村祭りでよく着ていましたから」と応戦。
その後も、兵動が「りくろーおじさんの店のチーズケーキとか、ステラおばさんのクッキーとか、名前がついた食べものっておいしそうやけど、この前、商店街で「おじいさんのおいなりさん」って見かけて、それは食べたないわって思った」と、もはやなぜこんな会話になったのか脈絡が分からない話まで飛び出し、スタッフ、キャストが思わず「ハハハ」と吹き出す。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』舞台稽古の様子
やがて、宮下雄也、青山郁代、三好大貴(劇団Patch)、高岡凜花が演じる役の素性が次々と明かされていく展開に。笑える場面で終始一貫するかと思いきや、林田のある一言をきっかけに各人物の様相が一変。サスペンスや人生観が織り交ぜられ、意外なムードに包まれていく。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』木村淳(カンテレ)
休憩の合間、先ほどの兵動と吉弥の出会いのシーンのアドリブについて木村に話を聞くと、「芸人さんが舞台をやるとなったとき、役なのか芸人なのか、そこの境目をなくす演出家さんがいるけど、演者の素が見えるのはお芝居としてどうなのなかって僕は思うんです。つまり、劇中としてのメタフィクション。その役としてちゃんと生きながら兵動大樹、桂吉弥が見えてくればいいけど、本人そのものが表に出てくるのはNG」と演出の意図を話してくれた。
また、コメディでどんどん押すのではなく、奥深いストーリーがまじわってくる点については、「たしかにこの舞台が一発だけの打ち上げ花火なら、笑いだけでいい。だけど、僕はシリーズ化させたい。そうなると、笑いだけではもちませんね」とシナリオを練りこんだ。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』舞台稽古の様子
この日は、出演者各自の導線、立ち位置について入念に確認がなされた。時には非常に複雑な動きが必要とされるため、稽古場にも緊張感が走り始める。中でも兵動は、眉間にしわがより、口数も減り、ややもすれば怒っているようにも見える。以前のインタビューで兵動に話を聞いた際の「僕は急に喋らへんようになる。よく、「怒ってんの?」と言われるけど、何にも怒ってへん。それは何かを考えているときやから、気にせんといて欲しい。台詞がしっくりこなかったりすると、黙り込むこともあるでしょうし」というコメントを思い出した。おそらくこのときの兵動は、さまざまな考えが頭の中を駆け巡っていたのであろう。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』舞台稽古の様子
一方の吉弥も、元銀行員という設定から専門用語も多く、また法律用語も台詞として頻出することから、まだ台本を手放せない状況。加えてシリアスさを徐々に醸し出していく難度の高い役とあって、表情が硬くなっていく。
しかしそこは、やはり芸人の二人。この日の終盤、菅谷と林田の出会いのシーンを再び演じたとき、兵動は1度目とはまったく違う下ネタのアドリブをいれて「本番では言いませんから!」と稽古場を明るくさせた。
また、木村が「住人役の青山郁代さんと兵動さんの絡みはものすごいものになるはず。青山さんには、「兵動さんは何でも打ち返すから、どんどんぶつけてくれ」と言っています。青山さんの仕掛けを兵動さんがどう切り返すか、これはすさまじくおもしろい」と話していたように、両者の“バトル”に全員が大爆笑。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』舞台稽古の様子
青山は自称ミュージカル女優の役ということで、とにかく歌いまくる。対する兵動は、「しんどないんかい」と歌を遮ったり、遮らずにずっと歌わせたり、切り返しはその場の気分次第。青山も「さっきは止めたけど、何で今は止めへんの」とツッコミ。また、青山が兵動の役名を「林田!」と間違えても、「ちゃうわ、菅谷じゃ!」と返したり、ミスをミスと思わせない形でナイスフォロー。臨機応変に修正がきく部分が、お笑い芸人もまじえたこの組み合わせならではの持ち味だ。
稽古の段階だが、何が起こるのか予測不可能。本番ではきっと、毎回違うテンションで芝居が繰り広げられ、台本上の結末は同じであっても、観たときの感触はまったく違うものになるだろう。
『はい!丸尾不動産です。~本日、家をシェアします~』舞台稽古の様子
本番まであと少し。さて、各演者はどこまで仕上げられるのか。SPICEでは、本番直前の舞台も取材する予定だ。
取材・文=田辺ユウキ 撮影=田浦ボン

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