バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSH
Iが語る最終形態=アイドルという生
き方「アイドルとして生涯を終えても
良いんじゃないか」

改名後初となったアルバム『NO LIMIT』を4月にリリースしたバンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHI。「アイドル人生論」をふんだんに詰め込んだこのアルバムは、スリリングなトピックが日々更新される現在のアイドルシーンと相まって、リリースから1か月以上が経ってもまったく色褪せることなく、時勢にフィットした聞き応えある快作となっている。今回のテーマとなったのは「リミット」。ハタチで「オバサン」なんて言われてしまうほどのアイドル界だが、バンもん!はそれらのアイドルのリミット、さらには当たり前とされている枠組みと今一度向き合おうとしている。今回、鈴姫みさこ、恋汐りんご、甘夏ゆずのインタビューでも、「アイドルとして生きられる時期には制限がある」という暗黙の定説に対するコメントがいくつか出てきた。バンもん!はいつまでアイドルでいられるのか(もしくは、アイドルでいようとしているのか)。最新アルバムを通して問うてみた。
バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHI
――『NO LIMIT』は僕もすごく好きなアルバムなんですが、みなさんにとってどのような位置付けの作品になりましたか。
汐りん:MAXX NAKAYOSHIになってから、「自分たちにはどうにもならないことを、なくしていきたい」という気持ちがあります。そんな、メンバーそれぞれの意思を今まで以上に作品に落とし込めたと思います。
みさこ:私は『ドラゴンクエストXI』がすごく好きなんですが、あの作品はドラクエのすべてのスキルとアイデアを集結させて、そして原点に立ち返って、ドラクエらしいドラクエを作った感じがしたんです。今作はまさにそういう感覚。今のバンもん!ができる全能力を使って、「いかにバンもん!らしさを取り戻すか」の闘いみたいでした。
ゆず:今、自分たちが「こう在りたい」という形や表現、それをいろんな音楽性を取り入れて、あきらめずに実現できた作品でした。もともと大好きなアーティストさんだったり、以前にもご提供いただいた方だったり、みなさんと型にとらわれず作り上げることができました。
――「バンもん!らしさ」「自分たちがこう在りたいという形」というお話ですが、一方で今回は楽曲提供の作家陣のカラーも色濃く出ていますよね。
ゆず:そう。今回のサブテーマは、ご一緒するみなさんたちの作家性に、私たちが乗っかる形だったんです。それはあえて、そのようにしました。「私たちはこういうグループ」というものを全面に押し出すのではなく。たとえば、NONA REEVES西寺郷太さんが提供してくださった「天国とブギージャム」なんかは、バンもん!としては今までにない、横揺れして気持ち良くなれる曲。これは、西寺さんに乗っかったからこそできた曲です。
みさこ:「あんま覚えてない夜」を作詞してくださったトリプルファイヤー・吉田靖直さんなんかは、バンもん!と出会ってくれたことが運命なんじゃないかってくらい、ぴったり完全に求めていたセンスのものを作ってくれましたし。メッセージを込めつつもオモローを忘れないところとか、バンもん!が初期から持っている謎のシュールさとセンスが合致しています。
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――何より今回は、すべての曲にアイドルの人生観が詰まっているところが特徴的でした。
みさこ:時代が移り変わり、アイドル戦国時代も終わろうとしている中、それでも「子どもがなりたい職業ランキング」にアイドルが入っている。今までのアイドルの考え方って、何者かになるための途中過程の職業だったと思うんです。アイドルをステップに女優になるとか。ただ私は、「最終形態=アイドル」でも良いじゃないかと考えるようになって。当たり前のように「アイドルとは、いついなくなるかわからない存在」と言われているじゃないですか。そうではなく、アイドルのままで生涯を終えても良いのではないかって。
――確かに今は、別に何歳であろうとアイドルとして活動していても違和感がないですよね。
みさこ:うん。女性らしさ、男性らしさ、またはアイドルらしさにこだわらず、何事でも、一生を添い遂げても良いんじゃないかって。今は、アイドルが結婚の話をし始めたりしているし。
――そうですよね。現役アイドルが結婚を発表する時代ですし、みさこさんも昨今はその話題を頻繁に発信していらっしゃいますもんね。
みさこ:結婚をしてもアイドルを続けても良いし、そもそもアイドル像そのものが時代の中で大きく変化した。バンもん!も、アイドルとしての人生のあり方を考えるようになってきたんです。一方で実は私たちもこれまで、アイドルらしさというものに縛られすぎていたんじゃないかって。
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――アイドル人生論が楽曲として顕著に出ているのが、2曲目「SUMOU」や3曲目「DAN PATSU SHIKI」ですよね。
