INTERVIEW / xiangyu 目指すは「カッ
コよくてしょうもないモノ」――新鋭
アーティスト・xiangyuが語る人生譚
。暗黒期を救った音楽にかける想い

“謎多き新人”として2018年の秋、突如音楽シーンに現れた若きアーティスト、xiangyu。「プーパッポンカリー」「菌根菌」「風呂に入らず寝ちまった」といった風変わりなタイトルと中毒性のある言葉選び、そしてケンモチヒデフミが手がける南アフリカ発祥のハウス・ミュージック=Gqom(ゴム)を参照するといったカッティングエッジなダンス・ミュージックを組み合わせた楽曲群で、じわじわと早見リスナーの耳目を集めている。
そんなxiangyuが本日5月22日(水)に7曲入りEP『はじめての◯◯図鑑』をリリースした。今回、SpincoasterではEPのリリースを機に、自由でクリエイティヴィティ溢れるxiangyuにインタビューを敢行。彼女の大好きな餃子を前に、そのパーソナルな部分に迫ることに。
話を聞くと、これまでの音楽とは疎遠な人生だった彼女が今、人前で歌っていることは偶然でありながらもどこか必然性を感じさせる。人生の転機はどこで訪れるかわからないが、これまでに積み上げてきたもの延長にしか、今はないということを強く感じさせてくれるインタビューとなった。
Interview & Text by Nojima
Photo by 遥南 碧(https://harunaoi.wixsite.com/harunaoi)
「服」から「音楽」へ。表現方法の変化
――今作の曲名にもありますし、ライブでも餃子の被り物をされていますが、餃子が一番好きな食べ物なんですよね。
xiangyu:そうですね。それでオススメのお店とかよく聞かれるんですけど、お店の餃子に特には思い入れがないんです。実家で出てくる餃子が好きなんですよね。だから人に聞かれても、オススメとかできなくて(笑)。
――服飾の専門学校に通われていたそうですが、なぜ音楽活動を始めるようになったのでしょうか?
xiangyu:6年くらい前、専門学校1年生の時に今のマネージャーである福永さん(水曜日のカンパネラのDir.F)と最初にお会いしたんです。その時、私は“デザインフェスタ”にブースを出展していて。その展示を見てくださった福永さんが、いきなり「歌、歌わない?」って声をかけてきて。最初はちょっと意味がわからなかったです(笑)。
――どんなものを展示していたんですか?
xiangyu:その時はホームセンターにハマっていて。ホームセンターにあるもの、それこそブルーシートや軍手とかで作った服と、自分がホームセンターで買い物しているしょうもない写真とかを展示していました。それを見て「歌わない?」って声かけてきて。歌っているとこを全く見てないのに。その後福永さんについて調べてみても、何をやっている人とかイマイチ出てこなくて、最初は怪しさ満点でしたね。意味わかんないおじさんだなーと思っていました(笑)。
――それから実際に音楽を始めるまで5年くらい空いたということですよね。昨年、本格的に音楽活動を始動させたのは、何かきっかけのようなものが?
xiangyu:自分の両親が会社員ということもあり、私は職業的には会社員を一番尊敬しているんです。だから専門学校を卒業したら、一度は会社員を経験してみたくて、富山県のアパレル会社に就職したんです。結局、色々あって会社は1年で辞めて、東京で舞台衣装を作るデザイナーのアシスタントの仕事を始めるんですけど、その職場でJ-WAVEが流れていて。阿川佐和子さんが「自分も周りの人も気づいてないけど、自分にはまだ、もっと別の才能が眠っているかもしれない」ということを言っていたんです。その時、自分のやりたい表現はもしかしたら服じゃなくて他のところにあるのかも、と思うようになって。その時に、そういえば昔、「歌、歌ってみない?」っていうおじさんがいたなっていうのを思い出して。
ただ、私自身、そもそも歌うことに対してはコンプレックスがあって、友達とのカラオケもずっと避けてきたんです。アーティストでもないのに「今日、喉の調子が悪いから〜」っていいわけしたり。小学校の歌のテストもわざと再試験になって、極力人前で歌わないように努めてきたんです。でも、阿川佐和子さんの言葉を聞いて、そうやって今までずっと避けてきたからこそ、もしかしたら自分に合っている可能性もあるんじゃないかなって思って。それで、福永さんに連絡を取ってみたんです。
――歌うことは避けてきたということですが、音楽活動を始めるまでのxiangyuさんは、「音楽」とどのような距離感で接してきたのでしょうか?
xiangyu:(音楽は)全然身近な存在じゃなかったですね。特に追っかけるアーティストさんとかもいなかったですし、フェスもライブハウスも行ったことがなかったです。学生時代にクラブには少し行ったことはありますけど。友達が「いいよ」って教えてくれたアーティストは聴いてみるけど、そこからハマることもなかったし。移動中も基本的に無音でした(笑)。
「とにかく作ることが好きだったんです」 おてんばな幼少期
――そもそも、どうして服飾の学校に?
xiangyu:とにかく作ることが好きだったんです。中高一貫の学校で高校受験もなかったので、中高生の時は美術系の授業ばっかり選択していました。ポスターを描いたり、デザインしたり、とにかく手を動かして何か作ってましたね。そうしている内に、漠然とこういうことをして食べていけたらなーって考えるようになったんですけど、その時は自分の中で作ることと仕事を結びつけられなくて。服飾の専門に行こうって思ったのは、高校2年生の時に原宿でファッション・ショーをやるチームみたいなのがあって、そこに参加して、服を作る楽しさを知ったからですね。洋服の作り方を勉強したいなと思って、服飾の専門学校を選びました。
