東京二期会『2020/2021 シーズンライ
ンアップ』記者会見 〜オペラ歌手た
ちの新時代が到来〜

公益財団法人 東京二期会の『2020/2021 シーズンラインアップ』記者会見が開かれた。
出席は、理事長の韮澤弘志、常務理事 兼 事務局長の山口毅、二期会幹事長でバリトン歌手の黒田博、そして6月5日(水)から東京文化会館大ホールで上演されるリヒャルト・シュトラウス作曲《サロメ》に主演するソプラノ歌手の森谷真理。

(左から)常務理事 兼 事務局長の山口毅、理事長の韮澤弘志

昨年6月から理事長を務める韮澤氏からは、2700名を超える声楽家の集まりという世界でも類を見ない民間団体である東京二期会について、時代が大きく変わる中、二期会も絶えず変化するニーズに応えていく姿勢が必要である、という話があった。二期会にはアンサンブルを大切にした美しい歌の伝統がある。「互いの声の違いを認め個性を尊重し合いながら、協力、協調し、一つの音を作り上げていくアンサンブルの姿勢は、今後ますますグローバル化していく世界において、文化を認め合い衝突を回避し、平和を構築しようとする人々の指針にもなるのではないか」「大きな理想を持って言えば、これからの令和という時代は音楽家の時代にもなるのではないかと思う」と語った。
常務理事 兼 事務局長の山口氏からは『2020/2021 シーズンラインアップ』の説明があった。
2020年2月はヴェルディ《椿姫》。指揮のジャコモ・サグリパンティは日本デビューとなる。バッティストーニ、ルスティオーニに続く、イタリア人の若手で今ヨーロッパで活躍中のマエストロだ。演出の原田諒は宝塚歌劇団演出部に所属。宝塚以外でも活躍が多く、大地真央主演の『ふるあめりかに袖はぬらさじ』などを手がけている。原田はオペラ・ファンでもあり時間があるとMETやヨーロッパでオペラを観劇するほど。新しい《椿姫》を一緒に作っていきたい。装置は松井るみ、衣裳は前田文子、照明は喜多村貴、振付は麻咲梨乃。演奏は東京都交響楽団。来週にはキャストも含めてネットで発表される。
先ごろのマスネ《エロディアード》と同じコンチェルタンテ・シリーズとして、2月にはサン=サーンス《サムソンとデリラ》がある。二期会でこれまで《イドメネオ》《ダナエの愛》《ローリングリン》を指揮した準・メルクルを迎えての公演。メルクルは現在、サン=サーンスの管弦楽曲全曲録音に取り組んでいる最中で、このオペラを指揮したい、という希望があった。《エロディアード》の時のように映像がメインに使われる舞台なので、インパクトあるフィナーレを楽しみにしていてほしい。東京フィルハーモニー交響楽団が演奏を務め、公演はBunkamuraとの共催となる。
7月にはベルク作曲《ルル》が新制作となる。今年の2月に黛敏郎《金閣寺》を指揮したマキシム・パスカルが東京交響楽団と再登場。カロリーネ・グルーバー演出。彼女は二期会とは、《フィレンツェの悲劇》《ジャンニ・スキッキ》のダブルビルから始まり、《ドン・ジョヴァンニ》《ナクソス島のアリアドネ》など、これまでも話題に富んだ舞台を提供してきた。グルーバーはオーストリア出身なのでベルクとの親近性も期待できる。
以上はすでに演目として発表されていたもの。ここからが完全に新規の演目発表となる。
2020年はベートーヴェンの生誕250周年ということで、二期会のオペラ・シーズンのテーマは「苦悩を経て歓喜に至る」。9月にはベートーヴェン唯一のオペラ《フィデリオ》の新制作に取り組む。指揮は二期会に初めて登場するダン・エッティンガーが東京フィルハーモニーを振る。演出は映画監督・演出家の深作健太。深作はドイツ・オペラを得意としており、二期会ではすでにR・シュトラウスの《ダナエの愛》、ワーグナー《ローエングリン》が好評を博しているが、今度はベートーヴェンに挑戦。
11月には、新制作となるオペレッタ、レハールの《メリー・ウィドー》が上演される。演出は俳優座演出部所属の真鍋卓嗣。俳優座での演出に加え、オペラ・シアターこんにゃく座でも《遠野物語》の演出などを手がけている。真鍋はポップスのミュージシャンでもあり、過去には宮本亜門演出の《椿姫》、白井晃演出の《オテロ》で演出助手も務めた。指揮は沖澤のどか。東京国際コンクール〈指揮〉で昨年、史上初の女性優勝者として注目を集めた。オペラにも造詣が深く、東京二期会では《金閣寺》上演の時に指揮者パスカルの助手として公演を成功に導いた。沖澤は、音楽も人格も素晴らしい人物で、公演は台詞も曲もすべて日本語での上演となる。東京二期会のレパートリーとなり、長く続けられるようなプロダクションを目指すとのこと。こちらの公演は日生劇場と共催となる。
