『黒い乙女』浅川梨奈インタビュー 
10代で「アイドルを卒業」と伝え続け
た理由、女優としてのビジョンとは?

映画『黒い乙女Q』が5月31日に、続編『黒い乙女A』が8月16日に、東京・シネマート新宿と大阪・シネマート心斎橋にて公開される。同2作は、数々の謎が提示される『Q』と、謎のすべてが解きかされる後編『A』という、変則的な形態で上映。養護施設で育った少女が裕福な一家に引き取られ、数奇な運命に巻き込まれていく姿を、三池崇史監督のヤクザホラー『極道恐怖大劇場 牛頭 GOZU』脚本で知られる佐藤佐吉氏が監督として描き出していく。
主人公の少女・芽衣を演じる浅川梨奈は、2019年1月にアイドルグループ・SUPER☆GiRLSを卒業して以来、女優活動を本格化させ、2019年だけで7作もの映画やドラマに出演してきた。浅川は、グループ在籍中に自身のアイドル活動のタイムリミットを10代までとし、早くから卒業を公言。アイドルをこよなく愛しながらも、20歳からは演じ手として生きていくことを決めていたという。今回のインタビューでは、主演作『黒い乙女』への想いだけでなく、女優としてのスタンスや将来のビジョンについて、じっくりと語ってもらった。
「ぶっ飛んでいる」ところにも実は意味がある
浅川梨奈 撮影=岩間辰徳
――『黒い乙女』は、前編にあたるQで謎が提示され、後編のAで答えが示される、非常にトリッキーな構造のホラー作品です。最初に脚本をお読みになられた時は、どう思われましたか?
私はホラー苦手なんですが、人間の心理に迫るような怖さのある作品は好きなんです。『黒い乙女』はホラーというより、不気味な雰囲気の作品だな、と思いました。最初にプロットをいただいたときに、あるアニメにハマっていたんです。そのアニメは、孤児院で育った子どもたちが過酷な運命をたどる、という世界観のお話なんですが、『黒い乙女』も養護施設から始まる物語で…とても心が惹かれました。さらに読み進めていくと、伏線の張り方も、その回収の仕方もとても面白くて。「脚本の時点で面白いなら、映像はどんな風になるんだろう?」と思いました。映像にすることで、削られてしまう部分もあると思いますが、そこをどうやってプラスにもっていけるか、と考え始めたりして、撮影がすごく楽しみになっていました。
(c)2019AMGエンタテインメント
――佐藤佐吉監督の、独特の世界観も興味深かったのですが。監督自身がタンクトップ姿で唐突に登場したり(笑)。
佐吉監督がタンクトップで出てくるシーンでは、笑ってしまいました。「やめてくれ!」って(笑)。面白いんですけど、ぶっ飛んでいるんです。まず、隕石が出てくる作品ってそうはないですし(笑)、「あ、隕石!」というセリフに、両親が「どれどれ?」って反応する状況も、ないですよね。「お多福様」というワードも、なんだか不思議じゃないですか。ただ、その「ぶっ飛んでいる」ところにも実は意味があって、伏線になっています。Qだけでも十分楽しんで頂けると思いますが、Aを観てさらに完結する作品だと思っています。
――浅川さんが演じられた芽衣も、謎が多い人物ですよね。
Qだけについて言えば、「巻き込まれてしまった子」のように見えると思います。物語の最後に「この子、人を殺したことがあるんでしょう?」という言葉が出てきます。最初に登場して、心を閉ざしていた芽衣ちゃんが、過去に何かしら辛いことを経験している、ということがわかるんです。でも、その“何か”について多くは語らない。私自身は「こういう過去があったから、こういうことを言う、こう行動する」とわかっているんですけど、ご覧になっている方からすれば、「なんでこの子はこんなことに?」と感じる場面がすごく多いと思います。さらに言えば、Qでは、登場人物全員に違和感を抱くはずです。お義父さんとお義母さんの笑顔や、白々しい言動、「ラナって何者なんだろう」とか、そういう疑問を抱くと思います。謎が明らかにならないまま、Aの公開まで2ヶ月以上待つというのもおもしろいんじゃないかな、と。
浅川梨奈 撮影=岩間辰徳
――芽衣は、どんな性格の少女なのでしょう?
芽衣は決して悪い子ではないし、とても真っ直ぐなんだと思います。真っ直ぐすぎるゆえに、過去の闇を背負い続けてしまう。心に傷を負いながらも、孤児院にいるうちに心を閉ざしてしまった……そんなイメージで演じました。記憶喪失ではないんですが、失われたものを家族と過ごしていくなかで思い出していって、Aですべてが明らかになるので。
――ネタバレに気を付けていただいて、ありがとうございます。
(笑)そうなんです!本当に難しいんです。すべてがAへの伏線なので。
――浅川さんは、脚本を読み込んで計算しながら演じるタイプなのでしょうか? それともキャラクターになりきるタイプ?
