「あなたの好きな早乙女太一はここに
もいる」中島かずきが語る演劇とアニ
メをリンクする物語作り 映画『プロ
メア』インタビュー

2007年に日本のみならず世界のアニメーションファンを震わせた作品がある、『天元突破グレンラガン』。劇団☆新感線の脚本家である中島かずきと、アニメーション監督今石洋之がタッグを組んだこの作品は、そのテーマ性と熱量で大ヒットを生み出し、後に『キルラキル』でも同様の興奮を生み出してきた。その二人が今回初のオリジナル長編アニメーション映画として作り上げたのが『プロメア』だ。声の出演として松山ケンイチ、早乙女太一、堺雅人という劇団☆新感線にも出演している俳優を起用したこの作品は、どんな思いで作られたのか?脚本担当の中島かずきに直撃してきた。
僕はやっぱり、自分がこれをやりたいんだと決めて、それを一点突破で解決していく人間っていうのが好き
――今回、劇場オリジナル作品という事で、どういった経緯で作られることになったのでしょうか?今石洋之監督とのタッグは『キルラキル』以来ですよね?
『キルラキル』(今石洋之監督と中島かずき氏がシリーズ構成を務めたオリジナルアニメ。2013年に放送)の後で、劇場版をやろうというのは大前提だったんですが、せっかく劇場版なので今までやっていない事をやりたくて、ジュブナイルがやりたいと。それが最初のアイデアでしたね。
――それがどのように今回の作品になっていったのでしょうか?
それで色々と相談しているうちに“炎”生命体のアイデアが出てきたんです。生きている炎と少年の出会いみたいなところで、『ヒックとドラゴン』(アメリカの3Dアニメ映画。2010年に日本で公開)みたいな話がやりたいという事で進めていたんです。僕が主導でプレゼンして、その線で行こうという事で打ち合わせをしながらコヤマシゲトさんにイメージボードを描いて貰ったりとか。脚本も三稿とか四稿まで行っていたんですけど、今石さんは何かが違うっていう話をされていたんです。
――今石監督から、方向性の変更がでたと。
今石さんはアクション映画が撮りたくて、冒頭から主人公がアクションのど真ん中にいて欲しいと。ジュブナイルという少年成長譚になるとどうしても段取りがいるんです。何者でもない所から、どんどん成長して行って物語の中心に来る、っていうのが成長譚だと思うんですけど、それは手間がかかり過ぎるっていう事でキャラクターの年齢をあげて、マッドバーニッシュとバーニングレスキュー隊員でぶつかり合うシチュエーションにしようと路線変更したんです。
――確かに冒頭から凄いハイテンポな作品ですよね。拝見させていただいて、『天元突破グレンラガン』(こちらも今石洋之監督と中島かずき氏がシリーズ構成を務めたオリジナルアニメ。2007年に放送)との繋がりというか、そこで描かれていた人間性みたいなものがそこにあったなと。『グレンラガン』という作品は主人公シモンの成長を長いクールで描いたジュブナイルだと思うんですが、『プロメア』は、その兄貴分であるカミナがずっと生き続けたらどうなっていくのか?というような印象を少し感じたんです。
なるほど。
――カミナはどこか達観して自分の意見を持っている。それに近いものを本作の主人公であるガロ(・ティモス)には感じていて、意識された部分があるのかなと。
カミナを意識した事は、実は一度もないんですが、ビジュアルがこうなってからやっぱりそういう印象を受けられるんだろうなと思っていて(笑)。
――そうですね。
僕はやっぱり、自分がこれをやりたいんだと決めて、それを一点突破で解決していく人間っていうのが好きなんです。ガロは火消しであって、「俺は火を消すんだ!」と、ただそれだけを全うする男がやりたかったんですよ。そういう意味じゃカミナとはまったく違って、カミナはもうちょっと抽象的な生き方なんですよね。自由になりたい、この環境ではないどこかに行きたい、上に行きたいっていうね。ガロは職業人というか、火災から助けられて命を繋いだ男なので。俺も誰かを助けたい、「火を消すんだ」っていうプロフェッショナルな意識の持ち主なんです。その一点突破の人間が、その情熱故に周りを巻き込んでいって問題を解決するという話にしたかったんですね。