2021年2月にはワーグナー《タンホイザー》が新制作される。フランス国立ラン歌劇場との提携公演。指揮はアクセル・コーバーで、日本デビューとなる。コーバーは、ドイツ人指揮者で現在ライン・ドイツ・オペラの音楽総監督であり、ルイスブルク・フィルの首席指揮者、そしてバイロイト音楽祭でも5年連続で指揮をしている。演出はキース・ウォーナー。かつて新国立劇場の〈東京リング〉で話題になったが、その後も活躍を続けており、本人が来日して演出する。オーケストラはドイツ・オペラに強い読売日本交響楽団だ。
5月には3年に一度取り組んでいる《二期会ニューウェーブ・オペラ劇場》がある。まだ演目は調節中だが、《ジュリオ・チェーザレ》《アルチーナ》に続き、ヘンデルのオペラが上演される。演奏は鈴木秀美が指揮するニューウェーブ・バロック・オーケストラ・トウキョウ(NBO)。演出は調整中とのこと。
7月に上演されるシーズン最後の演目はヴェルディ《ファルスタッフ》。二期会における上演は2001年以来となる。今回はマドリッドのテアトロ・レアル、ベルギー王立モネ劇場、フランス国立ボルドー歌劇場との大規模な共同制作となり、すでにマドリッドでの初日が開き、好評を博している。指揮は二期会でプッチーニ《三部作》を手がけたベルトラン・ド・ビリー、演出はローラン・ペリーというコンビだ。本人が来日して演出する予定で、管弦楽は東京フィルハーモニー交響楽団が務める。
この他に、二期会シーズン・オープニング・コンサートと銘打って、今年の9月に横浜みなとみらいホールにおいてベッリーニ《清教徒》が演奏会形式で上演される(一回のみ)。指揮は森内剛。キャストは幸田浩子、大澤一彰、甲斐栄次郎などで、オーケストラは神奈川フィルハーモニー交響楽団。《清教徒》は幸田浩子がイタリアのカターニャ歌劇場でヨーロッパ・デビューした演目であり、指揮の森内はフランクフルト歌劇場を中心に活躍している逸材だ。
次は東京二期会幹事長であり、財団常務理事の黒田氏からの発言を紹介する。
黒田博
「毎年研修所を終了した若手たちが二期会の新しい会員となる。ほとんど全ての演目はオーディションで配役を決める。2020/21年のシーズンも活きが良い素晴らしい若手歌手たちを皆様にご紹介できると期待している。私自身は10月に《蝶々夫人》でシャープレスを歌う。二期会ではこれまで栗山昌良先生の名舞台が50年間、本公演だけでも8シーズン上演された。その一番最後の蝶々夫人を演じたのがここにいる森谷真理さん。その経験は彼女の宝物になっている。栗山先生は役柄の根本の根っこの部分を教えてくださるので、その後、どのような演出にも対応できるようになる。今回は、宮本亜門さんの演出が楽しみだ。
宮本さんの演出では、モーツァルトの4大オペラで、《ドン・ジョヴァンニ》タイトルロール、《魔笛》のパパゲーノ、《コジ・ファン・トゥッテ》のグリエルモ、《フィガロの結婚》のフィガロとアルマヴィーヴァ伯爵を演じ、それ以外にもバーンスタイン《キャンディード》でご一緒している。宮本演出は人間が抱えている苦しみ、悲しみを深く意識させる。今回の《蝶々夫人》では、もちろん一番の中心は蝶々さんだと思うが、先日《金閣寺》の時に宮本さんにお会いし、「シャープレスは善人ですよね?」と確認した。「もちろんです」とおっしゃっていたので、良いシャープレスを演じたく思っている。ご期待ください」
《サロメ》と10月の《蝶々夫人》でタイトルロールをつとめる森谷は
森谷真理
「来週の《サロメ》は大階段が基調となった大きな舞台となっている。昨日は読売日本交響楽団さんとヴァイグレさんとオケ合わせだった。ヴァイグレさんが常任指揮者に就任されて初めてのオペラとなる。とても素晴らしい演奏。マエストロはフランクフルト歌劇場の音楽監督でもあるが、《サロメ》はよくご存知だし、オペラ指揮に手馴れている。1時間40分の短いオペラだが、本当に濃い内容になっていると思う。ぜひ観て、聴いていただきたい。演出家デッカー氏にも、キャストと会って新たなインスピレーションが湧いてきた、と言っていただいた。あと1週間。いままであったものを再現するだけでなく、新しい解釈を期待していただけたらと思う。
10月の《蝶々夫人》について。黒田さんとの初めての共演は宮本亜門さん演出の《魔笛》だった。この《蝶々夫人》は日本でまず上演され、その後、世界の4つの劇場を回るプロダクションになる。日本発で、世界で上演されるプロダクションはあまり例がないので、最初のプロダクションの出演者は責任重大となる。最善を尽くしたい。私は蝶々夫人役にデビューした時に栗山先生の演出だった。その稽古の日々と本番は、私の中に宝物として残っている。同じ役は演じるほど熟成するので、自分を乗り越えられるよう頑張りたい。本当に、新しい1ページが始まるプロダクションではないかと思う。それから、《サロメ》も《蝶々夫人》もキャストに若い人たちが多く、歌も演技も素晴らしいので、2年後、3年後、10年後、どんどん楽しみになってくるはずの歌手たちをお聴き逃しなく」と語った。

