作曲家のアラン・メンケン

作曲家のアラン・メンケン

【インタビュー】『アラジン』作曲ア
ラン・メンケン「今回の僕のベイビー
は『スピーチレス』です」

 「千夜一夜物語」の「アラジンと魔法のランプ」を原案に、自分の居場所を探す貧しい青年アラジンと、自由に憧れる王女ジャスミン、そしてランプの魔人ジー二―の運命を描いて大ヒットを記録したディズニーのアニメーション映画『アラジン』が新たに実写映画化され、6月7日から全国公開となる。アカデミー歌曲賞に輝いた「ホール・ニュー・ワールド」、陽気な「フレンド・ライク・ミー」などおなじみの曲が新たなアレンジで登場する。本作の他にも数々の名曲を作曲したアラン・メンケンに話を聞いた。
-アニメ版(92)から舞台版を経て、27年ぶりの実写での映画化です。前回で完成させた音楽を、今回はどのように考えてアレンジしたのでしょうか。
 オリジナルのアニメ版とは変化をつけて差別化をしたいと考えました。アニメ、舞台、実写と、それぞれにメディアが違いますが、実写版では監督が王様です。最初にガイ・リッチーが監督をすると聞いたときには「ガイ・リッチーがミュージカルを? どんな感じになるのだろう」と思いました。「魔法のじゅうたんを銃で撃ち落としたりするの…」というのは冗談ですが(笑)、今回の製作の過程でいろいろなことを発見しました。とてもワクワクしましたが、作業は大変だったし、曲のアレンジに関しては試行錯誤を繰り返しました。「うまくいくのかな」と不安を感じたこともありましたが、結果的にはうまくいきました。今回の僕の主な命題はジャスミンのための新たな曲を作ることでした。「もうスピーチレスではない。口はつぐまない」という彼女の声が、現代的な意味を持って観客に届くようにしなければなりませんでしたが、想像以上にいいものができたと思い、今はホッとしています。
-では、そのガイ・リッチー監督の演出をどう思いましたか。
 見ての通り「終わり良ければ全て良し」という感じです。これだけCGやVFXが使われると「これは一体どうなるんだろう」と思う瞬間もありましたが、ガイにはちゃんと完成形が見えていたのでしょう。何より見終わったときに「とても面白い」と思いました。実は、ガイは「観客に爆発的なサプライズを与えたいので、最初に手りゅう弾を投げたい」と言い出したんです。僕は「手りゅう弾ってどういう意味だろう」と考えてしまいました(笑)。でも、ある意味、新曲の「スピーチレス」を“音楽的な手榴弾”だと捉えることもできますし…。ガイとしては作品全体のアレンジを現代風にしたいという思いがあったようです。多分、彼はもともとミュージカルのファンではなかったと思います。でも、この映画を作ることで、彼も僕も進化しました。その結果がこの映画に表れていると思います。
-新曲「スピーチレス」はジャスミン役のナオミ・スコットの歌声をイメージしながら作ったのでしょうか。
 僕は俳優をイメージして曲を書いたことは一度もありません。もちろんその人が歌いやすいようにキーは選びますが、考えるのはキャラクターとストーリーについてです。僕は自分のことを、家を設計する建築家だと思っていますが、その家を買ってくれる人がクライアントだとは思っていません。その家(映画音楽)にはいろんな人が住みますが、その家の設計は自分が行うという考えを持っています。
-「王は男でなくともよい」「女性にとって結婚が最良の方法ではない」と歌う「スピーチレス」は、オリジナルのアニメ版から27年後の、女性の生き方の変化が象徴されていると思いました。そうしたことを踏まえながら曲を作ったのでしょうか。
 もちろんです。この曲は女性のためのエンパワーメント(力、元気、励まし)を象徴する曲にしたいと初めから思っていました。もちろん、曲作りはいろいろなことを考えながらしますが、映画の中の曲は、ストーリーにはまらなければならないし、物語をサポートするようなものでなくてはなりません。「スピーチレス」は、まず一つの楽曲として書き下ろしました。初めは映画の最後で使うつもりでしたが、それでは遅過ぎる。また冒頭で使うのも早過ぎると思いました。なので、劇中では前半と後半で半分に分けて使っています。そうすると映画のスコア(総譜)全体を支えてくれることに気付きました。最も心配していたのは、有機的にそこに曲があるように感じてもらえるか、ということでしたが、うまくいきました。今回の僕のベイビーは「スピーチレス」です。
-「うまくいった」と感じたのはレコーディングの時点でしょうか。
 完成試写のときです。そこまでの製作過程では、映画のシーンが入ったものを見ていなかったので、シーンと曲がうまくマッチしているのかが分かりませんでした。なので「ちょっと異質かな。アレンジがポップ過ぎるかな」と心配していました。ただ、大切なのは観客の反応です。映画はまだ公開前なので、いくら僕が「うまくいった」と思っても、観客がどう思うかが分かるまでは心配です。でも試写を見た各国の人たちの感想を聞いて少し安心しました。
-今回、魔人のジーニー役がアニメ版のロビン・ウィリアムズからウィル・スミスに変わりました。先ほど俳優ではなくキャラクターを思って曲を作ると…。
 あなたの質問の内容に想像がついたので先に答えさせてください(笑)。実は今回ウィルとはほとんど一緒に作業はしていません。基本的に「曲はこういうふうにする」とは決めていましたが、ウィルの「自分はこうしたい」という考えを踏まえて、彼の主導でレコーディングをしてもらいました。もちろん「アレンジOK」のサインは僕が出しますが、いいものを作ってくれたと思って拍手をしました。今回は僕以外の音楽チームを撮影先のロンドンに派遣してウィルと一緒に作業をしてもらいました。僕はニューヨークに住んでいて、何カ月もロンドンに移住することはできないので(笑)、基本的には彼らに任せて、ウィルをサポートしてもらいました。その結果、僕の想像以上のものを作ってくれました。ロビンのときは、一緒にリハーサルを重ねて、それが曲の設計図になりましたが、ウィルは自分のものとして表現したかったようなので、共同作業をしたらかえって非生産的だったかもしれません。
-最後に、この映画の見どころ、聴きどころ、そして日本の観客に一言お願いします。
 見どころは、とても現代的なところだと思います。ミュージカル大作の要素と、それを一歩進めた現代性がうまく同居しています。それがちゃんと成立していたので本当にホッとしています。また、娯楽性がとても高いと思います。後は、この映画を見るときはティッシュを忘れずに持っていってください。僕は「ホール・ニュー・ワールド」のシーンのとき、アラジンがジーニーを自由の身にしたときなど、4回ほど泣きましたから。でもそこには「新しいアレンジがうまくいった」という気持ちも入っているので、僕は典型的な観客とは言えないかもしれませんが(笑)。今は映画が完成して本当にハッピーな気持ちです。
(取材・文・写真/田中雄二)

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