撮影:大塚正明
――確かにガロは初志貫徹していますよね。火を消すという思い。
そう、だから実はこの映画の中でガロだけは変化しないんです。周りはどんどん変化していく。リオは逆に変わっていくんですよね、そのリオに対してもガロは最初から理解があるんですよ。つまり、バーニッシュが悪いわけではないと。ただ、火がいけないんだと。彼は徹底的に火消しとしての本分を全うしようとする男なんですよ。
――確かに、その部分があるから非常に見やすかった気がします。彼が落ち込むことはあっても悩むシーンがないというか。そういう意味では、劇団☆新感線の舞台のキャラクターに近いですよね。
初期の新感線ね(笑)。今はもう少し複雑なキャラクターが多いんですが、今だといのうえ歌舞伎ではない方の、かな。まぁ、初期のいのうえ歌舞伎もそうだったんですけどね。
―それこそ『五右衛門ロック』(2008年上演)の五右衛門とか、『髑髏城の七人』(1990年の初演以来、7年ごとに設定や演出、アプローチを多種多様に変えて上演されている作品)の捨之介に近い生き方をしてるっていうのをすごく感じました。そして、今回のインタビューで何度も聞かれていると思いますが、新感線の舞台に出演されている松山さん、早乙女さん、堺さんがアニメの世界に入ってきて、声を当てられているのは非常に印象的でした。中島さんから見た声優さんの声の演技と、俳優さんがアニメーションに当てる声の演技の違いはあるのでしょうか?
声優さんの芝居って、物凄く精度の高いチューニングというか、正解に向けて削っていくというか、精度をどんどん上げて行く作業だと思うんです。生身でやっている役者さんの場合は、揺らぎというかふり幅があるんですよね。そのふり幅の中にある可能性の中で見つけて行くみたいな事だと思っていて、その差が大きいかなと思います。それはどっちがいいとか悪いではなくて、どっちの面白さもある。だからこそ、今回みたいにそれを合わせてハイブリッドにしていく面白さがあるんですよね。
――実際に上がってきた絵と声が合わさって、作品になった時にはどんな印象を受けられましたか。
『プロメア』はガロとリオとクレイの物語なので、それをちゃんと引き受けてくれている3人の芝居が想定していた以上にいいものだったんですよね。今石さんもそれに合わせて、どう絵を付けるかみたいな事は考えていたようです。それに対して声優さんたちもこれまでに僕らの作品をやってくれている人たちだったので、脇を固めてくれてガイドラインを作ってくれたというか。
――ガイドラインですか。
こっちの方向ですよっていう中に、真ん中の3人のちょっと揺れて落ちるフォークボールみたいな。ちょっと想像がつかないようなトーンの芝居が来たりっていう面白さがあり、それをガイドして運んでくれる周りのメンバーがいるみたいな。
――堺さんなんか、まさにそんな感じですよね。想像を超えてくる演技でした。
ここまでやってくれるんだっていう新鮮な驚きがありましたね(笑)。
――個人的に凄く心に残ったのが早乙女さんのお芝居です。作品が後半に行くにしたがってテンションが上がっていくっていうのが、本当に演劇人なんだなって思って。
いつもの新感線で僕が太一君にお願いしている芝居とほぼ同じパターンですよね。
――後半に向けてどんどん熱量が上がっていきますよね。松山さんは逆に冒頭から全力っていうのがまた良かった。
そうですね、特にリオについては最初、あえて自分の感情を出さないようにしているから、それがガロの力によって、そんなにガードしなくていい、自分を出していいっていうことになっていく。その相乗作用だと思うんですよね。
――作品の骨幹にあるのはリオとのライバル同士の対決、理解できないところから理解しあうっていうところだと思いますが、『グレンラガン』も『キルラキル』も、もっと言えば新感線の作品にもあるというか。これはやはり、中島さんの根幹にあるものなんでしょうか?
