左から、若林広海、コヤマシゲト、今石洋之、舛本和也

左から、若林広海、コヤマシゲト、今石洋之、舛本和也

今石洋之×コヤマシゲト×若林広海×
舛本和也「プロメア」座談会 色味で
CGと作画の親和性を高める

左から、若林広海、コヤマシゲト、今石洋之、舛本和也 TRIGGER初の長編オリジナル劇場アニメ「プロメア」は、3DCGと手描きの作画を融合させた特異なビジュアルが魅力のひとつ。今石洋之監督、コヤマシゲト氏(キャラクターデザイン)、若林広海氏(クリエイティブディレクター)、舛本和也氏(アニメーションプロデューサー)の4人に、「プロメア」の絵作りについて、その秘密の一端を語ってもらった。(取材・構成:五所光太郎/アニメハック編集部)
――試写で2回拝見しましたが、まだ消化しきれていなくて、見れば見るほど「ここはこうだったんだ」と発見できる、盛りだくさんな作品になっていると感じました。「プロメア」はビジュアルが本当に特異な作品で、このルックをつくるためにかなりの試行錯誤があったと思います。絵作りについて、どんなところから発想して進めていったのでしょうか。
今石:僕のなかでは「今回CGが多いぞ」というのが最初にあって、もちろん(手描きの)作画もあるので、その親和性がもっとも上手くいくスタイルでいきたいというのがありました。過去に、「Panty & Stocking with Garterbelt」(以下、「パンスト」。2010年放送)をやったときに、そうした手ごたえを感じたことがあって、それは「色トレス」(※編注)だったんですよ。
編注:「色トレス」は、作画・仕上げに関する用語。影の境目を塗り分けるときなど、実線以外の色を使うときに用いる。ここでは、本来輪郭線を黒で描くところを色のついた線で描くことで、手描きの作画と3DCGのどちらで描いても違和感の少ないルックになる、との意味で用いられている。
――なるほど。
今石:「パンスト」のときも、車や建物などを全部色トレスで描いて3Dに置き換えると、違和感が非常に少なかった。まあ、よく見ればCGだとは分かるんですが、かといってそれがノイズにはならないというか。そんな経験があって、「プロメア」でも同じことがやれたらいいんじゃないかというのが、今回の「色」に特化したスタイルのはじまりでした。3Dの比率が高い状態で、作画との親和性を高めるために「パンスト」的な色味を使おうと。
 その方向でいくためのもうひとつの大きな要素として、コヤマシゲトさんがセットなんですよね。この組み合わせならできるだろうと思ったのが、「プロメア」のビジュアルの出発点だったと思います。
――3DCGで作画に寄せたルックにするための努力はこれまでたくさんなされてきて、それこそ本作を手がけたサンジゲンさんが得意としているところですよね。今のお話をうかがうと、反対に作画の部分をCGに寄せることで、もっと融合度が高くなるという考え方なのかなと思いました。
今石:作画をCGに寄せるというより、デザインコンセプトそのものをCGに寄せているという感じですね。作画でもやれる範囲でCGに寄せて、作画でもCGでもどちらでも成立するデザインを考えるという。コヤマさんにキャラクターデザインを頼んでいるのはそこを狙っているからで、通常の2D作画しかやっていないアニメーターだと、そこまでは想像しづらい部分なんですよね。3DCGになったときのモデルの監修などもふくめてやるのはハードルが高いことなので、そのためのコヤマさんだったというのは大きいです。
――アニメーションプロデューサーの舛本さんにうかがいます。舛本さんの立場ですと、きっちり制作するための段取りを考えつつも、今石監督の劇場作品というところで、現場に負荷がかかって大変になるであろうことも予想されていたと思います。3DCGを多用するスタイルで制作を進めていくことについて、どう考えられていたのでしょう。
舛本:3DCGをどこの会社にお願いするかを考えるときには、今までのお付き合いや「プロメア」という作品とのマッチングを考えて、サンジゲンさんを選ばせていただきました。今石監督の作品の場合、CGといえども動きはかなり独特で、アクションやカメラワークなどに特異性があります。しかも、それを“映像”として求めていらっしゃる。
