70’sロックの熱気を蘇らせる
テデスキ・トラックス・バンドの
デビュー作『預言者(Revelator)』

オールマン・ブラザーズ・バンドに
加入したトラックス

デレク・トラックスは1997年、アルバム『デレク・トラックス・バンド』をリリース、当初は完全なフュージョン系ジャムバンドの音楽であった。デュアン・オールマンを手本にしつつも、彼の指弾きによる圧倒的なギターテクニック(特にスライド)は世界のギターファンを驚愕させたといっても大げさではない。もともとトラックスのバックボーンはサザンロックだけでなく民族音楽やジャズにもあって、デビューアルバムは多くの要素を詰め込みすぎて、僕は器用貧乏な面も感じた。

そして、トラックスは敬愛するデュアン・オールマンの在籍していたオールマン・ブラザーズ・バンドに加入、世界で広く彼の名が知れ渡ることになった。オールマンズ脱退後も、テデスキとトラックスはしばらく各々のグループで活動を続けるのだが、彼らはソウル・スチュー・リバイバル(キング・カーティスの名曲、メンフィス・ソウル・スチューから名付けられた)というユニットで自分たちのスタイルを模索していた。テデスキは、トラックスの最良の演奏はスワンプロックやサザンロックのようなスタイルでこそ発揮できると思ったのだろう。2010年、満を持してテデスキ・トラックス・バンドを結成する。

本作『預言者(Revelator)』について

本作は冒頭にも書いたが、60’s後半から70’s初頭のスワンプロックやサザンロックをモチーフにした作品だけに、売れ筋の音楽とは言いがたいのだが、その完成度の高さから翌年のグラミーではベスト・ブルース・アルバム賞を受賞する。彼らの音楽は決してブルースではないが、細分化されたグラミーの賞の中ですら彼らの受賞に相応しいジャンルはなく、便宜上“ブルース”の中に含めることになったのである。21世紀の現在、彼らのようなルーツ系ロックは、日常のライヴハウスなどではアメリカならどこにでも存在する音楽であり、流行の先端を担う音楽業界の中では化石のような存在であるという微妙な立ち位置にある。しかし、一度でも聴いてみれば、彼らの音楽が化石どころか、かつてのロックが持っていた“血湧き肉躍る”ような熱い作品であることが分かってもらえるだろう。

収録曲は全部で13曲。メンバーを含む複数のソングライターの手になる楽曲群は、どの曲もよく練られているものばかり。40歳を過ぎたテデスキのヴォーカルは枯れ具合がボニー・レイットにますます似てきているのは置いておいて、このグループのリーダーが間違いなく彼女であることがわかる仕上がりになっている。通常、トラックスのギタープレイは難解なものも少なくないが、ここではサザンロックやスワンプロックの文法を逸脱しないように弾いている。それはトラックスのプレイがテデスキのコントロール下にあるからだ。自分のコントロール下にあってもトラックスは最高のプレイができることをちゃんと分かっているところなど、さすがにテデスキ9歳年上の貫禄である。

曲によって、ブルース、ゴスペル、スワンプロック、フォークロック、サザンロックなど、多彩な味付けがなされている。3管編成のホーンと複数のゴスペル的なコーラスが加わることで、彼らの音楽は重厚なものになった。トラックスのスライドが肉声のようにテデスキのヴォーカルに被るところは何度聴いてもゾクッとする。テデスキ・トラックス・バンドの音楽は、ライヴでこそ本領を発揮する性質であるが、本作はライヴの臨場感を感じさせるプロデュースワークがなされており、素晴らしい作品となった。

TEXT:河崎直人

アルバム『Revelator』2011年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. Come See About Me
    • 2. Don't Let Me Slide
    • 3. Midnight in Harlem
    • 4. Bound for Glory
    • 5. Simple Things
    • 6. Until You Remember
    • 7. Ball and Chain
    • 8. These Walls
    • 9. Learn How to Love
    • 10. Shrimp and Grits (Interlude)
    • 11. Love Has Something Else to Say
    • 12. Shelter
    • 13. Easy Way Out
『Revelator』(’11)/Tedeschi Trucks Band

OKMusic編集部

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