漫画やアニメなどの原作があるものに関しては、脚本を読み込んで、キャラクターとして演じます。「そのキャラとしてはどういう言動をとるべきなのか?」「二次元ではなく、三次元になったらこうなるんじゃないか?」「アニメが原作だったら、声はこうなるんじゃないか?」と考えて、そこから実写と原作の間の、違和感のないところを選んでいくようにします。今回のような原作のないオリジナルのものだと、ゼロから始めることになるので、顔合わせや本読みで監督から話を聞いて、それを一度持ち帰って、自分の中で整理します。台本をまた読んでから、「このときはこうなのかな?」と想像しながら進めていきます。台本の裏にメモできるページがあるので、そこに自分の中で想像を膨らませたものを書き込んで、撮影中にも「きっとこうだ!」と思うことがあったら、それも付け足して。そうすると、感情に迷ったときに台本の裏を見返せば、考えていたことが入ってき易くなるんです。ひとつの道しるべみたいなものですね。監督にも、「こう思っているんです」と聞いて、アドバイスしていただきます。
(c)2019AMGエンタテインメント
――芽衣がともに暮らすことになる少女・ラナ役の北香那さんは、13歳から女優として活躍されていて、同世代としては経験豊富な方ですよね。共演されて、いかがでした?
やっぱり、圧倒されることが多かったです。めちゃめちゃお芝居も上手だし、学ぶことが沢山ありました。これはお互いにそうだと思うんですけど、最初は「どうしよう……」と、探りあいながらやっていたところもあったんです。でも、少し話をしてみると、話も合うし、地元も近かったりして、「喋っていて楽しい!」という空気が出来上がってきたら、お芝居も遠慮がなくなって。二人でぶつかるところは本気でぶつかって、本気で泣いて、本気で叫びあって。相乗効果で良いものが生まれるんじゃないかな、という感覚で演じることが出来ました。
10代で考えたタイムリミットと“結果”までのビジョン
浅川梨奈 撮影=岩間辰徳
――そもそも、なぜアイドルを辞めて、女優でやっていこうと思われたのでしょう?
アイドル業は好きでずっとやっていたんですが、10代のうちに卒業して、社会に出ようとも思っていました。『人狼ゲーム マッドランド』(※2017年公開/初主演作)に出会って、1週間ずっと現場に籠りきりの、極限状態でお芝居をすることになりました。どんな時でも気を抜けないし、なんだったら寝るときもその世界にいるくらい。そんな状況が続いて、すごく追い込まれたんですけど……同時に「すごく楽しい!」とも思えたんです。そこで自分は「お芝居をやりたいんだ」ということに気づきました。そこから、より一つひとつの作品に取り組む姿勢が変わっていったな、と自分でも思います。(2019年に)グループを卒業してからどうするか、改めて考えましたが、やっぱり「お芝居をやりたい」。20歳までに今後を決めようと思っていて、19歳でその決断をしました。「将来はこの道で生きるんだ」と自分にプレッシャーをかけるつもりでこの世界に飛び込んだ、という感じです。今はお芝居が好きで、ただただお芝居がしたいです。
――2018年に卒業を発表する前から、「アイドル卒業」と公言していらっしゃったんですよね。
もともとアイドルが好きだったので、急に「2、3ヶ月後に卒業します」と(ファンに)発表するのがすごく嫌で。だから、2年くらい時間をかけて、「20歳にはアイドルを卒業する」と言い続けようと思っていたんです。「いついなくなるかわからないから、会えるときに会っておこう」って。でも、みんなそれがわかっているつもりでも、わかっていない。「私にはタイムリミットがある」と伝え続けることで、一つひとつの機会をより大事にしようと思えるし、私自身も収録やイベントで、「これが最後かもしれない」と気持ちで取り組むようにしていました。
――10代でタイムリミットを考えるのは、珍しいですね。
早いと思う方も多いかもしれませんけど、私は「やり直すなら今しかない」と思って。10代だったら勉強し直して大学にも入れるし、社会にも出られます。でも、24、25歳を超えてからアイドルを卒業して、「どうしよう……」となるのが怖くて。だから「芸能の世界で生きるか、一般の社会で生きるかを、絶対に10代のうちに決めよう」という気持ちがありました。
浅川梨奈 撮影=岩間辰徳
――25歳までに結果を出す、とも公言してらっしゃいますよね。
お芝居が上手くならなくても、まだ大丈夫。これができない、あれができない、でも10代だからまだ大丈夫……と言えたんですけど、20代になったら大人だし、グループを卒業すば帰る場所もない。だから、今までのように「私はスローペースだから」では通用しないし、その考え方だといつまで経っても変わらない、と思ったんです。私は、5年後に結果を出すというのも、遅いと思っているくらいです。私の中では明確な目標・ビジョンがあって、まずはそこに近づける3年間にしたいと思っています。
――なぜ3年なのでしょう?