――なるほど。もっと小さい頃はどんな子供だったんですか?
xiangyu:おてんばを絵に書いたような女の子でした。大体外で遊んでいて、何回も前歯折ったり、骨折したり、入院したり。とにかく傷だらけで、じっとしてられない子でしたね。あと、今もそうですけど、協調性がなかったです(笑)。だから、あまり友達ができなくて。遊びに誘われても、「私は今、本が読みたいから」って本を読む、みたいな。で、そうやって人に合わせにずに生きていると、必然的にひとりぼっちになるじゃないですか。でも、なんでそうなるのかが自分ではずっとわからなくて。ほんとつい最近、22歳ぐらいまでわからなかったです(笑)。
――習い事とかは?
xiangyu:ピアノとバレエに通っていました。……あ、音楽やってましたね。今思い出しました(笑)。でも、楽譜通りに練習するのが全くできない子で。途中から先生がコードを教えてくれて、ジャズ・ピアノのカリキュラムに変えてくれました。基本的には好き勝手に弾いていいんですけど、このコードの制約の中で弾いてね、みたいな。そうやって私に合わせて、先生がカリキュラムを変えてくれたことも、大人になってから気付いたんです。ピアノを習ってた人たちと話した時に、「何か私だけ違う」って「バイエルって何?」みたいな(笑)。 あと、先生がピアノを弾いて、それに合わせて体を動かす、っていうレッスン(「リトミック」)もやってましたね(笑)。そういう意味で、人や先生には恵まれていたと思います。
――ピアノはどれくらいやっていたんですか?
xiangyu:ピアノは14年ぐらい習っていました。6歳から20歳までですね。
――めちゃくちゃ長いことやってたんですね。その経験が今の音楽活動に活きていると思いますか?
xiangyu:全く思わないです。何も活かせてないんじゃないですかね(笑)。今後はどこかで活きるかもしれないですけど。
――習い事は自分から「行きたい」って言ったんですか?
xiangyu:そうですね。うちはゲームとか物を全然買ってくれない家庭で。何か欲しいものがあったりすると、それがなぜ欲しいのか、なぜ必要なのかを両親にプレゼンして、納得させないと買ってくれなかったんです。習い事もそれと同じで、「自分がこう思うから」っていうのが大事で、「◯◯ちゃんがやってるから私もやりたい」じゃダメなんです。加えて両親が共働きなので、ピアノとかバレエに行くのも「準備と行き帰りが全部自分できるならいいよ」っていう感じでした。なので、親から「こうしろ」「ああしろ」ってのはなかったし、理由をつけてちゃんと説明すればやりたいことをやらせてくれる家庭ではありました。
「おもしろい」と「ノリ」重視。多様なアイディア詰め込んだ初EP
――小さい頃の習い事とかって、基本的には「友達がやってるから」とか、「親にやらされる」みたいなケースが多いと思うのですが、そうではなく、自らの動機を言語化させて、アイデンティティを形成させる。とてもいい教育方法と言えるかもしれないですね。では、この度リリースされる初のEP『初めての◯◯図鑑』について、まずはユニークなタイトルの由来を教えてもらえますか?
xiangyu:私、色々な図鑑を見るのが大好きなんです。xiangyuについて、まだみんなわからないことだらけだと思うので、xiangyuという生き物を紹介するようなアルバムにしようと思って、このタイトルにしました。CDの歌詞カードでは、図鑑みたいに曲や歌詞の説明が書いてあって、ジャケットもエントリーシート的な意味を持たせて、証明写真にしようと思ってカメラのキタムラで撮ってもらいました。
xiangyu オフィシャル・アーティスト写真
――歌詞カードもおもしろいし、すごく凝っていますね。曲にある自分の頭の中を図鑑に落とし込んでいると。曲や歌詞のテーマはどうやって決めていくんですか?
xiangyu:最初はケンモチさんが色々と提案してくれて、「それいい!」「言葉の響きがおもしろい!」っていう感じで決めていたんですが、最近は「こういうおもしろいフレーズがあるんですけど〜」とか「今こういうことにハマってるんですけど〜」みたいなところからテーマを作っていますね。「菌根菌」とかも当時ハマってるパワーワードみたいな感じでした。「ヒューマンエボリューション」も樹形図にハマっていたからで。あんまり歌詞に深い意味はないです(笑)。響きのおもしろいワードとかをケンモチさんと出し合って、謎のテンションで作ってます。
――ふたりの間で、特に盛り上がったフレーズは?
xiangyu:「ヒューマンエボリューション」の「こりゃいいぞ〜」はずっと言ってましたね(笑)。これは海外の某アーティストの曲の空耳なんです(笑)。
あと「ゴミ捨てなきゃ〜! ゴミ捨てなきゃ〜!」(M1「Go Mistake」)とかもケンモチさんと騒ぎながら作ってました。頭おかしくなってましたね(笑)。この「Go Mistake」っていう曲名は、「ゴミ捨て行く」とかかってて。ダジャレになってます(笑)。
――メロディーと歌詞もノリから生まれるみたいな感じなんですね。コンプレックスがあったと言っていましたが、今、自分が歌っていることについて、どのように意識が変わりましたか?