みさこ:どちらも現在のアイドル業界を意識しています。よくご一緒していたアイドルグループが次々と解散・卒業していき、戦友がいなくなっていく中で「私たちはどうあろう」と常に思っています。姿形をどのようにアップデートしてでも、そしてポストアイドルを名乗ってでも、残っていきたい。この土俵の上に残りたい。
汐りん:しおは、「SUMOU」がバンもん!の曲の中でも一番好きなんです。「生き残るのは誰だ」と尋ねられたら、「しおだよ」と言いたいです。何を差し置いても一番になりたいという気持ちがあります。だからこの曲が、自分的に感情にダイレクトにくる。もともと、「ずっとアイドルをやっていこう」「アイドルで一生を終えよう」なんて考えていなかったけれど、「一生、自分がなりたい女の子でありたい」という気持ちはずっとありました。
――それは、どんな女の子なんですか。
汐りん:それは「恋汐りんご」という女の子です。自分が恋汐りんごになる前から、「なりたい女の子」の一番は恋汐りんごでした。ずっと追いかけていきたい女の子。でも、自分は今もまだ「恋汐りんごちゃんになりたい女の子なんです」。それに追いつけないもどかしさがあります。一生なれない気がしているけど、それをあきらめたくない。
――それ、めちゃくちゃ良い話ですよね。
汐りん:「DAN PATSU SHIKI」の、《一生推して押してShine☆Shine☆》という歌詞も、実際にそう思ったときがある。諸行無常の中で生きているし、いつも諸行無常に苛まれています。
みさこ:あっ、分かる。私の人生のテーマも諸行無常。
汐りん:変わらないでいることが一番難しいと思ってます。諸行無常に流されてどうなろうとも、いつまでも「恋汐りんごになりたい」と思い続けて生きたい。
みさこ:私が歌詞を書くとき、いつもテーマにしているのが諸行無常なんです。自分が人に何らかの影響を与えたいという中で、諸行無常を感じながら「どれだけ傷ついても、ちゃんと自分でいられるか」を考えています。
汐りん:だから、みさこの歌詞に共感できるのかもしれないです。
ゆず:ぽんは、バンもん!に入ったときは、アイドルとしての自分らしさが分かり切れていなかった。とにかく、もんスター(ファンの呼称)のみんなの笑顔を見ている瞬間が一番幸せだから、それをずっと続けたかった。甘夏ゆずは、そうやって作られたアイドル。今まで、なんども心が折れちゃいそうな出来事があったけど、それでもここに立っていられるのはみんなのおかげです。
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――アイドルについてのいろんな感情が混じりあっていますよね。
みさこ:私は昔からバンドもやっているので、自分の言いたいことは音楽じゃないと伝わらないって感じているんです。ただアイドルって、存在自体が誰かの夢や希望にならなきゃいけないから、逆に音楽だけでは伝えきれないところがある。ちゃんと言葉や態度で伝えていかなきゃいけない。
ゆず:だから、歌詞にも重みがあるよね。だけど、決して押し付けがましさがないのが不思議。ちゃんと共感できる。『SUMOU』は、私たちのアイドルとしてのあり方がこめられているけど、あの力強い歌詞を聴いて、自分がアイドルじゃなくても元気づけられるはずだし、「あの子たちが頑張れるなら自分もできる」と背中を押してもらえる。
汐りん:全体を通してリアルなアルバムです。かなりメンバーの近くに寄り添っています。
――それで言ったら。みさこさん、ゆずさんが共同作詞された「おやすみmuse」のブラックな部分も、アイドルとしての一面ということですよね。メルヘンチックなメロディだけど、内容がどろっとしている。
みさこ:狂気的ですよね。女性性を持っている人は、対外的にも自分の中にも、理想と現実のギャップに苦しみながら生きているものだと思うんです。
ゆず:一時期、ぽんがいろんなことで頭の中が混乱していて、そんなときすごく怖い夢を見たんです。それが、「地獄が分かった夢」だったんですよね。本当の地獄は人間の中に眠っていて、「人間の狂気って半端ねーな」という夢で。《君が信じたミューズ》というフレーズって、私はそうなりたいと思っている反面、私は絶対にそうなりたくないという反骨心のあらわれでもあって。ただ綺麗で終わるくらいだったら泥臭く生きてやるとか、そう思っている自分もまた狂気じみているんじゃないかなとか。
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――君が信じたミューズって、誰を指しているんだろうって。
ゆず:内緒です♡
みさこ:ご想像におまかせします、だよね(笑)
ゆず:あなた自身の中に眠る狂気を目覚めさせてください、とだけ言っておこうかな!
汐りん:しおが歌っているパートが特に怖くて。赤いお家が燃えているんですけど、最後《笑ってたのを私だけにはずっと見えていた》って。ただ歌うとき、怖そうに歌ったり、うまく歌うのではなく、喋っているみたいな気分で歌いました。抑揚をつけないようにした記憶があります。
ゆず:曲調がメルヘンだから、しおの絵本の読み聞かせのような感じがぴったりだったよね。
みさこ:このアルバムは今の私たちが全部詰まっています。毎回、そうやって作品をつくって生きたい。たとえポンコツになったとしても、ポンコツをちゃんと作品にしていきます。
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取材・文=田辺ユウキ 撮影=森好弘

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