まぁ、好きなんでしょうね。今回の脚本で言えば、自分が今まで感じてきたものの、色々な集大成みたいなところがあるなと思っているので。
――アニメーション脚本と、舞台脚本で書き方を変えることはあるのでしょうか?
あんまりないですけど、物理的な問題ですよね。舞台でやれる限界とか人の出し入れとか、そういう事がアニメの方だと自由になるっていうのはありますよね。
――ここで着替えさせる時間が必要……とかですか。
そうそう!(笑) そういう物理的な問題ですよ。
撮影:大塚正明
――逆にアニメーションをやっている事が舞台劇作、戯曲を書く事にフィードバックされてる部分であるのでしょうか?
そうですね、『グレンラガン』の時ですけど、その前に舞台で七五調の名乗りみたいなのはやっていて、飽きていた時期があったんですね。でも今石さんからカミナに七五調の名乗りをやらせたいと言われて。うーん、今更って思ったんですが、こんな感じかなと出してみたんですよ。そしたら監督は凄く喜んで、カミナっていうキャラクターが立ちますねって言われた。僕は、これ若い子たちにどれくらい伝わるのかと思っていたんですけど、想定以上にカミナっていうキャラクターが浸透して、受け入れられた。
――あれをリアルタイムで見ていたときは「ああ!中島脚本だ!」って思いましたね。
うん、やっぱり日本人に七五調の名乗りは効くんだなと再確認できた。その後に『五右衛門ロック』を書いたんですけど、名乗りのシーンって『グレンラガン』からの逆輸入なんですよ。主要キャラクターが名乗って、五右衛門が名乗りビシっと決まるっていうシーンは最初は想定していなかった。書きながら、ここはリズム的に全員名乗った方がいいなと思ったんです。それが舞台でやるとお客さんが沸くんです。自分の名前言っているだけなのに(笑)。
――逆輸入だったんですね。あの『五右衛門ロック』の名シーンは『グレンラガン』があったからだと。それは面白いですね。
そういう事はありますね。
相互理解のための努力っていうのだけが、この世を平和にするんだろうと思っている。
――今回、一つの大きなポイントとして、炎生命体と主人公の出会いがありますが、これどこか人種差別問題というか、自分と違うものが怖い、分かり合えないという思いがストーリーの根底にある気がしています。他者との違いというのはやはり意識されたのでしょうか?
バーニッシュっていうのを設定したのは、そういう事なんでしょうね。新感線の昔からまつろわぬものの話は書いているので、その一環であるのは間違いないですね。
――中島さんの思いというか、人種差別を訴えた作品ではないんですが、そういうものに対するアンサーは含まれている気はするんですが……。
世の中と書き手の気持ちはリンクせざるを得ないですね。今の世の中って分断が進んでいるんだと思うんです。「自分たちは違う」って言っちゃう事の方が楽じゃないですか。でも、基本相互理解だよねと。相互理解のための努力っていうのだけが、この世を平和にするんだろうなとは思っているので、それは常に書いている時に考えている事だと思いますけどね。
――新感線が1980年創設ですよね。もうすぐ設立40年になろうというところですが、その中でずっと物語を作られてきて、時代によって自分の作品が変化してきた部分はありますか。
ありますね。いのうえ歌舞伎は昔よりガロみたいなキャラクターは減ってきていて、もうちょっと悩んだり、迷ったりする人の話にシフトしてきたのは確かにあります。ここのところ若い子たちと一緒にやるようになって、「次の希望って何だろう?」と考える事はありますけど、昔ほどシンプルではない複雑なものになってきている気はします。逆にアニメの方は、僕自身が関わってから10年ぐらいなので、新鮮だし見ているお客さんも若い人が多いので、昔の新感線、自分が30代ぐらいに書いていた手触りの話を書いていると思いますね。
――だからワクワクするんですかね。『プロメア』にはそういうワクワク感がありますよね。
ありがとうございます。それは一番嬉しいですね!