xiangyu:挑戦してみてよかったなと思います。今は歌うことがめちゃくちゃ楽しいんです。明日もライブやりたいぐらい。音楽は全然わかんない芸術分野だと思っているので、わかんないからこそ楽しいっていうのもあると思うし。あと、今までは洋服の製作とか、基本的にひとりで活動していて。その方が楽しいと思ってたんですけど、xiangyuを始めてからはチームで作る楽しさとかもわかってきて。もちろん、チーム内で自分の「こうしたい!」がうまく伝わらないもどかしさとかもあるんですけど、そういうのも含めて楽しいなって思います。音楽を始めたことで今まで出会えなかった人にもたくさん会えたし、本当にめちゃくちゃ楽しいんですよ。みんなやった方がいいですよ、ライブ。
――ハハハ(笑)。「ライブに来てください」、じゃなくて「ライブやった方がいいですよ?」と(笑)。ちなみに、xiangyuとしての最初のライブの感想は?
xiangyu:マイクを持って舞台に立っただけで、みんな「よく頑張ったね〜」って言ってくれて。幼稚園の学芸会みたいな感じでした(笑)。でも、最初の頃は結構泣いていましたね。めちゃくちゃ緊張するし、自分の中でイメージしていたものが全然出せなくて。最初の頃はちゃんとできるかどうか不安ばかりでした。
――ちなみに、これまでほとんど音楽を聴かずに育ってきたとのことですが、ケンモチさんが作った音楽はどう感じますか?
xiangyu:純粋にカッコいいなって思います。やっぱり自分がいいと思わないと一緒にできないので。あと、「カッコいいトラックにカッコいい歌詞を載せてカッコいい音楽にする」よりも「カッコいいトラックにしょうもない歌詞を載せて、結果カッコいいものにする」っていうのが私のやりたいことなんですけど、そのためにはベストなサウンドなのかなって思っています。もし、私がカッコいいことを言いたくなったら「今回はイキリたいんで」って言って、トラックをしょうもなくしてもらう日が来るかもしれません(笑)。音楽に限らず「カッコよくてしょうもないモノ」っていうものが好きだし、私はそういうものこそ掘り下げたくなるんですよね。
――「カッコよくてしょうもないモノ」を、音楽以外の例で教えてもらえますか?
xiangyu:私、お笑いが好きなんですけど、特にテニスコートさんのコントがすごく好きで。あの人たちもすごく真面目にしょうもないことをやって、カッコよくまとめている人たちだと思うんです。見る度に「こういうのがいいんだよなー」って思います。習い事のコントとか最高なんですよ。思い出すだけで笑えてきます。
暗黒期を救った音楽への想い
――xiangyuさんは、水曜日のカンパネラと同じチーム(ケンモチヒデフミ、Dir.F)がバックアップしているということもあり、水曜日のカンパネラを引き合に出した意見やコメントも多く見受けられます。そのことに関しては?
xiangyu:今はどうも思っていないですね。ちょっと前までは超気にしてましたよ。私、コムアイさんと同じトレーナーをたまたま持っていたんです。私もそのブランドが好きで、知らずに買っていたんですけど、それを着ていたら「コムアイさんのお下がり?」って言われたり。みんな悪気がないのはわかってるし、私のことを語る上で水曜日のカンパネラやコムアイさんを引き合いに出すのはしょうがないなとは思うんです。だから、最初はエゴサするのも嫌で、気にしていたんですけど、今年に入ってからすごくどうでもよくなって。
――それはどうして?
xiangyu:どう頑張っても私は水曜日のカンパネラやコムアイさんみたいにはなれないし、尊敬はしていますけど、私のやりたいことは違うところにあるなって改めて認識したんです。今のスタッフの人たちもそういうことを私に求めて誘ってくれたわけではないですし。
自分で歌詞を書いて、自分がおもしろいと思うものを表現したいと強く思うようになってから、すごくどうでもよくなりました。今の時代、音楽活動とか表に立つことをしていると、絶対に何か言われちゃうものだと思うんです。それをいちいち気にしちゃ駄目だなって思うようになりました。
――色々とお話を聞いていると、今の音楽活動がすごく充実しているんだなって伝わってきます。
xiangyu:今はそうですね。私は自分の専門学校時代から会社員時代までを暗黒期と呼んでいて(笑)。服飾の専門学校に入ったのに、洋服よりも社会の仕組みや世の中で起きていることに興味があって、何かしらの表現活動がしたかった。その表現ツールとして「服」を選んだんですけど、専門学校にはそういう人がほとんどいなくて。課題も忙しいし、遊んでいる人もあんまりいない。それが私にとってはすごく窮屈でした。そんな環境に身を置いていると、自分の作りたいものとか、表現したいものを考える余裕がどんどんなくなってしまって。
――それが暗黒期だと。
xiangyu:そうです。福永さんと出会った(専門学校)1年生の時はまだマシだったんですが、2年生に上がった頃からどんどんしんどくなってきて。卒業して就職してもずっとそんな感じで、しょうもないことを考える余裕がなくなっていたんです。
そこから東京に戻って、音楽を始めてから明るくなれました。失礼かもしれないんですけど、音楽をやっている人っていい意味でしょうもない感じがするんです(笑)。音楽を通じて、おもしろい人にいっぱい出会えて、ようやく人生に光が差してきたのかなって思います。音楽を始めていなかったら、まだ暗黒期の最中だったかも(笑)。
【リリース情報】