 それに対応していただける会社さんは、なかなか少ないであろうというのもありましたし、個人の力量の部分においてもサンジゲンさんは高いレベルにあるんですよね。また、今石監督と「お話ができる」というか、感覚的な話ができるスタッフさんが多いというところでサンジゲンさんにお願いしました。
――今石さんは、サンジゲンさんが3DCGを手がけた「ブラック★ロックシューター」(2012)に、CG特技監督として参加されていますね。
舛本:そうですね。今石監督が求めている動きやタイミングをCGで表現するために、サンジゲンさんには本当に粘り強くつきあっていただきました。普通なら、途中で諦められてもおかしくないくらいでしたので。
――そんなに大変だったのですか。
舛本:逃げられてもおかしくないんじゃないかというぐらいリテイクが出ていました。でも結果的には、普通につくられている作品のCG感とはまったく違ったルックのものができたんじゃないかと思います。あと、かなり長尺のカットが多くて、これにもかなり苦しまれていた感じがありましたが、そこにも応えていただいたのは大きかったです。
――長編の映画をつくるという点ではいかがですか。TRIGGERが2時間近い尺の作品をつくるのは今回がはじめてですよね。
舛本:GAINAX時代には「天元突破グレンラガン」を総集編というかたちで2本、TRIGGERとしては「リトルウィッチアカデミア」をショートで1本つくっていますが、「プロメア」は今思えばいろいろ大変でした。テレビシリーズは今まで何本もつくっていますが、長編の映画となると、やっぱりスケジュール感覚や、求める内容に対するスタッフの方々とのやりとりが異なりますし、プリプロについての考え方もまったく違っていました。そこは僕自身や会社としても経験値が少なかったがゆえに、けっこう大変だったなというのが率直な印象です。
――さきほど今石監督から「プロメア」のルックは、コヤマさんありきだったとの話がありました。個人的な話で恐縮ですが、「パンスト」のあとに「日本アニメ(ーター)見本市」の1本として発表された「Sex&VIOLENCE with MACHSPEED」(以下、「SVM」と略。2015年配信)がメチャクチャ好きでして。
コヤマ:それはそれは(笑)。
「Sex&VIOLENCE with MACHSPEED」キービジュアル(c) nihon animatar mihonichi LLP.――あのスタイリッシュで過不足ない感じは、ある意味“完璧”な作品なんじゃないかと思えるぐらい感銘をうけました。
一同:(笑)。
今石:それはうれしいですねえ(笑)。
――「SVM」も非常に少ない色数でつくられていて、しかもそれが作品内容にマッチするものでした。コヤマさんは、「プロメア」でキャラクターデザインのほかに、「グラデーションボーイ」との役職でもクレジットされていましたが……。
コヤマ:あれは、後付けでついた役職なんですよ(笑)。
――そんなところからもコヤマさんの「プロメア」でのお仕事が、一般的なキャラクターデザインだけではないことがうかがえます。「プロメア」では、実際にどんなことをされていたのでしょうか。
コヤマ:キャラクターデザインの仕事って、多くのアニメーション作品ではアニメーターの方が担当されて動きもふくめてコントロールするのがひとつのパッケージというか、王道のやり方だと思います。でも、僕はアニメーターではないので動きのコントロールはできない。となると、普通だったらデザインまでで終わってしまうのですが、今回は色や撮影といった、最後のところまで一緒にやってほしいというお話をいただいたんです。
 「パンスト」と、その後の「SVM」についてはご指摘のとおりで、僕も今石さんもとても気に入っている作品なんです。「パンスト」で手ごたえのあったスタイルを更に先鋭化させたのが「SVM」で……あの作品も「プロメア」をつくっている最中にやったことではあるんですけれど。
