ジェニファー・ウォーンズの
圧倒的な歌唱力と
緻密なプロデュースワークから
生み出された名作
『ジェニファー・ウォーンズ』

レナード・コーエンとの親交

リプリーズでのレコーディングの前後、その歌唱力が徐々に認められ、テレビ出演が決まったり、他のアーティストのバックヴォーカルを務めたりするなど、一気に仕事が増えている。そして、彼女にとって大きな転機が訪れる。71年に、カナダの著名な作家でSSWに転向した才人レナード・コーエンと出会い意気投合し、彼のレコードやツアーでバックヴォーカルやヴォーカルアレンジを任される。ふたりの友好関係はコーエンが亡くなる2016年まで続き、彼女のシンガーとしての表現力はコーエンによって大きく開花することになる。

アリスタとの契約で一気にブレイク

リプリーズとの契約はどうやら単発だったようで、次に彼女に興味を示したのは当時設立されたばかりのアリスタ・レコード。社長のクライブ・デイヴィスはもともとコロンビア・レコードの社長を務め、ジャニス・ジョプリン、ローラ・ニーロ、サンタナ、アース・ウインド&ファイア、エアロスミスらと次々に契約を結び、大きな業績を挙げた人物だ。中でも、彼が手がけたカントリーシンガーであるリン・アンダーソンの「ローズ・ガーデン」(‘70)は驚異のヒットとなり、世界16カ国で1位を獲得し、そのセールスは以後27年間破られることはなかった。

彼はジェニファーの潜在能力をいち早く察知し、ストーンズやジョージ・ハリソンらのアレンジャーとして知られるジム・プライスに彼女の新作のプロデュースを依頼、多忙なプライスは少しずつ彼女のレコーディングを進めるが、クライブにデモを聴かせる期限になっても録音が終わらず、業を煮やしたクライブはもうひとりのプロデューサーとして、イーグルスの『ならず者(原題:Desperado)』や『呪われた夜(原題:One Of These Nights)』でストリングスアレンジを担当したジム・エド・ノーマンに声をかける。彼はプロデューサーとしての仕事は初めてであったものの、それだけに渾身の力を込めて手がけることになった。彼がプロデュースを手がけたのは2曲のみであるが、その2曲がジェニファーのアリスタ移籍第1作を大成功に導くのである。

本作『ジェニファー・ウォーンズ』
について

先ほど少し触れたが、本作で初めて、彼女は本名のジェニファー・ウォーンズを名乗ることになる。それは、このアルバムが彼女にとって初めて納得のいく作品となったからであろう。収録曲は全11曲、歌、アレンジ、楽曲の質、曲の並び順など、どの部分を切り取っても完璧な仕上がりである。ジム・エド・ノーマンがプロデュースした「星影の散歩道(原題:Right Time Of The Night)」と「夢を見ながら(原題:I’m Dreaming)」はどちらもシングルカットされ、大ヒットしている。「星影の散歩道」はSSWのピーター・マッキャンの曲で、彼女は歌詞の一部が気に入らなかったためレコーディングを拒んでいたが、作者のマッキャンは彼女の意見を受け入れて歌詞を書き換えている。この2曲、クライブがヒットする曲を入れたいと選曲したもので、彼の耳がいかに優れているかを証明したナンバーとなった。

他にもアルバムを1枚リリースしてはいるが、まったく知られていないSSWのスティーブ・ファーガソンの曲を2曲(「ママ」「あなたは私のもの(原題:You’re The One)」)取り上げていたり、グラム・パーソンズの名演で知られる「ラヴ・ハーツ」やストーンズの「シャイン・ア・ライト」など玄人好みの渋い曲も、彼女の歌唱力のおかげで、新しい命を吹き込まれている。彼女が書いた「行かないでダディ(原題:Daddy Don’t Go)」も良いし、ジャクソン・ブラウンのバックを務めていたダグ・ヘイウッドが書いたカントリーナンバー「ドント・リード・ミー・オン」も素晴らしい曲だ。

また、本作のバックを務めるアーティストも実に豪華で、ギターにジェイ・グレイドン、ダニー・クーチ、キーボードにニッキー・ホプキンス、ダグ・リビングストン、ホーンにジム・ホーン、ジム・プライス、ドラムにはラス・カンケル、他にもケニー・エドワーズやハーブ・ペダーソンなど、西海岸を代表するプレーヤーが参加している。

最後にエピソードをひとつ。本作のジャケット裏とレコード盤(LP当時)には1976年と明記されているものの、レコーディングに時間がかかってしまい、実際のリリースは1977年の1月にずれ込んでいる。76年の夏にはジャケットも含め発売準備は済んでいたのだが、クライブ・デイヴィスが営業的な観点から77年の1月までリリースを待つように指示している。

本作のように完成度の高いアルバムにはそう簡単には出会えないものだが、アリスタからの第2弾『ハートで一撃(原題:Shot Through The Heart)』(‘79)も本作同様素晴らしい出来である。もし彼女の作品を聴いたことがないなら、この機会にぜひ聴いてみてください。新しい発見がきっとあると思うよ♪

TEXT:河崎直人

アルバム『Jennifer Warnes』1977年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. ラヴ・ハーツ/Love Hurts
    • 2. ラウンド・アンド・ラウンド/Round and Round
    • 3. シャイン・ア・ライト/Shine A Light
    • 4. あなたは私のもの/You're the One
    • 5. 夢を見ながら/I'm Dreaming
    • 6. ママ/Mama
    • 7. 星影の散歩道/Right Time of the Night
    • 8. マギー・バック・ホーム/Bring Ol' Maggie Back Home
    • 9. ドント・リード・ミー・オン/Don't Lead Me On
    • 10. 行かないでダディ/Daddy Don't Go
    • 11. オー・ゴッド・オブ・ラヴリネス/O God of Loveliness
『Jennifer Warnes』(’77)/Jennifer Warnes

OKMusic編集部

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