周りの先輩方がすごく相談に乗ってくれるんですが……誰に聞いても、「アイドルを卒業しても3年間は大丈夫」って仰っていて。「問題は4年目からだよ」と。ただ、安心なんて出来ないし、常に緊張感を持ってやりたい。「大丈夫」の期間にできることがあると思うから、甘えていられない。1度トップを獲ったような人たちとは状況が違うし、やらなきゃいけないことが多いから、「時間がない!」って常に思っています。
浅川梨奈 撮影=岩間辰徳
――シビアですね。グラビア時代につけられた「千年に一度の童顔巨乳」というキャッチコピーと、浅川さんの本質のギャップを感じています。あれ、嫌じゃなかったですか? 酷なコピーだと思うのですが。
もう、4、5年前の話ですね(笑)。初めて目にした時は、マネージャーさんに「(か細い声で)何ですか、これは……」とは言いました。瞬く間に広まっちゃったので、「ま、いっか」と思うようになって。それからは、特に気にしなかったです。いまだに現場でネタにされることはあります。でも、あのキャッチコピーがあったからこそ今の私がある、とも思っていて。
――ちなみに、今の自分の持ち味・長所を挙げるなら、どういうところだと思いますか?
ありきたりかもしれないですけど、ずっと元気なところだと思います。撮影が長引いてくると、キャストも含め、みんな疲れてくるんですけど、逆に私はニコニコしてくるので(笑)。そうすると、みんながちょっとほっこりしてくれる。元気にしていると、みなさん笑顔になってくれるんです。アイドルをやっていたからかもしれないですが、「人の笑顔を見たい」という気持ちが心のどこかにあるんです。みんなが疲れていたら、自分はどれだけ疲れていても元気でいたい。私は、よくも悪くもこのままなんです。声は大きいし、うるさいし、能天気なんです。もちろん、TPOをわきまえていますが、このありのままの姿が自分の強みなのかな、と思うので、これからも変に強がらずにいたいです。
浅川梨奈 撮影=岩間辰徳
――本格的に演技に取り組みはじめてから、映画や舞台を観る際の視点も変わりましたか?
それまで考えたこともなかった、「自分だったらどうするだろう」という観方をするようにはなりました。今まではフラットに観ていたのが、一つひとつの行動にどんな意味があるのか、注目するようになったというか。私は舞台の経験は浅いんですが、観に行かせていただくことは多くて。やっぱり、目が行く役者さんは、細かいところでもずっとその役で居られていて。当たり前のことかもしれないですが、ちょっと役と離れたことをしたり、自分が出すぎてしまうところが見えると冷めてしまうこともあると思うので、そういう部分がまったく見えない方は、とても尊敬します。ミュージカルだと、ただ歌うわけじゃなく、セリフとして表現しているんだな、とか……そういう視点で、映画や舞台をより観るようになりました。
――なるほど。
現場でご一緒させていただく方からも、学ぶことは多いです。『黒い乙女』では、和田聰宏さんや三津谷葉子さんのような、経験豊富な方々とご一緒させていただきました。経験豊富な方ほど、とてもフレンドリーで、話し易くて、素晴らしい方が多いんだな、と改めて思いました。特に和田さんは、誰よりもふざけて現場を和ませてくださって、演技についてもそばに寄り添って下さいました。私から共演者の方に相談することも多かったんですが、和田さんも三津谷さんも親身になって聞いてくださって。逆に、お二人がそれぞれの役について話し合っていらっしゃることも、参考にさせていただいていたんですけど。「そんな風に考えたことはなかった」とか、「こういう考え方もあるんだ」と、学ぶことばかりで。お二人と共演させていただいたことは、とても刺激になりました。
――『黒い乙女』での和田さんのお芝居は、特殊ですよね。ちょっと大げさで違和感のある演技をされているんですが、その理由が後からわかる。
(c)2019AMGエンタテインメント
そうなんです!和田さん、本当にスゴかったです。少しずつお芝居のニュアンスを変えたり、ときにはちょっとふざけたりもして。私は監督に「ちょっと抑えて」と言われるのが誉め言葉だと思っていて、どんな役をやるにしても、そういうお芝居をしたいと思っているんです。和田さんは、毎回「ちょっと抑えて。やりすぎ」みたいなことを言われていて。“超不気味な笑顔”とか、素晴らしいなって。そのあたりは、Qを観てからAを観ていただくと、より面白く感じると思います。
浅川梨奈 撮影=岩間辰徳

映画『黒い乙女Q』は2019年5月31日(金)より、『黒い乙女A』は同年8月16日(金)にシネマート新宿ほかで公開。
インタビュー・文=藤本洋輔 撮影=岩間辰徳

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