「Sex&VIOLENCE with MACHSPEED」本編より(c) nihon animatar mihonichi LLP.――そうなのですか。
コヤマ:「パンスト」でやったことを、研ぎ澄ましたミニマルな状態でアート的にも破綻しないようなかたちでやったのが「SVM」だと自分では思っています。ただ、「SVM」はアート的にとがっているところがあるので、「プロメア」では「より多くの人に見てもらおう」というのが大きくありました。「パンスト」の手法と、「グレンラガン」から「キルラキル」にいたる要素をあわせて、“かっこいい”デザインとはどこなんだろうと探りつつ、さらに“きれいさ”や“かわいさ”みたいなものも全部入れていこうと。
(c) TRIGGER・中島かずき/XFLAG――なるほど。
コヤマ:アニメは線や動きに主眼がおかれていて、最終的な画面では意外と色の部分がおざなりにされがちだと感じることが個人的に多かったんですよ。「プロメア」では色のウェイトをちょっと高めてやってみたいなと強く考えていました。
 そういう意味では、今回キャラクターデザインという役職になっていますが、アニメーション用の設定をおこすところでは、僕も描きつつ、すしお君や米山(舞)さん、作監のみんなや、それこそ今石さんにも描いてもらっているんですよ。正直に言えば、手が回らなかったというのもありますけど(笑)、そこを手放してでも、その後の仕上げや撮影の部分には強く関わらなければいけないと思っていました。
――色をふくめた画面の情報量をコントロールする部分をコヤマさんが大きく担っていたわけですね。
コヤマ:そうですね。美術をつくっていく段階で特に多かったことですが、写実的に描いたり色数を増やしたりして情報を盛るのは、わりとみんなのコンセンサスがとりやすいし、やりやすいというか……ちょっと語弊のある言い方になりますが、リアルに描くのはある意味“簡単な方向”ではあるんですよね。なんとかその方向にはいかないように要素を減らし続けながら、なおかつ容器の水があふれないように情報量を一定にたもっておくみたいな。
 美術監督の久保(友孝)さんはものすごく上手い方で、本当はもっと細かく描けるところを「ここはあえて描かないでください」とお願いしても、その要望に応えてくださる方でした。なので、美術でもセルでも情報量を落としておいて、後工程の撮影時に盛ってプラスすることで最終画面のルックの足並みをそろえることを、今石さんと一緒にチェックしながらやっていきました。
――ピクサー作品などで使われている、各シーンを色で表現する「カラースクリプト」という手法がありますよね。「プロメア」のバトルシーンが色の洪水のように映えて印象に残るのは、他のシーンを単色で描くなどして全体の色味もコントロールもされているからなのかなと思いました。
コヤマ:カラースクリプトは海外の映像に多い手法で、本来はあらかじめ「このシーンはこの色で」と決めてやるためのものなんですけれど、それにはすごく時間がかかるんですよね。「プロメア」でもやろうと思っていたことでしたが、できなかった部分も多い感じです。
 今回は、絵コンテがあがったらすぐに作画の打ち合わせにも入らなければいけなくて、もうカラースクリプトをつくっているような状況ではなくて(笑)。キャラも美術もとにかくどんどん塗っていかないと間に合わないとなると、上がってきたものに後付けで色をつけていく“あとからカラースクリプト”と言うか……(笑)。
今石:あとからカラースクリプト(笑)。
――リアルタイムで決めていくことが多かったのですね。
コヤマ:あらかじめ決めておけるとよかったんですけどね。ラッシュを見て今石さんが気になったカットはとにかく僕が色を直すという、何キロで飛んでくるのか分からない球をとにかく全部打ち返していくような作業でした(笑)。美術も作画も頑張ってつくったものをさらにプラスするために、限られた時間のなかではとにかく絵が上がってこないと分からないところがあったので、完成するまでひたすら打ち返し続ける、というような力技の作業でした(笑)。

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