伊丹市の劇場[アイホール]の若手応
援企画に「立ツ鳥会議」「ばぶれるり
ぐる」が登場

兵庫県伊丹市の公立劇場[アイホール]が、毎年開催している若手応援事業「break a leg(※これからパフォーマンスをする人に“幸運を祈る”“頑張れ” という意味で用いる慣用句)」。まだこの劇場を利用したことがない若手を全国から公募し、その中から有力な団体を選び出して、公演の機会を与えるという企画だ。2019年度は、東京の「立ツ鳥会議」と、大阪の「ばぶれるりぐる」の二団体を選出。それぞれの劇団を代表して、立ツ鳥会議作・演出の植松厚太郎と、ばぶれるりぐる主宰の竹田モモコが出席した記者会見が、大阪で行われた。
劇場ディレクターで、本企画の選考委員の一人である岩崎正裕(劇団太陽族)によると、どちらの団体も「脚本の面白さ」が大きな決め手となったそう。立ツ鳥会議の植松は、2017年に『午前3時59分』で「第24回OMS戯曲賞」佳作を受賞(同戯曲賞は関西で活動する作家を対象としているが、植松は関西在住)するなど、その構成力の高さがすでに高く評価されている。ばぶれるりぐるの竹田は、2018年の旗揚げ作品『ほたえる人ら』が、何と長編第一作目。高知県の一部エリアで使われる「幡多(はた)弁」を駆使した、笑いと風刺のバランスが取れたコメディで、たった一本でたちまち大きな注目を集める存在となった。
立ツ鳥会議第3回公演『午前3時59分』(2016年)
今回立ツ鳥会議は、新作『夕夕方(ゆうゆうがた)暮れる』を上演。東京郊外にある小さな公園を舞台に、月~金の5日間の夕暮れ時に、様々な事情でそこを訪れる人々の姿を通して、現在の若者たちの関係性や哀愁を浮き彫りにしていく。しかも5つのエピソードを一つ一つ順番に見せるのではなく、基本的に一場同時進行で、時に時間軸を前後させるという、トリッキーな見せ方に挑戦するそうだ。
ばぶれるりぐるは前述の『ほたえる人ら』を、初演と同じメンバーで再演。住民が減り、ソーラーパネル設置が進む小さな村を舞台に、移住者を増やそうとする新任区長と、様々な事情で彼女の足を引っ張ろうとする村の人々の面白おかしい、しかし折に触れて限界集落の問題について考えさせられる会話が繰り広げられる。初演では「年間ベスト級の舞台」という声が寄せられるほど、絶賛された自信作だ。
それぞれの舞台の抱負について、2人は以下のようにコメントした。
「今回は“演劇でしか成立させられない〈物語〉とは何か”に着眼しました。複数の場面やシーンが同時に展開するのは、珍しい手法ではありませんが、ここまで重ねるパターンはあまりないと思います。現代における群像をユーモラスかつシニカルに描き出すと共に、同時進行という構造を使わなければ表現できない物語を組み上げて、演劇以外では見ることのできない人間模様を立ち上げたい。とはいえわかりづらい作品にするつもりはなく、エンターテインメント性を大切に、演劇を見慣れた人から初めて観る人まで、どちらにも通用する作品を目指します」(植松)
「幡多弁を含む土佐弁には、現代の日本語にはないと言われる“完了形”が存在するなど、これほど時制を駆使した方言はなかなかないと思います。“ほたえる”というのは“わちゃわちゃ騒ぐ”という意味の方言。そのタイトル通り、区長さんがなぜこの村を(赴任先に)選んだのか、なぜ村人たちはここにとどまっているのかという、それぞれの事情や葛藤を、わちゃわちゃしている中で掘り出していく舞台です。演出家や、出演者の一部に幡多がルーツの人がいるので、関西で演劇をしている幡多郡のメンバーを、奇跡的に集めた形になってます」(竹田)
ばぶれるりぐる第一回公演『ほたえる人ら』(2018年) [撮影]horikawa takashi
構成力の高さが際立つ立ツ鳥に、幡多弁の特性を活かしたばぶれる。そしてどちらも、物語を解体したり、捨て去ったような芝居がもてはやされがちな昨今において、ドラマの力を信じた舞台に取り組んでいることも共通している。令和時代の演劇を占う……とまでは行かなくても、現代の都会の若者の、あるいは現代の流れから置いてかれたような地域に住まう人々の声を彼らなりに拾い上げた、その“今”を感じられることは間違いない。
また来年度の「break a leg」参加団体の募集も、7月1日(月)から開始される。特に、関西公演に興味を持ちつつも、資金と人脈の関係で二の足を踏んでいるという関西圏外の団体は、挑戦する価値は大いにありだ。募集要項は劇場の公式サイトで公開される。
「次世代応援企画 break a leg」共通チラシ。

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