――見たかったものが見られたというか、そんな気はしています。やっぱり『グレンラガン』、『キルラキル』のインパクトは強いと思うんですけど、その両作品が好きな人が見たらニヤリとするシーンもありますよね。やはり、この2つの作品をやったという経験は大きいですか?
アニメの世界でも、自分の書きたかった事をまっすぐにやって伝わるんだっていう自信にはつながりましたね。特に『キルラキル』なんて、頭のネジが外れた、人の話を聞かないキャラクターしか出さないと決めていた。そのうえで、服が生命体であるみたいな無茶な設定でどこまで伝わるか。伝わるための努力はしましたが、ちゃんと理解されたというのは自信になりましたね。自分の手法は伝わるんだという。
――今回、ロボットが出てきますが、これも舞台でできないものの一つですよね(笑)。
これはですね、プロデュースサイドからの最初の注文なんですよ。劇場版でやるんだったらロボット出してくれと(笑)。僕たちが出したいっていう話ではなかったんですね。
――やっぱり、観たかったんですかね。
そうなんですかね(笑)。
――完成した試写を見た時はどうでしたか?
いや、今石洋之は天才だと思いましたね。自分が想定した何十倍もの作品になって出てきましたからね。例えばオープニングのシークエンス、20分のアクションですよ。最初から主人公を渦中に置きたいという意味が描かれている。なるほど「これがやりたかったんだ!」っていう納得感ですよ。スタイリッシュなオープニングから始まって、想像している以上に今石さんがアニメーション作家として上を行っている。凄いぞ今石、凄いぞTRIGGERって思いますよ。
――いわゆる二次元の演出と、三次元から生まれた物語の融合が『プロメア』だと思います。ある種逆の意味で2.5次元アニメというか。
いやいや、二次元と三次元を掛けて六次元アニメってどうですか!(笑)
撮影:大塚正明
――それはいいですね!これから先、もっと面白いものを作っていくというところで、アイデアややりたい事はありますか?
僕は基本的に芝居も含めて注文住宅型というか、依頼されたものに対してどう答えるかというスタンスなんです。自分がやりたいものって実はあんまりないんです。そう見られないのは自分のアレンジがきつすぎるからかもしれませんね。
――でも中島さんが関わると作品に熱量が生まれていると思うんです。
僕は過剰なものが好きなんですよね。「熱いものを」って思った事はほとんどないんですよ。
――過剰なものですか。
うん、過剰なもの、行き過ぎたものが好きなんですよ。それを書く事が作品として「熱い」という言葉になるのかな。それがキャラクターでもいいですし、なんにせよ行き過ぎた人たちが好きなんですよ。
――そう考えると、今回も行き過ぎた人ばかりですね(笑)。最後にお伺いしたいのですが、非常に熱い作品ということで、気になっている人は多いと思います。一方で、『グレンラガン』や『キルラキル』が好きで、今回はどうなんだよ? と思っている人もいると思うんですが……。
ぜひ、その人たちには来て欲しいですね!損はさせないですから! 過去、僕たちの作品が好きだった人たちには間違いなしの作品なのでぜひ来て欲しいです。あとはノンストップ系のアクションムービーが好きな人も楽しめると思います。観終わった後、スカッとすると思うので、音と光と声の嵐に巻き込まれたい人は是非!
――個人的には劇団☆新感線ファンにも見てもらいたいです。
ぜひ観て欲しいです。「あなたの好きな早乙女太一はここでも同じですよ!」と(笑)。あなたの好きな堺雅人、松山ケンイチもいる。古田新太はいつものように飄々とした芝居をやっていますよ。お待ちしております!
撮影:大塚正明
インタビュー・文:加東岳史 撮影:大塚正明

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