xiangyu 『はじめての○○図鑑』

Release Date:2019.05.22 (Wed.)
Label:KUJAKU CLUB/孔雀倶楽部
Tracklist:
01. Go Mistake
02. プーパッポンカリー
03. 菌根菌
04. 31
05. 風呂に入らず寝ちまった
06. ヒューマンエボリューション
07. 餃子
【イベント情報】
はじめての○○図鑑・発売記念イベント
日時:2019年5月24日(金)20時〜
会場:東京 ヴィレッジヴァンガード渋谷本店
日時:2019年7月19日(金)21時〜
会場:東京 タワーレコード新宿店
内容:ミニ・ライブ+サイン会&特典お渡し会

※特典内容は両日異なります。

※特典対象商品は、対象店でご購入のEPになります。
※詳細は後日公開される各店舗オフィシャル・サイトをご確認ください。
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香魚荘827

日時:2019年8月27日(火) 開場 18:30 / 開演 19:00
会場:東京・渋谷O-nest
料金:前売 ¥2500 / 当日 ¥3000 (各1D代別途)
出演:
xiangyu(主催/音楽ユニット)
テニスコート(コント・ユニット)
半澤慶樹(PERMINUTE)
・チケット
オフィシャル先行(http://w.pia.jp/t/xiangyu/) :5月24日(金)18:00〜6月9日(日)23:59
一般発売:6月29日(土)10:00〜各種プレイガイド
お問合せ:03-5712-5227(エイティーフィールド)

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