(左から)黒田博、森谷真理

最後に、理事長の韮澤氏より東京二期会の新しいロゴが発表された。東京オリンピックも近く、来年は文化の祭典、日本文化発信の年である。二期会も3年後に70周年となることもあり、新しい二期会を目指したい。ロゴに関しては、プロのデザイナーに依頼せず、会員からデザインを公募した。さすがに芸術家の方々、12作品が集まった中から選んだ。ロゴの意味は、二期会の〈二〉。下の曲線は伝統と基礎、上の曲線は将来の発展を現わす。全体が舞台の形になっている。みなが心を合わせて歌うハートの形にも見える、ということでこのマークに決まった。
あとは質問コーナーで、二期会でのオーディションの様子についての質問があり、オーディションは会員全員が応募できること、また、栗山演出《蝶々夫人》のオーディションに森谷真理がミニスカートとヒールの靴で登場したら、他の人たちは《蝶々夫人》なので和装がほとんどで困ってしまった、などの楽しいエピソードもあった。
他にも、多面舞台を持っている劇場が集まる〈グランドオペラ共同制作〉の共同制作は、昨年の《アイーダ》に続き、今年10月以降、ビゼー《カルメン》が神奈川県民ホール、愛知県芸術劇場、札幌文化芸術劇場hitaruなどで上演される。田尾下哲演出。二期会は歌う場を増やしたいので、今後もこのような共同制作は積極的にやっていきたいとのことで、このシリーズも続くことが期待できる。
(左から)黒田博、森谷真理

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